いくつかの事実


●事後処理●

ブランタを倒した僕達は、ハイムで色々なことを片づけなければならなかった。
降伏した騎士団やらの再編成とかなんとかいろいろいろいろ・・・。でも、こういった事務処理は、やっぱりレオナールさんが指揮していた、生え抜きの面々が手早く正確にこなしてくれる。レオナールさんも助かったろうけど、僕なんか大助かりだよホント。

「キミが隊長の後任である以上、我々はキミを、少なくとも隊長レベルまでしっかり育て上げねばならない。これは義務だ。」 (騎士A) 

あ、はあ・・・そうですか。いや助かりますどっちにしろ。それじゃこっちの方はよろしく。

「あ、おいデニム!・・・ったく、隊長の域まではまだまだ遠いか。」 (騎士A) 

・・・

他にも何故か、ブランタを倒した王女の一撃!なんてゴシックがまことしやかに流れていたりした。この噂が流れることで反発する者も多少は居たらしいけど、多くの人達は「それでこそドルガルア王の御息女」と歓呼喝采しているのが現状。
どうやら、噂の出所は身内らしいんだけどね・・・セリエさん達、かなぁ?

「呼んだか。」 (セリエ) 

わあっ!?びっくりしたなもう・・・。あの噂流したの、セリエさん達ですか?

「何のことだ?」 (セリエ) 

あ、いや別に・・・。

「・・・ところで聞いたか、スパイのことを。」 (セリエ) 

二重スパイ、ですか?

「ああ・・・。デニム、ハボリムに注意しろ。」 (セリエ) 

・・・ハボリムさんがスパイだとでも!?いくらセリエさんでもそれは・・・!

「落ち着け。奴と暗黒騎士団のバケツ連中が会っている現場を目撃している奴も居るんだ。そして以前、コマンド級騎士を発見して追跡しようとした若い衆を、同じく追跡していたらしいハボリムは追い返したそうだ。 ・・・スパイではないかも知れんが、あの男は我々に何かを隠しているのは間違い無い。詰問してみるんだな。」 (セリエ) 

(セリエ、デニムを背に立ち去る)

・・・。
そんな、ハボリムさんが・・・?

●疑惑●

セリエさんにそんなことを聞かされた後すぐに、僕はハボリムさんとばったり出会った。

「急いでいるかな?」 (ハボリム) 

いえ・・・別に。なんでしょう?

「・・・私についての話を聞き及んでいないか?」 (ハボリム) 

・・・こ、こう面と向かって言われると、ちょっと言いづらいものがあるなぁ。でも、いずれ聞かなきゃいけなくなるし・・・。

「・・・済まん、言いづらいだろうな。では構わず話させてもらおう。 私は偽名を使っている。本当の名前は、ハボリム・V・ラームズなのだ。」 (ハボリム) 

ラームズ・・・ラームズって!暗黒騎士バールゼフォン同じ姓!そんな・・・それじゃ!

「落ち着いて話を聞いてくれ。・・・バールゼフォンは確かに私の、いや、彼奴が父上を殺すまでは兄だった・・・。」 (ハボリム) 

・・・・・・自分の、父親を・・・?

「私は彼奴の行為を赦すことはできない。残念ながらその時私は未熟故に彼奴に光を奪われたが、それは私の復讐心を煽り立てるだけだった。・・・私は彼奴に復讐する為に、対立関係にある君達を利用しようとしたのだ。」 (ハボリム) 

・・・復讐を果たす為、ただそれだけですか?僕達と戦ってきたのは、私怨を晴らす為、それだけなんですか?

「・・・・・・こればかりは弁明になるが、確かに最初はそうだった。しかし、君達と共に戦っていく中で、私は純粋に君達の力になりたいと思うようになったんだ。 それだけは、私の偽らざる真実だ。・・・だが、疑惑を抱かせる行為を働いていたのもまた事実だ。君も、組織の長としての立場もあるだろう。君の好きなようにしてくれて構わんよ。」 (ハボリム) 

ハボリムさん・・・。
事情はよく判りました。僕は、ハボリムさんを信じます。・・・噂は所詮、噂です。僕は、事実を話してくれたあなたを信じます。

「・・・ありがとう。」 (ハボリム) 


そう言ってハボリムさんは歩み去っていった。僕にとってはショックな内容だったけど、今まで戦ってきた仲間として、僕は信じることにしたんだ。
・・・。
ところで、ハボリムさんって、本当に目が見えないのかな・・・。

●消息●

それから暫くして、今度はがやってきた。
・・・あれ?いつもの影じゃないな?

「は・・・。彼等は今朝方、我々を解放して姿を消しました。これは、デニム様宛にと。」 (影) 

なんなんだ全く勝手放題しといて・・・。なになに?

「こっから先、面白そうにないから帰るね。                 ば〜い プロき〜と影の軍団

おも・・・ったく、何を考えているんだか。・・・プロき〜って、あの影の名前かなぁ?

「それとは別ですが、ランスロット様の所在がわかりました。」 (影) 

わかったのか!どこにおいでだ?

