魔法先生ネギま!VS真神学園

 

「強い奴と戦いたいな〜」

蓬莱寺京一がぼやいていた。彼はいつも木刀を持ち歩いており、その腕も一流だ。ついたあだ名が真神学園一の神速の木刀使い。ただ性格に難があるので、過小評価されているが。

「強い奴と戦いたいとは・・・。なにかあったのか?」

訊ねたのは醍醐雄矢。蓬莱寺の同級生だ。山の岩をそのまま削り取ったような筋肉の持ち主で、見るものを圧巻させた。

「いやな、俺たちって力を持つ者と戦ってきただろ?でも、そのほとんどが力をもらって、いたずらに振り回す奴ばっかりだった。俺としては力を十二分に発揮できる相手と戦いたいんだよ」

蓬莱寺にとって女の子やラーメンの次にすきなのが戦いだ。今まで彼らは人ならざる者たちと戦い続けてきた。しかし、一度でいいから思い切りうらみっこなしに力を思う存分振るい、戦ってみたいのだ。九角天童率いる鬼道衆との戦いが終わり、今はもう事件も起きていないし、ぜいたくなのは承知であるが。

「でも、そんな人がいるのかしら?」

生徒会長を務める真神学園の聖女、美里葵が横から口を入れた。大和撫子という単語が一番似合う女性である。

「あはは、でも気持ちは分かるよ。自分の力がどれだけなのか、試してみたいよね〜」

赤毛の髪の少女が口を挟む。桜井小蒔。彼女は美里の友人であるが、対極的におきゃんな女性であった。

「うふふふふ〜、それならとっておきの人がいるよ〜」

醍醐の影から一人の少女が現れた。醍醐は腰を抜かした。彼女は真神学園オカルト研究会会長、裏密ミサである。彼女の占いは良く当たり、魔法も使える真神学園の生きている7不思議であった。彼女はぬいぐるみみたいなものを抱いていた。

 

「で、ここが真帆良学園かよ」

蓬莱寺たちは裏密に紹介された学園に来ていた。いや、ここはただの学園ではなく、学園都市と呼ぶべきであった。ヨーロッパを模倣した街造りで、巨大な木が天をそびえるようにあった。

「で、そのエヴァンジェリン・AK・マクダウェルってどこにいるんだよ?」

「うむ・・・。なんでも女子中等部にいるというが・・・。しかし、関東魔法協会とはな・・・」

裏密の話によれば、ここ真帆良学園の学園長近衛近右衛門という老人は、関東魔法協会の理事長だと言う。裏密もその協会に登録しているという。この学園にエヴァンジェリンという魔法使いがおり、相当の実力の持ち主だと言うのだ。蓬莱寺たち5人は今そこへ向かっているのである。

