Perfume of love 2


彼の名前を忘れて、一日過ぎた。
ぼんやりと、テッドは甲板の手すりに凭れて徐々に赤くなっていく空を見上げていた。
困ったことに、結局まだ彼の名前は思い出せない。それどころか自分で思い出すと言った手前、他の誰にも聞くことはできない。
しかも、「教えるな」と言った言葉をそのままに、彼はよりにもよって船全体に戒厳令まで出したのだ。曰く、『軍主の名前を呼ばないこと』という――――あまりの徹底ぶりにテッドは思わず脱力してしまった。
はあ、と溜息をつく。
と、後ろからとんとん、と軽く階段を登る音が聞こえてきた。
「テッド」
振り返るまでもなく、向こうから声をかけられた。――――彼だ、と思った瞬間肩に力が入った。
後ろを振り向くまでもなく、彼が笑った気配がする。彼の笑い方は、僅かに空気を揺らすだけのようなものだ。だから最初はそれが笑みかどうかさっぱりわからなかったというのに、今では見なくても彼が笑んでいるのだと思える。
テッドはまた溜息をついた。
ほら、こんなことまでちゃんと覚えているのに。
「また溜息」
「うるせぇ」
「・・・・・・まだ、だめ?」
問いは簡単だった。だがテッドは答えることができない。まだ彼の名は一向に、テッドの中に浮上しない。
「・・・・・・」
「そう」
言葉と同時に彼がテッドの隣に並んだ。テッドは横目でちらりと彼の表情を盗み見た。先程感じたものはやはり間違いではなかったらしく、仄かに彼は笑んでいた。その表情には不満だとか焦燥だとかいったものは全く見えない。
テッドの感情のどこかが苛つく。
「なんでお前はそう平静なんだよ」
「別に、忘れたの僕じゃないしさ」
「・・・・・・忘れられたのはお前なんだけどな」
「まぁ、そのことについては・・・・・・うん、いいよ」
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」
平然としている彼が小憎らしい。
だが腹立ち紛れの言葉も、彼を動じさせることはできなかった。せいぜい、困ったように首を傾げる仕種が引き出せたくらいだ。
「別に言いたいことはない、けど」
「・・・・・・嘘つけ」
「嘘じゃないよ。何度も言ってるだろ?別に、僕はこのままでも構わない」
「構わないわけねぇだろ・・・・・・」
「・・・・・・んー、まぁちょっと、困るかな?エレノアが馬鹿な命令下すなって怒ってたし」
「俺のとこにもきたぞ」
『軍主の名を呼ばないこと』なんていう馬鹿げた命令は、それでも一般兵をも含めてきちんと守られているようだ。とはいってもテッドが部屋から出る短い間だけ周囲を観察して得られる情報などたかが知れているから、もしかしたらそんなことはないかもしれない。
だがエレノアが酒瓶を持って自分の部屋へと訪れたときには随分驚いたものだった。だが同時に彼女の来訪をひどく納得した自分もいた。
なにをやっているのか、あんなバカらしい命令はさっさと撤回させとくれと言う彼女に、ああこれが普通の反応なんだよなと安心してしまったのだ。安心ついでに状況をぽろっと彼女に零してしまったところ、エレノアはまた青筋をたてて軍主のところへ行くと言って部屋を去った。
ちなみにエレノアでさえもテッドに彼の名前は漏らさなかった。徹底しているなと妙に感心してしまった。
「でも君の願いだからね」
「―――――は?」
思いに耽っていたテッドは、ぽかんと口を開いた。
なんだか今、考えもしなかったことを言われたような気がする。改めて見ると、彼は嬉しそうに笑っていた。
「僕のこと思い出すって、滅多にない君の願いだから。それなら叶えさせてあげるよ」
「・・・・・・いやちょっと待て」
なんかおかしくないかそれって。
確かに自分が思い出すと言った。それは間違いないことだ。だが、彼の言い様では彼自身名を思い出す必要はないと言っているようだ。まるで――――自分だけが思い出すことを望んでいるような。そんな印象を受ける。
「昨日も言ったよな。お前はもっと俺に怒っていいんたぞ」
昨日とは違って、その言葉は決して怒りに任せたものではなかった。だがテッドの戸惑いがそのまま言葉になったように力の篭らないものになる。
