鬼道忍法帖その13

 

霜月。旧暦で今の11月にあたる。段々寒くなっており、山の動物たちも冬篭りの時期を迎えていた。

あれから世間はどれだけ動いたのだろうか?

まず将軍徳川家茂は大阪城で亡くなった。享年21歳。若すぎる死であった。その代わりを徳川慶喜が勤め、長州征伐を家茂の死を理由に、中止にした。のちに慶喜はこの年の12月に15代将軍となったが、その影には京都守護職の松平容保の姿があったといわれている。一時期容保は京都守護職を辞任するつもりだったが、勝燐太郎の説得で思いとどまり、慶喜を将軍にしたという。だが次の年に慶喜は太平返還してしまうのだが、それはまたの話だ。

あとは10月20日、横浜が火事になったことがあった。あと亀山社中、プロシア商人から帆船を購入。坂本竜馬の案で、龍閃組と龍脈の力に護られた意を込めて大極丸と名づけたそうである。後日勝燐太郎が龍泉寺にやってきて知らせにきてくれたからだ。まあそれは鬼道衆とは関係ないが、一応記しておく。

 

さてその間龍閃組と鬼道衆に何が起きたか?何も起きなかった。彼らは形を潜めてしまい、龍閃組と戦うことはなかった。相変わらず鬼道衆の名を騙るものは後を絶たず、それらの処理をするくらいであった。ただ辰と左金太は3ヶ月経っても帰ってこなかった。その間左金太の母親の面倒を見たのが菊であった。彼女は息子の小平と一緒に飯の仕度をしたり、水をまいたりしていた。それと比良坂の面倒も見ていたのである。

鬼哭村は平和であった。しかし、なんとなく平和すぎて不気味でもあった。それに等々力渓谷から行方知れずとなった辰と左金太の安否が分からないのも不安であった。

天戒たちは等々力渓谷で龍閃組と戦ったあと、不思議な女に出会ったそうな。とても禍々しい気の持ち主で自らを蜻蛉と名乗ったという。そのあと黒蝿翁という不気味な男が現れたそうだ。龍閃組以外にも敵がいる!今までそう思える敵と戦ってきた。切支丹屋敷の地下牢では百鬼妖堂という呪禁道士と戦った。拷問好きの反吐の出る男であった。こいつは逃げられてしまったが。

小塚原刑場では服部半蔵正成の生まれ変わりという大猿と戦った。幕府の人間は彼を生まれ変わりといったが、倒したあと体は跡形もなく消え去った。あまりの陰気に体が耐えられなかったと桔梗は言っていた。

双羅山では泰山を探しに行く時、京都にいるはずの新撰組の剣士、沖田総司とも戦った。彼は西洋風のいでたちで鬼道衆に戦いを挑んできた。結果は勝利できたが、彼の体は消えた。桔梗曰く沖田は離魂の術を施されていたという。

大森のヴラド邸の庭ではジェフという外国人と戦った。クリスの妹の敵だったが、彼はジェフを殺したという。なのにジェフは蘇ったというのだ。彼は幕府の銃兵を引き連れていた。幕府が外国人を頼るなど正気とは思えなかった。結局ジェフは再びクリスに殺されたのである。その身は欠片残さずにだ。

そして安倍晴明。桔梗の父親らしいが、それは陣内たちだけの秘密となっている。バラス必要がないからだ。晴明は自分は外法で蘇ったというのだ。果たして誰なのであろうか?

 

「どうも奴らは龍閃組とは毛色が違うな。禍々しさを感じたよ」

村の広場では九桐が下忍たちに話していた。自分たちが戦ったのは龍閃組だけでなく、他の相手と戦ったことを説明するためだ。

「同じ幕府にしても奴らと龍閃組はまるっきり逆なのだよ」

これは九桐の意見であった。龍閃組と戦い続けた彼らはどうしても百鬼たちと龍閃組が一緒とは思えないのだ。長い間戦い続けたせいか、一種の信頼感からくるのだろうか?

