ネギまVS魔人学園その5

 

美里は夢を見ていた。それは高校時代の仲間たちの夢であった。夢の中では仲間たちがどんどん傷ついては倒れ、足下は彼らの血で満たされていた。そしてその血たまりに自分の顔が写る、その瞬間もう一人の自分が現れると彼女にこう告げるのだ。

「あんたがいるだけで、あんたの大切な仲間たちは死んでいくんだよ。そう、あんたの教え子もね・・・」

すると仲間の遺体が、3−Aの生徒たちに変わっているのである。そして彼女たちは美里に向かって恨み言を言うのだ。

「クルシイ・・・」

「アンタ、アンタノセイダァ・・・」

生徒たちは美里に群がると、そのまま彼女に覆い被り、あとには屍の山のみ残った。

 

「はっ!!」

美里は起き上がった。寝汗でびっしょり濡れれていた。外は月が出ており、明るかった。

美里は額を右手で支えると、はぁとため息をついた。

また、あの夢。

自分の力がまた人に迷惑をかける。今度は何の力もない生徒たちが巻き込まれるのだ。美里の気分は落ち込んでいた。学校へ行くのが憂鬱になりつつあった。

 

「・・・では今日の授業は終わりです。あとは予習、復讐を欠かさないように。では」

「起立、礼!!」

今日も無事に授業は終わった。しかし、美里の気分は晴れない。生徒たちも美里の様子がおかしいことに気がついていた。

「あの、美里先生、大丈夫ですか?」

ネギがたずねた。

「え?ええ、大丈夫ですよ・・・」

美里は笑って答えたが、どう見ても大丈夫には見えない。美里はなんでもないと答え、職員室へ向かった。

「美里先生、本当にどうしたんだろう・・・」

ネギは彼女が心配だった。しかし、彼にはどうにも出来ないのだ。自分のことでも精一杯なのに、美里のような大人の女性の悩みなど解決できるわけがないのだ。そのことで悩んでいると後ろから声がかかった。

「先生どうなされましたか?」

ロングウェーブに豊満な胸、腰はきゅっと締まっており、ぱっと見たらモデルのような女性だが、れっきとした中学3年生。出席番号21番那波千鶴である。ちなみにクラスbPの巨乳だが、全クラスbPといわれても納得できる大きさである。泣きホクロがチャームポイントでもある。

「何か悩み事があるように見えますが、私でよければ相談に乗りますよ?」

「あの、いえ、悩みがあるのは僕じゃなくて・・・」

「悩みがあるなら私の胸をいつでも貸しますよ。はい」

そういうと千鶴はネギの両肩を掴むと、ぐいと自分の胸に押し付けた。あまりの大きさにネギの顔は胸に埋まってしまった。

「ちづ姉・・・、ネギ先生苦しんでるよ・・・」

突っ込みをいれたのは出席番号28番村上夏美である。そばかすをちょっと気にしている普通の女の子。ちなみに千鶴と委員長の雪広あやかとはルームメイトである。この二人はネギの正体は知らない。基本的に一般人に魔法をばらすのは危険なのだ。

「ふふふ、どうですか、ネギ先生、気持ちよかったですか?」

「あう、あうう・・・」

ネギはある意味恍惚の表情を浮かべていた。窒息寸前に助かったような感覚だ。

「で、先生。先生は何を悩んでいたのですか?」

「え、えっと、実は美里先生が元気なくて・・・」

美里が今日一日元気がなかったのは二人とも知っている。

「もしかしたら、美里先生は慣れない学校生活でストレスがたまっているのかもしれませんね・・・」

「そうかな?元気がないのはここ数日だと思うけど・・・」

特にコスモレンジャーとバカレンジャーのヒーローショーから元気がなくなったと思っている。夏美は演劇部所属なので、そういった細かい表情は見逃さないのだ。

「さすが、夏美ちゃんね。将来のオスカー女優賞は間違いないわ」

「そんなこと・・・」

千鶴に誉められ、夏美はもじもじしている。彼女は自分があまり可愛いとは思っていないのだ。3
Aには可愛い子が多いから、自分は見劣りしていると思っているのだ。

「そうだ、息抜きに夏美ちゃんの演劇部に顔を出してみませんか?今日は特別講師が来る日なので、いい息抜きになると思いますよ?」

確かにそうかもしれない。ネギは早速美里を誘いにいった。

 麻帆良学園の特製ホールに演劇部員が集まっていた。照明やその他の機材が充実しているのだ。ネギと美里はホールの後方にいた。その場には千鶴と出席番号3番朝倉和美もいた。和美は取材のために報道部としてここにいるのだ。ちなみに彼女はクラスbSの巨乳なのだ。夏美や千鶴たちと仲がよいが、夏美は彼女らの胸と自分の貧弱な胸を見比べるとため息が出てしまうのである。