彼が不思議そうに視線をテッドに向ける。
「・・・・・・昨日も、思ったけどさ。なんで僕が怒るの?」
「なんでって―――――」
テッドは絶句する。
普通、自分のことを忘れられたら怒らないか。薄情者と詰らないか。そうでないとすれば、忘れられた相手が彼にとってどうでもいい存在だということになる。
そこまで考えてむっとする。
「お前は、俺に忘れられてもいいってのか」
「あれ、気を悪くした?テッド」
「・・・・・・別に」
言葉とは裏腹に、明らかに気分を害した表情になってテッドは踵を返す。これ以上ここにいて、彼の話を聞いていたら感情が爆発してしまいそうだ。
自室に帰るつもりのテッドの腕を彼がつかんだ。
振り返ると、思いもよらずに困った表情が近くにあった。
「・・・・・・お前」
「ごめん。気に障ったんなら謝るよ」
「別に・・・・・・そんなことない」
「そう思うなら、眉間の皺、どうにかしたほうがいいよ」
ここ、と彼の指がテッドの眉間に触れた。その指を払いのける。彼はその扱いに不平を漏らすわけでもない。
そんな彼に、テッドは諦めて一人で自室に戻ることを諦める。
「それじゃあ言うけどな。お前、俺になら忘れられていいって思ってないか?」
「え?」
今度こそ彼は目を丸くした。テッドの言葉を噛み締めるように二、三度大きな青い目をまばたきしてからもう一度「え?」と繰り返す。
「どういうこと?」
本当に理解していないらしい彼に、がしがしとテッドは自分の後頭部を掻いた。
「お前、俺のことどうでもいいから・・・・・・俺に忘れられてもどうってことないとか考えてねぇかって聞いてんだ」
これで図星だったら即効この船下りてやるなんてことを考えながら再度問いかけた。
彼はテッドの物言いに驚いたのか目を見開いてからふるふると首を横に振った。その動作に合わせて薄茶の髪がぱさりと揺れた。ふとあの髪に触ったら気持ちいいだろうなと思ってから驚愕する。そんなことを考えている場合ではない。
「そんなこと思ってないよ」
「・・・・・・どうだか」
だから彼の否定の言葉にも反応が遅れてしまった。
彼はなにか言おうと口を開いて――――そのままきゅっと唇を噛み締める。テッドもそれ以上なにを言ったらいいのかわからなくなって、二人甲板の上で黙り込む。ざぁざんと船を揺らす波の音とぱたぱた帆を膨らませる風の音だけが聞こえる。
どうしようか、と途方に暮れていると彼に腕を取られてぎょっとする。
「なんだよ!」
「行こう」
「どこへ」
「君の部屋」
彼はそう言ってテッドを引きずるようにずんずん歩いた。
「だってあんなところで黙ってたら、変だよ僕ら」
「まぁ確かに」
テッドは思わず納得してしまった。
だがエレベーターに乗ったところでふとそんな問題じゃないということに気がついた。
「て、別に俺の部屋に行く理由もないんじゃねぇか?」
「僕にはある」
「・・・・・・そうかよ」
きっぱりと答えられて、それ以上なにも言えなくなる。
チィンと軽い音と共に第4層についたエレベーターを下り、テッドはもう彼の好きにさせようと腕を引かれるまま歩いた。もともと彼には負い目がある身だ。
部屋に入って扉を閉めた途端、彼が手をぱっと離す。
引かれていた腕の行き場に少し困ってテッドはゆらゆらと無意味に手首を揺らした。彼は視線を部屋の中へと注いでいる。
なんなんだと思ってみていると、ぽつりと小さく彼がなにかを言った。よく聞こえなくて「は?」と聞き返すとまた口を開いた。
「ごめん」
「は?」
だが今度は聞こえてきた単語の意味がわからなくて、テッドはまた同じ反応をしてしまった。彼は少し俯いたまま、前を見ている。斜め後ろにいるテッドからはその視線の先になにがあるのかわからない。
「・・・・・・ごめん」
「謝られる必要がないんだけど俺」
「僕は、君のことどうでもいいなんて思ってない、けど。でもそう思われても仕方なかったかもしれないから」
だからごめん、と彼は言った。
テッドはちっとひとつ舌打ちを漏らすと彼の肩をぐいとつかんでこちらを向かせる。
彼は青い目を驚きに一瞬丸くしてから、笑むように僅かに目を眇めた。
