道草の時間ー夏(2007)



白花ハコネウツギ

白花のハコネウツギ ?

6月初旬、梅雨ももう間近なようだ。写真の植物は、花や葉の形態から、ハコネウツギ (Weigela coraeensis Thunb.)と思われるが、咲いている花はすべて白であった。野生の草木がごちゃごちゃ混じり合っている場所にあったが、公園に含まれているところなので、多分植えられたものであろう。通常のハコネウツギは白と赤の花が混じり合い(白花が赤花に変化する)、それらが木を覆うので、まことに美しく、この季節を代表する花の一つであるが、白花だけのものは、落ち着いた印象を与える。



ミゾコウジュ




ミゾコウジュ
Salvia plebeir Br. 

あぜ道など湿った場所に生える植物であるが、近頃はめったに見かけることがなく、あっても群生していることがない。写真の植物は農業用水路のふちで見つけたもので、一本だけ立っていた。種子はたくさんできている様子なので、増えればよいのだが、除草剤が撒かれればひとたまりもないであろう。準絶滅危惧種。





ニワゼキショウ

ニワゼキショウ
Sisyrinchium atlanticum Bickn. 

北アメリカからの帰化植物であるが、こどもだった頃から、よく見かけた。芝生の雑草であるが、わが庭には来ていない。太陽の光が好きなようで、日の当る原野に群がって咲いている。写真のものは花被が白いが、淡紫色のものもあり、均等に混じって咲いている場所もある。すでに、紫がかった茶色の丸い実も見られるが、花も実も、小さいながら絵になる植物である。





マメグンバイナズナ

マメグンバイナズナ
Lepidium virginicum L. 

北アメリカ原産の帰化植物で、荒れ地にたくさん生えている。春から見かけるが、今はみな大きく育って、沢山の枝の先は総状花序となって際限なく生長する感じで、おびただしい数の実をつけている。花は目立たないし、実はグンバイナズナみたいに立派ではなく、姿かたちはあまり恰好のよい植物とは言えないが、植物にすれば、要は繁殖すればよいのであって、恰好は気にしない。



ヘラオオバコ

ヘラオオバコ
Plantago lanceolata L.

ヨーロッパ原産の帰化植物。葉は細いへら状で、花茎が長く、花序は短く、オオバコとは見た目がかなり異なっている。ヨーロッパでもよく目にした植物である。ヨーロッパの人からみれば、これが普通のオオバコで、日本のオオバコを奇妙なオオバコと思うだろう。在来種に近縁の帰化植物が在来種を圧倒してしまう例は多いが、ヘラオオバコとオオバコは共存共栄である。
追記(2007.10):上の文を書いた時点では、セイヨウオオバコ (P. major L.)というヨーロッパを原産のオオバコがあり、日本にも帰化していることを知らなかった。セイヨウオオバコは在来のオオバコ(P. asiatica L.)に大変よく似ている。だからヨーロッパの人々も、日本のオオバコを見てもなんら違和感はないはずである。推測の誤りを反省している。




ツタバウンラン

ツタバウンラン
Cymbalaria muralis Gaertn. Mey. et Scherb.

ヨーロッパ原産の帰化植物らしい。種名のmuralisは、「壁の」の意味であり、石垣の隙間などによく生える植物らしい。写真の植物は、石垣ではなくて、残念ながら道端のコンクリートの継ぎ目に生えていたもので、そのためか、顔色も悪く、元気がなさそうに見えた。




ガクアジサイ

ガクアジサイ
Hydrangia macrophylla (Thunb.) Seringe f. normalis (Wilson) Hara

公園のガクアジサイ。おそらく園芸品種であろうが、写真でみる暖地の海岸地帯に自生するガクアジサイと形態的にほとんど異ならないように見える。集散花序の周辺を飾る装飾花と中の両性花がみごとに調和している。装飾花のがくは気持ちのよい形状でり、両性花は梅雨の晴れ間に青く輝く。わが国の固有種であることもすばらしい。


オカトラノオ



オカトラノオ
Lysimachia clethroides Duby

近くの湿地でオカトラノオが咲き始めた。6月もはや下旬である。地下茎で増え、群がって生える。花が咲く姿は捨て難い風情であるけれども、この花を見るときは、いつも蒸し暑くてたまらない。あまりなじめないのは、不快指数のせいか。スケッチの個体では、総状花序がまだ上に向かっているが、やがて湾曲して先端が下を向くようになる。この植物の特徴である。



ヤブジラミ

ヤブジラミ
Torilis japonica DC.

