九龍武装学園紀
そこは墓場であった。
西洋風の墓石が配置されており、周りの森はそれらを囲むように茂っていた。
ぎゃあ。
鴉の鳴き声が聞こえた。とても不気味である。それも今は午前2時。今夜は満月だが、月は雲に隠れており、まるでそこだけ別世界に思えた。
実は墓場と書いたが、ここは横浜にある外人墓地とかではない。ここは学校の敷地内にある墓場なのだ。しかも東京は
そこにひとつの影が現れた。暗闇でまったくあたりは見えないのに、影は一直線に目的地へ向かっている。
雲が切れ、月の光が出てきた。そこに映し出されたのは一人の少女であった。
おかっぱで小柄な少女であった。少女はセーラー服を着ている。しかし、墓場にセーラー服とはなんともミスマッチではないか。しかし、少女の顔は凛々しい顔立ちであった。その顔には傷跡がついており、猛々しさを感じた。
少女はポケットから六角形の金属を取り出した。
すると金属は光だし、粉々になり、そして別のものへ変った。
少女の左右の太ももに2本づつ、鋭い鎌のようなものがついており、まるで虫を連想させる。
少女は墓場を見回すと、辺りをつけたのか、その鎌を地面に突きつける。その瞬間地面に穴が開き、少女はその中へ入っていった。
その様子を一人の男が森の中で見ていた。
墓の下には広大な遺跡が広がっていた。エジプトの遺跡に似ていると思った。実物は見たことがないが。少女はその広大さにしばし周りを見回していたが、やがて懐からペンライトを取り出すと、何かを探し始めた。
遺跡の中はそれほどほこりっぽくなかった。意外に人の出入りが多いのだろうか?少女にはどうでもいいことで、遺跡の奥へ、奥へと進んでいった。
うぅ、ううぅぅぅ・・・。
なにやらうめき声がした。少女は構えた。闇の中に何かいる!
『うるるるるぅぅぅ!!』
闇の中から3体の影が飛び出してきた。容貌はこれまたエジプトのミイラ男に似ていた。しかし、どこか和風な感じもした。
少女は4本の鎌を操ると、ミイラ男の腹部に突き立てた。
『うぅぅぅ・・・』
ミイラ男3体は断末魔を上げて、4つの光に分かれ、消えていった。
「・・・こいつら、ホムンクルス・・・、か?」
少女がぼそりとつぶやいた。はて、ホムンクルスとはなんだろうか?少女は首を傾げるが、やがて面倒になったのか、考えるのを放棄した。
途中には頭に水槽を乗せた化け物から、普通サイズを超えている蝙蝠などが襲ってきた。
少女はそれらをすべて排除し、奥へ進んでいく。
「どうもここはホムンクルスの巣ではないようだ。一度帰るか・・・」
少女は元来た道を戻ろうとした。その瞬間!!
こぉぉ!!
青白い光の塊が彼女の後ろの壁を貫いた。壁はぽっかりと穴が開いている。いったい誰の仕業なのだ?
「墓荒らしは排除せよ・・・、それがこの墓、この天香学園の掟だ・・・」
一人の男が現れた。180は超える長身で、黒いロングコートを着ており、両手はポケットに入れている。
「墓・・・、だと?ここは墓だったのか?」
少女が尋ねた。しかし男は答えない。
「たとえ知らずに紛れ込んだとしても、見逃すわけにはいかん」
その瞬間、少女の横に衝撃が走る。再び男から青白い光が放出されたのだ。
男はポケットに手を入れたままである。少女は4つの鎌を稼動させると、まるで虫のように飛び跳ねる。男は目がついていけないようだ。
少女は男へまっすぐ突っ込んでいく。少女は右手を突き出すと、男の目を潰そうとした。
だが男が消えた。横へずれただけだが、その動作が鋭いのだ。男は少女の横腹になぞの光を当てた。少女は壁へ叩きつけられる。げほげほっと咳き込む。
「どうせ死ぬんだ、最後に俺の名前を教えてやろう。俺は天香学園2年生、生徒会長阿門帝等。お前の名は?」
少女は答えない。言うだけ無駄だろう。阿門はあいかわらず手を突っ込んだまま、攻撃を繰り出そうとしていた。
「わたし、私の名前は・・・」
少女の姿が消えた。4つの鎌で上空へ飛んだのである。そして再び高速移動を繰り返す。周りのほこりが巻き上がり、視界が利かない。そして、阿門が少し気をそらした瞬間。
「先に地獄で待っていろ!!」
少女は4つの鎌を阿門の腹部に突き立てた。
「臓物を・・・、ブチ撒けろ!!」
「がはぁ!!」
阿門は口から血を吐き出した。だが、阿門はひるみもせず、ぎろりと少女を睨み返した。
「・・・なかなか気の入った攻撃だ。だが・・・」
ぼん、ぼぉん!!
