ネギまVS魔人学園その4

 

「なぁ、刹那。先日の魔物、あれは近衛だけを狙ったのだろうか?」


ここは麻帆良学園女子中等部の屋上である。人は少なく、
3−
Aの桜咲刹那と龍宮真名の二人が話し合っていた。

「どうゆうことだ?」

「あの時は近衛と一緒に美里先生もいた。もしかしたら両方かもしれんがな・・・」

「なぜ美里先生が・・・?」

真名は織部姉妹から美里は菩薩眼という力を持っていると聞いた。気の流れを見ることの出来る力。時の権力者は代々菩薩眼の娘を傍らに置いたという。実際は菩薩眼の娘より、その娘が産む子供が大事なのだ。膨大な気を持つ男性との間に生まれる男の子は黄龍の器と呼ばれ、この世の支配者となるべき生まれた存在だと呼ばれている。刹那も退魔の仕事をしているから、その手の話は知っている。

「わからんな。まあ、学園長から報酬はもらっているから、イザとなれば手助けするよ」

真名は報酬さえもらえば誰にでもつく。もっとも後払いも大丈夫だ。だが学園長がもう報酬を払っているとなると、事態は深刻な可能性が高い。

その時風が吹いた。春の風が夏の風に変わりつつある季節であった。

 

「はい、できました!」

「・・・。はい、合格です。出席番号8番神楽坂明日菜さん」

ここは3−Aの教室である。今美里葵は成績の悪い5人相手に小テストをしていた。これはネギに勧められてやってみたのである。

最下位の生徒は出席番号4番綾瀬夕映、8番神楽坂明日菜、12番古菲、16番佐々木まき絵、20番長瀬楓の5人である。

彼女たちは毎回小テストでは最下位に位置していたが、彼女らは決して落ちこぼれではないのだ。夕映は本当はやればできるのだが、勉強が嫌いな厄介な性格なのだ。ただし応用能力に優れており、臨機応変な指揮がとれる。明日菜は親がおらず、面倒を見てくれる学園長に学費などを返すために毎朝新聞配達のアルバイトをしており、毎日朝が早い。学園長は別に要求したわけではないが、明日菜はそれでは気がすまないのだ。根が真面目なのである。古菲は現在日本語の勉強に中国拳法の鍛錬で忙しい。まき絵は部活の新体操で忙しい。楓は普段からのんびりしている。彼女は180センチの長身で、かなりの巨乳だ。その上運動神経がすごい。

「しかし、美里先生の教え方はなかなかわかりやすいです」

夕映が誉めた。普段の彼女はシニカルなほうで、あまり感情を表に出さない。

「ホントアルな。日本語難しいアルが、美里先生の授業、わかりやすいアルよ」

「でもネギくんだともっとがんばれるんだけどな〜」

「はっはっは、いやいや、ネギ坊主はネギ坊主。美里先生は美里先生でござるよ」

楓はいつも語尾にござるをつけることがある。もしかして忍者とたずねても、彼女はそれを否定している。

「それにしてもいつも最後まで居残りする明日菜さんまで、すぐ合格してしまうとはさすがです」

「そうアルな〜。バカレッドなのにすごいアル」

「そうだよね〜、バカなのに」

「これこれ、拙者たちもバカレンジャーの一員でござるよ」

バカレンジャー?美里はそれがなんなのかたずねる。バカレンジャーは彼女らのことを指すのである。夕映はバカブラック、明日菜はバカレッド、古菲はバカイエロー、まき絵はバカピンク、楓はバカブルーである。ちなみにリーダーはバカブラックである。

美里は少し懐かしい感覚にとらわれた。5年前の仲間にも戦隊ヒーローのコスプレをしたのがいた。今彼らはどうしているのだろうか?