「でも、普段より警備が物々しくないですか?ホールの入り口には警備員さんがいらっしゃいますし」

千鶴は不思議に思った。確かに特別講師を呼んでの部活にしては、警備が物々しかった。ネギたちもネギが教師でなければ絶対立ち入り禁止になっていたところであった。

「すると、今日の特別講師はピンと来たね。うふふ、誰だろ〜」

さてステージには演劇部顧問が上がり、マイクを手にして挨拶を始めた。そして、本日の特別講師を紹介した。

美里は驚いた。特別講師はかつての仲間、舞園さやかであった。彼女は5年前に比べるとずいぶん美しくなった。化粧をしているのもあるが、着こなし、仕草など随分様になっていた。それに女性としての美しさもにじみ出ている。舞園さやかが講師なら、警備が厳戒態勢なのもうなづける。彼女は高校時代演劇部に所属しており、母校の学園祭にも仕事を切り詰めて参加しているのだ。

今彼女は脂が乗り切っており、テレビでは引っ張りだこ。出すCDはすべてミリオンセラー。彼女は仕事で忙しいのにわざわざここに講師に来ているのだから、彼女がいかに演劇が好きかわかる。

彼女の指導はなかなかのものであった。演劇部員たちは一人一人指導され、しかもそれが正しいのだ。彼女は指導者としても一流のようである。

「さやかちゃん、ひさしぶりね」

「あ、美里先輩!まさか先輩に会えるなんて」

ステージ裏で美里は舞園に会った。彼女も久しぶりの知人に会えてうれしかった。さらに知人は彼女だけではなかった。霧島諸羽であった。彼も5年前の仲間である。当時は高校1年生でまだ少年の面立ちが抜けていなかった。同級生の蓬莱寺を師匠として崇めていた。フェッシング部所属で、剣の腕はなかなかのものであった。しかし、気が弱いため、あまり自信がなかった。だがこの5年は彼を大人に変えた。身長も美里を超えているし、顔立ちも凛々しくなっている。

「美里先輩も随分綺麗になりましたね」

霧島は誉めた。少し頬を赤く染める美里。

「うふふ、霧島くんもお世辞がうまくなったようね」

「あら、霧島くん、私は綺麗じゃないわけ?」

舞園は膨れている。霧島が美里を誉めたのが気に入らないのだ。

「ご、ごめん、さやかちゃん」

すると舞園はあっはっはと笑い出した。もちろん本気になどしていない。ただ霧島をからかっただけなのだ。

「そうだ、美里先輩。私と一緒に舞台へ上がってみませんか?」

「え?でも・・・」

「美里先輩のセリフは少ないですから、大丈夫ですよ」

舞園は強引に決めると、演劇部員たちに衣装を用意させた。その間ネギと朝倉が霧島に話しかけた。

「あの、僕は女子中等部3−Aの担任教師で、ネギ・スプリングフィールドと申します。よろしく」

「どうも。僕は霧島諸羽です。今大学に通ってるんですよ。よろしく」

霧島はにっこり笑うとネギに握手した。

「え?10歳くらいの子が先生?」

舞園は目を丸くして驚いていた。慣れっこなのか、ネギはあははと笑った。

「霧島さんは美里先生の知り合いなんですよね?そして、舞園さやかの恋人でもある・・・」

「こ、恋人ではないですよ!!もう!!」

和美が質問すると、霧島は真っ赤になった。あたふたとあわてている。本人もまんざらではない様子だ。

「で、なんで今日は麻帆良学園に来たんですか?もしかして美里先生を守るためにじゃないですか?」

一瞬、霧島の顔が険しくなった。ネギも和美の発言に驚いていた。

「どういう意味ですか、朝倉さん!!」

「これは私の勘だけどさ。美里先生は昔の知人を会ったところを襲撃されたよね?2回も。舞園さんと霧島さんが美里先生の知人なら、学園長先生辺りが霧島さんに警護を依頼したのかなって」

「でも、すごいですよ。たったそれだけでわかっちゃうなんて。さすが報道部です!!」

ネギは本気で感心している。和美は照れくさそうに、右頬をぽりぽりとかいた。

「実際のところ、霧島さんのネギ先生に対するリアクションで気づいたんだよね。普通なら10歳の子供が先生なんておかしいじゃない、舞園さんは驚いていたのに、霧島さんはまったく普通に接してたよね?初めから知ってたなら驚くはずないもんね。どうですか霧島さん」