再び青白い光の攻撃により、彼女は吹っ飛んでしまった。鎌は再び六角形の金属に戻ってしまった。刺さった傷からは血がまったく流れておらず、コートが少し血で汚れたくらいであった。
「呪われた力を持つ俺の敵ではない」
阿門は少女のもとに歩み寄った。少女はぴくりとも動かない。死んだのだろうか?
阿門は彼女が動かないと見ると、彼女に背を向ける。右手から携帯電話を取り出し、連絡をとっていた。だが、阿門は油断していた。
ひゅん!!
阿門の背を取られた。少女である。彼女は死んだふりをしていたのだ。阿門の喉に鎌が数センチ当てられていた。
「質問だ。ここの化け物は何だ?ホムンクルスとは違うようだが・・・」
「ホムンクルス?なんだそれは?」
鎌が阿門の喉を数センチ刺した。少し血がにじんでいるが、阿門は落ち着いている。
「質問を質問で返すな!疑問文は疑問文で答えろと学校で習っているのか!!」
少女は強気であった。
「悪いがホムンクルスなど知らん。ここの化け物たちはけひと、人が化けると書いて、化人と読む。お前は何者だ?」
「質問しているのは私だ!お前は黙って質問に答え・・・」
「この方は錬金戦団の戦士ですよ、坊ちゃま」
少女の喉元に冷たいものが光った。アイスピックであった。いつの間にか彼女は後ろを取られてしまったのだ。いったい誰だろう、声からして老人であることは間違いない。
「これは失礼。わたくし、この学校の敷地内にあるバー・カオルーンのマスターであり、阿門邸の執事を勤める千貫厳十郎でございます。以後お見知りおきを」
殺伐した雰囲気なのに、千貫はまるで世間話のような調子であった。少女も動けない。後ろの老人?の殺気に動けずにいた。
「ここには錬金戦団が望むものはありませんよ。ここの化人たちはこの遺跡から出ることはございません。安心して上司に報告してください」
「・・・わかった」
少女は4つの鎌を使い、天井の穴から出て行った。後に残るは阿門と千貫のふたりだけである。
「・・・厳十郎。余計なことを・・・」
「いえいえ、わたくしの仕事には坊ちゃまの健康管理が入っておりますので」
ぽんと千貫は阿門の腹を叩いた。するとよろっと足を崩す。
「さぁ、屋敷に戻って傷の手当をしましょう。明日の仕事に支障が出ますよ?」
「・・・すまない」
もう日が昇っており、不気味な墓場は雰囲気を一変させていた。緑は朝露で濡れており、すずめの鳴き声が聞こえた。もうじき生徒たちが起床する時間だ。阿門は生徒会の仕事があるので関係ないが。
「厳十郎、錬金戦団とはなんだ?」
阿門が千貫に肩を抱えられながら、たずねた。
「核鉄を錬金術で武装錬金し、ホムンクルスと呼ばれる人造人間を退治する組織でございます。あと昔は賢者の石の精製もしていたそうですが、今はもうやっていないそうです。昔、少し揉め事がございまして、そのとき知りました」
あの少女は六角形のようなもので、4本の鎌を作っていた。たぶんあれが武装錬金なのだろう。千貫が横槍を入れてくれねば、自分はどうなっていたかわからない。いったい彼女は何者だったのか?あの不思議な力を使って。だがその瞳の奥には硬いダイヤモンドのような決意を感じたのは確かであった。
「天香学園の地下に眠る化け物はホムンクルスに酷似しているが、別物である・・・と」
少女は手にした携帯にメールを入れると、ぱたんと閉じてポケットに入れた。
「・・・さて次の任務先に行くとするか・・・」
少女はバスへ乗り込んだ。神奈川県行きだ。そして、ポケットから生徒手帳を取り出した。
『ニュートンアップル女学院3年:津村斗貴子』
あとがき
九龍妖魔学園紀と武装錬金のコラボです。
2時間くらいで書き上げました。
前々から書こうと思っていたのですが、今日やっと書けました。
武装錬金ピリオドで、武装錬金は最終回を迎えました。その想いもあってか、今回の形となったのです。
阿門VS斗貴子さんのバトルですが、あんまりバトルに迫力がありません。阿門のハンドポケットはBAKIに出てくる居合い拳です。ネギまの高畑じゃないよ。
あと季節としては2003年の3学期前です。一応武装錬金は2003年で連載されてたので、そっちに合わせました。
では。
2006年1月18日