葛藤


●押し問答●

「さて、命まで助けてあげた上に更に仲間まで助けてあげたんですもの。そろそろ騎士の約束、果たして貰いましょうか?」 (カチュア) 

姉さん、わざとトゲがある言い方してるな・・・。

「はっはっは、そう怒るなよ。可愛い顔が台無しだ。約束通り、ライムへお連れ致しましょう、お姫様。」 (フォルカス) 

フォルカスさんも、なんかこなれてる感じだなぁ。
・・・あれ?藤枝さんだ。どうしたんだろう、魔術師らしからぬ高速ダッシュで。

「フォルカス、実はまだシスティーナが捕まっておるのだ!」 (バイアン) 

「何?脱出したのではなかったのか!?」 (フォルカス) 

「すまん、彼女だけは連れて行かれたのだ。場所はダムザ砦と割れておる。」 (バイアン) 

「ダムザか・・・ライムとは正反対だな・・・」 (フォルカス) 

「フォルカス、お前、彼女を見捨てるなどとはいうまいな?」 (バイアン) 

「・・・だが、彼らは我々の為に危険を冒してくれたのだ。騎士として、彼らとの約束を破るわけにはいかん。」 (フォルカス) 

「何を、この石頭めが!デニム、聞こえていたろう!虫のいいのは百も承知だ!今一度力を貸して欲しい!」 (バイアン) 

僕が答える前に、姉さんが割って入った。

「虫がいいも、ここまで図々しいといい加減腹も立たないわね!あなたたちの仲間はどうして戦わないの!?」 (カチュア) 

「今から仲間を集めておっては間に合わんかも知れんのだ。」 (バイアン) 

「じゃあどの道駄目だったってことよね。私達が居なけりゃ、そこの騎士様やその仲間と一緒にあの世行きだったんじゃない。あなたたちが生き長らえただけでも感謝して欲しいわね!」 (カチュア) 

やめてよ姉さん!

「デニムは黙ってなさいよ!あなた、頭にこないの?また約束を破るつもりなのよ!この分じゃ、どうせ最初から約束なんて守る気が無かったのよッ!」 (カチュア) 

違う!私は騎士だ。約束は守る・・・ライムへ行こう。船に乗ってくれ・・・。」 (フォルカス) 

「ええい、このどタワケが!デニム、お前の意見はどうなのじゃ!リーダーであるお前の意見を聞きたい!」 (バイアン) 

・・・みんな自己主張激しいなぁ。

「余計なこと考えんと、とっとと答えんか!」 (バイアン) 

あ、ごめんなさい!
・・・ったって、そんな話を聞かされて、「そりゃ気の毒にな」って無視できるわけないよ。藤枝さん、最初からそれを狙ってたな・・・。みんなだって気持ちは同じだろう。
やれやれ、老獪さが数段上手ってことか・・・。

「わかりました。お手伝いしましょう。」

デニムッ!」 (カチュア) 

「仕方が無いじゃないか。それに、僕達以外に助けられる人が居ないのなら、助けに行かなきゃ。」 (デニム) 

「・・・わかったわよ。どうせどこに行っても敵と出会うんですもの。この際、あの人達にせいぜい恩を着せておくの得策ってことね。」

・・・だんだん、卑屈になってきた気がするな、姉さん。

「ありがとう、デニム君!お礼の言いようも無いとはこのことだ。恩に着るよ!」 (フォルカス) 

「よう言うてくれたの若いの。感謝するぞ。」 (バイアン) 

●海賊退治●

ダムザ砦はすごーく遠くにあるんだけど、船で1日かぁ。船って凄いなぁ。

ダムザ砦に到着した僕達は、砦を根城にしている海賊と遭遇した。彼らがシスティーナを捕らえているらしい。

「あんたらかい?ウチの亭主を殺したのは。」 (ヴェルドレ) 

亭主・・・すると、ヴェルドレって、あの人のことだったのか。

「あんな奴でも、あたしにゃ大切な男だったってのに。全く、子種仕込んで手前勝手に死んでりゃ世話ないねぇ!」 (ヴェルドレ) 

大切なんだかどうだか、いまいちよくわかんないけど・・・。

「システィーナを解放しろ!そうすれば命まで取りはしない!」 (フォルカス) 

「なめるんじゃないよ、青臭いガキの分際で。これでも海賊ダッザの女房だよ、命乞いするのはそっちのほうさ!・・・お前ら、カシラの仇討ちだ!気ィ抜くんじゃないよ!」 (ヴェルドレ) 

合点でさぁ姐御!」 (海賊一同) 

で。
いざ攻め始めたのは良いけど、この砦、攻め難い!泣き言を言いたいわけじゃないけど、ホントに泣きたくなるくらいつらい戦いだった。ヴェルドレが魔法を装備していたら、もっと悲惨だったかもしれない・・・。
結局、ヴェルドレを討ち取り、僕達が勝った。

「・・・なるほど、ウチの亭主が殺されるわけだねぇ・・・。さすがとだけ言っておこうかい、デニムの坊や。」 (ヴェルドレ) 

殺すって・・・海賊なんてやってりゃ、殺されても文句言えないだろう。

「海賊ねぇ・・・。ウチの亭主と、あたしと、お腹の子・・・一家族皆殺しにしても、あたし等が海賊って事で正当にするわけかい?」 (ヴェルドレ) 

一家・・・皆殺し・・・・・・?

