ネギまVS魔人学園外伝その4

 

ネギと明日菜たちはエヴァンジェリンの別荘にいた。別荘といっても麻帆良学園の敷地内には存在せず、別世界のある別荘だ。ここでの時間は一日だと、元の世界だと1時間しか経たない。エヴァ特製の別荘だ。彼女は不死のため今までしまっていたのだ。

ネギは教師の仕事の合間の一時間をこの別荘で修行に費やしていた。

ここは魔力が満ちており、エヴァも魔法が使えるのである。でなければネギの魔法の修行に付き合えない。ネギの血を吸えばさらに魔力が高まるので、修行の際には一日に一度、献血程度にネギの血を吸っているのだ。

今ここにはネギと神楽坂明日菜、近衛木乃香に桜咲刹那、宮崎のどかに綾瀬夕映、古菲に朝倉和美、さらに珍しく龍宮真名までいるのである。全員ネギが魔法使いだと知っている人間である。ほとんどはネギの不注意でばれてしまったが、ただ刹那は最初からネギが魔法使いだということを知っていた。

ネギは真名が苦手だ。仕事にはあくまで冷徹にこなす彼女が怖いのである。それに体格が中学生をはるかに上回っているからだ。モデルといっても通用するだろうし、映画館では成人と間違われるに違いないと思った。

「今日はずいぶん人が多いですね。普段なら僕とマスター、茶々丸さんくらいなのに・・・」

マスターとはエヴァがネギに呼ばせている呼称である。

「私が呼んだからな」

「マスターが?」

エヴァはみんなを集めると話を始めた。茶々丸が全員に紅茶を出した。熱々の紅茶がカップに並々入っている。みんなおいしそうに紅茶を飲んだ。

「近いうちに麻帆良学園にとある組織が襲撃してくる」

襲撃?エヴァは確かにそういった。あまり聞きなれない単語なので、どういう意味か理解できなかった。それにエヴァは人事のように言ったせいもあった。

「それって言葉の意味そのまま?」

和美が聞いた。うなずくエヴァ。

「えええ!!」

みんな驚いた。それはそうだろう、襲ってくる組織がどんなものかわからないが、襲撃されるとは思っても見なかったのだ。ただどんな組織かはわからないが、学園に襲撃するくらいだからろくな組織であることは目に見えている。

「だけどそれがわかっているならば、対策が取れるというものです。今日私たちを呼んだのはそのためではないですか?」

これは夕映だ。彼女はどんなときも冷静で、慌てふためく彼女らと違い、落ち着いている。彼女はちらりと真名のほうを向いた。

「だけどさ〜、明日菜とか桜咲さんはともかく、私らみたいに仮契約とかしてない人間まで呼ぶのはどうしてかな?何か理由があるとか・・・」

「ああ、そうだ。とある男、襲撃に対しての指揮官がお前らをテストしたいとさ。戦闘力がなくても何かに使えるとか言っていたし」

指揮官、それはどんな男なのだろうか?

「おい、出て来い」

エヴァに呼ばれ、一人の男が現れた。ヨットパーカーにジーンズを履いた男であった。服装はぼろぼろだが、顔立ちは女性のような肌をしている。優男に見えるが、顔の奥深くでは野生の色が伺える。

「こいつらに自己紹介しろ」

「どうも緋勇龍麻です。よろしくお願いします」

男、緋勇はぺこりと頭を下げ、挨拶をした。

「緋勇龍麻!?」

突然刹那が大声を上げる。普段は寡黙な彼女がこのように大声を出すのは珍しい。幼馴染に当たる木乃香が心配そうだ。真名も少しぴくりと反応した。

「せっちゃん、あの人知っとるんの?」

「いえ、直接会うのは今回が初めてです。ですが裏世界では超が付くほどの大物なのですよ。その人がじかに指揮を執る、これは一大事ですよ!!」

刹那は興奮している。よほど目の前の人物が雲の上の人間なのだろう。だが何も知らない明日菜たちにとってはただの優男にしか見えない。

「俺って大物だったのか・・・、知らなかった」

緋勇は首を傾げていた。本気で自分が大層な人間とは思ってない口ぶりであった。まるで他人事のようであった。

「自分では気づかなくても、周りがそう評価しているものですよ」

真名が口を開いた。おそらく彼女も緋勇のことを知っていたのだろう。彼女はかつてマギステル・マギのパートナーを務めたことがある。これくらいは日常的な話題であろう。年頃の女性には相応しい話題とは思えないが。