「幕府にも龍閃組のような集まりもあるが、百鬼たちのような輩もいる・・・。幕府は不思議だな」

九桐たちは頭をひねっていた。

「まるで私たちと龍閃組を争わせているみたいですね」

答えたのは草太郎であった。彼は精製した薬品を駕篭一杯に詰めて、運んでいる途中であった。

「なん・・・、だと?」

「ただなんとなく思っただけですよ。良く考えればなぜ龍閃組がああも我々を憎んでいるかわかりませんからね」

草太郎は一度も龍閃組と戦ったことがない。だから客観的な意見を述べただけに過ぎないのだ。だが九桐には恐ろしい考えが浮かんできた。もしかしたら自分たちは誰かに利用されているかもしれない。だが、誰が自分たちを利用しようとしているのか?

かぁん、かぁん!!

半鐘が鳴り響いた。敵が襲撃したという鳴らし方だ。

「くっ、広場のほうか!すぐ行かねば!!」

九桐は急いで広場のほうへ向かった。下忍たちも敵襲の準備を始めようとした。そこへ二つの影がひょっこりと現れたのである。それは!?

 

「ひゃははははは、雑魚ばっかりだねぇ、死んじまいな!!」

それは肉感的な女であった。セクシーな衣装に口元を包帯で巻いている。ただその声はしわがれており、いったいいくつなのかわからない。

「蜻蛉・・・」

九桐がつぶやくようにいった。知り合いらしいが、懐かしいというより、二度と会いたくなかったのにというニュアンスが込められていた。

「おひさだねぇ、鬼共。あたしがあんたらの村を虫だらけにしてやるよぉ、ひゃはははは!!」

蜻蛉が腕を振るうと、黄色い粉が舞い上がった。するとむくむくと粉が膨れ上がり、一匹の蛾が生まれたではないか!ああ、黄色い粉は蛾の卵だったのか!?

「あの女に近寄るな!粉を吸えば体から虫に食われてしまうぞ!!」

木忍の中忍草太郎が指揮している。彼らは女子供を風上へ非難させた。下手すれば子供たちが虫に食われる可能性が高いからだ。

「うて!!」

下忍たちが一斉に矢を放った。矢には特製の火薬が仕込まれており、それが人体を貫き、矢が血で濡れると化学反応を起こす代物であった。

ぼぼぼぼぼ!!

蛾の体は燃え出した。それにつられて他の蛾も焼かれていった。半時も経つと蛾は一匹残らず、焼き尽くされた。もちろん村の家には防火処置が施されているから、火を使っても大丈夫なのだ。

「はん、雑魚がなかなかやるようだねぇ。でも、あんたらの止めを刺すのはあたしじゃない。この方さ!!」

広場の中心に闇が渦巻いた。そこからにょにょにょと闇が盛り上がり、やがて人影が現れた。赤い総髪、禍々しいデザインの鎧。そして鳥肌が立つようなおぞましい気を感じたのである。完全にやばい奴!それだけは確かであった。

「我が名は柳生宗嵩。お前たちはなかなか面白い見世物であったわ」

「見世物・・・、だと?」

鬼道衆の頭目、九角天戒が言った。

「そうだ。お前らは不完全な外法で、江戸の結界を弱めてくれた。すべては俺が計画したことよ。17年前九角家が潰されたこと、そして、お前の父親が菩薩眼の女に惚れたこともな。くっくっく」

「な、なんだと!?」

九角は怒った。自分たちは自分たちの意思で幕府を潰そうとしているのだ。それをこの男がいとも操ったような言い方に腹が立った。

「・・・とはいえ、龍閃組の参戦は予想外であった。もっとも、そんなのはたいした問題ではない。所詮お前ら人間が何をしようとも俺の敵ではないからだ」

「貴様の目的はなんだ?江戸の転覆か?」

「はん!貴様らの考えはいつも同じだな。俺にとって江戸など踏み石に過ぎぬ。狙うはこの国を滅ぼし、さらにこの世のすべてを破壊することよ。お前らは石だ。俺に踏まれるためだけの小石だよ」

「て、てめぇぇぇ!!」

風祭が顔を真っ赤にして怒っている。当然だろう、小石呼ばわりされて、平気な人間などいないのだから。

「だが小石とて踏み方ひとつでは怪我をしかねん。俺はお前らを潰しに来たのだよ。正直

お前らの仲間があんまり死なず、復讐心に燃えてないからな。これも龍閃組の色に染められたためか・・・。是怨!!」

柳生が指をぱちんと弾くと、つむじ風が起きた。そこには嵐王が立っていたのだ!!