わー、わー。

外が騒がしくなった。外を見てみると人だかりが出来ている。その中心には二人の男性が人にもみくちゃされていた。美里はそれを見てみると、あっと驚いた。

「紅井くんに、黒崎くん!?」

 

「おお、美里さんじゃないか!5年ぶりだな、懐かしいぜ!!」

「ああ、相変わらず美しいな。こちらのバカは相変わらず暑苦しいから頭が痛いよ」

「んだと、ブラック!」

「本当のことを言われてきれるとは、自分で認めたようなものだレッド」


紅井猛と黒崎隼人はあいもかわらず喧嘩していた。
彼らは練馬区大宇宙学園の卒業生で、かつて大宇宙戦隊コスモレンジャーの創立者である。レッドこと紅井は野球部に所属していた。卒業後はプロ野球選手にはならずに実業団野球に入団した。その粘り強さのおかげで彼は2連続優勝へとチームを導く。来年はオリンピックで日本を代表する選手にノミネートされたという。


ブラックこと黒崎は卒業後日本代表選手として渡欧した。帰国後は某チームに入団し、
Jリーガーとして日本のピッチに立っている。来年には功績が認められ海外チームと契約する話も聞く。

「うひゃあ、スポーツの有名人が二人もおるわ〜。しかも、美里先生と仲良さそうやし、どうなっとんの〜」

出席番号5番和泉亜子が黄色い声を上げていた。彼女は外部のサッカー部のマネージャーを務めており、サッカー選手の黒崎を見て興奮している。無論紅井にもだ。

「うふふ、二人とも私の仲間なの。でもどうしたの?二人がここに来るなんて」

二人は講師としてここへ来たらしい。一流の講師を呼ぶのも真帆良学園らしさがある。ともかく懐かしい顔に美里は喜んだ。

「でも本郷さんがいないのは寂しいわね」

「ああ、ピンクか。彼女はこの学園の幼稚園に来ているよ。もうすぐここへくるはずだが」

本郷桃香はコスモピンクは新体操をベースとした戦法をとっている。彼女は今幼稚園の先生を勤めている。真帆良学園の幼稚園部には年に一度にお遊戯会で桃香先生のヒーローショーを上演するために来ているのだそうだ。ちなみにヒーローショーは自分が勤めている幼稚園でもやっている。

「あの先生、さっきからピンクとかレッドとか言ってるけど、どうゆう意味なん?」

亜子が美里にたずねる。美里は優しく笑いながら答えた。

「紅井くんたちは5年前地元の練馬でコスモレンジャーという戦隊ヒーローをしていたの。紅井くんはコスモレッド、黒崎くんはコスモブラック、ここにはいないけど本郷桃香さんはコスモピンクを務めていたのよ」

亜子は驚いた。彼女は昔新宿の花園神社でコスモのショーを見たことがある。まさか、その本人たちに会えるとは思わなかった。亜子は興奮気味で紅井や黒崎に握手を求めた。快く応じる二人。

「いや〜、おれっちのファンは大切にしないとな〜」

「お前の家にはまだ鏡はないようだな。彼女は俺のファンに決まっているだろう?」

「んだとぉ、このすまし野郎!!」

「やるか?リーダーである俺に敵うと思っているのか?」

「誰がリーダーだ!戦隊ヒーローではレッドに決まっているだろう!お前はお約束が理解できないのか!!」

「ふん、お約束をあえて破るのも、お約束さ。仮面ライダーを見ろ。お約束のナレーションや、わかりやすい悪の組織を排除し、なおかつ新しい世代のファンを獲得している。まあ戦隊物のお約束も大事だから強く反対する気はないな」

レッドとブラックは相変わらず喧嘩している。まるで5年前に戻ったみたいだ。

「せやけどうちのクラスのバカレンジャーだとブラックがリーダーやけどな〜」

亜子が答えた。その言葉にすばやく反応する二人。

「・・・なんだと?」

「ほう、ブラックがリーダーか。きっと彼は俺と同じ知的なんだろうなぁ」

「うちの学校女子高やから、女の子やけど。確かに知的ではあるわな。哲学学者の祖父がおるからちょいとシニカルやけどな」

その言葉を聞き、レッドの顔は見る見る赤くなった。そして爆発したように叫んだ。

「許せん!ブラックがリーダーなどありえん!!そのバカレンジャーと勝負させろ!!!」

「はぁ?」

美里も亜子も呆然となった。

 