「・・・・・・もういいから、謝るな」
「だけど」
「なんだよ」
「君に誤解されたままじゃ、嫌なんだ」
彼が、肩をつかんだままだったテッドの手に触れた。
「これを言うとまた君は怒るかもしれない、でも」
まっすぐに、その目はテッドを見ている。テッドもまた目を離せなくなった。彼に触れられた手が微かに熱い気がする。その熱は自分が発しているのか、それても彼から移されたものなのか。
「僕は、名前くらいよかったんだよ」
そっと、内緒話をするように打ち明けられた。
テッドの頭は数瞬の間その意味を捉えることができなくて、反応はかなり鈍いものになってしまった。
「・・・・・・え?」
「名前なんて、君が忘れてもよかった」
繰り返し告げられる。
それでようやく彼がなにを言っているのか理解して、テッドの中にまた苛立ちが募る。その言葉はテッドにとっては納得のいかないものだというのに、どうして彼はそれを繰り返し自分に告げるのかがわからない。
また彼への反発を言葉にしようと口を開きかけたとき、静かに自分を見ている彼の目に気がついて、ふとそれを止めた。
彼は静かに笑んだまま、続ける。

「だって僕そのものを君が忘れたわけじゃないから」

―――――すとん、と。
言葉が胸の中に落ちた。
テッドはゆっくりとまばたきをしてから、また彼を見た。彼は先程と全く変わらずに微笑んでいる。
「・・・・・・お前」
「テッドが僕のことを本当に忘れちゃったのなら・・・・・・きっと焦りも怒りもしたし、悲しくもなっただろうけど、君は僕のことを覚えてる。ただ名前だけを忘れただけなら、いいんだ」
彼は肩をつかんでいたテッドの手を外すと、まだ笑んだままの口元に持っていった。手袋越しに手首の内側に―――血の流れにキスをされてどくんと鼓動が波打った。
「名前をまた覚えてもらうことぐらいなら、簡単だよ」
テッドは彼の唇が触れたままの手をぎゅっと握りしめた。
「俺は・・・・・・」
「・・・・・・うん」
「俺は、思い出したいんだよ、お前の名前」
「うん・・・・・・そうだね」
テッドはつかまれていた手を振りほどくと、今度は両手を使って彼の背をつかまえる。つかまえるだけでなく、もっと近くへ引き寄せて――――腕の中に彼を閉じ込める。
こうして触れることで、彼のことを思い出せればいいのにと思う。
今、名を呼べないなんて。
それはなんて悔しいことだろう。
「・・・・・・名前を呼べない」
「うん」
「でも絶対思い出す」
「・・・・・・」
黙り込んだ彼の指がテッドの裾をつかんだ。その仕種が意味することが知りたくて僅かに体を離すと、彼は鮮やかに笑っていた。
「テッド」
ぎゅっと、彼の指が服の裾を握りしめた。
「しよう?」
「・・・・・・お前、こんなときに」
「こんなときだから。君にわだかまりがあるなら僕を抱いてみればいいよ・・・・・・それはちゃんと覚えている、だろ?」
彼は、そのために君の部屋にきたんだと、なんでもないことのように続けてテッドの唇の端に口付けた。さらりとその髪がテッドの頬に触れて、離れる。
その感触がくすぐったくて、テッドは小さく笑った。彼が不思議そうに首を傾げる。それがまた、おかしかった。
「・・・・・・なんで笑うんだ。失礼な」
「お前、だって・・・・・・なんつーかお前らしいとゆーか」
「一応僕だって、これでも勇気を持って誘っているんだけど・・・・・・そういう反応は傷つくよ」
「あー・・・、悪い」
確かに、今の自分の態度は大概なものだろうと反省して、無表情でむくれる彼の首の後ろに左手を回して引き寄せる。そうして耳の付け根にキスを落としてから囁きかける。
「誘われてやるから、許せよ」
「・・・・・・なんか、その表現も納得いかないなー・・・・・・」
ぼやきながらも彼は手を伸ばして、テッドの頭を抱え込んだ。先程のテッドと同じようにその耳元にキスを返した。
「でも、仕方ないから許してやるよ」
その偉そうな口調にやっぱり傷ついてなんていないじゃないかと言おうとして、やめた。
どうせなにを言ったとて、彼には適わないのは目に見えている。それならばと彼の唇に口付けする。これで彼の悪態は聞こえないと半分安堵して、半分がっかりした。そんな自分を心で笑った。