「裏の大物が関わるということは、今度の襲撃はものすごく危険だということになりますね」

夕映が言った。そういう彼女の表情はいつもどおりのシニカルだ。緋勇がどういった人間かはわからないが、刹那や真名が大物というくらいだから、信頼は出来る。

「俺、いや私が大物かはともかく、襲撃してくる連中はとても危険です。すでに学園長には話をつけてあります。私の仲間も当日には駆けつける予定です」

「で、相手の名前はなんですか?」

「薔薇十字財団です」

それを聞いた刹那と真名は驚いた。わからないのは明日菜たちくらいである。

「ローゼンクロイツ財団ですか!?」

「なるほど・・・、奴らならこの学園を狙ってもおかしくはないな」

彼女たちの口ぶりからして相当やばい連中かもしれない。緋勇は一通り説明すると薔薇十字財団こと、ローゼンクロイツ財団はドイツに健在する組織で、その活動内容は不明である。ナチスの残党と手を組んでおり、オデッサとも関わりがあるという。5年前に東京の大田区にある日本支部が何者かに壊滅されたとのことだ。そこでは子供を使った人体実験など悪魔の所業が繰り返されたとのことである。当時学院として偽装され、そこの学院長は超能力を研究し、子供を超能力戦士に育て上げたという。ただ学院長は学院崩壊後行方不明となり、真相は闇の中だ。

「それを潰したのが緋勇龍麻、当時高校生だったあなたの仕業と聞いているが?」

真名が言った。明日菜たちは驚きの表情で緋勇を見つめる。この男無法者ではないだろうか?

「当時私の同級生が学院に捕らえられたので、助けに行ったのです。そして学院長と超能力戦士を倒したのですが、証拠隠滅で学院ごと爆破したのですよ。まったく子供の頃物を大切にしろと教わらなかったに違いありませんね」

そういう問題ではないと思うが。全員、心の中でつっこんだ。

さらに緋勇は研究のことを教えた。超能力は幼年時にもっとも発動しやすいが、成人になるほど力が弱まるという。そのため成長抑止剤などで成長を止め、力を持続させたというのだ。

これを聞いた明日菜は怒った。人権法をなんだと思っているのだと。夕映は知られなければなんでもありだと思っている、子供のような連中だと侮蔑した。

「でも魔法はどうなのよ。確か学園長先生も、高畑先生も魔法使いなんでしょ?」

明日菜はネギに聞いた。実は魔力と気は別物で、外からの力を使うのが魔法、自らの力を燃焼させるのが気なのである。超能力は人間の第6感を利用するものだそうで、気の一種であろう。当時の超能力者は、念動力や先読み、予知能力や火走りなどがあったという。しかし、火走り以外の能力者は全員死亡したという。

「連中の目的がネギだとしたら、私たちはどうすれば・・・」

「いや、狙われているのはネギくんではない」

緋勇は明日菜を否定した。話の流れからして研究のためにネギが狙われているのではないかと思ったからだ。

「連中の目的は美里葵。今教育実習生として来ている人さ」

「美里先生がですか?」

ネギが訊いた。

「当時私の同級生が誘拐されたと言ったでしょう?その誘拐されたのが美里さんなのですよ。ローゼンクロイツは当時の研究資料を元に再び彼女を狙い始めたのです、私は彼女を守るためにここへ来たわけですよ」

「しかし5年間もその人たちは何もしなかったのですか?ずいぶん間が空いていると思いますが」

これは夕映の意見だ。美里が欲しいのならばなぜすぐ行動に移らなかったのか?なぜわざわざ彼女が麻帆良学園にいるときを狙ったのだろうか?

