ネギまVS魔人学園外伝その2

 

一人の少年が屋台で買ったりんごをかじった。背丈は10歳くらいで、学ランを着ている。顔つきは同年のそれとは違い、ぎらぎらしている。

少年の名前は犬上小太郎。今は麻帆良学園に預けられた身だ。

かつて関西呪術協会に身を置き、西洋魔術師と敵対したことがある。西の連中は西洋魔術に被れた関東魔法協会を眼の敵にしている。もっともそれは下のものだけで、長同士は親子関係なので仲はよい。現に西の長の娘は、麻帆良学園に通っている。

小太郎は大人の事情よりも、単に従者に守ってもらう西洋魔術師が卑怯だ、ぶん殴りたい。ただそれだけである。特に男は女性をパートナーにすることが多く、フェミニストの小太郎は気に入らない。もっとぶん殴りたいくらいだ。

ただし例外もいる。それはネギ・スプリングフィールド。

彼との接触は京都のゲームセンターであった。符術使いの天ヶ崎千草の命令で彼の調査をしていた。初印象は好感的であった。のちに彼との戦いを重ね、今に至る。

さて小太郎は処罰となり関西呪術協会に捕らえられていたが、ある事情により彼はとある瓶を手に入れた。そしてとある悪魔により記憶を封じられた。そしてネギと一緒に戦い、悪魔を撃退した。のちに彼はネギの教え子である那波千鶴に預けられた。

今日は千鶴や夏美が演劇部の特別講義に出席している。ネギも一緒だ。付き合う相手もおらず、小太郎はひまつぶしにぶらぶら歩いている。何か面白いことはないかときょろきょろ見回していた。

はてな。

今匂いがした。狼の匂いだ。狗族でなければ嗅ぎ取れない代物だ。

匂いの元は一人の男であった。よろよろの白衣を着た、ぼさぼさの髪で目をしょぼしょぼとさせて、煙草を吸っている。男は退屈そうに歩いていた。だが小太郎は男が持ち鋭い目に気づいていた。

小太郎は人間ではない。狗族と人間のハーフだ。赤ん坊の頃に捨てられ、人間にも妖怪にもはぐれ者扱いされてきた。とはいえ本人にとってはどうでもいいことだ。人間だろうが、なんだろうが小太郎にとっては自分の快楽以外、興味がなかった。強い相手と戦う、強くなる喜び、それが小太郎の原動力であった。

小太郎は興味を持つと男へ近づいた。

「おっさん」

小太郎は男に声をかけた。男は退屈そうに答える。

「・・・なんだ?」

「おっさん、狼の匂いが・・・」

がしぃ!!

男はいきなり小太郎の首を片手で絞めた。小太郎の小さな身体が高々と持ち上げられる。男は虫の居所が悪いのか、額に青筋があった。小太郎は苦しそうだ。だがこれくらいで参る彼ではない。むしろ相手がやる気を出したのが嬉しいのである。

だがそれを見た周りにいた一般人が悲鳴を上げた。

「幼児虐待だぁ」

「通り魔だぁ!」

「人殺しぃ!!」

小太郎とて黙っていない。むしろ相手が積極的にアプローチしてくれたことが嬉しいのだ。

小太郎は右足で蹴った。気のこもった一撃だ。男の締め付ける力が緩むと、小太郎は右手から狗神を出した。影からうにょりと、数匹の犬たちが男を襲う。

ひゅん!!

男も小太郎もその場から消えた。通行人たちはまるで自分たちが夢を見ていたのだと思った。あとには陽炎だけがふらふらゆれているばかりであった。

実際は高速移動したためで一般人の目にはついていけないのである。

 

肉まんいりませんか〜。

「おいしいヨ〜」

四葉五月と超鈴音は一緒に肉まんを売っている。五月はふっくらした体格で愛嬌のある笑みを浮かべている。顔がコアラに似ているとも言われているが、それは彼女の魅力でもあった。超はお団子頭に三つ編みで中国人のような容姿をしている。ただ彼女は2年前以降の記録がほとんどなく、教師たちも首を傾げる存在だ。しかしふたりの作る肉まんは評判がよいので彼女の過去はここでは関係ない。彼女らは教室でよく売っているし、文化祭の準備期間には屋台を出しており、生徒だけでなく教師にもファンが多い。

たん。

何か音がした。壁を叩くような音だ。はじめは気のせいだと思った。

たん、たん!たぁん!!

あれ?気のせいじゃない。何の音でしょうか?