「大体な〜、この世に魔法使いなんかいるわけないだろ〜?ばかばかしいぜ」

「・・・、京一。俺たちが言うセリフじゃないぜ・・・」

京一に突っ込むのは緋勇龍麻。彼は五人のリーダーで、一番の実力者である。

「その人がどういう人かは知らんが、会わなきゃわからないぜ?さっさと行こう」

その時、緋勇の膝に誰かがぶつかった。小学生くらいの女の子でツインテールに鈴をつけていた。

「・・・ごめんなさい」

女の子があやまった。すると醍醐の方を見て、顔を赤くしていた。

「しぶい・・・。いくつですか?」

「え?俺か?俺は18歳だが・・・」

「大人・・・」

女の子がもじもじしていると、後ろから別な女の子が走ってきた。

「おまちなさーい!アスナさん!!」

髪の色が金髪の、長髪の女の子であった。その後ろには対象的に黒髪の女の子も一緒であった。

「あ、いいんちょ。このか・・・」

「アスナさん、もう逃げられませんわよ!さあ、あやまってもらいますわ!!」

「あやまるって、何を?」

「とぼけないでいただきますわ!わたくしをガキよばわりしたことですわ!!」

「・・・ガキでしょ?」

「き〜〜〜!!」

アスナと呼ばれた子といいんちょと呼ばれた子が取っ組み合いのけんかを始めた。すると周りに彼女たちの同級生が集まりだした。

「あはははは、またアスナといいんちょがけんかしてる〜」

「アスナに10円!」

「いいんちょに20円!!」

女の子たちは彼女たちの喧嘩を見て、賭けを始めた。金額は低いが。とくに三つ編みの女の子が乗り乗りであった。

「あれ〜、お兄さんたちここに何のようがあるん〜?」

黒髪の女の子が話しかけてきた。どことなくおっとりしている。

「えっと、俺たちは近衛近衛門て人を探しているんだ。知らないか?」

蓬莱寺が尋ねると、

「うん、うちしっとるよ〜、うちのおじいちゃんやもん」

彼女は近衛学園長の孫だったのか、なんとも運が良かった。

「なあ、あの子達放っていいのか?」

醍醐が尋ねる。

「うん、アスナといいんちょのけんかはいつものことや〜。さあ、案内したるで〜」

 

案内された園長室は立派な作りであった。さて学園長は福禄寿のような老人であった。

「おお、きみたちが裏密くんから聞いておる真神学園の方たちじゃな。わしはここの学園長近衛近右衛門と申す。この子はわしの孫じゃ。これこのか挨拶なさい」

「はじめまして〜、うち、近衛木乃香いいます、よろしゅう〜」

ぺこりとお辞儀をした。

「このか、わしはこの人たちに話があるでの。下がっていなさい」

このかは「さようなら」と挨拶すると、部屋を出て行った。

「孫は親の方針で、魔法のことは何も知らんのじゃよ。じゃからこの場からはずさせてもらったよ」

「そうですか・・・。かまいませんよ。ところでエヴァンジェリンさんに会いたいのですが、どこに行けば会えますか?」

緋勇が訊ねた。

「うむ、実は彼女はのう、魔力が封じられておるのじゃよ。満月の夜だけは例外なのじゃがな。それである場所に待機してもらっておる。そこに来てもらうが良いかの?」

もちろん彼らに依存はなかった。

 

さて彼らは学園長に案内され、とあるログハウスに案内された。中にはぬいぐるみや人形がたくさん置いてあった。なかなかかわいらしい家具が置かれており、とても戦いに向かう場所とは思えなかった。学園長はさらに地下室へ案内してくれた。そこにはまるい大きなガラスが置かれており、中にはミニチュアの家が見える。

「この中じゃよ。エヴァはここにおる」

「ここって、これミニチュアですよね・・・」

美里がいいかけると一瞬のうちに体が光に包まれた。そして気づいた時には外から見たミニチュアの中にいた。

「驚いたかのう?ここはエヴァの別荘なのじゃよ。ちなみに一度中に入れば丸一日は出られんが、ここと外の時間の流れは違うでの、向こうでは一時間しか経たなぬから安心しておくれ」

美里たちは素直に感心した。すりのない橋を渡ると広場に出た。その真ん中に一人の女の子が人形を抱いて立っていた。金髪の総髪でまるで人形のような愛くるしさがあった。

「ふん、じじい。随分待たせたじゃないか。こいつらが私の相手なのか?」

少女が威圧的な調子で答えた。どことなく冷たい感じがする。

「おい、あのちんちくりんがエヴァンゲリオンなのか!?」

蓬莱寺が呆れていた。どんな強い奴がいるかと思ったら、まるで小学生のような女の子が待っていたのだ。腹も立つはずである。

「ふん、ちんちくりんだと?雑魚が、ほえ面をかかせてやる。あと私の名はエヴァンジェリン、闇の福音(ダークエヴァンジエル)と呼ばれた者だ。10年間この学園から出たことはないが、お前たちが尋常ではない力を持っているのはわかっている。さあ、遠慮なくかかってくるがいい!!」

だが蓬莱寺は後ろを向いて帰ろうとしていた。

「やめた、やめた!こんな餓鬼相手に出来るかよ!俺たちの力を理解しているようだが、ガキをいじめる剣は持っちゃいない。おい、ひーちゃん帰るぞ!」

その瞬間、エヴァが抱えていた人形が突如動き出した。手にはナイフが握られており、人形は蓬莱寺目掛けて切りかかった。可愛らしい女の子の人形だが、背中に蝙蝠の羽が生えておりなんとなく不気味である。

かきぃん!!