「嵐王・・・、なぜお前が?」

「この男はな、お前らを裏切ったのだよ。俺に忠誠を誓い、鬼道衆を我が物とするためにな」

嵐王は無表情のままだ。仮面をつけているから、わかるわけがないが。

「嵐王、なんであんたが天戒さまを裏切ったんだい?そりゃあ自分の意見が取り上げられなかったこともあるさ。でも、天戒さまはあんたを信頼して・・・」

「信頼だと?はん!!それはわしの腕を利用したいだけだろうが!!」

嵐王は桔梗の言葉を遮り、吐き捨てるように答えた。

「桔梗、おぬしにはわからんさ。200年も嵐王という名に縛られ続けたわしの気持ちなど誰にも分からぬわ!!わしは自由になる、そのために江戸を、幕府を滅ぼしてな!!そのためには鬼道衆として幕府を潰さねばならない!ところがだ!!」

嵐王は憤るように叫んだ。

「若は、天戒の甘さはどうだ!あいつを殺したくない、巻き込むのは嫌だとまるで子供ではないか!?どうせやるなら徹底的にやればよいのだ。江戸に火を放ち、井戸水に毒を流せばよいのだ!!まったく死んだ鬼修どのも草葉の影で泣いているに違いないわ!!さぁお前には死んでもらう。そして鬼道衆はわしのものにする。ずっと影として暮らしたわしの役目も終わりだ。はっはっは!!」

その場にいた九角もそうだが、他のみんなは嵐王のどす黒い告白に絶望を感じていたのだ。嵐王は無口で無愛想だが、村のみんなのために発明品を作り、村の生活を豊かにしてくれたのだ。

「くっ、嵐王さま。わたしは信じられません。嘘ですよね?嘘といってください!!」

草太郎が叫んだ。上司の突然の裏切りが信じられないのだ。だが無常にも嵐王は突っぱねた。

「馬鹿は死なねば治らんのだな」

「くっ!裏切り者め!!」

草太郎は怒りに任せ手裏剣を投げた。計3本。それらは嵐王に当たらず柳生を囲むように突き刺さった。

「ヴァン・ウン・タラーク・キリーク・アク!!」

草太郎が呪文を唱えた。すると手裏剣が淡く光りだすと、それらが線で囲まれた。そしてさっき放った矢も一緒に光だし、まるでアミのように柳生を囲んだのである。

「さて柳生。お前にはここで死んでもらう。わしの腹には新型の爆弾がたっぷりじゃ、たとえ不死身でも結界により圧縮された爆風に無傷でいられるとは思うまいな!!」

嵐王が手の平を返した。ああ、彼はこの日のために柳生に仕えていたのだ。草太郎も本当は知っており、芝居をしたのだ。

「お前はわしを利用したようだが、わしもお前を利用させてもらったわ!嵐王は今日で滅びる、そして九角家は安泰じゃ!」

嵐王は右手からなにやらスイッチのようなものを取り出すと、それを押そうとした。

ひゅん!

スイッチを押してもすかすかするだけで、爆発する様子がない。柳生が剣で線を切断してしまったのだ。いつの間にか結界も解かれてしまっていた。

「ふん、貴様の浅知恵などお見通しよ。さすがに爆風に晒されれば、わが身も危ない。さてお前には最後の仕事をしてもらう。鬼へ変生し自分の手で鬼道衆を潰すのだ。そして、そのあと元に戻してやる、そして、自分が潰した鬼道衆を見て絶望するがいいわ。ふん!」

「くっ!!」

嵐王は懐から玉を取り出した。捨てようとしたのだが、間に合いそうにない!

ひゅるる!!

玉が紐のようなものに巻きつかれ、ぴゅうんと手から離れた。

「な!?」

しゅるるるる!!

「この玉があると鬼に変生しちまうんだよな?」

ぱしぃ!家の屋根の上に人が立っていた。その手には玉が握られている。その男とは!?

