道草の時間ー春から初夏へ(3) (2007)


フジ

フジ(Wisteria floribunda (Willd.) DC.)   五月、野山は緑あざやかに、フジの花は乱れ咲く。


オヘビイチゴ

オヘビイチゴ
Potentilla kleiniana Wight et Blume

ヘビイチゴに少し遅れて、オヘビイチゴが沢山の花をつけている。田の畦には、この時期、黄色い花が多い。ヘビイチゴ、オヘビイチゴ、セイヨウタンポポ、オオジシバリ、イヌガラシなどなど。田は満々と水を張って、早苗が5月初旬の南風に吹かれている。私も風とともに、黄色い花々と水田を眺めて、道草の時間を過ごす。



カキネガラシ




カキネガラシ
Sisymbrium officinale Scop.

ヨーロッパ原産の帰化植物。「植物の骨」といった風情である。枝は横に大きく張り出している。しかし、ちっぽけな花がその腕の先端にくっついているに過ぎない。なんで物干竿みたいに長い枝を張り出さなければならないのか、訳がわからないが、それなりの理由があるに違いない。カキネガラシを離れて、さらに散歩を続ける。川の土手はカラシナの花で一杯である。カラシナが随分まともな植物に見えた。



ケキツネノボタン




ケキツネノボタン
Ranunculus cantoniensis DC.

これも田の畦に多く、黄色の花を咲かせる。キツネノボタンは「狐の牡丹」なのだそうだ。想像力たくましい人がつけた名なのであろうが、私のごときには「狐の牡丹」なるものが全く想像できない。長い間、キツネの洋服のボタンかと思っていた。ベアトリクス・ポターの絵本のように、動物もときには洋服を着るようだから、ボタンなら想像できるのに。残念。



ミコシガヤ



ミコシガヤ2

ミコシガヤ
Carex neurocarpa Maxim.

散歩道のやや湿ったところに普通にみられるスゲ属の植物である。群生している事が多く、ミコシガヤというだけあってとてもにぎやかで楽しい。多年草だから今年も去年と同じ株たち。やあこんにちわ、今年もまた出会ったなと言わせる植物である。





キツネアザミ



キツネアザミ
Hemistepta lylata Bunge

キツネアザミはキツネアザミ属の植物であり、アザミ属ではない。アザミのようでアザミでないからキツネというのだそうである。つまり、キツネアザミを見て、アザミと思った人はキツネにだまわれているのである。私も以前はだまされた。アザミのようなとげは、キツネアザミの葉にはない。キツネも大ざっぱなものだ。名前で思うよりやさしげな植物である。



ハナビゼキショウ




ハナビゼキショウ
Juncus alatus Fr. et Sav.

湿地に生えるイグサ科の植物。いやに扁平な植物である。ハナビは花火のことであろう。似ていないこともない。セキショウは、サトイモ科のショウブに似た植物で、かたちが似ているためか、何々ゼキショウと名付けられたイグサ科の植物がいくつかある。そろそろ初夏の到来か、水蒸気がハナビゼキショウの湿地に立ちこめ、少々蒸し暑い。



マスクサ




マスクサ
Carex gibba Wahlenberg

ごく普通種のスゲであるが、地味な植物なので、すぐ目につくわけではない。この辺りに沢山生えているミコシガヤや大きなカサスゲは別として、スゲ類を見つけるには、それに集中して探さねばなかなか見つからない。しかし、こういうのは私の趣味に合わない。偶然目についたもののそばで、道草の時間を費やすのがいちばんいい。




ペチュニア

コンクリートの上のペチュニア

これは番外。家の庭の外側の道路を掃除しようと出たところ、コンクリートの継ぎ目にペチュニアが一輪さいていた。見覚えのある色である。おそらく、昨年、庭の垣根にハンギングしてあったペチュニアの種が道路側にこぼれ落ちて、コンクリートの継ぎ目で発芽したものと思われる。コンクリートの継ぎ目には、ノゲシ、ツメクサ、スズメノカタビラ、カタバミなどが生えているが、こんなところでは、ペチュニアは一輪でも、際立っていた。



オオニソガラム


オーニソガラム・ウンベラトゥム
Ornithogalum umbellatum L.