蓬莱寺は木刀でナイフを止めた。人形はかたかた音を立てながら、宙を浮いていた。

「ホゥ。俺ノないふヲ受ケ止メルトハ、サスガダナ」

人形が喋った。醍醐は目がくらくらしてきた。まるで呪いの人形ではないか!!

「気をつけなされ、彼女は真祖と呼ばれる最強の吸血鬼じゃ。人形使い(ドールマスター)、不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトウ)とも呼ばれておるのじゃ。お主たち5人がかりでもきついぞい」

学園長が言った。

「はぁ、吸血鬼だぁ?」

蓬莱寺は信じられなかった。この世に吸血鬼なんているはずがないと思っていたからだ。しかし、今まで鬼だの、にわかには信じられないことを経験してきたのに、この男はまるっきり信じていないのだ。

「そう、不死の魔法使いだ!!」

エヴァが宙に飛んだ。多くの蝙蝠がやってきて、彼女のマントを作ったのである。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!氷の精霊17頭!集い来りて敵を切り裂け!!」

何本もの鋭い氷柱が襲ってきた。美里がとっさに防御するが、冷気で手がしもやけになった。

「すごい冷気だわ、まともに浴びたらひとたまりもない!!」

「なら僕が矢で落としてやるさ!」

桜井がエヴァに向けて矢を放とうとした。

ばすぅ!!

弓が斬られた。さっきの人形が一瞬のうちに飛んできたのだ。

「ケケケ、御主人ノ邪魔ハサセナイゼ?」

「桜井!貴様何者だ!!」

醍醐が叫んだ。そこへ醍醐の影から一人の女の子が現れた。裏密である。

「裏密!どうやってここまで来た!!」

蓬莱寺も叫んだ。なんとも非常識な登場の仕方である。

「ほう、影を使った転移魔法か。お前も私と戦うのか?」

エヴァが突然の詰問者に叫びながら尋ねた。

「ううん〜。今日はミサちゃん、見学だよ〜。でもサポートはするかもね〜」

裏密はどうやら見物にきただけのようだ。

「醍醐く〜ん、その人形はエヴァンジェリンさんのパートナー、魔法使いの従者(ミニステル・マギ)〜。魔法使いの従者は、魔法使いが呪文詠唱中は完全に無防備になるから、それを防ぐのに盾となり剣となって守護するのが従者の役目〜」

「ソウイウコトサ。コノ中ダト、魔力ガ充溢シテイルカラ、動クコトガデキルカラ気分イイゼ、ケケケ」

人形はさらに蓬莱寺たちに襲い掛かった。緋勇も醍醐も対処しているが、なにしろ人形のすばやさが尋常ではないのだ。緋勇の必殺の突きも、発剄もことごとくかわされてしまうのだ。その間エヴァは詠唱を始めているのである。

「させるかよ!!」

蓬莱寺が気のこもった奥義をエヴァに振るった。剣昇旋風である。一瞬に竜巻が舞い、エヴァに直撃しようとしていた。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、氷結、武装解除!!」

エヴァが呪文を唱えると蓬莱寺の木刀が氷結、粉砕された。そればかりではない、学生服も、美里たちの制服も氷結して砕けたのだ。そのくせ凍傷を負っていないのである。

「きゃあ、服が!!」

「醍醐くん見ないで〜!!」

美里と桜井は丸裸になってしまった。それを見て無事だった醍醐は鼻血を出して倒れてしまった。無理もないが。

「さっきからリクなんとかってわけのわからないこと叫んでいるが、あれに意味はあるのか?」

緋勇が裏密に訊ねた。エヴァは意味不明の言葉を叫んだあと、魔法を使ってきたからだ。

「あれはエヴァンジェリンさんの始動キーだよ〜。言葉としては意味のないパスワードのようなもので、魔法を使うために唱えるんだよ〜」

すると裏密のエロイム・エッサイムも始動キーなのだろうか?