「辰!?」

それは3ヶ月前に行方不明になっていた下忍辰であった!!それを見て嵐王はぼそりとつぶやいた。

「辰・・・、ばかな、お前はわしが殺したはず・・・」

なんと辰は嵐王に殺されたというのだ!だが現に辰は生きている。足はきちんとある。

「答えはこれさ」

辰は懐からぽいと地面に投げ捨てた。それはお札のようなもので、二つに割れていた。

「反魂呪符か!?」

反魂呪符。これを身に着けていると、死ぬ瞬間身代わりに砕け散るというものだ。おそらく相手の殺意を読み、その瞬間に脳に自分が死ぬイメージを送り込み、死んだように見せかけるのだろう。一種の幻覚状態となり、自分が殺したと思い込むのだ。

「こいつは龍閃組の奴にもらったんだ。まったく命拾いしたよ。ちなみに左金太も無事さ。今まで龍閃組の世話になっていたのですよ」

「ふん、だからどうしたというのだ?下忍ひとり戻ってきたところで、何になる?何にもならんわ!!」

柳生はあくまで自信満々だ。およそ人間など雑魚、鶏をくびり殺すのと同じ感覚なのだろう。

ひゅう!!

ぶす!!

柳生の右手に何かが突き刺さった。それは団子の串であった。

「誰だ!?」

「ひとりじゃないぜ?」

屋根の上に蓬莱寺が座っていた。

「龍閃組も一緒だよ!」

いつの間にやら柳生の後ろに龍閃組が集まっていた。

「そう、このときが来たのです!!」

前に出たのが緋勇龍斗であった。

「やっと帰ってきた・・・。この村へ・・・」

緋勇は村を見回すと懐かしそうに言った。

「え?ひーちゃん、この村へ来たことあるの?」

桜井が怪訝そうに聞いた。

「ええ、ありますよ。6年前に桔梗さまに連れられてね・・・」

「な!馬鹿言ってんじゃないよ!6年前は辰と左金太を・・・」

桔梗は詰まった。なぜだかその先を答えることが出来なかった。

「わたしは初め、自分の技を恐れていました。陽の龍の技と呼ばれてましたが、私はこの技で人を踏み潰すのが嫌でした。だから、鬼道衆に入ってからは技を封印しました」

「・・・」

「ですが、今時分、柳生がこの村を襲撃し、天戒さまも、みんな殺されました。わたしが少しでも鬼道衆に貢献していればこんなことには・・・」

緋勇は頭が狂ったのではないか?鬼道衆も龍閃組も同じ目で彼を見ていた。

「だがわたしはもう一度やり直すことができた。龍閃組に入り、鬼道衆を救うためにわたしはここにいる!もっとも鬼道衆のわたしは何も知らない、記憶がないのだから。だが、わたしたちはひとつになるのです!!」

緋勇はゆっくりと辰に歩み寄った。

「そうか・・・。そうだったんだな」

緋勇と辰は手を合わせた。二人の周りを渦が巻き、そしてそれはやがてひとつとなった。

それを見た柳生は緋勇に斬りかかった。

「死ね!!」

がしゅ!!

緋勇は柳生の刀を素手で受け止めた。緋勇の手が光ると刀は電気が流れたようにびりびりと光り、刀はぼろぼろに砕けた。

「やっと戻ってこれた。おれ自身もわからないが、とにかく戻ってこれた。お前を殺すために!!」

緋勇は柳生の腹部に右手をかざすと、ぼぉんと爆発するように光った。掌底発勁であった。だが龍閃組も、鬼道衆も今まで見たことのない威力が発揮されたのだ!そう新しい緋勇龍斗、ザ・ニュー龍斗の登場であった!!

