ハイデルベルグ(古城の町)

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5. バラと音楽
 バラに合う音楽ってなんでしょうか。例えば、もしも自分がゆっくりとバラの花を観賞しているとき、バックで音楽が流れているとしたら・・・です。バラ園のような広いところでスピーカーを通してガンガン鳴り響くのではなく、秘密の花園を静かに歩いている時、またはバラの写真のページをめくっている時などのことです。
 色々想像してみましたが、やっぱりクラシックかなあ、と思いました。それもフル編成のオーケストラよりは室内楽、チェンバロ、オルガン曲など、バロックの曲がいいかなあ、と。モーツアルトもいいかもしれません。もしもポップスだったら、オルゴールによるものがいいかもしれません。あまり派手過ぎない50弁オルフェウスのような。

 こちらがバラの美しさに感動しているとき、音楽に聞き入って感動する必要はないのです。むしろバラの美しさをひき立ててくれる様な、バラの世界へ誘ってくれるような、そんな慎ましく品のいい音楽が、バラにはぴったりだと思います。

6. 秋の花について
 バラには一季咲き、返り咲き、四季咲き、と開花パターンによっても様々な品種があります。この呼び方は恐らく四季の変化がある日本において関東以西を基準に、日本の園芸家の方が考えた呼び方だと思うのですが・・・アメリカやイギリスの文献ですと、開花習性の表記はRepeats, Repeats well, Once, Continuous,などのような表記が使われています。
 寒冷地でバラ栽培をやってきて、ここでは四季咲きのバラはあり得ないな、と思うのですが、秋まで3回くらい開花を繰り返すものはあります。

 しかしそれにも限度があります。例えば大輪で花弁の多いアブラハムダービーなどは、一応ある程度の一斉咲きを繰り返しますが、秋は固く閉じたまま咲ききれずに終わってしまう蕾がたくさんあります。その程度は秋の気候・気温によって左右されますが、色づいたまま開かずに終わる蕾を毎年不憫に思いながら、泣く泣く枝を切らなければなりません。11月の末には仮剪定をしておかないと、雪の重みで枝をやられてしまうからです。総じて小花や花弁の少ないものの方が、秋には咲きやすいと言えるようです。
 ここでは早いと9月の末には最低気温が10度を割り込むことがあります。10月は晴天が多いですが、それでも着実に最低気温は下がる一方で、バラの動きは日に日に鈍くなってきます。
 関東などでは夏剪定という大事な行事(?)があるようで、8月の末から9月の頭にかけて、「いつ切るか」ということがバラの育種家にとって腕の見せ所になるようですが、それは秋の花を10月下旬に美しく咲かせるためです。
 しかし関東とここでの大きな違いは、秋の気温云々以前に「真夏の花」ということがあります。関東では真夏はバラの休息期。連日の熱帯夜でバラは花を咲かせることが出来ず、ひたすら猛暑が去るのを待っているわけです。でもここでは、夏は暑いですが熱帯夜の連続はありませんから、きちんと花ガラ切りさえすれば、バラは夏真っ盛りにちゃんと二度目の花を咲かせます。八月のお盆頃まで咲いていることもあります。秋の花に期待して、そこから逆算して夏剪定をやろうなどと考えると、その真夏の花をある程度犠牲にしなければなりません。確かに暑い時期で花持ちも悪いのですが、秋に比べれば真夏の方が確実に咲いてくれます。
 また、祭りやお盆で東北に人が集まるこの時期は、むしろ秋よりもギャラリーも多いのです。
 秋の花というのは、咲いたときは確かに秀逸です。気温が低い分花色は冴え、花持ちもぐっと良くなります。ただ、夏のような一斉咲きを見られる品種はかなり限られてきます。二番花以降も一番花のように一斉咲きをさせたかったら、一斉に花ガラ切りをしなければなりません。となると花ガラ切りは大方咲き終わってからということになりますから時期的に遅れるのです。そうやってどんどん時期がずれ込むとますます秋の花を咲かせるタイミングが失われてきます。
 バラ園を見ていると、自分の庭のバラと同じ品種でも、開花にずれがあります。それは恐らく、バラ園のような広大な場所では毎日こまめに花ガラ摘みをすることは難しく、日を決めてある程度まとめてやっているからではないでしょうか。
 いずれにしても秋の花にとらわれすぎますと(カタログに記載されている連続開花性は暖地が対象の場合もあるので)品種選びも難しくなりますし、台風や低温の都度右往左往し、時には落胆したりということになりかねません。
 ですから私は秋の花というのは「おまけ」みたいに考えています。バラの専門家ではないので、バラに命を懸けているわけではありませんし、シーズンオフはたまった家の仕事や自分の趣味にも時間を使いたい、そんな傍らでぽつぽつと秋の花が見られたらそれでよしとすべきではないだろうかと思うのです。
 気候や自然条件は毎年全く同じではありませんし、そもそも西岸海洋性気候のイギリスとではあまりに条件が違います。夏が暑く雨が多く、湿度が高い日本、しかもその寒冷地でバラを育てるからには、ある程度覚悟というか諦めというか開き直りが必要だと思うわけです。