「で、なんであたしらがこんなことをしなくちゃならないわけ?」

「ごめんなさい・・・。なんかそういうことになってしまって・・・」

ここは世界樹広場に作られた特設ステージ。3−Aの生徒、出席番号19番超鈴音(チャオ・リンシェン)と24番葉加瀬聡美が作った特別製である。二人とも真帆良学園では最高の頭脳の持ち主で、女子中等部だけではなく、大学部でも天才と呼ばれているのだ。ステージの前方には『対決コスモレンジャー対バカレンジャー』と彩られた看板が立てられていた。観客席はすでに幼稚園や小等部の子供たちがぎっしり詰まっていた。皆、ヒーローショーが楽しみで仕方ないのか、早くしろだと、なんだのはやし立てていた。コスモレンジャーのテーマ曲が流れ、そのあとバカレンジャーが合唱する『戦えバカレンジャー』も流れる予定だ。

ステージにはバカレンジャー5人、コスモレンジャー5人が立っていた。コスモブルーことアラン蔵人とコスモイエローこと劉弦月が呼び出されていた。二人ともいきなりの呼び出しに快く応じてくれた。アランは確かパイロットを目指すため、宮崎県にある航空大学に進学した。そして航空会社に入社し、航空会社の訓練中のはずである。

「今日は休みですから大丈夫ですよ」

5年前と違い、かなり日本語は流暢になっている。

「うわ〜、あの本郷さんに会えるなんて。しかも、コスモピンクだったなんて知らなかったよ〜」

まき絵は浮かれていた。彼女も幼少の頃のコスモレンジャーのファンである。それに彼女は5歳から新体操を続けており、本郷のことをよく知っていた。本郷自身も高校時代ではかなり有名なのである。コスモピンクが新体操の大先輩、まき絵にはたまらないものがあるだろう。観客席では運動部の仲良し、出席番号2番明石祐奈と出席番号6番大河内アキラ、そして亜子が応援している。

「しかし、コスモレッドはなにを考えているのでしょうか?大体勝負に勝ったところで、何になるというのでしょうか?」

この勝負はレッドとブラック、どちらがリーダーに相応しいかの勝負だ。しかし、バカレッドである明日菜にとってはどうでもいいことだし、ブラックの夕映もいつの間にかリーダーに就任されているようなものだ。

「ごめんなさいね。レッドもブラックも言い出したら聞かないから」

本郷があやまる。コスモはレッドとブラック、ピンクは高校時代の衣装を身に着けていた。ブルーはメキシコっぽいTシャツを着ており、銃を手にしていた。イエローは革ジャンを着ており、背中に青龍刀を背負っていた。

「いえいえ、本郷さんがあやまることではないんですよ〜。あはははは」

まき絵は子供の頃のヒーローに会えたことで、すっかり浮き足立っている。まき絵は部活に使うピンクのレオタードに身を包んでおり、手には新体操に使うリボンがが握られていた。

「ほほう、まき絵殿うれしそうでござるなぁ」

「そうアルね。あのコスモイエロー、なかなかの実力と見たね。ワタシとてもとても楽しみアルよ」

楓と古菲はチャイナドレスを身に着けている。とても中学3年生には見えないプロポーションの持ち主であった。彼女は巨大な十字手裏剣を背負っており、古菲は子母鴛鴦鉞(しもえんおうえつ)という八卦掌で使う武器を持っている。これは 十八般兵器の「斧」に属する双器械で、攻撃だけでなく防御にも使用できる。 八卦掌の創始者・董海川が作り出したと言われているものだ。コスモイエローの武器に対抗するためであろう。

「も〜、どちらがリーダーか、なんてどうでもいいのに・・・」

「諦めるです。あの手の体育系に言葉は通用しません」

明日菜と夕映はうんざりしていた。二人だけ制服を着ている。明日菜はハリセンを手にしているがこれはただのハリセンではない。叩けば魔の者を一瞬に元の世界へ送り返す力を持つハリセンなのだ。これはアーティファクトと呼び、魔法使いの従者が使えるアイテムである。アーティファクトは仮契約(パクティオー)という儀式を行うことにより、ネギと契約することにより、ネギから魔力を分けてもらえるのだ。その証にパクティオーカードが手に入る。ただ契約方法が唇同士のキスなため、年頃の女性にはつらいものがある。例え相手が10歳の子供でもだ。夕映もネギのパートナーになりたいが、キスは躊躇している。

「ですが本郷さんと相談し、適当にお茶を濁す予定です」

ここで問題なのが、バカレンジャーではバカピンクのまき絵以外力を知らないのである。それにコスモの力もあまり人前に出してはいいものではない。だからこそ、クラスメイトの超や葉加瀬にこのステージを作ってもらったのである。二人ともネギが魔法使いだと知っているのだ。もともとエヴァンジェリンのパートナー、茶々丸の製作者でもあるのだ。

