Kの鼓動


●アルモリカ城●

重い・・・。
僕は、ギルダスさんを助けたと思い込んでいた。けどそれは逆に、ギルダスさんを苦しめていたんだ・・・。
結局、ニバスの術も完成していたわけじゃないし、ギルダスさんも助けられなかった。

ところで、デボルドは他のアンデッドやギルダスさんみたいに、生きてる人を襲ったりしないんだね。どうしてなんだろう・・・?

「さあ。父さんも言っていたけど、兄さんは父さんにとって傑作らしいから、ちょっと普通じゃないんでしょうね。」 (オリアス) 

確かに、他のアンデッドやギルダスさんとは違うけど・・・。
普通じゃないのはデボルドだけじゃない気もする。

いずれにせよ、もうギルダスさんはいない・・・。くそッ、ニバスめ。どうせまた生き延びているんだろう!今度こそ息の根を止めてやるッ!

僕達は一応、凱旋帰還という形になった。窮地のレオナール隊を救出し、アシュトンを始め周辺地域を、アンデッドの脅威から解放してきたんだ、当然といえば当然だろう。

「ご苦労だったなデニム。今回は随分と活躍してくれたな。」 (公爵) 

ありがとうございます。ただ、ヴァイスの足跡は全く・・・。

「よい。ヴァイスのことは賞金稼ぎたちに任せよ。あれももう、戻ってくる気はあるまい。そして貴君に出会ったとしても、説得には応じまい・・・。」 (公爵) 

しかし・・・。
いや、多分そうだろう。ヴァイスを説得する自信は、僕にはない・・・。姉さんなら・・・あれ?
カチュア姉さんを見かけないな?

「ああ、済まないデニム君。カチュアはどうやら、ゴリアテに戻ったらしい。」 (レオナール) 

・・・え?

「だが、ゴリアテを捜索しても未だ発見できない。或いは別の場所かもしれない・・・。いずれにせよ、もうこの城には居ない。」 (レオナール) 

姉さん・・・どうして?
放っておいたまま出ていったのは、やっぱりまずかったかな・・・?

●ちと戻って●

【少し時をさかのぼったアルモリカ城】
ゴリアテに帰りたいと言い始めたカチュアは、公爵やレオナールにとって頭痛のタネとなった。
長引く戦禍に厭戦気運も鎌首をもたげ始め、中には故郷に帰りたいと思っているものも少なくはない。
ここでカチュアの我が侭を認めては、兵の士気も一気に下がる。認めるわけには行かないがカチュアのこと、言っておとなしく引き下がるとも、二人は思っていなかった。

「・・・。だからって、独房に入れる?フツー。」 (カチュア) 

非常手段であった、という(笑)。

「いや、まあデニムが戻れは少しは違おう。」 (公爵) 

「それまでは我慢してもらうしかありませんな。」 (レオナール) 

はっはっは。」 (二人) 


しかし、ある夜のこと。丁度、龍虎武神隊がダムザ砦でニバスを撃退した頃、その独房に近づく人影があった。

「・・・。外?こんなところを、一体誰が・・・?」 (カチュア) 

(かぃぃん、かぃぃん、しゃきぃん)←鋼が硬いものを斬るような音

(ご・・・・・・どずんっ)←斬られた独房の外壁の一部が外へ倒れる音

また詰まらぬものを斬ったか・・・。」 (褐色の男) 

「だ・・・誰?ひょっとして、デニム?」 (カチュア) 

(男、後ろに下がる。一人の騎士が、中に入る)

「そ、その鎧・・・まさか、暗黒騎士!?」 (カチュア) 

「御名答。おとなしく私と一緒に来て頂きましょう。」 (髭の騎士) 

「誰か・・・」 (カチュア) 

(ぼすっ)←髭の騎士の拳がカチュアの鳩尾深くにめり込む

(とさっ)←気を失い、髭の騎士の肩に担がれるカチュア

「よし、退散だ。」 (髭の騎士) 

