「結城さん、起きてくださいよ。
結城さん」
体をガクガクと揺らされ、やっとパソコンの前に倒れこんでいた男は目覚めた。
まだ寝ぼけているらしく、結城と呼ばれた男は顔を起こし、周りを見回しながらボンヤリしている。
「ったく、最初から根の詰めすぎですよ。こんな場所で熟睡するなんて…」
と結城を起こした男は呆れ顔だ。
そして更に、
「結城さんは新婚さんでしょう。
最初からこんな調子だと即愛想つかされちゃいますよ」
と軽く説教をした。
まだ完全に眠気の抜け切っていない顔で、自分の前にいる人物を見つめていた結城は、
「大丈夫だよ。ウチの奥さん、この仕事に理解あるから」
と言って、ウーンと背伸びをした。
「……それってのろけッスか?」
男がジロッと恨めしげに結城を見つめる。
「そ、そういう訳じゃないんだけどな」
「いいですよねー、結城さんの奥さん美人ですからねー」
「でもかなり気が強いよ」
「だけど結城さんにべた惚れじゃないッスか。うらやましー」
と男は悔しがった。
中空をボンヤリと眺めた後、結城は椅子から腰をあげた。
「そうだな。たまには家に帰って一息つくよ」
「どうぞ、どうぞ。一息どころか二息、三息ついたって構いませんよ」
更に自分をからかう後輩を軽くこづき、結城は帰り支度を始めた。
「それじゃあ、俺は先に失礼します」
「ああ、お疲れ様」
後輩が退室するのを見送った後、結城は外を見た。
外はビルの森。
夜遅い時間だからなのか、光のついている場所は少ない。
あの事件から十数年。
この場所はあの事件など無かったかのように見事に復興している。
銃撃を受け、ひび割れた建物も今はない。
結城は手提げ鞄から赤いバンダナを取り出した。
そのバンダナを頭に巻き、結城は小さな声で何かを呟く。
すると、右手の人差し指に小さな炎が灯った。
今は最大でも、この程度の炎しか出す事はできない。
でも、それで良かったと思っている。
こんな小さな炎では何の役にも立たないけれど、あの事件を忘れないためには丁度いい。
ひとしきり炎を見つめた後、結城はバンダナをはずして鞄の中に突っ込んだ。
そのまま鞄をつかみ帰宅しようとして、結城は振り返った。
「おっと、いけない」
結城の眼前にあったパソコンが煌々と輝いている。
電源がついたままだ。
結城は机の前まで戻り、電源を切ろうとして手を止めた。
パソコンの画面をジッと見つめる結城。
「駄目だな。1番重要なものを入力し忘れているよ」
そう言って、カチャッとキーを入力した。
パソコンの画面に輝く文字は…。
“GAME―パラレル―2”