五月は超に聞いた。かわいらしいしゃべり方だ。

「気にすることないネ。きっとラップ音見たいなものヨ」

それもそうですね。

五月も納得し、再び肉まんを売り始めた。

 

五月たちが聞いた音は小太郎と男が建物の壁を蹴る音であった。三角飛びでまったく人には見えない。彼らが跳ぶたびに風が巻き起こる。女性のスカートがめくれ、抑える人も多い。たとえ身が軽くても常人にはありえない身体能力であった。右の壁を蹴り上げたと思えば、すぐ左の壁を蹴る。その際に拳のやり取りもする。

文章で書けば長いが、実際は一分もかかっていない。まさに光速の戦いであった。

このおっさん、おもろいで!!

小太郎は以前戦った悪魔、ヘルマン伯爵を思い出す。あの男はネギを誘い出すために人質を取ったが、あくまでネギとの戦いが望みであった。放出系の技を封じ、接近戦で勝負してきた。ヘルマンのパンチは魔法並の威力があった。

目の前のこの男は魔法を使わないが、凄まじい力を感じる。

いつの間にか学園の裏山まで来ていた。意識してやったわけではない。知らぬ間に人のいない場所を探したのかもしれなかった。そばには湖もある。

ここなら人もいない。思う存分力を発揮できる。

「犬上流・空牙!!」

左手をかざすと青白い光の塊を放出した。気弾だ。当たれば鉄パイプを思い切り地面に叩きつけるくらいの衝撃を受ける。

ばしゅう!!

男は右の裏拳で軽く弾いた。そして男の爪が鋭く飛び出る。

ぶん、とうなりを上げて、男の左手が空を切った。

小太郎の身体が、猿のように近くの大木に向かって、舞い上がった。両手、両足を縮めることで衝撃を弱めるのである。

男もその後を追い、瞬時に男の身体が跳ねる。小太郎の動きを予測していたようだ。

ひゅん!!

ふたりの身体が空中にぶつかると、小太郎は大木を蹴った。

男はバランスが崩れ、地面に手をつけた。だが瞬時に地面を蹴り上げると弾丸の如く小太郎に突進した。男の表情は狩りで獲物に止めを刺そうとする恍惚の笑みを浮かべていた。

にぃ。

唇で軽く笑った。この男は、こう笑えるのかと思った。

右手を高く上げ、そして力を込める。おそらく必殺の一撃かもしれない。小太郎の全身の細胞が縮み上がる感じがした。睾丸がぎゅっと腹の中へ引っ込んだ気がする。

小太郎自身が子供の頃からやばい仕事を繰り返し、食いつないできた経験のおかげであった。

逆に目の前の強敵を前に、全身の血が滾る感覚も覚える。精通はまだだが、股間に熱い血が流れる。思う存分この男と戦い、命の取り合いをしたい。こいつを膝まづかせ、男の顔面に自分の拳を叩き込んでやりたい。

憎いわけではなかった。怨んでいるわけでもなかった。

ただ殴りたい。戦いたい。身体が引き裂かれても、ぼろぼろになっても。

その一点だけであった。

「ルナティックスレイ!!」

「しゃあ!!」

びりびりと身体がしびれる。ふたりの全霊を込めた一撃が繰り出される。

ひゅん!!

男の頬に何か小さなものが当たった。そのせいか男に隙が出来た。

ばしぃ!!

小太郎の拳が男の顔面に決まった。眼鏡が壊れ地面に落ちる。

だが男の一撃はまだ死んでいなかった。

ばしゅう!!

小太郎が吹っ飛んだ。彼自身も身体が軽いせいか、まるで人間大砲の如く吹っ飛んだ。

小太郎の身体は上空を舞うと、放射線状に湖へ落下した。小太郎はそのまま湖へ沈んでいった。

 

男は壊れた眼鏡を拾うと、そのままは食いの胸ポケットに仕舞った。そして懐から煙草を取り出す。しんせいであった。

「・・・横で見学か?」

男は振り向きもせず声をかける。木の陰から一人の青年が現れた。水色のヨットパーカーに、ジーンズを履いている。どれも日に当てられ、色あせており、ぼろぼろであった。

だが服装と反して青年の顔は整った、男というよりも少年と呼んだほうがいいかもしれなかった。肌は滑らかで、肌理が細かかった。だが男の顔の相は少年の顔だちを残しつつも、どこか大人びたものを漂わせている。