「それが・・・直接お越し頂ければ、と思い・・・。」 (影) 

構わないから案内してよ!
あ!カノープスさん達にも報せなきゃ・・・。

「いえ・・・まずデニム様だけでお会いしてからの方が良いかと。」 (影) 

??妙なことを言うなぁ。カノープスさん達の方が付き合いが長いんだから、まず報せなくちゃいけないだろう。一番心配してるのはカノープスさん達なんだから・・・。

「・・・は、御意のままに。」 (影) 

・・・。
取り敢えず、カノープスさんとミルディンさんにはすぐに会えたけど、またウォーレンさんはどこかに行ってるみたいだ。

「ま、いつものことだから気にするな。」 (カノープス) 

「しかし、団長と再会できるという時に・・・。」 (ミルディン) 

「ジイサンのこったから、どっかで見てるって。な?」 (カノープス) 

はぁ、僕もそう思いますけどね・・・。

●とある教会●

連れてこられたのは、古びた教会だった。戦災病院と化しているそこは、この戦乱で傷ついたり、住処を焼き払われたり、中には親とはぐれた(おそらく親は死んでしまっているだろう)子供たちまでいた。
・・・こんなところに、何故?

「こちらです。私はこれで戻ります。」 (影) 

ご苦労様。
・・・。

「どうしたデニム?」 (カノープス) 

いえ・・・。
少し躊躇したけど、奥まったところにある部屋のドアを開けた。最初に目に飛び込んできたのは、一人の女の子の姿だった。

(少女、ドアの方に振り向き)

「あっ、デニム様!」 (少女) 

(深々とお辞儀をする少女)

メイド服じゃ〜ッ!」 (天) 

なっ・・・どこから!?

ふんッ」 (少女) 

(ごがっ)←少女の腕で振り下ろされた鉄槌が天の声の脳天に炸裂

「きゅっ」 (天) 

(ばた)←つっぷす天の声

・・・この戦乱の中、およそ「かよわい」系統の女の子をみたことがないんだけど。

「俺の趣味だ。」 (天) 

(ばた)←再び昏倒

「武器も鉄槌だしな。」 (カノープス) 

「最近、メイド服っていうだけで抱き着く人が男女問わず増えてるので、危険人物に対しては鉄槌制裁を加えても良いという教会理事のお達しがありまして・・・。」 (少女) 

「教会理事?」 (デニム) 

「ええ教会です。申し遅れました、私、クレアと申します。・・・ところで、何か御用でしょうか?デニム様・・・。」 (クレア) 

え?ああ・・・目的を忘れそうになったよ。

●再会●

部屋はさほど大きくはない。ここにはクレアの他に・・・いた。椅子に腰掛けて、窓の外の風景を、この騒動に全く関心を寄せずに見詰めている人が・・・。

「あ、あの人は・・・?」 (デニム) 

(クレア、椅子に腰掛けている男を見やる)

「あの方は・・・詳しいことは私もわかりませんが、ここに担ぎ込まれてきた時から既にあの様子なんです。意識はあるんですが・・・。」 (クレア) 

「・・・ランスロット?」 (カノープス) 

(反応無し。男の正面に回るカノープス)

「ランスロットだ、間違い無い。俺だ!カノープスだ!返事をしろ!」 (カノープス) 

(男の肩を掴んで激しく揺するカノープス)

「ちょっ・・・なにをするんです乱暴な!」 (クレア) 

(クレア、男とカノープスの間に割り込み二人を離す)

「・・・邪魔だ、どけッ!そいつは俺の舎弟でランスロット・ハミルトンってんだ!」 (カノープス) 

「この方は今、肉体だけでなく、精神と記憶にも障害を負っているんです!無茶をしないで下さい。この方のことを心配しているのなら、乱暴なことは止めて下さい。」 (クレア) 

そんな・・・。本当にこの人がランスロットさんなんですか?カノープスさん!

(ミルディン、机の上にあった箱をデニムに差し出す)

「デニム君・・・団長の・・・。」 (ミルディン) 

「これは・・・。」 (デニム) 

(デニム、箱の蓋を開ける。聞き覚えのある音楽が流れ出す)

「あ・・・。」 (クレア) 

・・・・・・ランスロットさんの・・・。

「うぅ・・・あ・・・あぁ・・・・・・!」 (男) 

(男、もたつく身体で箱に手を伸ばし、椅子から転げ落ちる)

「大丈夫よ、落ち着いて・・・ゆっくり、そう・・・。」 (クレア) 

(クレア、男の体を支え、椅子に座らせる)

「・・・・・・ランスロット・・・!」 (カノープス) 

(立ち尽くすカノープス、ミルディン)

その光景を見て僕は、オルゴールの蓋を閉じた。
どうして・・・!なんでランスロットさんがこんな・・・!

「私は、この方がハイムの地下牢に閉じ込められていたとしか聞かされていません・・・。」 (クレア) 

「・・・暗黒騎士団か。」 (デニム) 

(クレア、後ろの棚においてあった剣を手にして)

「あの、デニム様、この剣を・・・。」 (クレア) 

これは・・・ロンバルディア・・・・・・。

「何故、僕に?」 (デニム) 

「・・・私は戦いには疎いですが、この方はきっと立派な騎士様だったのだと思います。ですから、デニム様が手にしてくれるなら、この方も喜ぶんじゃないかと・・・。」 (クレア) 

ランスロットさん・・・。

(デニム、剣を受け取る)

「ランスロットさんのことは、暫く頼みます。いいですね、カノープスさん、ミルディンさん。」 (デニム) 

「ええ、ここで私にできることはなさそうです。歯痒いですが。」 (ミルディン) 

「・・・わぁってるって。よろしく頼む。」 (カノープス) 

「はい。私の力の及ぶ限り。」 (クレア) 


・・・

やりきれない思いで僕はハイム城に戻った。カノープスさんもミルディンさんも、一言も発しなかった。僕ですら、気をゆるめるとそのまま地べたに倒れ込みたくなりそうなのに、僕よりも長い付き合いのカノープスさん達の気持ちはどれほどなんだろう・・・。
どこで二人と別れたのかも分からないまま、僕はあてがわれた部屋に戻り、そのまま床に身を投げ出した。

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