魔法先生ネギまVS魔人学園その3

 

「今日の授業はここまでです。あとは予習復習をしっかりするように」

「起立!」

日直の女子の掛け声で全員席を立った。

「礼!!」

今日も無事に授業は終わった。初めは緊張したが、もう1週間、結構慣れてきた。

「美里先生、今日もお疲れ様です」

「あ、ありがとうございます、ネギ先生」

話しかけてきたのは、3−Aの担任教師ネギ・スプリングフィールドであった。彼は10歳の少年にしか見えないが、実際にそうで、学園長の話によれば彼は立派な魔法使いになるためにはるばるイギリスのウェールズから日本までやってきたのだという。

美里自身も彼の授業を拝見したが、なかなか良くがんばっている。ただ担任が3−Aだとすぐ大騒ぎになる傾向があった。それは彼自身がまだ小学生くらいに見えて、その上からかうと面白いという理由でよくおもちゃにされているのだ。真面目な生徒もいるが大抵は勢いに飲まれ、授業が進まないことも多かった。それにやはり子供らしい失敗もするので、頼れる男性というより、可愛いマスコット扱いされているのである。

ただし、生徒の中には彼の正体を知っており、なおかつ彼の過去も知っている者はきちんと真面目に授業を受けている。美里はそれが誰かは聞いてないが、ネギと同室に暮らしている神楽坂明日菜と近衛木乃香は知っているようである。あと木乃香と幼馴染という桜咲刹那もそうだとか。

桜咲刹那というのは髪の毛を左側にポニーテールのようにまとめており、体は華奢で少々頼りなさを感じるが、剣道部所属らしく毎日練習に励んでいる少女である。

クラスでは龍宮真名という女子と一緒にいることが多いが、仲良しというわけではなさそうだ。ちなみに龍宮真名はクラスで一番の長身で肌は黒く、黒髪の長髪でとても中学生には見えないスタイルをしている。部活は外部のバイアスロン部に所属しており、射撃の腕は天下一品だとも言われている。

「実は今日、桜咲さんがとある人と試合をすることになっているんですよ。美里先生もどうですか?」

今日は特にこれといった用事もない。彼女には興味があるし、彼女の試合を見てみたいと思っている。美里はふたつ返事で答えた。

 

試合の場所はとある山の奥だそうだ。刹那の技は常人には理解できないものらしく、人目を避けるためにここへやってきたのである。学園都市の中とは思えないほど見渡す限りの山が見える。まるで人外魔境のような雰囲気である。ネギとともにいるのは神楽坂明日菜と近衛木乃香。そして桜咲刹那と美里葵の4人であった。

彼女たちは茂みをかき分けながら前に進んでいた。試合の相手はもう到着しており、待っているはずである。ちなみにその相手は学園長が呼んできてくれたそうだ。中国を旅していた凄腕の剣士だという。

「だけどなんでこんな辺鄙なところで戦うのよ。あ〜肌に傷がつくじゃない〜」

明日菜はぼやいていた。なぜわざわざこんな山奥で試合をしなくてはならないのか。

「それは私とその人の技が常人では理解できないからですよ」

「え〜、うちはできるえ〜。せっちゃんの戦ってる姿はかっこええやん〜」

「・・・いえ、お嬢様やアスナさんたちはともかく、人目につかず戦うのが相手の要望ですから」

「そうなん?でもせっちゃん、またお嬢様ゆうたやんか。なんでお嬢様なんて呼ぶん?」

このかはおかんむりのようで、頬を膨らまして怒っている。よほど刹那にお嬢様と呼ばれるのが嫌なのだろう。

「でも、刹那さんて結構強いんですよね?その人どれくらい強いのでしょうか?」

これはネギだ。

「わかりません。ただ学園長先生の知り合いらしく、美里先生もよく知っている相手だと言われました」

美里が良く知っている相手?それはもしや・・・。

ようやく森の海を越え、たどり着いたのは大きく開けた広場であった。その真ん中には一人の男が立っていた。

「京一くん!?」

「よう美里ひさしぶりだな」

美里にとっては4年ぶりの懐かしい顔であった。

彼の名は蓬莱寺京一。かつて美里と同級生だった男だ。卒業後は中国へ渡ったというが、しばらく音信不通だった。それが意外な場所で再開できるとは夢にも思わなかったのである。

「ちょいと学園長のじいさんに頼まれてな。女の子一人稽古をつけて欲しいって呼ばれてきたのさ」

ちなみに移動手段は転移魔法だそうだ。これが終われば京一は再び中国へ戻るそうで、美里は少し名残惜しかった。

「さて俺と戦いたいのは誰だ?」

「それは私です」

刹那が一歩前に出た。

「ほう、お前か。悪いが俺は手加減はしないぜ?」

「望むところです。いざ!!」

刹那は野太刀を手に取ると、その瞬間京一に斬りかかった!!最初の一太刀を木刀で受け止める京一。

京一は後ろへ下がると木刀を天を指すように構えた。その瞬間彼の体から気の渦が発生し、それは木刀へ絡みつくと、ひゅんと木刀を振り下ろした。

びゅばぁ!!