「ここでの戦いはすべてCG、特殊効果でごまかせます。明日菜さんは適当に戦ってあとはビッグバンアタックを発動させて終わらせるそうです」

「ビッグバンアタックって何よ?」

「なんでもコスモレンジャー5人が揃うと発動する必殺技だそうです。美里先生も言ってましたが方陣技と呼ばれるもので、個人の力を合わせることにより、膨大な気を放出する技のようですね」

「そうなんだ。でもゆえちゃんはそれ信じているの?」

「ネギ先生が魔法使いなら、世の中にそんな技があっても不思議ではありません。わたしはつまらない学校の勉強より、こちらの非現実的な世界が好きですよ。うふ、うふふ」

彼女は少し変わっている。非常識な世界もすぐ適応してしまうのだ。

「さぁ、世紀の対決コスモレンジャー対バカレンジャー!!勝つのはどっちだ!!」

司会のお姉さんは出席番号3番朝倉和美である。彼女もネギの正体を知っている一人なのだ。

「それでは作戦通りに頼むです」

ぼしゅうん!!

ステージ後方の発炎筒が一斉に鳴った。真っ白な煙に紙ふぶきが舞う。戦闘開始である。

「いくわよー!!」

「練馬スピリッツ全開!!」

明日菜がコスモレッドにはりせんをかました。レッドはそれを特製バットで受け止める。ハリセンとは思えない思い感触が手首に伝わってくる。そして負けずにバットを振り下ろした。

「絶対正義無敵斬りぃぃっ!!」

ごすぅ!!

バットの重みに耐えられず明日菜は後方へ吹っ飛んだ。レッドは懐から数個の硬球を手にすると、明日菜目がけて投げた。

「この一球にすべてをかけた・・・、神速魔球エーックス!!」

まるでボールは分裂したかのように見える。実際は一度に複数のボールを投げているだけだ。しかし、そのスピードはあまりにも鋭く、明日菜ははりせんで受け止めるが、体が貫かれるような感覚がした。

「なかなかやるな!それでこそリーダーになるに相応しい!!」

「別にリーダーなんかになりたくないわよ!!」

 

一方楓はブルーとブラックの二人を相手にしていた。夕映は他の4人よりこれといった技がないので後方で待機していた。その間ホットコーラを飲んでいる。

Bull,Eye!!(ブルズアイ)』

「黒き弾丸、稲妻ゼーットッ!!」

楓は得意の分身の術で、コスモの二人を翻弄していた。ブルーは霊銃で風の弾丸を撃ち続ける、ブラックも得意のサッカー戦法を繰り返すが、なかなか当たらない。

「うーむ、君はもしや日本の忍者ではないのかな?」

「くー、忍者は如月さんだけかと思ったが、ここにも忍者に出会えるとは!嬉しいぜ!!」

「あっはっは、拙者は忍者ではござらぬよ、にんにん」

楓は巨大十字手裏剣をベーゴマのように糸を引き、風車のように回して飛ばした。その瞬間分身の術で二人に攻撃を加えているのである。

 

「馬蹄崩拳!!(マ―ティポンチュアン)」

古は右足を踏み込み、右拳を突き出した。踏み込んだステージにひびが入る。イエローはそれを青龍刀で受け止める。びりびりと振動した。馬蹄崩拳は、中国拳法の形意拳に実在する技だ。 形意拳は、五行(金・水・木・火・土)を表した「五行拳」と 12 種類の動物の動きを表した「十二形拳」から成る拳法で、正面突破で敵を倒すのが特徴で、この技は、その攻防の際に使用される基本的な術理で、 敵の攻撃を巧妙にコントロールしながら封じて、五行拳の一つ「崩拳(中段突きの技)」を打ち込むものである。

「くぅ、なかなかやるなねえちゃん!!」

「ふふふ、ワタシのほうが年下なのに、なぜねえちゃんと呼びアルか?日本語やっぱり難しいアル!」

イエローは後ろへ下がると、古対し右手を突き出した。

「破ッ!!」

古の体は台風をもろに受けた感覚を覚えた。発勁である。

「アチョッ!!」

イエローは中国雑技団のような剣戟を繰り返した。提膝弧斬である。提膝の構えから、華麗な弧を描く技だ。それを古は子母鴛鴦鉞で受け止める。だがこの技は勁による衝撃で受け止めてもダメージを与えられるのである。古の体はびりびりと震えていた。

