九龍武装学園紀

 

「今日は転校生を紹介します」

「オッス!!オレ武藤カズキ!!」

清楚な女性教師の紹介に転校生の武藤カズキは元気いっぱいに挨拶した。

ここは新宿にある全寮制の高校、天香学園。カズキはこの学園に転校してきたのだ。理由は簡単、彼は錬金戦団、大戦士長坂口照星の依頼でここに来たのである。カズキの目的は天香学園の墓地にある遺跡の調査である。

カズキが転入されたのは3年であった。カズキは2年生。なぜだろうか?

「かつて戦士津村斗貴子は天香学園に潜入しています。その際に生徒会長、阿門帝等に顔を見られています。それに問題のある人間はすべて3年生に集中しています。気をつけてください」

カズキは照星の言葉を思い出す。あと照星から言われたことがある。基本的に自分の正体は隠すのはもちろんだが、もしばれたら自分の事は錬金戦団の戦士ではなく、ロゼッタ協会のトレジャーハンター、宝探し屋と名乗れとのことだ。照星にはロゼッタ協会の知人がおり、その人からあずかったものがあった。それは手の平にすっぽり収まる通信機であった。

名前はHANTという。

遺跡の中でも普通に使える優れものだ。

「では武藤くんはどこの席に・・・」

女教師、雛川亜柚子は教室を見渡した。

「はーい。先生。私の隣が空いてまーす」

一人の女生徒が立ち上がり手を上げた。ダブルシニヨンヘアの元気な女性であった。

「そうね。八千穂さんの隣が空いていたわね」

「えへへ」

八千穂と呼ばれた女性は嬉しそうに笑った。

 

 

屋上では皆守甲太郎が授業をサボって昼寝をしていた。

彼はいつもラベンダーのアロマを吸っていた。彼はとにかく無気力であった。生徒はおろか、教師の言葉など一切耳にしない男であった。

そのくせカレーライスが大好物で、学園の敷地内にあるマミーズの豊富なカレーメニューを制覇してしまった兵でもある。

この学園の校則は厳しい。違反者は容赦なく生徒会執行委員に処罰される。もっともそれは墓地に近づいた者のみに厳しいことは一部の人間しか知らない。

それなのに皆守は処罰されることなく自堕落な生活を続けていた。彼にはある使命があるのだがどうにもやる気が起きない。動きたくないのだ。

もう昼休みが終わる。しかし、皆守は放課後になるまで眠るつもりだ。彼は普段から寝ていたいのだ。起きていると嫌なことだけしか目に付かない。夢の世界のほうがずっといい。

ぎぃ。

屋上の扉が開いた。誰かがここにやってきたのか。せっかくの昼寝が台無しだ。

それは同じクラスメイトの八千穂明日香であった。その隣には見たことのない男子生徒がいた。

「あっ、皆守くん。ここにいたんだ!!」

八千穂は相変わらずでかい声を張り上げる。この女は悪意がない分性質が悪い。他の連中はすでに皆守など放置しているのに彼女だけはしつこく話しかけてくる。

「なんだ八千穂か・・・。隣にいるのは誰だ?」

「うん!今日転校してきた武藤カズキ君だよ!!武藤くん、この無気力高校生は同じクラスの皆守甲太郎くんだよ!!」

八千穂は耳がキンキンするような高い声をあげる。耳を塞ぎたくなる。

転校生。

この学園に転校してくるやつはみんなワケありだ。転校生だけでなく新任教師もいつの間にか行方知れずになっている。警察が介入することはない。ありえないのだ。この学園ではそうなっているのだ。

「オッス!オレ武藤カズキ!!よろしく皆守!!」

カズキは手を差し出し、握手を求める。こいつも八千穂と負けずに劣らない鬱陶しい男だ。こいつの後ろに何があるかは知らないが、一応警告だけはしておこう。

「武藤、この学園で平和に暮らしたければ生徒会には逆らうなよ」

俺は忠告した。一応な。これで転校生が忠告を無視しても俺には関係ない。こいつの目的が学園内にある墓地だろうとしてもどうでもいいからだ。

俺は誰とも関わりたくないんだ。生きていたくもないんだ。

俺の眠りを覚まさないでくれ、俺の安眠を邪魔しないでくれ。俺にとってこの世はまぼろし、夢の中こそ現実なのだ。

 