「さて、これでおしまいだ!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!契約に従い、我に従え、氷の女王。来れ、とこしえのやみ!」

緋勇たちの周りが一瞬に凍りついた。彼らはまったく動くことが出来なかった。

「くそ!普炎で溶かして・・・」

緋勇が右手に炎を宿した。その時。

「えいえんのひょうが。全ての命ある者に等しき死を。其は、安らぎ也『こおるせかい』」

緋勇たちは完全な氷柱に閉じ込められてしまった。緋勇たちの完全な負けであった。

 

「ふぇーくしょん!!ああ、ぶるぶる」

「うわっ、汚いなぁ。唾飛ばさないでよ!」

緋勇たちは別荘の中で暖を取っていた。彼らは全員毛布を羽織っているが、エヴァの氷の魔法により、まだ寒さを感じていたのである。ちなみに制服は学園長が魔法で直してくれた。

「うふふふふ〜、ひさしぶりに真祖の力を見れて、ミサちゃん感激〜」

裏密だけ嬉しそうである。エヴァはお茶を飲んでおり、椅子には人形が座っていた。手にはアルコールが入ったグラスがあった。人形に酒の味が分かるのだろうか?

「御主人、満悦ダナ」

「あたりまえだ。こんな機会はめったにないからな。ひさしぶりに大技が使えて気分が良いわ」

どうやら普段の彼女は制約を受けているようだ。とてもご満悦である。

「しかし、あなたは強いですね」

醍醐は感服した。

「それは当然だ。私は百年以上の経験がある。お前たちはそれが及ばなかっただけだ。第一お前らは馬鹿正直すぎる、もう少し頭を使った方がいい」

「ははは、肝に銘じます・・・」

醍醐が力なく答えた。魔法のダメージより、桜井の裸のほうがダメージが大きかった。

「ケケケ、御主人ハ10年前、好キナ男二卑怯ナ手デ負ケタカラナ」

「え?エヴァンジェリンさん、好きな人がいたんですか?」

美里が驚いた。ぶーっとお茶を噴出すエヴァ。

「こ、こら、チャチャゼロ!余計なこと言うな!!」

「ケケケ、オチツケヨ御主人。別二カクサナクテモイイダロ?」

「ばか、ふざけるな!まったくおまえは!!」

人形相手にむきになるエヴァ。年相応に見える。

 

「世の中には俺たちより強い奴がごろごろしているんだな・・・。少し反省だぜ!」

蓬莱寺が空を見上げた。時刻はもう夕方。真っ赤な夕日がまぶしかった。しかし、別荘で丸一日過ごしたのに、別荘を出たらたった一時間しか経っていないのは驚いた。さすが魔法使いである。

「そうだな。俺たちはもっと慢心せず、鍛錬を積んだほうがいいな。よし、明日から特訓を開始しようじゃないか」

「げー、醍醐明日からかよ!せめて明後日に・・・」

「だめだ。さあ、新宿に帰るぞ!」

こうして緋勇たちの戦いが終わった。いつの日かエヴァンジェリンに勝つことを夢見て走り出した。

 

終わり。

 

あとがき

この小説は赤松健先生原作、魔法先生ネギまと魔人学園のコラボ小説です。時期的には九角との戦いが終わったあとの話です。ネギまでは2003年からスタートしてますが、今回は1998年です。主人公ネギはまだ真帆良学園に来ておりません。

エヴァンジェリンは吸血鬼の魔法使いで、学園内では魔力は封じられてます。今回は特別に魔法を封じる私設での戦いです。地底図書館は第2巻に出ております。

今回は緋勇たちが負けましたが、一度は負けて挫折感を味わってほしかったのです。

次回は美里が教育実習生として、まほらに行く話を書きます。ご期待下さい。では。

 

平成1679

続く

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