魔法先生ネギまVS魔人学園その2

 

2003年、5月。美里葵は教育実習生として、真帆良学園にやってきた。美里は来年新宿真神学園に赴任する予定である。

1998年、美里たちは同級生たちと一緒にこの学園の守護者、エヴァンジェリン・AK・マクダウェルと勝負し、負けたのである。人ならざる力を持つ者同士の戦いは終わっているから、今ではいい思い出だ。

さて美里は学園長室で学園長に挨拶にいった。学園長は5年前と変わりがなかった。ふぉっふぉっふぉと福禄寿のように優しそうなほほえみをうかべていた。

「5年ぶりじゃな、美里君。元気にしておったかね?」

「はい。学園長さんもお元気でなによりです」

「ふぉっふぉっふぉ。何、まだまだ若い者には負けられぬわい。ところで美里くんは真帆良学園女子中等部3−Aを担任してもらおうかの。担任教師のネギくん、入ってきたまえ」

ドアが開いた。そこには10歳くらいの少年がたっていた。背になにやら杖のようなものを背負っており、肩には真っ白なオコジョが止まっていた。

「あの、この子は?」

美里は不思議そうに尋ねる。それはそうだろう、担任教師が入ってくると言って、小さな子供しかいないのだから。

「彼が3−A担任のネギ・スプリングフィールドくんじゃ。学園のことは彼に聞くとええ」

「はじめまして、僕、ネギ・スプリングフィールドです」

ネギは礼儀正しくお辞儀した。つられて挨拶する美里。

「あの、どうしてこんな小さな子が先生を・・・?」

美里が不審がるのも当然である。

「うむ・・・。じつはな、彼はわしの友人の孫で、魔法学校の卒業生なのじゃよ。それで修行のため先生になったのじゃ」

学園長が説明した。ネギは慌てふためいていた。どうやら秘密だったようだ。

「あ、あの学園長先生!美里先生にこんなこというなんて・・・」

「ネギくん、心配はいらん。彼女は5年前、エヴァと戦ったことがあるのじゃよ。彼女の同級生は関東魔法協会の会員なんじゃ」

「え、エヴァさんと戦ったことがあるんですか?」

ネギが目をきらきらさせながら、美里の手を握った。

「ええ、でも、負けてしまったんです」

「そうですか・・・。美里先生は魔法使いなんですか?」

「いいえ、魔法とは違うのですが、5年前東京では人知を超えた力を持つ高校生が現れました。私、いえ、私たちは東京を、大切な何かを護る為に戦ったのです」

力の性質は違うが、美里とネギは仲良くなった。ネギに案内され、美里は教室へ向かった。学園長の話によると孫娘のこのかはもう自分の秘密を知っていると言う。だから魔法のことは話してもいいが、他の人にはしゃべらないように注意された。

 