「ひさしぶりですね。犬神先生。相変わらずさえない顔ですね」

「ひさしぶりだな、緋勇。相変わらず口の利き方と知らんようだ」

「もう少し先生らしくしていただければ、尊敬できるのですが」

「俺は先生らしくないか?」

「先生らしくないですね」

「ふん」

犬神と呼ばれた男は鼻を鳴らした。

「さっき俺にどんぐりを投げたな?」

「目の前で幼児虐待を黙認にするのは、よくないと思いましてね。お節介でしたか?」

「いや、俺も餓鬼相手に熱くなりすぎた」

「大方、狼の悪口を言われてきれたのでしょう。先生は昔から狼のことになると頭が真っ白になりますから」

「狼は仲間を家族を愛する生き物だ。血の飢えた狼など揶揄されると腹が立つ」

「じゃあ、彼と戦ったのはその理由ですか?」

すると犬神はばつが悪そうに、緋勇の目をそらした。

「あいつが狼の匂いがすると言ってきてな。そのせいでこんなことになった」

「同じようなものじゃないですか」

「同じようなものだな」

「ところであの少年は何者ですか?先生と対等に戦うなんて只者ではないですよ?」

「あれは狗族だ」

「狗族ですか?」

狗族。狼や狐の変化、つまり妖怪の類である。容姿はなろうと思えば人間の姿にもなるが、未熟な子供だと耳や尻尾が残ることがある。その中でもあの少年は人間の血が混ざっているとのことだ。

「ところでお前はなぜここにいる?」

「私はこの学園に用事があって来たんですよ。先生は・・・、想像はつきますが」

「お前がこの学園に用事があるってことは、何か常人には解決できないトラブルに巻き込まれたということか・・・」

犬神はふいに真顔になった。

「お前は在学当時からトラブルに巻き込まれる体質だったからな。卒業しても相変わらずトラブルに巻き込まれるのは、やはり体質だろうな。もしくは運命か、こればかりはどうにも治しようがない」

「言いたいこと言いますね」

「言いたいことは、言うさ」

「少しは元生徒に労う言葉はないのですか?」

「お前が労ってほしいって、たまか?」

「別に労ってほしくはないですね」

ふたりは生徒と教師の関係のようだが、どうにもふたりには剣呑な雰囲気が漂っている。

結局ふたりは別れた。結局ふたりは何の用事があったのだろうか?それは彼らだけしか知らないのである。最後に同級生の美里葵に会わないかと言われたが、緋勇はやんわりと断った。そう言った犬神も彼女には会ってない。

 

「小太郎君?どうしてお洋服がずぶぬれなの?」

ここは小太郎が居候している部屋だ。那波と村上、委員長の雪平あやかの3人部屋だ。委員長が金にまかせてリフォームした噂がある、一番広くて豪華だからだ。3人にはそれぞれ個室がある。神楽坂明日菜と近衛木乃香の部屋もかなり広いが二段ベッドを使っている。

今は午後7時、夕食時であった。千鶴は夕飯の仕度をしていたのだが、こっそりバスルームへ忍び込もうとした小太郎を見つけたのである。

「どうしてなの?」

「どうしてって言われてもなぁ・・・。男にはやらねばならんことがあるねん。だから・・・」

小太郎はおどおどしている。千鶴は仏のように手を合わせ、笑みを浮かべているが、雰囲気が怖い。菩薩様より、阿修羅様だ。

ゴゴゴ、と小太郎の耳に地鳴りの音が聞こえた。幻聴だろう。それほど千鶴が恐ろしいのだ。

「ほほほ」

満点の笑みを浮かべ、じりじりと小太郎に歩み寄る。死刑執行人が一歩、また一歩と近づく。小太郎はまるで死刑囚のように一歩づつ、確実に歩み寄る死に恐怖した。もちろん本当に殺されるわけがない、ただ小太郎にとっては同じことだ。彼の顔から脂汗がたらたら、と流れ落ちる。その横を村上夏美が見ていた。見るしかないのだ。彼女には小太郎を助ける術がないのだ。心の中で「小太郎君ごめんなさい」と念仏を唱えるように反復していた。表情がムンクの叫びの如く、引きつっていた。

ひぃぃぃぃ、やぁぁぁぁぁぁ!!

麻帆良学園学生寮にこの世とも思えない絶叫が響いたという。

 

続く

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あとがき

 

今回は

犬上小太郎VS犬神杜人です。時期的には千鶴たちが演劇部の特別講義に出席中の出来事です。暇を持て余す小太郎が狼のにおいがする犬神に喧嘩を売るという内容です。

今回も夢枕獏の色が強く、ネギまらしくないかもしれません。

ネギまは魔人学園に近い感覚があります。人ならざる力を持つ女子中学生たち、忍者、吸血鬼、ロボット、幽霊、陰陽術を扱う剣士、マッドサイエンティストなど、ほとんどがネギのクラスに固められており、ヒロインの明日菜にも秘密があり目が離せません。

ネギまはアニメやゲームにもなってますが、アニメは評判悪いです。私は面白いと思いますが。ゲームは18歳推薦です、下着なんて常識ですよ。コナミやる気まんまんです、6月にはマーベラスでGBA版、コナミだと7月下旬に続編が発売されます。

これからも期待大の作品です。