ヤブジラミの地味な花が咲いている。地味な花が終わって実が熟すと、ヤブジラミの名にふさわしい「くっつきむし」の特徴が現れる。果実の表面にかぎ状のとげが密生し、動物の毛や人の衣服にくっつくのである。動物や人を利用して、ただで種子を運んでもらおうという魂胆である。近頃は野生の動物も少ないし、くっつきむしがいっぱいのやぶの中を歩き回る人種は限られているだろうから、ヤブジラミの実としては、うまく運んでもらえる確率はそんなに高くはないと思うけれど。




ハルシャギク

ハルシャギク
Coreopsis tinctoria Nutt.

ハルシャギクは北米原産の植物で、日本では最初栽培種であったのが野生化したらしい。家の近所の野原にハルシャギクが群落をつくっている。数年前までは、ぽつぽつ見られる程度であったが、年々繁殖して、この通りになった。外来種がこんなに繁殖しているのは、よいのか、わるいのか分からないけれど、とりあえず、見事な眺めである。




ハルシャギク2 ハルシャギク2

舌状花は外側が黄色、内側が赤褐色でジャノメソウという別名はなるほどと思う。しかし中には、舌状花全体が赤褐色のものや、赤褐色の部分が大きいものもまじっている。




ネジバナ

ネジバナ2

ネジバナ
Spiranthes sinensis Ames

この季節、ネジバナが野原や道端のあちこちに咲いている。芝草とも相性がよいらしく、庭や公園の芝生にもよく見かける。アジアの温帯から熱帯、オーストラリアまで分布しているそうだから、かなり適応性に富んだ植物なのであろう。その名の通り、花の穂にらせん状に花を並べている。それぞれの花は小さいが、花を拡大してみると、ランの種類に特有の複雑で美しい形状である。



シモツケ

シモツケ
Spiraea japonica L. f.

公園のシモツケ。花色が美しい割には、それほど目立つ花ではない。花を見て、ああ、シモツケもこの季節だった、と思い出す程度である。花は少し盛りを過ぎて、色あせた花も目立ちはじめていた。シモツケは鑑賞のため、すでに平安時代には貴族の庭園に植えられていたらしい(北村四郎 植物文化史 保育社 1987)。なにげなく咲くさまが、日本人には好まれるのであろう。



クサフジ

クサフジ
Vicia cracca L.

マメ科植物の野生種はいろいろあって、春、夏、秋のそれぞれの季節にそぐわしい花を咲かせる。花は目立つものは少なく、大抵は控えめに咲いているが、よく見ると、はっとするほど美しいものがある。クサフジもその一つ。梅雨の晴れ間に、草いきれの中にひっそり咲くクサフジの花色は涼しげで、ふと暑さを忘れてしまう。日本全土、アジア、ヨーロッパ、北米に広く分布する植物のようである。

タカトウダイ



タカトウダイ
Euphorbia pekinensis Rupr.

花の構造はトウダイグサやノウルシに似るが、トウダイグサみたいにずんぐりしたかたちではなく、スレンダーな姿の植物である。開花の季節も春ではなく、6、7月頃。とくに目立つわけではないが、私の好きな植物の一つである。このあたりではなかなか見付からないが、毎年特定の場所で見ることができる。今年もまたそこに出向き、ここで花を咲かせていたかと安心する。



オオバノトンボソウ1オオバノトンボソウ2

オオバノトンボソウ
Platanthera minor Reichb.

エゾチドリやツレサギソウなど、瀟洒な感じの野生蘭を含むツレサギソウ属の最も普通の種であるが、どこにでもあるというわけではないので、近所の林の中に見付かるのは嬉しいことである。ごく地味な植物だが、花のかたちはたしかにトンボに似て、おもしろい。ところが残念ながら、ピントのあったいい写真がどうしても撮れない。その上、この林では蚊の攻撃がものすごくて、スケッチなどする気には到底なれない。もう少し蚊の出ない季節に咲いてくれるとよいのだが。

コゴメガヤツリ

コゴメガヤツリ
Cyperus iria L.

カヤツリグサが多く見られる季節になった。子どものころからカヤツリグサは身近な草で、茎を切り取って両端から裂いて、「蚊帳」のかたちを作ったものである。蚊帳そのものも寝所で猛烈な蚊の攻撃を防ぐためによく使われたもので、蚊帳の中で寝ることが妙に楽しかった。今はなつかしい思い出である。若い人達には、カヤツリグサを変な名の植物と思うかも知れないが、私にはとても親しみをおぼえる名であり、したがってカヤツリグサはとても好きな植物である。道端、野原や畦道に最もよくみられるカヤツリグサ属の植物は、カヤツリグサ (Cyperus microiria Steud.)とコゴメガヤツリ (C. iria L.)で、両者は姿かたちがよく似ていて、同じような場所に生えている。小穂の形が多少違うことで区別できる



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