小さな竜巻が生まれた。剣掌・旋風である。刹那の体は旋風に掴まり、彼女の体はまるで竹とんぼのように舞い上がったのである。大体5メートルほど高く上昇したところで竜巻は消えた。あとは彼女が落ちるのを待つだけである。

だが彼女は落ちてこなかった。なんと彼女の背中には羽が生えていたのである。これには京一も驚いた。彼女が天使に見えたからである。

実際は刹那は妖怪と人間のハーフなのだ。背中の羽は烏族の証だそうで、普段は隠しているのである。

「ほう、俺の持つ力とは別みたいだな。なら、こいつはどうだ!!」

ばしゅう!!

京一が木刀を大きく振るうと風が舞い上がった。まるで草むらがモーゼの如く二つに分かれた。刹那は空を飛びつつ、様子を伺っていた。だが彼らは戦いで気づいていなかった、彼らを見つめる邪悪な二つの眼が覗いていることを。

 

30分前

ここは真帆良学園内にある龍宮神社。女子中等部3−Aの生徒、龍宮真名の実家でもあった。真名は今巫女装束を着ていた。どうやら客がいるようだが、彼女は電話をしていた。

「なるほど、わかった。今行く。報酬は例の口座で・・・」

ぷちりと真名は電話を切った。

「もうしわけありませんが、用事ができました。これから急いでいくところがありますので・・・」

真名はバイアスロンに使う銃の入ったケースを取り出した。

「待ちな真名、お前の仕事は妖怪退治なんだろう?」

「ならわたくしたちも力を貸しますわ」

 

「百花繚乱!!」

刹那は野太刀を振るった。京一の回りに竜巻が巻き起こった。それを防ぐ京一。

そもそも野太刀は馬にまたがり、重さで敵を斬るものだ。あまり剣術とは関係ないのだが、刹那は自分の背丈ほどある野太刀を軽々と使っている。しかも、居合い斬りもできるのだからすごい。京一は最初油断しきっていた。そのため少し出遅れたが、もう彼女を子供と思わない。全力で戦うべき相手だ。

「行くぜ!!」

どどぉん!!

その瞬間大きな音がした。それは巨大なものであった。背丈は4メートルほどの巨人であった。それは京一たちに異常なまでの悪意を放っていた。

「ぐごぉぉぉぉぉぉ!!」

「きゃあああ!!」

巨人は咆哮するとこのかたちに向かって突進してきた。巨人は右手を大きく振り上げ、このかたちを叩き潰そうとした。

ひゅうう!!

ネギはこのかと美里を抱き上げると、杖で空を飛び、危機を脱した。だが巨人はしつこくネギを追いかけた。どうあってもネギたちを襲わないと気がすまないようだ。

巨人は見てくれと違い、足が速い。自動車並みのスピードを誇るネギの飛行術に追いついてきているのだ。

「な〜、ネギくん、あれなんや〜?」

「とても邪悪な力を感じるわ。あれはいったい・・・」

彼女たちにはわからなかった。もちろんネギにもわかるはずがない。巨人はしつこくネギを追い続けた。どしん、どしぃんと走るたびに地鳴りが起きる。巨人は右手を伸ばすと空を飛ぶネギをがしっと捕まえてしまった。このかと美里はあわれ巨人の手の中に捕らえられてしまった。ネギは運よく難を逃れたが、地面に叩きつけられてしまった。彼はそのまま気絶してしまったようで、ぴくりとも動かなくなった。明日菜はネギの元へ走っていった。

「お嬢様!!」

「美里!!」

刹那と蓬莱寺が叫ぶと、巨人はぐるると笑うとぐいっと手に握ったこのかたちを差し出した。人質のつもりだろうか?

「貴様ぁ!お嬢様を離せ!!」

ぐっ、ぐぐぐ。

「いやぁん、痛いやんか〜」

「く、苦しい・・・」

巨人は手に力を込めると、このかたちが苦しみだした。

「くっ、卑怯な!!」

刹那は悪態をつくが、その度に巨人は手に力を入れた。ほんの少しでも反撃されるのが気に食わないようだ。ふたりは動くことも出来ず、巨人はずんずんと彼らの元へやってきた。そして左拳を振り下ろしたのである。

ずぅぅん!!

二人は思わずその場を立ち退いた。しかし、再びこのかたちの悲鳴が上がる。巨人はにやりと笑うと、刹那を左手で引っ叩いた。

ばちぃん!

「うわぁぁぁ!!」

刹那は5メートルほど吹っ飛んだ。

「がばばばば!!」

巨人はうれしくてたまらないような笑い声を上げた。蓬莱寺は手も足も出なかった。少しでも動けば美里たちが握りつぶされてしまうからだ。

「ちくしょう!!」

蓬莱寺は木刀を構えた。しかし、巨人は右手を突き出す。そこにはもう体力を消耗しきった美里たちがいた。巨人は蓬莱寺に少しでも動けばこいつらを殺すと脅しているのだ。何たる卑劣な輩か!巨人はにやにや笑いながら、右足を上げた。ああ、蓬莱寺を踏み潰そうとしているのだ。足の大きさは畳3枚分の大きさだ、踏まれれば蓬莱寺とて命はない。

「がばばばば!!」

巨人は意気揚々として蓬莱寺を踏み潰そうとした。

ばきゅうん!!

