バルナックライカの軍御用達

 

ライカVc Nr.365456
ズミタールf2 Nr.529371付き。
代表的なバルナックライカの軍御用達もの
で、タマーキン社のオークションカタログ
に出たものです。

バルナックライカの完成とナチズムの台頭

オスカー・バルナックが創造したライカカメラの開発は、1940年に登場したモデル

VCで一つのピークに達しました。この前後はあたかも、政権を完全に握ったナチ

ズムが対外的に拡張する時期にあたっています。ナチス国家は、軍事用機材など

として、品質上抜きんでた存在であった「モデルVC前後のバルナックライカ」(以

下、「軍用バルナック」とします)を、積極的に採用しました。これが現在、一部コレ

クター垂涎の、代表的な軍用バージョンなのです。

「軍用バルナック」の特徴はかならずしも一定しておらず、モデル毎に、配属先別

に、また時代とともに変化しています。この変化が、コレクターを楽しませもし、悩

ませもするのです。配属先は、陸軍、海軍、空軍、武装親衛隊など広範囲に及び、

採用された主なモデルは、V、Va、VB、VCなどです。

 

「軍用バルナック」の特徴

 

所属先などの表示・表示場所・表示方法

陸軍向けは、HeerまたはWHW.H.(=Wermacht Heer)、或い

HEER EIGENTUM

海軍向けは単に(=Kriegsmarine)或いはMと数字3桁の組み合せ、

例えばM524、またはMF(=Marine Flieger)685など、

空軍は向けは LUFTWAFFEN−EIGENTUM

 

Fl.に続く数字5桁の在庫コードは、空軍向けのみについているもので、

原則としてV、Vaには Fl.38078、VB、VCには Fl.38079

す。なお、製造番号30万台辺りで末尾の数字二桁が78から79へ変更

されています。なお製造番号33万台のV型は、普通なら末尾78のはず

ですが、出荷時期からFl.38079が割りあてられています。

Mに続く3桁の数字(上記)は、海軍向けの軍用バルナックに使われて

いますが、例えば、製造番号384351〜384400のVCの中から、M

494からM537が割りあてられたといわれます。

表示は、軍艦部上部・同背面上部、ボディ背面、鏡胴回り、速写ケース、

ビドムファインダーなどにされています。なお、これらの表示方法は、金

属部分は彫りこみ、ボディのグッタペルカ部分は白色ペイント、革部分

ではプレスによります。これらの字体は、通常字体( traditional font )

と変体字体( stylised font )があります。また同じ書体でも、字体が違

う( gg )場合もあります。さらに空軍向けのLUFTWAFFEN表示で

すが、当初はボディ背面のグッタペルカにプレスされていました。しかし、

製造番号361千台の後半あたりから、軍艦部の背面右上部へ彫りこみ

表示に変わりました。書体は、当初変体字体で始まっていますが、製造

番号370千台付近で通常字体へ変更されたと見られます。

その他の表示としては、戦時特派員向けに KB(=Kriegsberichter)、

軍需本部向けに WaA(=Waffen Amt)、

艦砲部向けに Artl(=Artillery)、

配属海軍基地に関しては W.Haven(Wilhelms Haven)があります。

数字・アルファベット以外では、海軍向けに限られますが、鷲がナチスの

鉤十字をつかんでいるマークがM(上記)とともに彫りこまれているもの

もあります。このマークはよく見ると、鷲の羽根の数と形に数パターンの

違いがあります。

またボールベアリング(Kugellager)使用のシヤッターの場合、製造番

号に続きKの刻印またはシヤッター幕に白くKのスタンプが押されてい

ます。なお、刻印とスタンプが併用されているものもあるようです。製造

番号に続きKの刻印のあるものの中で、その直下に、(アスタリスク)

が刻印されているものがあります。*の意味は、すでに使用された番号

を再度利用したことを示すものといわれます。例えば1945年に米陸軍

へ提供されたVC、その製造番号 387101K〜387435K にこれが

つきました。これに限らず、製造番号を再用したのは、接収・修理期間

中に代品として貸与・自家利用のため製造・見本として贈呈のためなど、

簿外扱いにしたい何らかの事情があったのではないでしょうか。

 

ボディの仕上げなど

クロームメッキ仕上げ、あるいは青灰色のペイントがあります。黒色ペイン

トは、非常に珍しいようで、VC#390426K(Fl.38079 )が報告されて

います。これは大戦末期を含む混乱期に出荷されたと見られ、製造目的

など謎の多いしろものです。また赤幕シヤッターは、製造番号362401〜

379226のVCについているとされていますが、なぜ赤幕にしたのか、こ

れが軍用バージョン特有のものであるか、など今後も調査がいります。

青灰色のペイント物で軍用の各種マーキングがないものがあるといわれま

すが、個人、学校、警察向けなど、民生用に製造されたもののようです。

 

参考

海外研究家リスト

ジム・ラーガー:長年にわたる軍用バルナック研究の成果は実に内容豊富です

ヴァン・ハスブロック:著作もあり、収集し、特定顧客当てに商売もしてるようです

ジァンニ・ログリアッティ:著書が知られています

ビル・ゴードン:全米ライカ歴史協会機関誌”VIEWFINDER”寄稿家の一人

ステファン・ガンディ:ホームページ”CameraQuest”の管理者、商売もしています

 

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