「ひさしぶりに強い男と戦えるなんて嬉しいアルな!!」

古は戦いの喜びに酔いしれていた。

「これだけの形意拳に八卦掌の使い手とは、あんさんもなかなかのもんや。せやけどわいの勁も負けておらんで!!」

イエローも同じようである。同じ中国人同士、強さを競い合うのが本当に楽しそうであった。

 

「うわ〜、みんなすごすぎ!長瀬さんなんて分身してるし!さすが超と葉加瀬だよ!」

まき絵はステージに起きていることはすべて作り物と信じていた。コスモピンクもあらかじめ美里とネギから彼女は力のことを知らないと説明されている。だがまき絵自身もリボンで遠くにあるみかんを巻きつけたり、色々なことをするので、ある程度力を見せても大丈夫だとのことだ。

「うふふ、いくわよ!!」

コスモピンクはリボンをくるくる回しだした。

「ミルキーウェーブ!!」

リボンの動きがまるで天の川を連想させる。華麗な演技だ。まき絵も負けじと演技する。

「よーし、私も負けないよー!」

片足を上げるとリボンを回しだした。そして、天高くムーンサルトを決めたのである。

「なかなかやるわね。じゃあ、これはどうかしら!!」

ピンクも負けじと演技する。

「でもあれは戦いなのかしら・・・」

「本人たちが納得しているなら、大丈夫です」

美里と夕映はステージの外で、事の成り行きを見守っていた。夕映は抹茶コーラを飲みながら、早く終わらないかと思った。だが物事は常にお決まりどおりにことが進むとは限らない。そう天災は忘れた頃にやってくるということわざもあるとおり、夕映が何気なく空を見上げると、なにやら豆のようなものが空から落ちてきた。いや、それは豆ではない、あまりにも高い位置なため、豆に見えたのだ。それはドンドン大きくなり、やがて、それは目の前に降り立った。

ぐるるるる・・・。

どこからか不気味な鳴き声が聞こえた。するとステージの上から大きな震動とともに巨大な物体が現れた。4メートルほどの巨人で全身が赤銅色の肌がなんとも不気味であった。頭は禿げており、額には角が生えていた。地獄の赤鬼、まさにそれに相応しい容貌であった。観客たちは一瞬呆気に取られた。目の前の現実が理解できないようである。

「おーっと、バカレンジャーとコスモレンジャーのバトルに刺激されたか、悪の組織から巨大怪人の乱入だぁ!!」

朝倉が実況すると観客たちはやんやと盛り上がり始めた。きっとあの赤鬼はロボットなのだろうと。子供たちに人気のある、絡繰茶々丸もロボットだから安易に信じたのであろう。

「あれは!?」

「美里先生、知ってるですか?」

あれは先日刹那と蓬莱寺の試合の最中乱入した巨人であった。あれは一体だけではなかったのか!?

「げっ、先日の化け物!!」

事情を知っている明日菜はともかく、他のメンバーはこれもショーの一環だと思っているようだ。彼らはとりあえず争うのはやめて、まずこの巨人を倒すことを最優先にした。

「く〜、鬼か!高校時代が懐かしいぜ!!」

「レッド、俺の脚を引っ張るなよ!ブルー、イエロー!サポートを頼む!!」

「オッケー、僕に任せてくれ!」

「・・・あの鬼陰の気でぷんぷんやな。早いとこ、勝負つけなあかんで」

コスモたちは躊躇せず鬼に立ち向かった。

「うむ、修学旅行のときに戦った鬼と同類でござろうか?」

「うひゃー、倒しがいありそうアルな〜」

楓も古もやる気まんまんである。

「うわ〜、大きいなあ。きっと超と葉加瀬の発明品だね。なんかショーも盛り上がってるって感じ」

「そ、そうね・・・」

まき絵はこれもショーの演出だと思っているようだ。ピンクはすかさずフォローする。

鬼はよだれをたらしながら、辺りを見回した。するとある一点に視線が集中する。それは美里であった。美里は鬼の視線に気づくと、すかさず逃げ出した。すると鬼は美里目がけて歩み寄るのである。