「・・・。」 (褐色の男) 

【場所は変わってとある廃屋】

「う・・・。」 (カチュア) 

「御気分はいかがかな?カチュア。」 (片目の騎士) 

「あ、あなたは・・・ランスロット・タルタロス!」 (カチュア) 

(カチュア、立ち上がろうとして果たせず、転がる)

「こ、これは・・・?」 (カチュア) 

(見れば簀巻き状態のカチュア)

「ふむ、君を捕らえる場合、こうするのがセオリーと、ものの本に書いてあったのでね。」 (タルタロス) 

「どこの誰なのよ全く・・・。それより、あなたが私に一体何の用?わざわざ独房破りまでして・・・そうまでして私に会う必要があるとは思えないけど。」 (カチュア) 

「カチュア、君は自分が、プランシー・パウエル神父の実の娘ではないと知っていたね?」 (タルタロス) 

「どうして、そんなことを・・・。」 (カチュア) 

「そして、弟であるデニムも当然、神父の実の息子ではないと思った。」 (タルタロス) 

「・・・。そういう事になるでしょう?私達は、姉弟なんですから。」 (カチュア) 

「それは間違いだ。デニムは正真正銘、プランシーの息子だ。君とデニムとの間に、血の繋がりはない。」 (タルタロス) 

「な、なにを馬鹿なことを・・・何のつもりなの?暗黒騎士団団長が、そんなデタラメを言う為にわざわざ・・・?」 (カチュア) 

「その首飾り・・・それは君の本当の父親がまだ見ぬ君に贈る為に作らせたものだ。その裏に刻まれた神聖文字を、君は読んだことがないかね?僧侶の修行を積んだ君なら読める筈だ。」 (タルタロス) 

「・・・?なにもないわよ?」 (カチュア) 

「しっかり見るんだ。」 (タルタロス) 

「・・・・・・あっ、確かに。でもどうして?私も全然気づかなかったのに。・・・。・・・・・・。これは・・・。どうしてこんなものが?」 (カチュア) 

「名前だけで察したようだな。そう、刻まれた名前はベルサリア・オヴェリス。オヴェリス家は王家に連なる家系。もうおよそ見当も付いているだろうが敢えて言わせて頂こう。 君は、ドルガルア王の娘なのだ。」 (タルタロス) 

(ガカァッ!)←雷鳴。外が唐突に豪雨になる。

「・・・。そこに居るのは誰だ?」 (タルタロス) 

あいや、お気になさらず続きをどうぞ。

「いつぞやの翁か・・・熱心なことだな。」 (タルタロス) 

「わ・・・私が、ドルガルア王の娘・・・?そんな・・・。」 (カチュア) 

「すぐ信じろとは言わない。が、信じる信じないに関らず我々とハイムに戻ってもらう。」 (タルタロス) 

「じょ、冗談でしょ?!そんなこと、デニム・・・が・・・・・・。」 (カチュア) 

「・・・デニムは今、目の前の戦いで手いっぱいだ。君のことを置いて、今頃はどこのガルガスタン軍と戦っているやら。」 (タルタロス) 

「孤独感を煽って落とそうって算段?・・・でもいいわ、どうせデニムは私から離れていったんだし?あなた方とハイムへ行ってもよくてよ。」 (カチュア) 

「思いの他、ものわかりがよいようだ。では参りましょうか、プリンセス。」 (タルタロス) 

「その前に、読んでる人もあんた等も忘れてるみたいだけど・・・。 縄、解いてくれる?」 (カチュア) 

「お、そういえばそうだったな。はっはっは。済まんな。ハイムに着いたら服なりなんなりやるから許せ。」 (タルタロス) 

団長!」 (髭の騎士) 

「よいではないか。服くらい、たかの知れたものだ。」 (タルタロス) 

「・・・女に甘い目を見せると、後で酷い目に遭うぞ、ルパン。」 (褐色の男) 

「誰がルパンだ。」 (タルタロス) 