7. 薬剤の安全性について
 なんとなく固いお話のようですが、以前から思うことがあったので書き綴ってみます。
 昨今、バラ栽培において「無農薬」「減農薬」という言葉をよく耳にします。その方向性自体はすごく良いことだと思うのですが、誤解を招きやすいことも多々あると思うのです。
 私はバラ栽培をいつも人間に置き換えて考えています。例えば人間も具合の悪い時は水分を取るくらいであまり食べることは出来ませんから、バラも調子の悪い時にはあまり肥料を与えません。

 で、その考え方で薬剤についても考えてみます。
 私たちが普段薬局で受け取る薬は医薬品です。これは国の厳しい基準を通っていて国の認可を受けたものです。ところが最近、医薬品の認可を受けていないサプリや漢方薬、健康食品がいかに多いことか。中には「医薬品でないから常用しても安全」とうたっているものまであります。でも・・・本当にそうでしょうか。
 医薬品は確かに使用量や使用方法を厳格に守る必要があります。でも逆に、それをきちんと守りさえすれば、安全だということです。定められた使用方法で使用した場合にもし害があるようなら、それはそれを認可した国の責任にもなるからです。
 医薬品でないということは、その申請をしていない、つまり国の審査を受けていませんから、中にどんな成分が入っているか不明です。もしかしたら毒性の高いものや安全性の確立されていないものが含まれているかもしれない。でもそれは使い手にはわかりません。メーカーは都合の悪いことは表示していない可能性もあります。実際得体の知れない薬を飲んで中毒症状が出たり、死に至ったりという事故も起きています。
 同じことが農薬にも当てはまると思うのです。農薬は国の認可を受けています。でも最近人気の高い木酢液はじめ多くの「農薬でない薬」は口コミで広がってはいるものの、国の認可を受けていません。中に何が入っているかはそれを作っているメーカーが表示してしているわけで、厳しい国の検査を受けてはいないのです。つまり安全性が確立・証明されているわけではありません。「農薬でないから安全・人にやさしい」それは決して国が証明したものではないのです。
 確かに農薬にはよく「劇薬」などと書かれていますが、だからこそ使う方は細心の注意を払います。ところが農薬でないから防御の必要もありませんと書かれた薬は本当にそうなのでしょうか。使い手の方々はメーカー側の能書だけを信じてはいないでしょうか。もちろん私もそういった種類の薬も使っていますし、その種のものを否定するわけではないのですが、「根拠のない思い込み」にならないよう、気をつけなければいけないと思うのです。事実、木酢に含まれるタール成分の発がん性も問題になっていますし「この製品にはそういう有毒成分はいっさい含まれていません」とうたっていても、国の認可がなければどこまで信用できるかわからないからです。


8. 整形花の出現率について
 改まった表現に聞こえますが、要は花がいかに乱れず、その花本来の形で咲くか、ということです。
 バラの花の中には気候や施肥などによって花形の乱れやすいものがあります。また条件に左右されず、いつもきちんとした形で咲くものもあります。ここで取り上げる花形の乱れには花の大きさや、季節による違いは含みません。例えばオールドローズの中には季節によって同じ花かと思うほど花弁数が違ったり、花色が違ったりするものがあるからです。そういったことはその花の持つ性質であって、異常な乱れではありません。
 それを踏まえた上で、うちの庭にある花を考察してみたいと思います。
 よく蕾の出来る時期に窒素が効きすぎていると花が乱れると言われますが、うちの花の場合、それに関しては十分気をつけていますので、花が乱れる原因はそれ以外の要因として考えることにします。
 その要因は寒暖の差だったり、日照不足だったり、気候によるものが多いような気がしますが、時にははっきりした原因がわからないもの、もしかしたら代謝異常かな、と思われる場合もあります。

 ひと口に、こういうタイプの花が乱れやすい、というのはとても難しいのですが、例えばアブラハムダービー、クラウンプリンセスマルガリータ(この花はまだ栽培歴が短いのでなんとも言えないのですが)、ウィリアムシェークスピア2000などは乱れやすいと言えるかもしれません。雨でボーリングすることもあります。いずれも花弁が多く、やや固めです。オールドローズのポールネイロンもボーリングはよく起こるので、雨に当てたくない花です。
 一般に花弁が少なく一重や八重の花はどちらかというと乱れにくいようですが、花弁が多くてもほとんど乱れない優秀な花もあります。ジュビリーセレブレーションなどは花の大きさは若干違うことがあっても、ほとんど乱れずにきちんと咲きます。また、グラハムトーマスやパットオースチンのようなふわっとした花も乱れることは少ないようです。花の大きさや花弁の数は蕾が膨らんだ段階でだいたいわかりますが、花弁の多い花はほぼ球形に近い蕾になり、花弁の少ないものほど先の尖った形になります。当然ながら蕾が出来始めてから開花までは花弁の多いものの方が時間がかかります。でも不思議とジュビリーセレブレーションは、蕾がある程度出来てくるとあっという間に膨らみ大きくなります。大輪多弁花にしては早く咲くのです。そういった時間的なことも、花が乱れる要因を排除できることに関係するかもしれません。いずれにしてもまだまだ謎の多い現象です。