ミリタリー、そしてミステリー

 

軍用バルナックを中心に偽物が多いこと、驚くばかりです。偽造技術も進み、

頼るべき文献も乏しく、ホントにコレクター泣かせです。どれだけ実物に当た

ったか、どれだけ授業料を払ったか、こんな実績がものをいう世界です。例

えば、軍用バルナックの中で最も著名なものに Luftwaffen−Eigentumが

あります。もし、アイゲンチュン(Luftwaffen−Eigentu )と彫られている

ライカVCがあるとして、これをどう扱うかです。品質管理で名高い筈の会社

に生じた、ミスの貴重な痕跡(=珍品)とみるか、それとも、ドイツ語を解さな

い偽造者の不注意、単純なケアレスミステイクと考えるか、見解は分かれま

す。しかし用心するに超したことはありません。こんなものは、まずは疑って

かかったほうがよさそうです。

 

しかし、ライツ製品のブランド表示には時々彫り間違いがあったとする報告が

あります。 著名な研究家 ビル・ゴードンによれば、次のようなものがあるとい

います。

1)Wetzlarが全く彫られていない」ものがある。

2)Wetz ar」、「Wetzar」とか「Wetzla」になっている。

3)Elmarが「Elma」、Germanyが「German」、Madeが「Mad」。

4)Leitzを、「Leit」或いは「Lcica」と彫ってある。

5)PA−CURTAGONが「PA−CUPTAGON」になっている。

6)Luftwaffen−Eigentumを「Luftwaffen−Eigentun」としている

 

彼ゴードンは、Eigentuものがライツから出庫した可能性があることを認めて

いるようです。そうだとすれば、高品質で定評があったあのライツの彫り手がミ

スをし、検査係がこれを見逃し、カメラ店もユーザーも正常なものとの交換を申

しでることもなかった不思議の連続が、この種の物をマーケットに残したことに

なります。一回の発注台数がそれほど多くない軍用バルナックにエラーものが

出現するのは、さらに不思議ではあります。ですから、こんなしろものが出現す

る確率は、計算すると天文学的な低さになるでしょう。したがって、現実には存

在し得ないといいきってよいかも知れません。しかし、確率ゼロでないだけに、

実物が存在する可能性を完全に否定しきれないのです。

警察捜査のような科学的手法でも取らない限り、

実に悩ましい問題に変りありません。

 

 

某掲示板に「アルゼンチン軍御用達のライカ DVを入手した」とありました。

何でも、トップカバー上のLeicaの彫り込みの左に、アルゼンチン国旗にある

マーク(上中央)と、製造番号の上に E. ARSENTINE の彫込みがあるようで

す。またボトムカバーには、Lutz Ferrando y Cia Buenos Aires の彫込み

もあるといいます(なお画像は、提供されませんでした)。

で、これをどう理解したらよいでしょうか。

私見では、このライカを「ア軍御用達」とするには次の3点で疑問が残ります。

1)アルゼンチン国旗にあるマークは、コロナを帯びた太陽に目鼻口をつけた

ものです。これがあるからといって、即、「ア軍御用達」と見てよいでしょうか。

2)ARSENTINE については、アルゼンチンのスペイン語表記は ARGENTINA

です。双方比較すると、語尾の変化は別としても S と G とでは明らかに違い

ます。またドイツ語表記でも同様でして、単なる誤記の可能性も完全に否定し

きれませんが、国名表示という国威に関わる重要なミスを、製造者・検収者

双方が見逃した(或いは、敢えて許容した)という考えには、少し無理があり

はしないでしょうか。3)ラーガーやハスブロックほか著名なライカ研究者が、

その著書などで「ア軍御用達」の存在にまったく触れていないことも、懸念材

料です。

世の中には実に精巧な、手の込んだ偽物があります。

少し手を加えるだけで値段はハネ上がるのですから、

偽造は実に報われ易い行為なのです。

どうぞくれぐれも、くれぐれも偽物には御用心!