「あの、3−Aの生徒たちはどういう人が多いのですか?」

「みんな、いい人たちばかりですよ。エヴァさんもいますし」

「え?確かエヴァさんは中学生のはずじゃ・・・」

「実はエヴァさん、僕のお父さんの呪いの魔法にかかっているんです。そのため学校からは出られず、満月の夜にならないと魔力が戻らないんです・・・」

「学校に出られないなんて・・・。じゃあ卒業できないの?」

「はい・・・。もう15年も同じ教室で勉強しているそうなんです。呪いを解くにはお父さんの血族の僕の血が必要だと言ってるのですが・・・」

ぶるぶるとネギが震えた。顔色が青くなっている、よほど触れて欲しくない話題なのだろう。

さて、ネギに案内され、美里は挨拶した。生徒たちは全員で30名。外国人らしいのが4名。中学生に思えない大きいのが2名。

「今日からこの学校で国語を教えることになりました美里葵です。一学期の間だけですがよろしくお願いします」

だがクラスの女子たちは冷めた様子であった。なんとなく不満の声も上がっている。

「え〜、ネギくんいなくなっちゃうの〜?ぶ〜」

「そうだよ〜、ネギくんと別れるなんてやだよ〜」

なんとなく歓迎されていない様子だ。よほど担任のネギが大好きなのだろう。幼稚園児ほどの双子が一番不満そうであった。

「皆さん、席に戻りなさい。先生がお困りになってるでしょう?」

金髪の長髪の女の子が席から立ち上がった。なんとなく高貴な雰囲気がする。

「え〜?委員長、いいの〜?ネギくんいなくなっちゃうんだよ〜?」

「桜子さん、美里先生は教育実習生ですわ。ネギ先生がやめるわけではないのですのよ?」

桜子と呼ばれた少女はなあんだと両手を頭に回して、嬉しそうに笑った。

「なら、いいや。美里先生よろしくお願いしまーす!!」

クラスが一気に湧いた。現金である。

「でも、いいんちょ、大人だね。いつもなら馬鹿大爆発で切れるのに」

ツインテールと鈴をつけた女の子が言った。ぴくんと反応する委員長。

「な、なんですって!?わたくしが馬鹿ですって!!」

「だってあんたショタコンじゃない」

その言葉に委員長が切れた。

「なんですって!!言いがかりはおやめなさい、あんたなんかオヤジ趣味のくせにぃぃ!!」

「ショタコンをショタコンといって何が悪いのよ、ショタコン!!」

二人は喧嘩を始めた。クラスメートたちはわいわい盛り上がり、賭けをする始末であった。

「いいんちょに100円!!」

「アスナに200円!!」

「皆さん!美里先生が困ってますよ!授業をしますので静かにしてくださーい!!」

ネギが叫んだ。委員長と呼ばれた少女はみんなに注意すると、みんな席に座った。

 

美里の授業はわかりやすかった。生徒たちもおとなしく授業を受けており、教育実習1日目は成功であった。

「はじめまして、あたしは神楽坂明日菜です。一応ネギの保護者です」

ツインテールと鈴の女の子が挨拶しに来た。結構礼儀正しいようだ。

「えーん、僕先生なのに〜」

ネギは泣き出した。あはははと笑うアスナ。

「そんでうちは近衛木乃香いいます、よろしゅ〜」

アスナの隣の黒髪の少女が挨拶した。どこかで見たことのある少女であった。

「まあ、このかさん?覚えているかしら、5年前私はあなたに会ったことがあるのですよ」

「え?ああ、思い出した、思い出した。あんときの綺麗なお姉さんやな〜」

「そっか、どこかで見たことあると思ったら、あのときの」

アスナも答える。二人とも5年前に比べると大きくなった。

「神楽坂さんも?そういえばあの時もう一人金髪の女の子もいたけど、あの子は・・・」

「雪広あやかでございます」

いつのまにか後ろに委員長が立っていた。

「5年前は恥ずかしいところを見せて申し訳ございませんでした」

委員長はぺこりと頭を下げた。

「あの時喧嘩していたあなたたちとこうして出会えるなんて。これも宿星なのかもしれないわ・・・」

「宿星?」

「ええ、人は何かしら宿星を持って生まれてくるというわ。あなたたちもそうなのかもしれないわね・・・」

美里が遠い目で外の景色を眺めた。

「ところで美里先生。クラス委員長のわたくしがご案内いたしますわ」

「なによ、委員長。何いい子ぶってんのよ、ネギみたいな子供じゃないのに」

「なっ!わ、わたくしは委員長の義務として、美里先生を案内するのですわ!それにネギ先生と何の関係が!!」

「あんた、いつもネギと二人っきりになりたがってるじゃん」

ぶち!!

何かが切れた音がした。

「きー、いつもいつもあなたと言う人は!!」

「なによ、やるっていうの!!いつでもやるわよ!!」

アスナと委員長は本気で蹴りあっている。このかはのほほんとしている。二人にとっては日常なのだろう。

「美里先生、僕が案内しますよ。このかさん。ここはおまかせします」

「うん、まかせとき〜」

アスナたちを置いて美里はネギに学園内を案内した。5年前に一度着たばかりだが、学園の様子は変わっていなかった。ヨーロッパを意識して作られた商店街は見事であった。ネギも中等部周辺しか知らないと言うが、確かにそうかもしれない。

「よう、美里葵。5年ぶりだな」

一人の少女が話しかけてきた。ふわふわの金髪で一見子供のように見える。

「エヴァンジェリンさん!!」

5年前とまったく変わっていなかった。彼女が吸血鬼ということもあるが、今でも中学生というのが一番驚いた。

「エヴァさんはまだ卒業できないんですね」

「くっ、言うな!!私だって好き好んで中学生やってるわけじゃないんだ!!」

「マスター。落ち着いてください」

エヴァの隣にいる少女がたしなめた。少女より身長が高く、髪が腰まで伸びている。耳に不思議な飾りをつけている。しかし、彼女はそれだけでなく、のどや足に妙なつなぎ目がついている。その上後頭部にはぜんまいらしきねじが刺さっていた。

「あの・・・。あなたは確か、絡繰茶々丸さんでしたね?あなた・・・」

美里は自分の疑問を口にしようか迷った。彼女に人間の気を感じないのである。5年の年月が過ぎても力はまだ完全には消えていない。気を感じることはできるが、絡繰茶々丸と呼ばれる少女にはそれを感じさせないのである。

