道草の時間ー夏(2)(2007)



ミソハギ


ミソハギ
Lithrum anceps (Koehne) Mak.

金子みすずが書いた「みそはぎ」という童謡がある。ながれの岸に咲いたみそはぎからこぼれた露が川を流れて海にでて、別れてきたさびしいみそはぎのことをおもう、という童謡である。こんな感性はとても持ち合わせていないが、ミソハギの花を見ると、どうもこの童謡が頭に浮かんでくる。ミソハギは湿地に生える植物で、写真は田のヘリの水路のそばに咲いていたものである。みわたすと、一面の豊かな緑の中に、あちこちにミソハギの紅紫色が点在する夏の田園風景である。




セリ

セリ
Oenanthe javanica (Blume) DC.

セリは東洋が原産で、非常に古い時代から野菜として食べられていたという。万葉集にも芹つみの歌が二首おさめられているが、有名な「せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ・・・・」と歌った春の七草の歌の出典は明らかではないそうである (万葉植物事典 北隆館)。山菜、野菜としてのなじみ深さとは違って、セリの花は見向きもされないようだ。セリは、この季節、湿地にたくましく育ち、花柄に白い花をたくさん咲かせている。近づいてみたら、意外にきれいであった。



ハッカ


ハッカ
Mentha arvensis L. var. piperascens Malinv.

この季節に田の畦でうす紫の目立たない花を咲かせているのはハッカである。花は目立たないが、葉をもんで鼻の近くにもってゆくと、その匂いは強烈である。匂いの主成分はもちろんメントール。メントールをとるために、古くから栽培もされてきた。近頃は、オランダハッカ (スペアミント Mentha spicata L.)らしき植物が野生化して道端に見られるようになったが、やはり、古来からわが国にあるハッカに親しみを感じる。



ヌマトラノオ


ヌマトラノオ
Lysimachia fortunei Maxim.

休耕田などの湿地に見られ、オカトラノオ (Lysimachia clethroides Duby) によく似ているが、ヌマトラノオの方が少し遅れて咲く。オカトラノオより花が小さく、花の数も少なく、花穂の先端は直立している。水辺のいろいろな雑草に混じって咲いている姿は可憐である。オカトラノオやヌマトラノオによく似た種にノジトラノオ (L. barystachys Bunge)があるが、こちらは絶滅危惧種で、前二者のように容易くは見られない。「牛久自然観察の森」でみたことがある。





リョウブ


リョウブ
Clethra barbinervis Sieb. et Zucc.

リョウブの花が咲きはじめた。長い花穂はあちこちを向いて、ゆるやかな曲線をえがき、打上げ花火を見るようで、たいへんおもしろい。日本には普通に野生している植物だそうだが、残念ながら、公園に植えてあるものしか見たことがない。花の下にたたずむと、虫の羽音がにぎやかに聞こえる。



イヌゴマ


イヌゴマ
Stachys riederi Cham. var. intermedia (Kudo) Kitam.

散歩道に湿地が多いわけか、湿地に生える植物によく目がとまる。イヌゴマはこのあたりにごく普通の植物だが、イネ科雑草の茂みの中に見たイヌゴマの花は、思いのほか美しかった。イヌゴマとは、役に立たないゴマの意味であろうが、もう少しましな名がありそうなものである。



マツカサススキ




マツカサススキ
Scirpus mitsukurianus Makino

近所の湿地にまばらに生えている。しかし背丈がすっと高く、その特異な姿に遠目からでも一目でわかる。ここ数年で私のなじみの植物になった。小穂の集合がまつかさのように見え、ススキのように桿や葉が長いので、ススキになぞらえた名と思われるが、もちろんイネ科ではなく、カヤツリグサ科の植物である。近くでみるには、湿地にはまりこまないようにしなければならないので苦労する。



オニドコロ

オニドコロ
Dioscorea tokoro Makino

林のへりの雑木によくからみついている。雌雄異株でスケッチのものは雄株である。戦時中、疎開先でこの植物の塊茎をかじったことがある。食糧難だったためか、あるいはその土地の人達にオニドコロ(トコロと言っていた)の塊茎を食べる習慣があって食卓に出されたためか、よくおぼえていない。生ではなくて、茹でてあったような気がする。ともかくひとかじりしただけで、にがくて食べられなかった。オニドコロの塊茎には有毒成分が含まれているそうであるから、今の時代は食べないほうがよさそうである。




ママコノシリヌグイ

ママコノシリヌグイ
Polygonum senticosum Fr. et Sav.