「ふ・・・フふはハハハ!バルマムッサの虐殺に比べりゃ、他愛も無いかも知れないけどねぇ!あんたのその手、血まみれじゃないか。え?・・・人殺しの手だよ。殺すにしても・・・相手を選ぶウチらと違って、あんたは正義や平和を騙って老人や子供にその剣を突き立てるんだねぇ・・・ええ?英雄が、聞いて呆れるよ。あんた・・・何の為に、戦ってるつもりなんだい?・・・」 (ヴェルドレ) 

・・・
死ぬ間際にしては饒舌だったけど、ヴェルドレの言葉で僕は、暫くそこを動けなかった。
バルマムッサでは、僕は虐殺に参加しなかった。けど、他の戦士は倒してきた。殺してきた。その人に守るべき人達が居ようと居なかろうとお構いなしに、敵として倒してきた。

生きる為には仕方が無かったんだ。けど・・・

戦っている以上、僕はそうした、「家族」「友」「民族」の為に戦っている人を殺さなければならない。それが良い道か悪い道かは関係ない。僕の後ろには、もう血だらけの道があるんだ。
これは・・・認めざるを得ない事実なんだ・・・。

デニム!いつまで呆けてるつもりだ!」 (カノープス) 

カノープスさんに激しく揺さぶられなかったら、きっとそのまま日が暮れても立ち尽くしていただろう。
理想を抱き続けていても、戦えば血が流れる・・・。なら、できるだけ血を流さずに済む方がいいんだ・・・。

●勘違い・愛の劇場●

そういえば、システィーナは見つかったの?

「システィーナ!無事か!どこにいるんだ!返事をしてくれ!杉野、杉野はいずこ!?」 (フォルカス) 

「相当錯乱しておるな。」 (バイアン) 

ここかっ!」 (フォルカス) 

(ばきゃーん!)←フォルカスが勢いよく扉を蹴破った音

「痛たたた・・・・・・フォルカス!無事だったのね。バイアンもよく・・・。」 (システィーナ) 

「おお、よく生きていてくれたシスティーナ!怪我はないか?危ない目にあわなかったか?怖くなかったか?ん?」 (フォルカス) 

(フォルカス、システィーナの肩口を鷲掴みにして激しく揺さぶる)

「フォルカス・・・い、痛いから離して・・・。」 (システィーナ) 

「痛い・・・?ああっすまない!つい嬉しくて興奮して・・・よかった。」 (フォルカス) 

(フォルカス、武装したままシスティーナをきつく抱きしめる)

「む〜・・・」 (システィーナ) 

はー・・・フォルカスさんとシスティーナさんって、そういう仲なんですね?

一応、恋人ということにはなっておる。」 (バイアン) 

一応・・・?何か子細がありそうですね。

(べしっ、どばきっ)←システィーナが左フックでフォルカスの体勢を崩し、ドロップキックを食らわせた音(長)

「ちょっと、いい加減にしなさいよフォルカス!私を殺す気なの!?」 (システィーナ) 

「こ、殺すって物騒だな・・・それに、相変わらず容赦の無い攻め。さすが私の妻候補だ。」 (フォルカス) 

「つ・・・だから、やめろっていってるでしょ!なんなのよアンタは一体全体!?」 (システィーナ) 

(ごすごすごす)←叫びつつもパンチを飛ばすお嬢

「はっはっは。今更照れることはないだろう。あの激しい夜を共に過ごした仲ではないか。」 (フォルカス) 

「ばっ・・・あれはッ!あのッ!だから!いや、そうじゃなく・・・誤解を招く言い方しないでよッ!あれは別になんでもないんことでしょッ!いい加減わかってよ!」 (システィーナ) 

「そんなに激しく照れ隠ししなくてもいいだろう。可愛い奴だ。っはっははは。」 (フォルカス) 

(さわやかに笑うフォルカス。白い歯が眩しくきらめく)

「〜〜〜〜ッ!バイアン、どうにかしてよアレ!」 (システィーナ) 

「わしに言われても知らんが。大体、わしにどうにかなるくらいなら、おぬしがどうにかしとろうが。」 (バイアン) 

・・・なんとなくわかった気がします。

●騎士の約束●

一通り儀式が終わったらしく、フォルカスさんも血の騒ぎがおさまり元通りになった。

「君にはどう感謝して良いかわからないくらい世話になった。今度こそ、騎士の約束、果たそう。」 (フォルカス) 

「・・・ライムへ行く途中、ボード砦へ寄ろう。まだ間に合うやも知れん。」 (バイアン) 

「ボード砦?あんな朽ちた砦に何があるって言うの?」 (カチュア) 

「あそこは、我々ヴァレリア解放戦線の拠点の一つだ。リーダーのセリエ同志がいる。」 (フォルカス) 

「是非寄りましょう。あなた方にも、セリエ姉さんに遭って欲しいの。」 (システィーナ) 

「・・・僕達にはメリットがなさそうに思えるけど?」 (デニム) 

「・・・。私達の中にも、色々とあるんです。あなた方に、まんざら関係ない話でもないのです。」 (システィーナ) 

何だろう・・・。とにかく僕達は、ライムの途中でボード砦に寄ることにした。正しくは、寄らされるんだけど。
おまけに航路も、クァドリガ→ゴリアテ→ボード→ライムと決められている。いやな予感、するんだよなぁ。

NEXT→[ボード砦の女戦士

[戻り先]→【HOME】>【繁盛記・目次