「茶々丸は人間なのかと聞きたいのだろう?茶々丸はロボットだよ。わたしのパートナーだ」

「パートナーですか?でもそれならチャチャゼロさんはどこへ・・・?」

「心配するな。あいつは私の家にいる。動き回れないが、しゃべることはできるからな」

美里は茶々丸の肌に触ってみた。もちもちしている。無表情だが人間にそっくりだ。

「美里先生驚きましたか?」

ネギが心配そうに訊ねる。

「いえ、始めは驚きました。でも、私も茶々丸さんのような人を知っています。その人は・・・」

「それはわたくしでございますか?」

美里の後ろに一人の女性が立っていた。黒いスーツを着た女性で、なんとなく冷たい感じがした。

「芙蓉さん!!どうしてここへ!?」

美里にとってはもっとも意外な人物に会えた驚きと懐かしさでいっぱいになった。

「芙蓉がここにいるのなら、わたしが一緒なのは当然でしょう」

その横に一人の男性が立っている。総髪でどことなく知的さと冷たさを兼ね備えた感じがした。スーツもおそらくオーダーメイドなのだろう。高級感がある。

「御門くんまで・・・」

御門晴明。代々陰陽師の家系、御門家の当主である。御門は名門校・皇神学院を主席で卒業し、付属大学院に進み、在学中から様々な授業を展開していた。現在では関連会社も十数社に及び、財界のプリンスと呼ばれているのだ。自他とも認めるエリートである。芙蓉は御門の秘書なのである。芙蓉は御門の式神で、かの伝説の陰陽師、安部晴明の十二神将のひとりである。

「今日は近衛さまに用事がありましてね。ですが、美里さんに会えるとは驚きましたよ」

御門は扇子を口に当ててくすくすと笑った。

「まったく晴明は相変わらずいやみっぽいな。少しは直したらどうだ?」

どうやらエヴァは御門と知り合いのようだ。

「エヴァンジェリンさま、たとえあなたでも晴明さまの悪口は許しませんよ?」

芙蓉はいつのまにか手にした扇子を広げ、扇いだ。強烈な風が巻き上がった。エヴァを庇うように立ちはだかる茶々丸。

「芙蓉さん、マスターの無礼は許しません。マスターの許可があれば、あなたを攻撃します」

茶々丸は構えた。無表情だがエヴァを護ろうとする想いが感じられた。それは芙蓉も同じであった。二人は互いに睨みつき、いつでも攻撃できる態勢であった。

「やめろ、茶々丸。いちいちそんなことしなくてもいい」

「芙蓉もですよ。あなたはどうも私のことになると熱くなりすぎていけませんね」

エヴァと御門に注意され、うなだれる二人。

「美里先生はいろんな人と知り合いなんですね」

「ええ、学校は違うけど、かつて御門くんも芙蓉さんも、東京を護った仲間なんです」

「何かを護ろうとするか・・・。美里先生はすごいですね」

ネギは感心したように恍惚の笑みを浮かべていた。

「おい、こら。坊や。私はすごくないというのか?せっかく弟子にしてやったというのに・・・」

エヴァが不満そうであった。慌ててあやまるネギ。

「ごめんなさい!エヴァンジェリンさん!そういうわけじゃないんです!!」

「ふん、どうでもいいさ。大体私は弟子など取りたくなかったからな」

「えーん、そんな〜」

見た目が10歳の子供のネギとエヴァ。ネギは正真正銘の10歳だから、エヴァの方がお姉さんに見える。

「ヤキモチですかマスター」

茶々丸がつっこみをいれた。顔を真っ赤にして怒り出すエヴァ。

「違う!断じて違うぞ!!闇の福音、吸血鬼の真祖の私がヤキモチを焼くなどありえん!!」

「いえ、エヴァンジェリンさまは美里さまに嫉妬されました。確かにヤキモチでございます」

芙蓉も答えた。ますます怒り出すエヴァ。

「違うっていってるだろ!!」

まるで子供のように茶々丸や芙蓉につかみかかっている。その様子を美里と御門は笑ってみていた。

「ところで御門くんは学園長先生と知り合いなんですね。学園長先生の正体をご存知なのですか?」

美里は心配そうに尋ねた。近衛学園長は関東魔法協会の理事長。御門は東の陰陽師の長である。魔法使いと陰陽師、犬猿の仲かもしれないのに、どうして・・・。

「ご心配なく。仲は悪くありませんよ。それに西の長、関西呪術協会の長は近衛学園長の息子ですからね。婿養子ですが。仲が悪いのは下のものたちなのですよ。それに私にとって護るべき人に手をかけない限り、敵ではありませんからね」

