ハイムの司祭


●合流●

暫くして、軍の再編成が完了し、僕達はセリエさん達が好き勝手に暴れているであろう最前線へ出発した。
勿論、姉さんも一緒だ。

・・・

ヨルオムザ峡谷を越えて、ウェアラムの町に到着した僕達は、本当にバクラム軍の抵抗も受けなかった。完全にセリエさんがこの近辺を掌握しているってことだ。

「早かったな、デニム。」 (セリエ) 

お久しぶりな気がします。・・・ジュヌーンさんも、お疲れ様です。

「いや、確かに疲れはするが、実に充実した日々を送っているよ。」 (ジュヌーン) 

そ、そうですか。・・・ところで、戦況はどうなんですか?

「ん?ああ、お前達が進撃してくることが伝わると、連中、王都の防衛に回ったよ。突っついてもなかなかでてきやしないんで、ウチの若い衆も退屈し始めてたところだ。」 (セリエ) 

「暗黒騎士団は相変わらず殆ど見かけない。見かけた連中を合わせても、2〜30人くらいだ。コマンド級の騎士に至っては姿すら見たことが無い。」 (ジュヌーン) 

「・・・まあ、バクラム軍と暗黒騎士団が手を組んで我々に戦いを挑むことはもうないだろう。」 (セリエ) 

そんな気がします。
しかし・・・そうするとハイムを攻めるのは結構しんどいですね。

「心配ない。大戦を知らぬ連中が集まったところで我々の敵ではない。後は指揮官の腹が決まるかどうかだ。」 (セリエ) 

セリエさんにそう言われると、大丈夫な気がします。

●突破(早)●

僕達はハイム城を二手に分かれて攻めることにした。西側南側だ。西側は正面らしい城構えで、正攻法でいくと長引くかもしれない。セリエさんがこっちに当たる。僕は南側から攻める。

「いいか、北も東も守備隊がいるんだ。攻め込めば必ず増援を寄越してくる。二方面に敵を受ける前に正面を抜ける!デニムもいいな?」 (セリエ) 

はい。

「まるでセリエが指揮官みたいじゃない。何やってんのよデニム。」 (カチュア) 

あ、いや・・・部隊戦闘はセリエさんの方がエキスパートだから・・・。

(セリエ、デニムの首根っこを捕まえて連れ出し)

「・・・王女を絶対に前に出すなよ。怪我人を押し付けて回復にまわせ。色気を出させるんじゃないぞ。」 (セリエ) 

わ、わかってますってば。

・・・

南門の防備に当たっていたのは竜使い。竜使いそのものはどうでもいいんだけど、ドラゴンを連れてるのはちょっと厄介だよな・・・。
・・・騒がしくなってきたな、セリエさんが突入したのか。
よしっ!僕達も突入だッ!

「貴様、デニムかッ!お前を城に入れるわけにはいかん!全員、ここを死守だッ!」 (竜使い) 

相手は弓や魔法で遠隔攻撃を仕掛けてくる。けど、個々の技術の差や攻め手と守り手という立場の差があって、やがて僕達は南門を突破した。後は残党が後ろから突いてくるのを防ぐだけだ。

「南門が突破されたか・・・。さすがに強いな、解放軍は。」 (騎士) 

隊長!」 (兵士A) 

「戦えば負けるかもしれない。お前達に、戦うことを強制はしない。逃げたい奴は今の内に逃げろ。」 (騎士) 

(動かない隊構成員)

「・・・いいんだぞ、無理をするな。」 (騎士) 

(やっぱり動かない隊構成員)

「そうか・・・それでこそ誇り高きバクラム軍の勇者だ!」 (騎士) 

口上はそのくらいにしたら?」 (システィーナ) 

(騎士の喉元に槍先を突きつけるシスティーナ)

「い・・・いつの間に・・・・・・。」 (騎士) 

「だからバクラム軍の士官って嫌いなのよ。」 (シェリー) 

シェリーさんもバクラム軍士官だったじゃないか・・・。

●司祭ブランタ●

さて、口上を垂れることに一生懸命で周囲の異変に気が付かなかった間抜けな騎士のお陰で中庭はた易く通過できた。セリエさん達はどうしただろう・・・?

「心配ないわ。好きに暴れてくれてるから。」 (システィーナ) 

「この戦争が終わったら、もう好きに戦えないもんねぇ・・・。好きにさせておけばいいわ。」 (シェリー) 

は、はぁ・・・。ひょっとして、根っからのケンカ屋なんじゃ・・・?

「言わなかったの?」 (シェリー) 

「言ったって知られたらこっぴどく殴られるもん。」 (システィーナ) 

ま、まあいいか。
さて、いよいよ城内だ!

・・・

城内にも守備兵が残っていたけど、思ったほどの数じゃない。多分、遊撃部隊・・・第13独立部隊だっけ?彼らが守備兵を撹乱しているんだろう。
そして、僕達は広間に出た。おそらくはそこにブランタがいる筈だった。そして、いた!

(玉座の周囲でブランタと話をしていた風のコマンド達が気づく)

「・・・どうやら、あんたと話をしてる暇は無くなったな。」 (バルバス) 

「ま、待て!この期に及んで見捨てるというのかッ!」 (ブランタ) 

「先に行くぜ。」 (マルティム) 

「御免。」 (褐色の男) 

(マルティムと褐色の男、転移石をかざし、消える)

「ふん・・・あんたの望みは叶えたろうが。自分の尻拭いくらいできねぇ歳でもあるまい。せいぜい、頑張るんだな。」 (バルバス) 

(バルバス、転移石をかざし、消える)

暗黒騎士・・・!しかもあいつら、バルバスにマルティム・・・と、もう一人は誰だろう?