「ぐあ!!」

柳生は吹っ飛んだ。5メートルほど吹っ飛ぶと、近くの家にぶつかり、干していた大根が柳生の頭に落ちて折れた。

「き、貴様ぁ!人よ、死すべきものよ!一刻も早く死にたいようだな、死ね!!」

柳生は余裕ゼロ状態のようであった。

「オマチクダサイ、宗嵩様」

公家のできそこないのような男が現れた。なんとなく陰気臭い。おそらく友達がいないに違いない。

「ココハオヒキクダサイ。コヤツノ力ハ我ガ目デモッテモ読ムコトガデキマセン。コヤツトノ決着ハ然ルベキ地デモッテ・・・」

「確かにそうだな。緋勇龍斗、そして鬼道衆、龍閃組。崑崙山へ来い。来れるものならな、ははははは!!」

柳生の体は無数の虫と化し、地面に溶けていった。

「ふぅ。引いたか・・・」

「緋勇龍斗・・・、いや、辰。どういうことか説明してもらおうか?」

天戒が質問した。それは当然だろう、いきなり辰が緋勇龍斗と合体したのだ。

「それが俺にもわからないのですよ。第一龍閃組の緋勇龍斗のときも記憶がなかったんです。ただ不思議な少女が俺にまだ死ぬべきではないとささやく夢を見ましたがね」

なんとなく嫌な夢だ。

「じゃあ、緋勇は本名なのかよ!?」

風祭が聞いた。今まで黙ってたのが気に食わなかったのだろう。

「本名ですよ。ただ辰はあだ名なんですね。でも風祭さまの名前は知りませんでした。親父も教えてくれませんでしたし」

「そういや、俺の師匠が言ってやがったな、緋勇は風祭の性なんか知らないだろうって・・・」

風祭はなんとなく鬱そうであった。

「お前が辰なら、今まで俺たちを殺さなかったのがわかるな。つまり、お前のおかげで俺たちは死なずにすんだわけだ。礼を言うぞ辰」

九角は頭を下げた。

「そんな!!御屋形さまを助けたいばかりに、わたしはこうして!!とはいえ自分の意思でしたわけではないのですが・・・」

緋勇が九角に対して様付けしている。龍閃組としては複雑な気分であった。

「だけどなんで嵐王はあんたと左金太を殺そうとしたんだい?」

これは桔梗である。嵐王がなぜ辰たちを殺したのか理解できないのだ。

「それはわしが支奴洒門としての顔があるからですよ」

嵐王は鳥の面を外した。そこには九角ほどの若い男の顔があった。声は年寄りっぽく作っていたのだ。

「わたしはまだ正体をばらすわけにはいかなかった。それでやむなく二人を・・・。ですが、二人が生きていたことに安心しました」

それは3ヶ月前の火事のとき、辰と左金太は支奴に会っていた。その際彼に染み込んでいた薬品の匂いを嗅いだのだろう。そして嵐王は彼らを待ち伏せして自分が支奴とばれたかどうか試したのだ。結果は不合格であったが、裏口入学でからくも命が助かったのだから、人生とはわからないものだ。

「草太郎、あんたはいつ知ってたんだい?」

桔梗が訊ねた。

「実は3ヶ月前からです。もちろん直から聞いたわけではなく、柳生に知られないよう暗号で・・・。御屋形さま今まで黙っていて申し訳ありませんでした・・・」

「不器用だねぇ・・・。わざと天戒さまを罵ったあと死のうとするなんてさ・・・。嵐王、あんたも馬鹿だよ」

嵐王は乾いた笑いをした。

 

「ついに揃った・・・。陽と陰。これで永久に続く冬を回避することが出来る。世界は炎に包まれ灰にならずにすむ・・・」

比良坂はつぶやくようにしゃべった。まるでコンピュータで作ったような調子だ。

「何?何か言った?」

菊と左金太の母親は3ヶ月ぶりに帰ってきた息子のために、食事の用意をしていた。小平もよちよちと薪を持ってきた。菊は最近辰に興味があるのか、彼が緋勇龍斗と合体したあとも変わることはなかった。龍斗たちは九角屋敷におり、会議をしているからだ。

「え?私何か言いました?」

比良坂は我に帰るようにきょとんとしていた。どうやら自分で意識してしゃべったわけではないようである。

「永久に続く冬ってなんだい?世界が炎に包まれ灰になるとか?どういう意味なんだい?」

菊が尋ねた。比良坂はたった一言だけ答えた。

「神々の黄昏・・・」

 

終わり


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あとがき

 

鬼道忍法帖はライブ的なノリで執筆し続けた作品でした。ところどころブン投げた天戒が目立つ作品でもありました。

そして最終回、辰と緋勇龍斗が合体するというものすごい豪腕展開を見せたわけですが、一応その7に伏線があります。

普通なら陰サイドは緋勇龍斗が鬼道衆の一員となって、彼を中心に村が変わっていく話が多いですが、わたしはあくまで鬼道衆の縁の下の力持ち、下忍に注目しました。斬新といういうより、単なる天邪鬼的な発想で執筆しました。

最後は血風録を匂わせるラストにしましたが、これはまた別のお話です。

最後までご愛読ありがとうございました。では。

 

江保場狂壱より