なら敵になったらどうするのか。それは怖くて聞けなかった。

「そうだわ、村雨くんはどうしましたか?」

「村雨ですか?私がなぜあの男のことなど気にせねばならないのですか?」

御門は美里の質問にご立腹であった。

村雨とは、村雨祇孔といい、御門の同級生である。本人は非常に運の強い男で、呪いの花札を持っても運がいいので呪われずにすんでいた男である。彼は皇神学院を高等部から編入したのだが、卒業後、渡米しラスベガスで凄腕ディーラーと勝負し、勝利してひと財産を築いたとエアメールが届いた。日本に一時帰国すると書いてあったのでもう御門と会ったのかと思ったのだが・・・。

「俺ならここにいるぜ?」

そこにはむさ苦しいアロハを着た男がいた。この男こそ村雨である。

「村雨さんも変わりがないようで安心しました」

「はっはっは、まさか美里の姐さんに会えるとは思わなかったがな。しかし、随分大人の色気を増したな。芙蓉とは大違いだ」

式神の芙蓉が成長するわけがないのに、わざとらしく笑っていた。とても23歳には見えない老け顔だが、凄みが増していた。

「村雨、無礼は許しませんよ。第一この間のお前の服装はなんですか?そのような下品な服装でよく晴明さまに会いにこようと思ったものです」

芙蓉の言葉に怒気がこもっていた。元が美しいから、美しく怖いので迫力がある。

「へへへ、久々に楽しませてもらおうか?どこか戦える場所はあるのかい?」

「よろしい、お前をこの際この世から消して進ぜよう。覚悟は良いか?」

一発触発の二人。しかし、アスナたち3人がやってきた。

「あ、美里先生ここにいたんですか?あらエヴァちゃんも一緒じゃない」

アスナはちらりと見知らぬ男に目が止まった。そして目がきらきらと輝きだしたのである。その先は村雨に向けられていた。

「あ、あの。あなたの名前はなんですか?あたしは神楽坂明日菜ともうします・・・」

アスナが顔を赤くしながらもじもじと尋ねる。言葉遣いもちょっと変だ。

「え?俺か?俺の名は村雨だ。よろしくなアスナちゃん」

村雨は白い歯をむき出しながら笑った。

「渋くてすてきかも・・・」

委員長とエヴァがこけた。

「アスナさん!あなたには高畑先生がいるでしょう!!節操がありませんわよ!!」

「ふん、神楽坂明日菜。確か修学旅行のときに、このかの父親にもほれたと聞いたぞ?タカミチが知ったらなんというかな?」

ちなみに高畑とはアスナたちの元担任教師である。タカミチも名前だ。彼も魔法の秘密を知る教師である。

「な、なによ!あたしは渋くてかっこいい人が好きなのよ!いいんちょだって年端もいかない餓鬼が好きでしょうが!!」

「まぁ!!わたくしがネギ先生以外に浮気するとでも思っていらっしゃるのですか!!もはや許せません!雪広あやか流合気柔術をお見舞いしてさしあげますわ!!」

「望むところよ!!」

こうしてアスナと委員長が喧嘩を始めたのである。村雨たちもやる気がそがれてしまった。御門は自分の用事を果たすため、その場を立ち去った。エヴァも茶々丸を連れて去った。残るは互いの趣味をけなしあう、アスナと委員長だけとなった。

「いいんちょさんはいつもアスナさんと喧嘩してますが、本当は仲がいいんですよ?」

ネギがそっと美里に耳打ちした。

「アスナさんといいんちょさんは小学校からの仲良しなんです。でも転入の頃はアスナさんは無口だと聞いてます。いいんちょさん弟さんがいたらしいんですが、その・・・。それを元気付けたのがアスナさんなんです。だから二人は本当は仲がいいんですよ」

「「ちがーう!!」」

アスナと委員長がはもった。

「なんでこんなへたれたかびーお嬢様と仲がいいのよ!!ネギ、いい加減なこと言うんじゃないわよ!!」

ネギがなみだ目になって、震えている。

「なんでわたしがへたれなんですか!!あなただってとびげり女子中学生じゃありませんか!それにネギ先生に悪口はわたくしが許しませんよ!!」

「なにをー!!」

「なんですってー!!」

二人は取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。おろおろとうろたえるネギ。あはははと笑って見守るこのか。彼らを見て美里は思った。

(この子達は互いを理解している・・・)

その証拠に気を読んだのだが、彼女たちの気は陰の気ではなく、陽の気が強いのだ。彼女たちはじゃれあっているのだ。

一学期だけだが、他のクラスメートたちも楽しみになってきた。そう思ったのだ。

続く

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