文芸、お気に入り
(春秋胡氏傳序から) 永いこと、読んだものの中で心に残るフレーズを書きためてきました。 この際、お目にかけることにしました。また、俳句が好きで自身につ くりますが、どなたに師事したということもありません。専門家がみ てくださると季語の使い誤りなどありそうです。したがって「俳句も どき」を詠んでいるようなものです。どうぞそのお積もりでご覧くだ さるよう、あわせてよろしくお願いします。 |
箴言、短文などの部
(順不同)
*始末、算用、才覚(西鶴) *食少なくして事煩わし、それよく久しからんや(魏・司馬仲達) *悪筆は浮世の人の笑い種、物をば書いて恥をかくなり(?) *事未だ成らず小心翼々
*著者の目にうつった人生は、陰鬱の色をもつている *人は生まれながら革新の敵である(内村鑑三) *形は心を整える、心は形によつてけじめを生む(?) *英国人は戦争をスポーツと考え *ねがわくば花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ(西行) *うつ人もうたるる我ももろともに ただひとときの夢のたはむれ(西行) *人生は緩慢な死である(?) *結婚したその日から、二人が一緒に生きられる日数は一日づつ減っていく。 *すべて一度きりのことは苦しくありえない *いずれにせよ結婚せよ。 *人は勉強によって術を得ることはできます。 *序結はていねい、目次はななめ、本文指でなでるだけ(内藤湖南) *一灯を提げて暗夜を行く *祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり *発心正しからざれば万行空しく空ず(空海) *三界の狂人は狂せることを知らず、四生の盲者は盲なることを識らず *むつかしいことをむつかしく書くのは普通のバカ *目立たず悔やまず活動し *此世をば どりゃお暇に線香の 煙とともにはい左様なら(十返舎一九) *親も無く 妻無く子無く版木無し 金も無ければ死にたくも無し(林子平) *仏教の目標は苦から自由になることである *皺はよる
ほくろはできる 背はかがむ 頭は禿げる
毛は白うなる *災難に遭う時節には災難に遭うがよく候
*死は前より来らず、かねてより後ろに迫れり(?) 事業の進歩発達に最も害するものは、 伊吹おろしの雪消えて
木曽の流れに囁けば 光に満てる国原の
春永劫に薫るかな 親鸞におきては、ただ念仏して弥陀に助けまいらすべしと
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随 筆 |
こころの目覚め
人の立ち居振舞いには、複雑な心の動きを伝える能力がある。 (キタン新聞
1986年12月 第456号
”ひろば”へ寄稿) |
俳句の部
(順不同)
晴れやらぬ雲間に上がる雲雀かな
中途半端な昇進に悩む人もいた うぐいすのひと苦労する初音かな 部下が昇進して転勤してゆく 笹小舟水に任せし行方かな 時と所を得ず、ついに退職にいたる人も 人の世や泥鰌の桶に浮き沈み 失意の人を慰めるための句でした 若鮎は漁どりかねたる齢かな 退職挨拶状への返信に、自愛を祈って 時雨るれば笠かたむけよ一人旅 遠地へ単身赴任する人へ贈った句 高く舞う鳶に霙の小止みなし 遠方で責任者となる人を励ます 去る人の肩に霙や寒椿 荒れ模様の寒い日に転勤者が挨拶に来社 暮れなずむ海に人あり春の潮 終わりの余韻を楽しむ気持ちです 青剃りの尼の伏し目や春の宵 軽くイッパイやって外へ出たときです 春雨の滴る先につくしの穂 自然の正直さ うす墨に茜のさして伊吹暮れ ときどき木曽川の堤防に上り西の方を見る 横たうる地蔵の首やキリギリス 近くの地蔵堂が改築中でした 花売りの汗かえりみぬ大暑かな ハナヨー、サカキヨーの売り声が懐かしい つくぼうて蟻堰きとむる指の先 庭先に巣替りでしょうかアリの行列です 畦ごとに紅置くころや彼岸花 誰が植えたでもないのに華やかな紅が 病む秋は鳥の声にも子を思ふ 入院中の友人は何思う 川下を見やれば靄の立つ瀬かな 迫り来る漠とした危険の予感です 番いにて鳶の舞たる柏原 二羽の鳶は伸びやかに飛んで 這うごとく飛ぶや枯れ野の冬鴉 これ誰かの句でないの? 冬枯れの欅は天を掴みけり 樹形のよいケヤキ並木を見上げています くさめして真顔にかえる別れかな 友人急逝の報に接して 払われし松が枝いずこ秋の空 忌明けの品を頂いた返信に添えた句です 白玉の露ばかりなる身の嘆きかな 同上 降る雪にすぼめし傘や寒の寺 「寒の寺」連作のうちから 木枯らしや人みな疎し寒の寺 同上 人の世の情けに鳴くや軒の鳩 思いがけない人から頂き物をして 参道に霜踏むころや落ちる雁 季感にやや無理アリか 夕映えをうがつや鳥の黒き影 一羽また一羽ねぐらへ急ぐ 降り敷きし落ち葉に光る雨の色 雨にぬれた落ち葉の色や、よし きのこ早や旬を過ぎたり霜近し 河川敷に年毎に変わった茸が 死してなお野性とどむる鱒の貌 新鮮で巨きな鱒が到来した 木洩れ陽に指先染むる昼下がり 時はゆっくり過ぎて 煮凝りの独り震える夜の膳 単身赴任のころを思い出す 夜の雪闇より出でて闇に入る 眼前を絶え間なく過ぎる雪片の数々 春あらし幹くろぐろと過ぎし雨 木肌しっとり、緑も生気を取り戻す 黄塵の伊吹を巻きて春漠々 黄砂が目立つ年もある 小庭に桜は過ぎて藤は未だ 花の主役の交代を待つ 藪蔭に野性を見たり雉子の赤 突然に雉と遭遇し感激した 田深くて貌に届きし泥のあと 機械化されても農作業は重労働です 春の墓尼したたらす手水かな 尼でも美人はトクです 経読まむ桜散り敷く春の墓 墓前に何を祈るか、感謝するか 春のどか巨き蜂の木齧りおり 動物園へ送りたいような見事な蜂 雨しとど葬列映す水溜り 雨の葬儀は、故人を偲ぶにピッタリ 旧友も過ごしかねてか梅雨見舞い 何日も何日も降り続いて 突法師のひといき入れて夏の風 短い生涯にも一息が要る 夏夕餉去りゆく時を愛おしむ いつもながらの老妻の手料理だが 蝉の羽の空しく地うつ彼岸かな 羽に生まれつきの奇形ある蝉 さながらに湖となりぬ梅雨の河 川幅がいやに広くなって、気味が悪い 心なきを責めず自然にまかす雨 各地に豪雨災害のニュースあり 蟷螂の身を反らせ食む松の蝉 一瞬の動作で獲物を捕らえ逃さない 何やらむ豆と煮ており路地の秋 通りすがりに、特有のにおいに気づく 伸びほけし人参やあわれ秋の畑 ここにも高齢化の波か、放置作物 病む鷺の佇むばかり夏の畔 まさに尾羽打ち枯らすさま、哀れ 春が来てまた春が来て結ぶ縁 めぐる季節にただ感謝 師走はや小魚の皿に煮凝りて 我が家では、夜、無人の台所が最も冷えます ほととぎす厠半ばに出かねけり(時の権力者、西園寺公の招宴を断る漱石) |
以上