「・・・あの人、アンドラス・ガフラヌってコマンドよ。」 (カチュア) 

そうなの?
・・・ま、それはともかく、どうやら事実上同盟は決裂したみたいだな、ブランタ叔父さん。

「・・・ふん、我が弟・プランシーの息子か。血の繋がりを持ち出すのであれば、私に忠誠を誓え!お前は、お前の父の兄であるこの私を殺すというのか?そんな道義にもとることが、まかり通ると思っているのか?」 (ブランタ) 

「尤もらしいことを言ってるけど、あなたに道義の何たるかを語る資格があるのかしら?」 (カチュア) 

(カチュア、デニムの前に出る)

姉さん・・・。

「これはこれは・・・ドルガルア王の娘、と偽って王位簒奪を企てる身の程知らずが、何を吠えているのかね?」 (ブランタ) 

「苦しいわね。どの道あなたに生き残る道は残されてないわ。引き際くらいわきまえたらどう?」 (カチュア) 

もういい姉さん。姉さんが喋りだすとなんだか泥沼になりそうだ。

なんでよ!?」 (カチュア) 

なんでって・・・・・・。ねぇ?

「私に同意を求めないでよ。」 (シェリー) 

・・・ねぇ?

「知らねーよそんなこと。」 (カノープス) 

・・・・・・ねぇ?

(がしゃこん♪)←小首をかしげるデボルド

ほら。

殴るわよ。」 (カチュア) 

ごめんなさい。

●らしからぬ長口上●

司祭ブランタ・・・どうでもいいけど、生え際がかなり危ないなぁ。

ほっとけ!このくらいが歳相応なのだ。」 (ブランタ) 

気にしてるんじゃないか。

「・・・デニムよ、暗黒騎士団は去ったぞ。お前と私が戦う意味がどこにあるというのだ?お前の目的は、暗黒騎士団を島から追い出すことではなかったのか?」 (ブランタ) 

違う。僕達の目的は、ヴァレリアに平和をもたらすこと。その為には、暗黒騎士団だけでなく、暗黒騎士団を利用して島の覇権を手に入れようとした、あなたを見逃すわけには行かない。

(笑い出すブランタ)

何を勘違いしておる!ドルガルア王亡き後、誰がローディスの干渉を防げたか!戦えば勝てたかも知れん。だが、おびただしい民衆の血を見ることになっただろう。私はそれを避け、敢えて奴等のいいなりとなったのだ! 暗黒騎士団はお前達の力の前に逃げ出した。見事だ!その力を、この私の元で発揮するがよい!ヴァレリアをローディスの手から守った私達が手を組めば、これ以上は望み得まい!」 (ブランタ) 

詭弁を弄するな、ブランタ!そんな逃げ口上に、今更誰が耳を傾けると思っているんだ。
お前は己の私欲の為だけに、父さんを・・・姉さんを利用した。己がその玉座に就きたい居座りたいという、私欲の為にッ!

「・・・利用できるものは利用するものだッ!何が悪いか!俺の様な平民出の人間が力を得るには、それしかないのだ!生まれ落ちた境遇に甘んじでどうする。力は己の手で掴むものだ。届きそうも無い高みにある力は、人を利用してでも手に入れるんだッ!それが人間の本性だ! 貴様とて、今の地位をそうして手に入れたではないか。敵対する者達をなぎ倒し、丁度指導者が凶刃に倒れたのも幸いして、お前はこうして俺の前に居る!貴様が俺をどうこう言う立場にあると思うのかッ!」 (ブランタ) 

・・・あー、長い台詞ー。

人の話しはちゃんと聞けーッ!」 (ブランタ) 

うるさいなぁもう。あんた、人の為に戦ったことってあるのか?自分の為に命を張って戦ってくれる仲間がいたか?仲間の為に、自分の命を投げ出す覚悟があるか?
あんたと僕は、何もかも違う!あんたみたいな人間は、そんな地位にいちゃいけない人間なんだ!

「う・・・な、なにをたわけたことを・・・近衛騎士団よッ!」 (ブランタ) 

(わらわらわら・・・)←ブランタを守るように騎士が集まる

「奴の口を塞げ。下らぬ戯言で人心を惑わす、あの男を殺せ!」 (ブランタ) 

・・・主命に忠実たれと自らに言い聞かせる騎士達よ、お前達に真の意志があるならば、私利私欲の為だけに生きる男の為に命を投げ出すか、その男を倒すべくここにいる僕達の前に道を開け放つか、好きな方を選べ!

(顔を見合わせる騎士団)

「なっ・・・何をしているッ!そんな勢いだけの小僧の台詞に惑うなッ!」 (ブランタ) 

(騎士団、ブランタに一瞥をくれた後、左右に分かれる)

「き、貴様ら・・・!主命不服従がどうなるか知らぬかっ!」 (ブランタ) 

「そこまでだブランタ。お前を守る兵は、もう一人も残って居ないぞ。」 (セリエ) 

セリエさん!

「待たせたか?・・・この城を守るお前の兵は、全員我が軍への降伏、言い換えれば王女ベルサリアへの帰順を申し出た!最早お前はこの城の中で、寄る辺も無い天涯孤独の哀れな存在となった!」 (セリエ) 

(セリエ、一旦間を置いて、溜め息)

「後は好きにしてくれデニム。」

(その場に腰を下ろすセリエ)

セリエ・・・さん?

「相手が一人じゃ、暴れられないからよ。」 (シェリー) 

あ、そういうことか。

ともかく、ブランタは一人。とてつもなくフクロダタキな気がするけど気にしないでおこう。

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