「綾瀬さん、絶対ついてきてはだめ!あの鬼は私が目当てなのよ!!」

鬼はぐぃっと右腕を伸ばすと、美里を掴んでしまった。コスモたちが後ろでぴしぱし攻撃を加えているので、鬼は美里を彼らに見せ付けた。コスモたちの動きが止まる。人質を取られては手も足も出ないのだ。

「く〜、あいつまた人質を取るなんて。なんてせこいやつなのかしら」

「明日菜さん、せこいとはどういうことですか?」

夕映が明日菜の側に立っていた。

「えっと、先日刹那さんと美里先生の同級生が試合したのよ」

明日菜は簡単に説明した。鬼がこのかと美里を人質に取ったこと。鬼は最初小さい存在だったらしいが、なぜか巨大になったことなどを説明したのだ。

「なるほど、だとすればあの鬼は敵の策略かもしれません」

「敵?」

「そうです。確かこの学園には結界が張られているはずです。そう簡単には侵入できないはず。してもエヴァンジェリンさんか、桜咲さんたちが気づくはずです。あの鬼はあらかじめ、小さいままで学園に侵入し、学園の中から力を手にいれたに違いありません」

学園長もはじめ結界を越えたのは小物の魔物と思っていたそうだ。なのになぜ膨大な陰の気を振りまく鬼となったか?学園の中から陰の気を回収して大きくなったのだろう。

「もしかしたら今の鬼は力でぱんぱんかもしれません、少しでも外部から刺激されれば、簡単に崩れる可能性が高いです。だからこそ美里先生を人質に取ったのかもしれないです!」

「じゃあ、どうすればいいのよ!!」

「明日菜さん、先日倒したという鬼はどうやって倒したですか?それを教えてください」

「えっと、確か・・・」

真名と美里の知り合いの双子の女性、織部姉妹が倒してくれたはずだ。なんでも方陣技といったか。だがその二人はここにはいない。それを聞くと夕映はコスモピンクに尋ねた。

「本郷さんは、美里先生の知り合いですね?方陣技を使えないですか?」

「え?使えるけど、どうして?」

ああ、方陣技が使えるのはあの双子だけではなかったのだ。夕映はコスモも美里と同じ力を持つ者なら、その双子がやった方陣技が使えると思ったのだ。ピンクに聞けば、コスモレンジャー五人が集まれば、特大のビッグバンアタック・インターナショナルが発動するのだ。だが、その前に美里をなんとかしなければならない。

「炮拳(パオチュアン)!!」

古が鬼の脛に拳を突いた。下手すれば人質が危ないのに危険な行為である。

「・・・神に仕える大いなる力、四方を守護する偉大なる五人の聖天使よ」

なにやら美里の体が白く光りだした。これは美里の技、ジハードの詠唱である。鬼は美里がなにかしようとするのが、気に食わないのか手に力を込めようとした。その時!!

「ジハード!!」

彼女の体がまるで核爆発のように光った!美里の光で鬼の手は粉々に砕け散った。絶叫を上げる鬼。その声はまるで本当に地獄の底から鳴り響くような声であった。

ひゅん!!