「君の名前は?」

緋勇が夕映に尋ねる。

「夕映、綾瀬夕映です」

「よろしい、夕映くん。君の意見はもっともだ。だが私は対策を練っていたのだよ。連中は何度か私や、仲間たちを付け狙ったが、どちらも撃退しているのだよ」

「なるほど」

「仲間の家に爆弾を仕掛けたり、家族を誘拐しようとしたが、全部失敗させましたよ。それで50人くらいは死にましたね」

「きっとろくに覚悟も決めてなかったのでしょうね、その人たちは。自分たちが殺されるなんて予想の範囲外なのでしょう」

夕映は納得した。だが明日菜たちは誰も知らない水面下でそんな恐ろしいことがあったのかと、身震いした。さらにさらりと殺人を暴露した緋勇がなんだか薄気味悪く思える。本人は害虫に殺虫スプレーをかけたくらいにしか思ってないようだ。

あと今まで美里を襲った魔物たちも薔薇十字財団の仕業だと教えた。遺伝子操作した生体兵器だという。魔者たちは美里を攫うよう遺伝子にプログラムを施されていたが、すべて失敗に終わっている。それに業を煮やした彼らがついに本腰をいれたわけということだ。

「つまり美里先生をこの学園に教育実習生としてよこしたのも、緋勇さんの差し金と言うことですね。魔法使いに囲まれたこの学園なら比較的安全ですから」

「安全には程遠いのもいるけどね・・・」

明日菜はちらりとエヴァを見た。闇の福音、確かに安全とは程遠い。エヴァはそれを見てむすっとした。

「その通りさ。それに襲撃の際の下ごしらえも半分終わっている。あとは私の仲間が来るのを待つだけです、君たちにやってもらいたい仕事は・・・」

「仕事は?」

全員が固唾を飲む。

「なにもないな」

ずこーん。

エヴァ、真名、茶々丸以外は全員こけた。

「だから君たちが何を出来るかをこれから判断するのさ。ある程度のことはエヴァさんから聞いているけど、実際はどうなのか、知りたいのですよ」

なるほどと納得した。

まずは明日菜と刹那が緋勇に向かって攻撃した。明日菜はアーティファクトのはりせんを取り出し、刹那はいつも持っている野太刀を取り出した。

「明日菜さん、緋勇さんはとても手強いと言われています。おそらくふたりがかりでないと勝てないでしょう、いや、かすり傷ひとつつければ幸運というくらいです」

「それって人間なのかしら・・・」

ふたりは左右から緋勇を挟むように攻撃した。明日菜のはりせん、刹那の居合い、どれもタイミングがばっちりであった。

ひゅん!!

どたぁ!!

「ひゃあ!!」

「うあぁ!!」

ふたりは投げられた。合気道とも柔道ともわからない投げ技であった。地面に叩きつけられ、ふたりはのびてしまった。木乃香は倒れた刹那に駆け寄った。

「ワタシの番アルヨ!!」

それを古菲が緋勇の背中を突こうとした。素人ではまったく目に追えない突きであった。

しかし瞬時にカウンターを決められてしまい、彼女の足を払った。彼女はしりもちをついた。

「あたた・・・、この男強いアルヨ。婿にしたいくらいアル」

「じゃあ次は私の番だな、くーは下がっていろ」

次に真名。彼女はモデルガンを緋勇に向けて撃った。モデルガンといっても真名が改造した特別製だ。二丁拳銃で凄まじい連激であった。

だが緋勇はすべての弾丸をかわし、彼女の手元まで瞬時に移動し、彼女からモデルガンを取り上げた。真名はすぐ両手を上げて降参した。

和美、夕映、のどかは緋勇のすごさに驚いた。成人男性と女子中学生なら比べる方がおかしいが、彼女らは中学生のレベルをはるかに超えている。特に古菲は彼女より体格、腕力が倍以上の男性を自らの拳で倒すことが出来るのだ。

とりあえず戦闘面はこれで終わり。彼女らは財団が用意するであろう生体兵器と戦ってもらうことにした。次に夕映たちを試験する番である。

和美は情報収集が得意だ。彼女には学園で不穏な人物がいないかを調べてもらう。あとは夕映とのどかだが、緋勇は彼女らを見てため息をついた。それを見た夕映はむかっとしたのか、口を曲げている。

するとのどかはおどおどしながら前へ出た。そして何か「アデアット」と呪文を唱えるといきなり本が出てきた。これはアーティファクトといい、マギステル・マギとパートナーを仮契約した者が扱える魔法のアイテムである。この本は名前を知っていればその人間が考えていることを絵日記として浮かぶのである。のどかはその本を手に取ると緋勇の名前を呼び、自分たちをどう思っているのかを質問した。気弱な彼女にしてみれば、緋勇に対するせめてもの抵抗であろう。