キスをする。触れる。
「・・・・・・っ」
そのたび彼の体がぴくんと反応する。ランプの灯りを絞った室内では、彼の表情の細かいところは見えない。だが、いつも彼は耐えるように唇を噛みしめて、声を漏らすまいとする。テッドも特にそれを咎めたことはない。なんといってもここは船内の一室であり、彼は曲がりなりにも一軍を纏める軍主なのだ。その彼がこうして組み敷かれていることなど他の誰にも知られる危険性は冒せない。
なのに、彼は今日に限って唇を緩やかに開いた。
「・・・ッド」
「・・・・・・どうした?」
名を呼ばれて言葉を返す。
だが手は止めない。乱れた彼の着衣を取り去った。それだけの動作で彼はぶるりと震える。露わになった肌にかるりと手を滑らせるとまた彼の体がぴくんと反り返った。
「ぁ・・・っ、テッ・・・ド・・・・・・」
彼はテッドの疑問に答えることもなく、小さな嬌声と名前を零す。
「・・・・・・今日は、我慢しないんだな」
「なにを・・・・・・?」
ぼんやりとした声が、テッドに聞き返した。
「声」
「・・・・・・そだね。今日は、我慢しない」
端的に彼に答えると、今度は彼から意外な言葉が返ってきた。テッドは目を丸くして彼の体から身を離す。彼の傍らに両膝をついてその顔を覗き込んだ。
突然止んだ刺激に、彼は緩やかに閉じていた目を開いた。
青の目は、暗がりの中では深い藍色に見える。それはテッドに夕暮れの東の空を思い起こさせた。夜空と夕焼けとの境界線の色だ。
「今日は、我慢しないよ」
彼がまた繰り返す。
繰り返しながらも身を起こしたテッドへと両腕を伸ばして、その首の後ろで指を組んだ。
「なんでだ?」
テッドは戸惑いながら問いを重ねる。すると彼は鮮やかな笑みを浮かべた。
「君が僕の名前を呼べない分、僕が君の名前を呼んであげるよ」
「・・・・・・っ!」
告げられた言葉は、衝撃だった。
その言葉に引きかけた体を、彼がまわした両手で引き寄せる。結果、テッドは彼の上に覆いかぶさるように倒れこんで、ベッドが大きくぎしりと揺れた。
彼は痛いとか重いとか、そういったことは全く漏らさない。
だから今も、重みも痛みも感じただろうになにも言わずにぎゅっと、テッドの頭を抱え込んでいた。
暫くテッドは体を硬くしていたが、やがて大きな溜息と一緒に力を抜いた。
「・・・・・・わかったから、離せ」
「・・・・・・ん」
腕の戒めが外れた。
同時にテッドは顔を上げてまた彼を見た。彼は、上気した表情を隠すことなくにやりと笑んでいた。
「僕だけが君の名を呼べる・・・・・・君は呼べない。悔しいでしょ?」
「て、め・・・・・・」
こんなときにまで喧嘩を売ってくるなんて、と思っていたらふと彼の笑みが消えた。また彼の手が伸びて、今度はテッドの頬をするりと撫でる。
「・・・・・・悔しかったら、そろそろ思い出そうよ」
「努力はしてんだよ・・・・・・これでも」
「ふぅん・・・・・・ま、いいけど」
だって、と彼は続けて身を僅かに起こすと、テッドに口付ける。
「昨日から君が僕のことばっかり考えているのは・・・・・・ちょっと気分がよかったり、するんだよね」
「あのなぁ・・・・・・人が真剣なのに・・・・・・」
「僕だって真剣だけど」
「・・・・・・わかった。お前、もう黙れ」
今度こそ、彼を黙らせるために肌に置いた指を動かした。
彼は一瞬声を殺すために唇を噛みしめたが、それはゆるりとほどけてふぅ・・・と長く息を吐いた。
「テッド・・・・・・」
「・・・・・・ああ」
彼が呼ぶ自分の名前は、随分と耳に心地よかった。
「テッ・・・ド、・・・・・・んっ」
今、名前を呼べないことが―――――無性に、悔しい。
彼の耳にも名を呼ぶ自分の声は、心地よく響くのだろうか。
そんなことを思いながらも、テッドは行為に没頭していった。



目が覚めたときには、部屋の中は真っ暗だった。
ランプの油が切れたのだと知って、暗闇の中起き上がる。傍らで彼がテッドの動きに合わせて寝返りをした。
「寝てるのか、セト」
ぽつりと呟いて、ランプの油を足そうとベッドから出かけて―――――テッドは愕然とした。
今、自分はなんと言った?