霧島は驚いた。まさか、自分の目的を暴露されるとは思わなかったからだ。

霧島は自分がここへ来た目的を小声で話した。舞園がこの学園で演劇部の講師に来るのは以前から決まっていたことだが、霧島は2日前学園長の使いに依頼を受けたのである。美里葵が危ないので警護をしてくれないかと。もちろん、高校時代の先輩の危機に霧島が黙っているはずがなかった。彼女が狙われるのはほとんどが当時の仲間と出会っている時に限定されており、2日後には仲間の一人である舞園が演劇部の講師として招かれるのだ。霧島なら事務所の人も彼を知っているし、舞園自身もリラックスできるという理由で、警護を依頼されたのである。もちろん報酬として図書館島での勉強を約束されているのだ。ただ霧島は絶対美里にこのことを伝えないでくれと頼んだ。自分のせいで、霧島の勉強を邪魔したのかと思うと、美里は絶対落ち込むと思うからだ。もちろん、ネギも和美もそんなことをしゃべる気は一切ない。ちなみに霧島は学園長からネギが魔法使いだということを教えてもらったから、ネギに会ってもそれほど驚かなかったのである。

さて舞台の上では舞園と美里、それに夏美が演技をしていた。劇の内容はとらわれの姫を救うため、王子が悪い魔女と戦う内容であった。とらわれの姫は美里で、魔女は舞園である。王子はもちろん夏美である。ネギと和美は観客席の後ろの席にいた。2度あることは3度ある、また美里を狙う輩が来ないとは限らないのだ。学園長が事前に手を打ったこともあるし、油断はならない。

舞台は白熱していた。そして、熱が一気に放出するその瞬間事件は起きた。

ひゅん!!

夏美の後ろになにやら黒い影が落ちた。それは真っ赤な肌をした赤鬼であった。身長は170くらいと今までの鬼より小柄だが、それは夏美の喉に鋭い爪を向けていた。突然の出来事に夏美は動けないでいた。少し体も震えていた。

「ククク、オマエラ、王子ノ命ガオシイナラ、タガイ二殺シアッテモラオウカ?」

なんと恐ろしいことを言うのであろうか?敵対していた姫と魔女が王子のために殺し合いをしろと強要しているのだ。演劇部員は台本にない展開なので驚いている。でも、すぐ騒がないのはもしかしたらアドリブなのかもしれないからだ。

「オイ、ソコノすてーじ二隠レテイルオマエ。出テキテコイツラト一緒二殺シアエ」

鬼はステージの外にいる霧島にも出演を要請したのだ。そして彼に美里と舞園を殺させようとしているのである。なんと卑劣な鬼であろうか。鬼は本物の短剣を2本放り出すと、美里と舞園、霧島は剣戟を繰り出した。

「王子、必ずわたくしがお助けしますわ!!」

「ほほほ、魔女の名にかけて、王子はわらわのものになるのですわ!」

美里と舞園は劇に見せかけるため、アドリブで演技している。いつの間にかとらわれの姫が戒めを解いて、魔女と対決しているのだ。演劇部員もこの急展開に沸きあがっている。その上美形の男性の乱入に、黄色い声が上がっていた。

「オマエ、モット本気デ殺シアエ。デナイト、コイツノ命ハナイゾ?」

鬼は霧島に向かって命令した。鬼の爪が夏美の喉に刺さろうとしていた。仕方なく霧島は美里と舞園の衣装を切り裂く程度にとどめた。

「モット、本気デヤレ!!」

ぷす。

「ひゃあ!!」

夏美は小さな悲鳴を上げた。喉に痛みが走る。爪の先が夏美の喉に刺さったのだ。ぷっと小さな血が吹き出た。げらげらと鬼は笑っている。

「殺セ、殺セ、殺シアエ!ヒッヒッヒ」

霧島たちは手も足も出ない。このままかの字らと殺しあうしかないのか!?

 

(ネギ先生。これってやっぱり!)