すると真っ白なページに文字が浮かんできた。だがそのページには、

『1+1=2、1+1=2、1+1=2・・・』

と不思議な文章になったのである。

のどかは驚いたが、種明かしは簡単だった。エヴァが前もって緋勇にのどかのアーティファクトを教えたのである。

緋勇はその本は心の中を読むのではなく、心の表面を読むものと理解した。前もって彼女の能力を知っていれば緋勇が今心の中で別のことを考えたように、途端に役に立たなくなるのである。緋勇はそれで和美が怪しいと睨んだ人物を質問して調べて欲しいと頼んだ。くれぐれも慎重に、敵にばれないよう注意した。もしばれれば今みたいなことが起きるとプレッシャーをかけたのである。夕映は気弱なのどかを補佐する役目になった。木乃香は医療班の手伝いとなった。

 

最後に夕映はエヴァに緋勇の関係を尋ねた。

なんでも緋勇は仲間たちとともに5年前に一度、エヴァに決闘を申し込んだという。結果は惨敗だった。仲間の一人が美里葵と教えた時、ネギたちは驚いた。美里は治癒の力が使えるといった。戦闘員ではない。それなのになぜ彼らは戦わねば成らなかったのか?

それは東京を護るため、大切な何かを護るために強くなる修行だったと言う。

東京を護るとは誇大妄想も甚だしいが、緋勇が言うと不思議に本当のことだと思えるのだ。この男は強さだけでなく、言葉にも重みがあった。

あと緋勇は彼女らに美里には自分のことを内緒にするようお願いした。敵に知られるのはまずいからだ。

さて別荘に出るまで時間があるので、緋勇はネギの修行を手伝った。

緋勇の気の力はたいしたもので、ネギでは歯が立たなかった。何度も何度も挑み、そのたびにネギは緋勇に負ける。

それを横で刹那と真名が見ていた。ふたりはなぜか水着に着替えているが、刹那はともかく、真名はモデル並みのスタイルで、その差は姉と妹のように見える。

「噂と違わぬ強さだな、緋勇龍麻は」

「そうだな。私もまだまだ修行不足だ。精進せねば・・・」

刹那はやる気満々だ。それを見た真名はやれやれと首を振った。

「だが刹那、お前は人を殺せるのか?せいぜい魔物を倒すくらいしかしたことがないだろう?」

真名のいうとおりであった。魔物は平気で倒せるが、大抵人と戦う時は相手を無力化させるのが常であった。人を殺したことは一度もない。

「あの男は確実に人を殺したことがある。まあ私の勘だがな。だが彼はすべてを飲み込んでいる、受け入れている。常に覚悟を決めている目だよ、彼の目は」

「・・・」

真名は緋勇は人を殺したことはあっても、楽しんで殺したことはない。常に自分が殺される覚悟を持っているのだといいたいのだろう。

「まあ、人を殺すのがえらいわけじゃない。私たちに手を汚させたくないのだろうな。だから魔物、生体兵器たちとの戦闘に回したのだろう」

「なあ龍宮・・・」

「なんだ?」

「そういうお前は人を殺したことがあるのか?」

二人の会話は女子中学生の会話ではない。第3者から見れば気が狂っているとしか思えない。

「私自身は殺したことはないが・・・」

真名はにっこりと笑って、こう答えた。

「人が殺されたところを見たことはあるな」

その頃明日菜たちは別荘の下の砂浜で水遊びを楽しんでいた。楽しそうな明日菜たちの声が響いていた。

 

続く

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あとがき

 

今回はスタンダートに龍麻を登場させています。薔薇十字財団襲撃前のお話です。

しかし、今まで気づきませんでしたが、カモが出てないことに気づきました。

まあ、それは置いといて、次回作は何にしようか迷っています。

この作品は文化祭後くらいですが、平成17年5月6日現在では、本編はまだ2日目なので、謎が多いです。

赤松先生のHPでは春日はもしかしたら魔法生徒という噂があります。これは単行本9巻でネギが学園長に世界樹広場に呼ばれた時、シスター姿の人がネギから視線をそらすシーンがありました。春日はクリスチャンで、シスター服で登校したりしますし、それに先生の日記でも春日は重要キャラとも書いていましたし。

ネギまは人気の低いキャラでもきちんと本編に絡めますから。いつかは登場するでしょう。あとザジもね。9巻はあんまり出番のないキャラが多く出て、お宝的だと思います。

では。