名前を、呼ばなかったか?
あまりにも自然に出すぎた名前は、意識することすら、忘れてしまいそうだった。
ゆっくりと、テッドは口を開く。
「・・・・・・・・・・・・セト」
名を呼ぶ。
名を呼べる。
そんな簡単なことが、今までできなくて、だけど・・・・・・もう、呼ぶことが、できる。
「は・・・ははは、は・・・・・・」
無性に笑いたい気持ちになった。だが今、大声で笑っては、傍らに眠る彼を起こしてしまうだろう。テッドはその衝動をどうにか堪えると、今度こそベッドを抜け出して手探りで机の上のランプと、その横にある油さしを手に取ってなんとかランプに灯りを点す。
ほわんと小さなオレンジの光が部屋の中を丸く照らす。
微かな光に照らされて、だけど彼は未だ眠りの中にいる。
テッドは簡単に身支度を整えると、ベッドに座り込んだ。ぎしりとベッドの軋む音が意外と響いてどきりとする。だが、彼は目覚めない。理由もなくほっとしてからそのさらさらの髪に触れた。
緩やかに船が揺れている。それに合わせて、彼の眠りもまた揺れているようだった。テッドが触れるとぴくりと反応する。が、すぐにその感触に慣れるのか、目を覚ますことはない。
テッドもまた、今、揺れていた。
早く彼が起きてしまえばいいという気持ちと、今胸にあるこの感情を少しだけ長引かせたい気持ちとに揺れている。どっちつかずの気持ちは、結局僅かに彼に触れるだけの行為に現れている。
そんな自分にふ、と息を吐くように笑った。
ま、いいさと思う。
彼が起きたらなんでもないことのように名前を呼ぼう。会話の途中に、普通に呼んでみよう。
それで彼がどんな顔になるのか、想像するのが楽しかった。
150年生きて、こんな些細なことでこんな楽しくなるなんてまだまだ俺も青いよな、とか、なんで俺がこんなヤツのことで一喜一憂しなきゃいけないんだ、なんて自嘲のようなことも考えてみるがそんなことでは感情の波は消せない。
結局テッドは諦めた。
ベッドから立ち上がると、テッドは部屋の鍵を持った。彼が目を覚ます前に、水でももらってこようとそう思った。外もきっと暗いだろうからと、ランプも手に取る。
ドアを開けたときにふと後ろを振り返る。
彼はまだ、ベッドに沈み込むように眠っている。
それを確認して、僅かに笑みを漏らすと、テッドは扉を閉めた。ランプの灯りがなくなった部屋は眠りにふさわしく暗く沈んだ。




ちなみに翌日、『軍主の名前を呼ばない』という戒厳令が解除されたことを追記しておく。


てなわけでどうして名前を忘れたかは不明のまま一件落着してしまいました。
ええ、世の中には決して触れてはならないものがあるのです。決して決して、理由を考えてなかったとかそんな・・・・・・(苦)
だけど実は拍手をあげたときから、続きを書くなら裏だよなーと思ってました。(当時裏もなかったのに)
えちシーンで「僕だけが名前呼べるんだよー」と勝ち誇る4様が書きたかったので。てかお前らラブラブだな!
そんなわけで、拍手で続きをと言ってくださった優しい方にはまさかこんな形でお目見えするなんて・・・ごめんなさい。