「覚えておくからね。覚悟しときなさいよ?」 (カチュア) 

「ははは。御手柔らかに頼むとしよう。」 (タルタロス) 

かくして、カチュアはタルタロス達と共にハイムへと向かった。

【一方、アルモリカ城】

「あっ、レオナール様!大変です!カチュアから独房が消え去りました!」 (兵士) 

「何を錯乱している。・・・って、どういうことだ!?カチュアが逃げただと!?」 (レオナール) 

「手段はわかりませんが、何かとてつもなく鋭い刃物で壁を斬りぬいたらしく・・・。」 (兵士) 

「ぬう、カチュアなら真空斬りを会得していてもあまり驚きはしないが・・・。」 (レオナール) 

 

っくしゅ!」 (カチュア) 

「寒いか?」 (褐色の男) 

「かもね。あなた、上着着ないの?」 (カチュア) 

システム上の問題なのだ。」 (褐色の男) 

「難儀な人ね。鳥野郎と同じだわ。」 (カチュア) 

以上、長きに渡りお送りした『カチュア大脱走』、講談師は私、ウォーレン・ムーンでした。

●作戦と決定済みの人事●

・・・。
姉さん、また勝手なことをしてるんだろうなぁ・・・。誰かに迷惑かけてなきゃいいけど。

「ところでデニム、今回の作戦では君にライム奪回の指揮を執ってもらいたい。」 (公爵) 

はぁ、わかりました。
・・・。ちょっと待って下さい公爵!

「何だね。」 (公爵) 

今のライムをですか!?一体全体、どうやって!ライムには暗黒騎士団も駐留してるんですよ?ご存知ないわけではないでしょう!

「暗黒騎士団とは、密会を行なうという名目になっている。連中から手を出しては来ない。ま、こちらはランスロットを捕らえる為の方便なのだがな。」 (レオナール) 

そ、それにしたって・・・・・・ライム駐留のバクラム軍はどうなんです?

「連中は、度重なる戦闘により我等が疲弊しきっていると思っている。そこにつけいる隙がある。そんな時、ライムに君達龍虎武神隊の精鋭がズラリと揃えばどうだね?」 (公爵) 

・・・確かに、不意は突けるかもしれませんが・・・それには真正面からは近づけません。ゴルボルザ平原は既に連中の巡回が出ているそうですし・・・ライムの周囲といえば、西側にそびえるウェオブリ火山群が・・・。
・・・・・・。
あそこには道なんてないじゃないですかッ!

道は切り開くものだ、デニム君。」 (レオナール) 

尤もらしい言葉で誤魔化さないで下さいッ!その道僕が言う道は違いますよッ!

「作戦は、既に開始されておる。後戻りは出来ん。」 (公爵) 

〜〜〜〜〜!
わかりました、やるしかないんですね。・・・使いっ走りって気分だよまったく。

(ばたーん!)

「報告します!コリタニ城がガルガスタン軍に占拠されました!」 (兵士) 

「うむ、ご苦労であった。下がれ。」 (公爵) 

「はッ!」 (兵士) 

(ばたんっ)

「ウェオブリ火山を渡ろうと思えば、コリタニ城から進まざるを得ないな。」 (レオナール) 

・・・・・・ものはついでです。

「理解が早いのはいいことだ。しっかり頼むぞ。」 (レオナール) 

・・・。
ひょっとして、コリタニ城が陥落したのは、ガルガスタン軍を一箇所に集中させる為の餌ですか?

「うむ。随分と理解が良くなった。成功を祈るぞ。」 (公爵) 

は、期待に添えるよう努力します。
・・・。
こんなに働いてるの、僕達くらいじゃないかなぁ・・・?

ともかく、ギルダスさんのことで哀しみに浸る暇もなく、姉さんトンズラぶっこきのまま、僕達はコリタニ城のガルガスタン残党を根絶やしにする為に向かった。

僕にとって、浸る暇もなかったのは、結局よかったのかもしれない。

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