楓は美里を抱きかかえるとすばやくその場を離れた。

「先生大丈夫でござるか?」

「え、ええ。ありがとう長瀬さん」

「礼はあの鬼を倒してからにするでござるよ。にんにん」

やはり彼女は忍者だ。美里はそう思った。

「今です、ビッグバンアタックであの鬼を倒すです!!」

夕映の掛け声で我に帰るコスモレンジャー。彼ら五人は鬼を囲むとお約束のセリフを言い出した。

「大宇宙の名の元に!!」

レッドの体が光りだした。

「宇宙の平和、守るためっ」

イエローの体も光りだした。光がレッドと交わった。

「愛と・・・」

「勇気と・・・」

「フレンドシップ!!」

ピンク、ブラック、ブルーの体も光だし、やがて光の輪となった。体の光はどんどん輝きを増し始めている。もうまぶしくて目を開いてられないほどだ。

「五人の心をひとつに合わせッ!!」

「今こそはなて、絶対無敵の必殺技!!」

光は頂点にまで達し、鬼は苦しみ始めた。そして。

「ビッグバンアタックインターナショナルーーーッ!!」

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

正義の炎に焼かれ、鬼はこの世から姿を消した。そしてしばらくは静寂が支配していたが、やがて万雷の拍手が巻き起こった。

「すごいCGだ!!」

「すごい特撮技術だ!!」

「すごいぞ、コスモレンジャー、すごいぞ、バカレンジャー!!」

拍手はしばらく鳴り止まなかった。

「これにて本日はコスモレンジャー対バカレンジャーのヒーローショーはお開きです。それではまたどこかで会いましょう。みんなでさようなら〜!!」

「さようなら〜」

 

「ごめんなさい、また私が迷惑かけてしまって」

美里は明日菜と夕映に謝った。今回ショーがめちゃくちゃになったのは自分のせいだと。だが二人ははじめから迷惑だと思っていないのだ。むしろばかげたショーがうやむやになり、感謝しているくらいである。結局あの鬼は超と葉加瀬の発明品として片付けられた。

コスモレンジャーたちはあのあとショーの後片付けを手伝ったあと、帰宅した。亜子はレッドとブラックにサインをしてもらった。ポラロイドカメラで二人に挟まれるように撮ってもらってご機嫌であった。

出席番号6番大河内アキラはアランにサインをねだった。アラン自身も昔は水泳部に所属しており、大会では記録保持者であった。アキラも同じ水泳部なので水泳の先輩であるアランに教授を願ったのである。アランはアキラを大和撫子と絶賛した。まき絵もピンクにサインをもらってご満悦であった。

ブラックは楓に君は忍者だろうと質問したが、はぐらかされてしまった。彼女はあくまで忍者ではないと言い張るつもりのようだ。

「ですが、あの鬼の同類がまた襲ってくる可能性は高いです。十分気をつけてくださいです」

「いざとなったら私のハリセンでなんとかしますって。これって鬼とかを一発で倒せる代物ですから」

明日菜はハリセンを手にして、ぽんぽんと左手を叩いた。正確には召喚された化け物を元の世界に送り返すだけだ。

「でも、どうして?ここ数年狙われることなどなかったのに・・・」

高校時代美里は邪悪な欲望の持ち主たちに、執拗に狙われたことがあった。攫われたのも一度や二度ではきかない。本人はなぜ今になって自分が襲われたのかわからないのだ。それに先日このかと一緒に捕まったことがあるが、今思えばあの巨人は自分だけを狙っていたのだ。そして自分を人質にし、蓬莱寺や刹那たちを殺そうとしていたのである。

自分が怖くなった。また自分の力で人に迷惑がかかると思うと、怖くてたまらなかった。

その横顔を明日菜は心配そうに見つめていた。

 

「やはり狙われたのは美里先生だったか」

「・・・」

ここは女子中等部の屋上、刹那と真名がいた。彼女らはここでヒーローショーを見物していたのだ。くだらないとぼーっと眺めていたが、まさかあの化け物が再び現れるとは、そして、美里を襲うとは夢にも思わなかったのである。だが駆けつける前にすべてが解決したのだから、コスモレンジャーもなかなかのつわものだと思った。

「よかったな、近衛が狙われてなくて」

「よくないぞ」

刹那が厳しく言った。

「仮にも私たちの先生だ。誰が狙われたとかの問題じゃない。私はお嬢様も守るし、先生も守る。龍宮も協力してくれよ」

「はは、修学旅行から帰ってきてずいぶん変わったよ。まあ、私はいいと思うがな。これで大好きなお嬢様と一緒にお風呂には入れたらどれだけ・・・」

「た、龍宮!!私はそういうふしだらなことは!!」

「じゃあネギ先生がいいのかな?」

「もう!!」

刹那は顔を真っ赤にして怒っている。真名はそれを見てあははと笑った。

 

つづく

 

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あとがき

 

今回は前から書きたいと思っていた、コスモレンジャーVSバカレンジャーの対決を書きました。正直人数が多いので苦労しましたがなかなかの出来だと思っています。大体時期としては単行本8巻くらいです。リンクしやすい登場人物が多いので逆に苦労しますね。

実はネギまのコラボは一話限りだったのですが、なぜか続き物になりました。

果たして収拾はつくのかどうか心配です。