 

「なんで俺はこんな目にあっているんだ?」

皆守は無関係どころか、カズキたちにずるずる引き回されていた。

あの夜、皆守は思うところがあってカズキの跡を追いかけた。彼は男子寮をこっそり抜け出し、墓地へ向かっていった。

墓地には八千穂とカズキが墓地の中をうろちょろしていた。そして墓地にある地下へと繋がる穴を見つけたのだ。

皆守は苦虫を噛み潰した顔になった。皆守はある人との約束がある。ある人は自分に過度の期待を寄せていた。自分は人に期待される人間ではないと自傷していた。

とりあえずこいつらを止めるべきだ。皆守は散歩を装い、ふたりに声をかける。そこから運命の石は坂の下をノンストップで転がり落ちていったのだ。

八千穂曰く、武藤カズキは宝探し屋だという。たしかカズキの右手には奇妙な武器が握られていた。あれが宝探し屋にとって必要なツールなのだろうか?

カズキもそうだが八千穂は墓地にある遺跡に興味を抱いていた。今日、放課後になったら遺跡に潜るつもりらしい。

厄介ごとは面倒だが、あのふたりを放置するわけにはいかない。自分も同行しなくてはと、カズキに自分の連絡先を教えた。

今日は別な点で厄介事に巻き込まれた。

音楽室で女子生徒が何者かに襲われた。彼女の両手はミイラのように干からびていたのだ。

急いで保健室へ運んだが、保健室の主である中国人、劉瑞麗は慌てもせず煙草をふかしていた。まあ、冷静沈着でなければ保険医だけでなくカウンセラーは務まらないだろう。

カズキは瑞麗を見て、頬を赤くしたが、頭を振ると、瑞麗を怒鳴りつける。

「先生!!急患なんだ!!煙草は後にしてくれ!!」

カズキの真剣な声に、瑞麗は渋々女子生徒を診察した。カズキは見た目だけではなく、中身も熱血漢だった。

 

 

「よーし、この遺跡に取手を救う算段があるんだな?」

カズキと八千穂、皆守の3人は遺跡の中に降り立った。中は広い。とても新宿の真ん中に建築されたとは思えないつくりだった。

話は放課後に戻る。皆守の保健室仲間の取手鎌治が頭痛に苦しんでいたのだ。その原因が取手の姉が死んだことにある。取手はショックで姉の死を忘れてしまった。しかしあまりに綺麗さっぱり忘れていたことに瑞麗は疑念を持つ。彼女曰く、取手の症状が遺跡の中にあると判断した。

そうなるとカズキと八千穂はやばいくらいにはしゃぎだした。ふたりとも今日知り合ったばかりの取手を救うことに盛り上がっていた。

馬鹿馬鹿しい。こいつら正義の味方のつもりか?誰も他人を救うことなどできない。他人を救えるなんておこがましいにもほどがある。

「俺は人を救える方法がひとつでもあるなら、そちらに賭ける!!」

カズキは迷いなく答える。皆守はもじゃもじゃな髪をかきむしりながら言い放つ。

「お前はそうやって困っている人を助けて回るつもりなのか?」

「目の前で困っている人がいたら救うのは当たり前だろう?」

カズキの答えはきっぱりとしていた。皆守はカズキの瞳の輝きに目が潰れそうになった。

勝手にしろ。最初はそう思った。しかし、馬鹿らしいと思いながらもカズキには何か感じるものがある。それは光だと思う。夢の中に漂う自分ですら光を感じるくらいだ。結局皆守はカズキと付き合うことにした。

 

 

カズキの武器は変わったものだった。ランスのような武器だが、戦闘においてはその形状を絶えず変形し続けているのだ。最初に心臓のところに手をあて、「武装錬金」と叫んでいた。