湿地の中で、夏の光の中に勢いよく繁茂している雑草の間をぬうようにして伸びている。全国どこにでもある普通種だが、私の散歩道には少ない。タデ科の雑草の中では、花期が早く、また長く、初夏のころから夏を通じて花を咲かせる。蔓には背軸の向きに鋭いとげが生えていて、それが和名の由来になっていると思われるが、このとげはからみつくのに役立っているのだろうか。周囲の雑草には迷惑な植物かも知れない。



サンカクイ


サンカクイ
Scirpus triqueter L.

これもまた湿地に生える植物。背が高く群生しているのでよく目立つ。この群生から、ところどころにマツカサススキ(上述)がさらに背高く伸び出している風景はなんとなくおもしろい。名はサンカクイであるが、茎は稜線が際立ち、切口は正三角形にちかい。イグサ科ではなく、カヤツリグサ科の植物である。お盆は過ぎたが、まだ残暑が続く。


ヌマガヤツリ




ヌマガヤツリ
Cyperus glomeratus L.

近所でよく見かける湿地の植物。大きさはまちまちで、小さなものは30センチ足らず、大きなものは、1メートル近くのものまである。マツカサススキはスレンダーでなかなかスマートであるが、ヌマガヤツリはがっちりして頼もしく見える。畦道にもよく見かけるが、沼などに水につかって生えている個体はことに大きいように思える。「蚊帳」をつくってみたら、立派なのができると思うが、まだ試していない。


アキカラマツ



アキカラマツ
Thalictrum minus L. var hypoleucum (Sieb. et Zucc.) Miq.

林のへりなどによく見かける。特有な葉のかたちと群がり咲く多数の小さな淡黄色の花を見るとすぐこれと分かる。1980年代だったであろうか。アキカラマツの培養細胞がベルベリン(アルカロイドの一種、医薬品)を生産し、培養液中に放出するという話を京都大学の先生方からお聞きした。アキカラマツという奇妙な名前をおぼえたのはその時であったが、植物を見知ったのはその後のことであった。



シナガワハギ





シナガワハギ
Melilotus suaveolens Ledeb.

かなり背の高いマメ科の植物で、品川の海岸付近に多かったので、シナガワハギと名付けられたという。散歩中たまたま荒れ地で見つけたが、このあたりには少ないようだ。なんとなく遠い国からきた帰化植物のような感じのする植物だが、図鑑にはアジア大陸に原産するとあり、あまり遠い国から来たのではなさそうだ。



ワルナスビ



ワルナスビ
Solunum carolinense L.

約25年前、勤務先のツツジの垣根の中にとげとげの植物が繁茂しているのを見たのが、ワルナスビとの最初の出会いであった。これを駆除するのは、大変である。ナス科の植物には、ナスをはじめてとして、鋭いとげをもつものがあるが、この植物が一番ひどい。ワルナスビとはよく名付けたものと感心した。近頃は、道端でよく見つけるが、心配するほど増えてはいないようである。



ヒルガオ

ヒルガオ
Calystegia japonica Choisy

子どもの頃、「あめふりあさがお」という名で憶えた。花を摘むと、雨がふると教えられた。摘んではだめという意味らしいが、炎天つづきの夏には、摘んできて、雨を降らせたくなる。よく思うのだが、ヒルガオが園芸種にならなかったのは何故? アサガオと違って昼も花が咲いているし、改良すれば、もっときれいになるだろうに。ほとんど種子をつくらず、地下茎でふえる植物だから、育種家が嫌ったのだろうか。



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