和美がネギに耳打ちした。やはり鬼が襲撃してきたのだ。だが、夏美が人質として捕らえられているので、手も足も出ない。

(ど、どうしましょう、朝倉さん・・・)

(幸いあの鬼はネギ先生のことは知らないみたいだね。ここらへんに付け入る隙があるんだけど、どうしたら・・・)

するとステージの上に一人の女性が現れた。千鶴である。彼女は賢者の衣装を着ており、髭を蓄え、長い杖を持っていた。ただし、あんまり似合ってない。鬼も突然の闖入者に呆然としていた。

「王子よ。その悪魔に屈してはなりません。残念じゃがおぬしには命を諦めてもらうしかないのう」

千鶴はシワガレ声でしゃべった。夏美は泣きそうになってる。

「そ、そんな〜、ちづ姉〜」

「さあ、ごらんなさい。朝日が昇ろうとしています。悪魔とともにあの朝日とともに消滅するがいい!!」

一体彼女は何を言っているのだろうか?千鶴は杖を観客席に向けた。その先は和美が座っている席だ。

ぱしゃあ!!

「ギャア!!」

和美が突然カメラのフラッシュを焚いた。一瞬鬼の目がくらむと、千鶴は鬼に走りより、夏美に体当たりをかました。鬼は再び夏美を人質に取ろうと駆け寄ったが、霧島が前にふさがっていた。

「唸れ、剣よ!!螺旋斬り!!」

霧島は剣を振るった。すると剣から真空の刃が飛び出る。螺旋斬りは体内で螺旋状に練った気を剣にのせ、自分の正面に向けて打ち出す技である。

「わらわの呪い唄、聞くがよい」

舞園も負けじと技を繰り出す。彼女の力は唄なのだ。自分の望む効果を意識しながら唄うことで様々な効果を生み出すのである。鬼は体が動かない。そして!

 

「ひさしぶりに行きます、魔女よ!!」

「うむ、霧島よ、行くぞ?」

舞園はあくまで舞台の演技として役を続けていた。

「霊歌剣乃舞!!」

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!

鬼は消滅した。そして舞台は幕を引き、あとには盛大な拍手が沸いたのであった。

 

「ひどいよ、ちづ姉。どうなるかと思ったよ・・・」

「ごめんなさい夏美ちゃん。まさか葉加瀬さんのロボットが暴走するなんて、夢にも思いませんでしたから」

結局舞台での出来事は全部演出ということで話がついた。あの鬼は葉加瀬聡美の暴走ロボットということでごまかせた。麻帆良学園の生徒は基本的にのんき者で、CGとかいえばごまかせるのである。

「でも和美が私の暗号を理解してくれて助かりました。ありがとう和美」

そう舞台での千鶴の演技は和美に対する暗号なのだ。そして、彼女にフラッシュを焚かせ、その隙に夏美を救うのが目的だったのである。

「まあね、でも無事に済んでよかったよ」

和美は後頭部に手を当てて笑った。

「ですが、夏美ちゃんに体当たりをする前に不思議なものを見たのですよ。和美の後ろでネギ先生が先端にお星様がついている可愛らしい杖を振るっていたんです。きっと和美のフラッシュに合わせて、魔法使いのように振舞ったのですね。うふふ」

千鶴は笑っていた。ネギと和美は冷や汗をかきながら笑っていた。実際のところ和美がフラッシュを焚くと同時に、ネギは無詠唱魔法を使ったのである。千鶴はフラッシュのおかげと思っていたが、実際はネギの魔法で鬼の目は潰れていたのであった。

舞園も霧島もすでに抗議を終えて帰宅している。ただし霧島は泊りがけで図書館島で勉強することになっている。なんでも彼は弁護士を目指すため、合格率3パーセントといわれる司法試験突破のため、猛勉強しているのである。それを知った美里はますます恐縮してしまった。霧島はいい息抜きになったといってるが。

結局また自分のせいで仲間を教え子たちを巻き込んだのである。しかも夏美を傷つけてしまったのだ。夏美は気にしなくていいといったが、美里の気がすまない。彼女はますます落ち込んでしまったのだ。

(先生、こりゃ霧島さんが学園長先生に呼ばれたことは内緒にしたほうがいいね)

(そうですね)

こうして舞園さやかを講師として迎えた特別授業は終わった。しかし、今日の出来事は美里葵に深い傷を与えたに過ぎなかった。

ネギはそんな彼女が心配でならなかった。まだ彼女を狙う輩がいる。ネギは自分の杖をぎゅっと握ると戦いを決意するのであった。

 

続く

 

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あとがき

 

今回は魔法を知らない那波千鶴と村上夏美の登場です。さやかとは演劇部つながりでちょいと無理があったと思います。ただ朝倉和美だけ魔法を知っているので、魔法関係の事件が起きても対処できるんですね。今回は割りとうまくまとまったと思いました。果たして物語りに収拾がつくかは不明ですが。全員出したくてもネギまではまだまだなぞの多いキャラが多いので、難しいかもしれません。では。