ヨーロッパに原産するそうだが、園芸種として古くから利用されているらしい。オーニソガラム属は、本種のほか、O. arabicumO. thyrsoidesO. saundersiaeO. nutansなどが栽培されているが、本種のみが、野生化して帰化植物になっている。散歩道にも近頃増えつつある。図鑑をみるとオオアマナという名が与えられているけれども、日本古来のアマナと属が異なる外来種につけられたこの名はあまり好きではない。英語ではStar of Bethlehem。きれいな花ではある。



スズメノチャヒキ


スズメノチャヒキ
Bromus japonicum Thunb.

五月はいろいろなイネ科雑草が繁茂し、花を咲かせ、実をつける。スズメノチャヒキもその一つである。例によって、なんだかよく分からない和名であるが、朝日百科「世界の植物」には、雀の茶挽の意味で、チャヒキグサ(カラスムギ)に似て、小さいためとある。チャヒキグサを広辞苑で調べたところ、爪の甲に唾をつけ、その実をのせて吹くと、茶臼のように回るから名づける(俚言集覧)とあった。分からなかったのは当然となっとくした。



ヒゴクサ


ヒゴクサ
Carex japonica Thunb.

草地や林のへりに見つかるスゲである。これも普通種であるが、散歩をしていて、偶然に見つかる程度である。雄の花序を除いては全体が同じような緑色だから目立たない。進化の先端にあって、もはや子孫繁栄のために虫の助けを必要としなくなり、きれいな花を持たない植物である。しかし、こんな目立たない植物にかえって興味をもつ人も少なくないようだ。



カナリークサヨシ



カナリークサヨシ
Phalaris canariensis L.

クサヨシと同属であるが、穂の形はまるで違う。白っぽくてずんぐりした形は見まごうことがない。ただし、別にヒメカナリークサヨシという種があって、こちらは見たことがないが、そっくりのようである。図鑑で調べると、スケッチしたものは、カナリークサヨシの方であると思う。ユーラシア大陸に広く分布しているらしいが、日本のは渡来種で、カナリアの餌にされたそうである。ただし、学名のcanariensisはカナリー島の意味。



スズメノエンドウ



スズメノエンドウ
Vicia hirsuta S.F.Gray

家の前の道路わきの植込みの中に茂ったスズメノエンドウ。写真の上方にはまだ花が見えているが、実もすでに大きくなっている。さやに種子が2つづつ入っていて、大きさも揃って行儀がいい。エンドウというが、兄弟分のカラスノエンドウやカスマグサとともに、エンドウ属ではなく、ソラマメ属の植物である。だから、カラスノソラマメ、スズメノソラマメであるべきだと、ひそかに思っている。



カスマグサ



カスマグサ
Vicia tetrasperma Schreb.

カラスノエンドウとスズメノエンドウの中間の意味でこの植物はカスマグサと名付けられたそうである。この辺りには、前二者ほど多くない。しかし、カラスノエンドウとズズメノエンドウを見慣れていると、これを見たとたん、カスマグサだと分かる。そういう意味では、なかなか適切な名前かもしれない。



カラスビシャク



カラスビシャク
Pinellia ternata Breit.

畑や田の畦によく見かけるサトイモ科の雑草である。小さいくせに、仏炎苞から花穂の先端をにゅっと伸ばしている姿はユーモラスで、なにか話しかけてくるような感じである。写真のカラスビシャクは、何人かそろって井戸端会議の真最中である。なにかたわいのないことを喋りあっているように見える。





林の中

五月の林の中で

五月初旬から中旬にかけて、林の中はちょっと変わった花々でにぎわう。ウラシマソウ (Arisoema urashima Hara)(上左) はあちこちで釣り糸を垂らし、マムシグサ (Arisoema japonica Bl.)(上右)があちこちで大きな口をあけていが、マムシと違って噛みつくことはない。ホウチャクソウ (Disporum sessile D. Don)(下左)やチゴユリ (Disporum smilacinum A. Gray)(下右)もこの林の住人。音のないにぎわいである。



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