ツルフジバカマ
Vicia amoena Fisch.
秋の七草のフジバカマとは似ても似つかないマメ科の植物で、おなじViciaの仲間のクサフジに似ている。しかし、夏の花クサフジから大分遅れて、8月下旬から9月上旬頃花が咲く。クサフジの花もきれいだが、ツルフジバカマの花はもう少し大きくて見栄えがする。長い夏が終わってやっと秋が来たと感じさせる花である。
クズ
Pueraria lobata Ohwi
秋の七草の一つ。しかし、あとの六つはどちらかというと清楚な感じで日本の秋に相応しいが、クズだけは異色の感がある。この花が咲き始めるのはまだ残暑の季節。清涼の秋がくるころには、クズの花はもう終りである。花のかたちと色は、美しいと思う人はなきにしもあらずだが、私は、少し仰々しく、あるいはけばけばしく感じる。しかし、クズという植物がなければ、それはそれで寂しいかも知れない。
ヨシ
Phragmites australis Trin. ex. Steud.
公式の和名はヨシなのかアシなのかよく分からないが、日本イネ科図譜(長田武正著 平凡社)では、ヨシであり、アシが並記されている。いずれにせよ、ヨシは人の役に立つ見慣れた植物であり、人だけでなく、ヨシ原は、いろいろな小鳥や水鳥の生活圏でもある。今は、ヨシの穂先が風にそよぐ季節。残暑の中にも秋風を感じる風景がある。
ヤハズソウ
Kummerovia striata (Thunb.) Schindler
道端によく見かけるマメ科雑草。葉の先の方をつまんで引っ張ると、葉の切りこみがV字型に切れる。これがヤハズソウという名の由来だそうだが、子どものころ葉を引っ張ってV字型を作った経験があるので、植物名は分からなくても、ヤハズソウという草は知っていた。目立たない植物にも、何か特徴があるものだ。
サデクサ
Polygonum maackianum Regel
サデクサは本州、四国、九州に分布するが、稀種になっている県がかなりあるようだ。しかし、私の散歩道ではときどき湿地の中に見つかる。葉のかたちに特徴があるので、すぐ分かる。花の先端が紅色なのも他のタデ属植物と異なる。茎にたくさんはえている小さなとげは何のためにあるのだろう。細い茎を他の植物にからめて、ずり落ちないようにするためか。
アレチウリ
Sicyos angulatus L.
アレチウリという植物は、比較的最近まで見たことがなかった。ある時、土手や土手下の薮を大きな葉の群れで覆っている植物の群落を見て、これが悪名高いアレチウリであることを直感した。特徴ある葉や花を図鑑で見知っていたからである。北米原産の帰化植物で、ご多分にもれず、たくましいこと、この上ない。雌雄同株で、右図に大きな雄花と、一枝の先に密集した雌花がみられる。
ヒカゲイノコズチ
Achyranthes japonica (Miq.) Nakai
一般にイノコズチとよばれる植物には、ヒナタイノコズチとヒカゲイノコズチがある。その名の通り、ヒナタイノコズチは道端などの日なたに生え、ヒカゲイノコズチは、林の中などの日かげに生える。また、熟した果実が真下を向くのがヒナタイノコズチで、ななめ下を向くのがヒカゲイノコズチである。どちらの植物の果実も「くっつきむし」で、果実に付着したままの苞葉が鉤状になって、動物や人によって遠方に運ばれる。私はいつも被害者である。
ワレモコウ
Sanguisorba officinalis L.
見栄えのしない花をつけているくせに、秋を感じさせる代表的な花の一つである。その姿がそこはかとなさを感じさせるのであろうか。ワレモコウが好きだという人は案外多いようである。近頃は、ワレモコウを栽培する人もあり、秋の活け花にも使われる。栽培品種もできているようだ。ただし、私の散歩道では、ワレモコウはめったに見付からない。ちょっと残念である。
アゼガヤツリ
Cyperus globosus All.
夏から秋、畦にはいろいろなカヤツリグサの仲間が見つかる。アゼガヤツリもその一つで、畦道を歩くと、かならず見つかる植物である。変な見方だが、小穂のかたちや茎の枝先へのつきかたが他のカヤツリグサと比べて、すっきり、くっきりしているところが好きだ。
カラスウリ
Trichosanthes cucumeroides Maxim.
カラスウリといえば、木ややぶにからみついていて、花冠をレースで飾ったような繊細な夜の花を、また夕日のような朱色の実を思い浮かべることが多いが、未熟な果実の表面の、緑と白の縞と斑点の模様もまた美しい。この模様の生物学的な意味はよく分からない。朱色に熟すると消えて行く、束の間の模様である。
ヤマノイモ
Dioscorea japonica Thunb.
9月下旬、ヤマノイモの花期が過ぎて、早くも実がなっている。ヤマノイモは雌雄異株だから、これは雌株である。実は3枚のつばさ状になっていて、それぞれのつばさのなかには、扁平の種子ができ、風に乗って伝播される。種子で増えるほか、ヤマノイモはむかごでも増える。むかごを食べた記憶はあるが、あまりうまくなかった気がする。
ソバ
Fagopyrum esculentum Moench.
一瞬見慣れないタデ科の植物が道端で咲いているので、「あ、これはなんだ」と思ったが、しばらく観察して、「なんだ、ソバか」と判明した。このあたりは、さほど多くはないが、ソバをつくっている農家もあり、どこかの畑からエクケープしてきたものと思われた。見慣れた植物でも、場所が違うと、違ってみえるものである。
ヤブマメ
Amphicarpaea edgeworthii Benth. var.japonica Oliver
普通種とはいえ、やたらに多いものではないが、この時期、林のへりをめぐると、灌木や背の高い草本にからみついて、花を咲かせているのに出会う。なんの変哲もないつる性のマメ科植物であるが、通常の花に由来する果実のほかに、晩秋に根もと近くに閉鎖花をつくって、地中にも果実をつくるそうだ。残念ながら閉鎖花や地下の果実はまだ見たことがない。
ナルコビエ
Eriochloa villosa (Thunb.) Kunth
ナルコビエは、私の散歩道では、ごく限られた場所でしか見つからない。花序に特徴があり、小穂をつける枝はすべて花穂の片側によって出ている。この枝には、小穂が行儀よく2列に並んでいる。風が吹いて、茎が傾くと、確かに鳴子のようなかたちになる。イネ科では、こんな花序をもつ植物はほかになさそうだ。
イヌコウジュ
Mosla punctulata (J. F.Gmel.) Nakai
道端や野原にごく普通の植物、というより、この季節に常連の植物というほうがぴったりする。多分、花好きで、道草好きの人ならそう思うのではなかろうか。何年か前には、家の庭で咲いていたこともある。イヌコウジュ、またしても「イヌ」と接頭語をつけられているが、役に立たないコウジュ(ナギナタコウジュ)という意味だろうか。役に立たなくても清楚な美しさがあれば充分である。
セイバンモロコシ
Sorghum halpense Pers.
比較的大きなイネ科植物で、旺盛な帰化植物である。ヨーロッパ原産であるが、世界に広がっているらしい。野原にごく普通に見られ、荒れた河原などには群生している。多くの個体は小穂にのぎがあるが、のぎの少ないもの、のぎを欠くものもあり、スケッチした個体ではのぎがない。草丈はススキやオギと同じ位だが、後二者のような秋のあじわいはない。たくましさを見習うべきか。