カズキはHANTを使いながら遺跡の中の罠を解除して回った。そして遺跡の奥には取手が待ち構えていたのだ。ああ、音楽室で女子生徒を襲ったのは取手だったのか。恥ずかしがり屋の彼はお天道様には見せられないサイケファッションに身を固めていた。

「墓から出て行け・・・」

「どうして取手くんが?」

「僕はこの墓を守る墓守だからさ・・・。墓を荒らすものには呪いを!!」

取手が襲ってきた。取手の両腕は常人の倍以上の長さだ。まさに蟷螂の斧と呼ぶべきものだ。その両腕を器用に振り回し、その手の平からは人間の精気を吸う魔人の力を得ていたのである。

墓守、生徒会執行委員。

(まさか取手がそのひとりだったとは)

皆守は心の中でつぶやいた。

「輝け!!俺の武装錬金!!」

カズキのランスが取手を吹き飛ばす。取手はダメージを負い、ばったりと床へ倒れた。カズキははぁはぁと息をしていた。

「大丈夫武藤君!?」

「うん、大丈夫・・・。それにしても、取手の力って、何かに似ているんだよなぁ・・・」

カズキは頭をひねった。ひねっても答えは出てこない。代わりに取手の口から黒い砂が出てきた。

黒い砂は部屋中に広まると、ひとつの物体に変わった。それは獣のような化け物であった。人間の女の頭部に胸には男の顔が出ていた。

『天地開闢!!墓を荒らすのは誰だぁぁぁ!!!』

「サンライトハート!!」

カズキは問答無用でサンライトハートとやらを化け物の女の顔に突き刺した。

 

 

「それで手に入ったのは楽譜ってワケか」

皆守が言った。

大型の化け物を斃した後、化け物は数枚の楽譜に変わったのである。それは取手の姉が死に間際に弟に書き残したものであった。

「そういえば武藤。おまえ、なんであの化け物の顔に武器を刺したんだ?」

「うん、なんというか、あの化け物の頭部から何か心臓音が聞こえたんだ。俺の核鉄に似た何かを・・・」

「核鉄?」

皆守が聞き返すと、カズキはしまったといわんばかりに否定する。皆守も深く突っ込むことはやめた。

「あの化け物はホムンクルスとは違う何かだと思う。それに取手の力も何かに似ている気がするんだけど、思い出せないや」

ホムンクルスだのナンダの言われても理解できないが、カズキの表情は晴れやかだった。この男にとって秘宝とは金銀財宝ではなく、昨日今日知り合った取手を救えたことであった。

取手は姉の死後ピアノから遠ざかっていたが、音楽の授業で特別講師をすることになった。事実彼の演奏はプロ級なのだ。カズキもピアノは詳しくないが、八千穂と一緒に彼の演奏に聞きほれていた。

一方皆守はというと、墓地に来ていた。その手には温室で摘まんだラベンダーの束が握られていた。彼は墓標の前に立っているが、墓標には名前が記されていなかった。

(名前は思い出せないアンタ。俺はあの男に期待しているのか?期待していいのか?俺にはやるべきことがあるんじゃないのか?なあ、答えてくれよ。俺は何をすべきなんだ・・・。

死んだ俺には何ができるというんだ・・・。俺をこの悪夢から救い出してくれるというのか、あの男が)

皆守は心の中でつぶやいた。もちろん、誰も彼の問いに答えるものはいない。

9月半ばでまだ夏の香りは残っているが、いつかは秋の風が吹き飛ばすだろう。一年はそうやって新しい風が季節を彩りに変えていくのだ。しかし、人の心だけは人の起こす風でしか変えられないのである。

 

続く

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2009年2月6日

 

いきなり新連載と来た。

この話は1時間チョイで書いた。やはり私の場合、だらだら書くより一気に書いたほうが面白く仕上がると思う。

武装錬金と九龍のコラボは実は1年前から構想を練っていた。しかし、すぐには書けずだらだらした日々が続いた。

九龍のコラボは難しいのだ。何せ天香学園は全寮制で登場人物も限られている。ならばカズキを転校生として送り出せばいいのだ。それなら他のキャラとも絡むことができる。

では。期待して待ってくれ。