聖なる夜だろうが何だろうが、太陽はいつも通りに上り、そして朝になる。

 間借りしている自分の部屋で、おれは目を覚ました。

 おれはあの後、やけ食いをした。
 未成年であるおれには一切酒を売ってもらえなかったので、二日酔いにはなっていない。

 しかし、昨日腹に受けたダメージと食いすぎで腹は痛い。

 痛む腹を抱え、フラフラしつつ、おれは部屋の階下にある食堂(おれが昨日飲み食いしていた酒場でもある)のドアを開けた。



 すると、美味しそうな匂いが漂ってきた。
 なんと、おれの目の前のテーブルに様々なご馳走が広がっているのだ。

 エイミーが。
 グレイが。
 マルティが。
 エファが。
 そしてルシャラがおれを待っていてくれた。

 昨夜1人ぼっちだったおれのために、みんなが集まってくれたのだ。



 …なんて事、ある訳がない。

 食堂は通常営業であり、そこにおれの見知った奴はいなかった。

 ああ、ドアを開けばそんな光景が広がっているんじゃないかと、少しでも期待したおれが甘かったよ。
 期待した分、へこむな。


 そう、現実は甘くない。
 受身でいて、自分から動かない者に祝福など無いに等しい。

 何かを為そうと必死で頑張った奴が、祝福を得るチャンスを得る。
 もちろん、頑張っても報われない事があるのも知っている。

 だが、動かなければ、祝福を得るチャンスさえ放棄した事になる。

 だから、おれは理想の未来に近づくために、今日も、そして明日も動くのだ。


「うおぉぉおお!負けねーぞぉ!」
と、おれは吠え猛った。

 そして、その直後にここが食堂であることを思い出した。

 そこにいる全員の注目を一心に浴びる、おれ。

 タハハと笑いつつ、忍び入った泥棒のような低姿勢で移動し、おれは近くの椅子に座った。
 そして、それと同時に自分の腹が痛んでいた事も思い出した。

「イテテ…」

 そうそう、すぐ忘れそうになるが、頑張るのは自分が壊れない程度に、だ。
 自分が壊れてしまえば、元も子もないからな。

 取りあえず、今は腹を治す事に専念しよう。


 こちらを不審そうに見つめるウェイトレスさんに、おれは注文をした。

「お姉さん、腹に優しい飲み物ひとつ」

ほどほどに頑張りましょう



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