巨人のバランスが崩れた。左足を銃で撃たれたようだ。

ばきゅうん!!

再び銃声が上がった。今度は右手に当たったようで、ぽろりとこのかたちを放してしまったのだ。

「危ない!!」

復活したネギが杖に乗り、落下するこのかたちを拾い上げた。

「う、うう。あれはまさか・・・」

「そうだ、あたしだよ」

立ち上がろうとする刹那を起き上がらせたのは、クラスメートの龍宮真名であった。彼女は巫女姿でエアガンを手に持っていた。だが弾丸は術を施されており、退魔に適した武器である。

「学園長から連絡が来てな。まさか、お前がここにいるとは思わなかったが」

「すまない。早く行かなければ、あの化け物は異常なまでの強さだ、二人がかりなら・・・」

「その必要はないみたいだ」

巨人の下に二人の人影があった。一人は薙刀、もう一人は弓矢を持っていた。

「久しぶりに行くぜ、雛乃!」

「はい、姉さま!!」

良く見れば彼女らの顔立ちはそっくりであった。双子なのだろうが、雰囲気は違うようだ。

「今こそ草薙の力を見せてやる!!」

彼女たちの全身が光り始めた。彼女たちは巨人を囲むように立った。

「奥義、草薙龍殺陣!!」

眩い光が辺りを包んだ。巨人はあまりの眩しさに目をつぶった。そして!!

「斬魔剣、弐の太刀!!」

「剣聖・天地無双!!」

刹那と蓬莱寺が一斉に剣を振るった。力がこもった技がダブル。これは効く。

「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

巨人は消滅した。

「危なかったな、美里」

「おひさしゅうございます、蓬莱寺さま」

美里と蓬莱寺は懐かしい顔に出会った。織部雪乃、雛乃の姉妹である。

「ありがとう二人とも。本当に久しぶりね」

「お前らいつも一緒だよなぁ、まあ、助かったからサンキューな」

しかし、なぜここに織部姉妹が駆けつけたか?彼女らと龍宮神社の神主とは知り合いで、もちろん真名とも知り合いであった。雪乃は卒業後一人暮らしをはじめており、雛乃とはひさしぶりに会ったのである。真名は接客をしていたが、学園長から電話で魔物が出たと連絡が入ったので、彼女は一人でその場所へ向かう予定であったが、織部姉妹も一緒についてきたわけであった。

蓬莱寺は雪乃が実家を出て、花屋でバイトしながら一人暮らししていることが以外であった。彼女は妹っ子で雛乃を愛していた。まあ、雛乃のほうがしっかりしているのだが。とにかく久しぶりの再会に皆喜んでいた。

 

「ですが、いったいあの巨人はなんだったのでしょうか?」

時刻は既に夕方だ。蓬莱寺はすでに帰った。織部姉妹も真名と一緒に龍宮神社へと戻った。今はネギと明日菜、このかと刹那、美里だけである。

「そうですね。お嬢様や美里先生を人質に取るくらいですから、かなり賢いですよ」

真名の話によれば、なんでも学園の結界を乗り越えてやってきたそうだ。真名自身も最初は小物の魔物と思っていたが、実物は話と違う巨人であった。もちろん、彼女の敵ではなかったが。

「あの魔物は学園内に侵入し力を手に入れたようです。ですが、なぜお嬢様たちを狙ったのでしょうか?」

刹那は首を傾げていた。巨人は執拗なまでにこのかたちを追いかけたのだ。あまりにもしつこかったので、少しおかしいなとは思ったが。

「でもせっちゃん助けてくれたやん。ありがとな〜」

このかはうれしそうに笑った。刹那に助けてもらったのがうれしいのである。実際は真名たちが救ったのだが。

「あ〜あ、今回はあたし出番なしだったわね」

明日菜は自傷気味に笑った。どことなく乾いた感じがした。

「結局、試合はどうだったのかしら?」

美里がたずねた。

「あの人は強いですね。気の扱い方も慣れていました。普通、気を扱うには長年の修行が必要になるのですが、蓬莱寺さんはなかなかのものです。いい経験になりました」

「ネギ先生の魔法とは違うのかしら?」

美里が質問してきた。自分の持つ力と魔法はどう違うのか?

「魔法は魔力を使うのですが、魔力は精神力が要なんです。気は逆に体力勝負らしいそうです。でも魔力と気は相当の練習がなければ相反するだけだそうです。これはマスターの受け売りですけど」

ネギは照れくさそうに答えた。そういえば戦いのあとは皆へとへとになっていたのを美里は思い出した。

続く

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あとがき

 

ネギまと魔人のコラボ第3弾です。ほんとひさしぶりです。

今回は京一と刹那のバトルを中心とした展開になりました。しかし、私はバトルが苦手です。また、ひまがあれば続編は書く予定です。では。