130. Gメン75と87分署シリーズ

(著者エド・マクベイン)

1.87分署シリーズとは

エド・マクベインが描いた「87分署シリーズ」は、日本の刑事ドラマの多くが、参考にした警察小説の傑作である。
「Gメン75」「太陽にほえろ」「特捜最前線」などに、強い影響を与えたと言われる。
高久進氏も、フレデリック・フォーサイスとともに、エド・マクベインの87分署シリーズを参考にしたと言われている。

1956年に第1作が発表され、以後50年間にわたり毎年のように書き続けられた人気シリーズ。
マクベインが亡くなったのは2005年。 その最後の年には第55作目の「最後の旋律」を発表している。

2.ヒッチコック「鳥」の脚本家

この作品の脚本はエド・マクベインが書いている。(本名エヴァン・ハンターの名前で)
「鳥」はラストが尻切れのようになっているが、これはマクベインの脚本と違っており、ヒッチコックがそのまま撮ってくれなかったとこぼしている。

3.黒澤明の「天国と地獄」の原作者

この映画の原作は、87分署シリーズの第10作の「キングの身代金」である。

4.映画化

タイトルは忘れたが、87分署シリーズは映画化されたこともある。
  この時の主役は、バート・レイノルズ、ドナルド・サザーランド、
  悪役の親玉がユル・ブリンナー
  女がラクエル・ウェルチ。

5.日本でのTVドラマ化

1980年4月スタートの刑事ドラマ「裸の街 87分署シリーズ」
古谷一行、岡本富士太、田中邦衛、森マリア、村野武範、等がレギュラー。
私は未見であるが、87分署シリーズをアレンジした作品で、内容はシリアスで「刑事もの」の原点を追及しようとしたドラマとの事。

6.87分署シリーズと、それまでの刑事・探偵小説との違い

1)レギュラー刑事が数人いて、主役は作品によって変わる。
   それまでの作品は、小説でもTVドラマでも主役の1〜2人が、毎回主役をする。
   87分署はレギュラーが数人いて、そのうちの誰かが交代で事件を担当して主役をやる。
   この週毎の主役交代方式は、Gメン75や太陽にほえろ、ザ・ガードマン、特捜最前線等で用いられた。

定年間近の刑事もいる。恋人を殺された刑事、結婚後すぐに花嫁を誘拐された刑事、悪人に射殺された刑事もいる。
ゲストとして他の分署の刑事には、太っていて嫌われる性格であるが捜査能力の高い刑事や、イヤミな刑事も登場する。
風采の上がらない刑事もいる。

全員が主人公になる可能性があるが、最大の主人公として、主役率が最も高いのは「スティーブ・キャレラ刑事」。 彼の紹介文は、大柄で筋肉質の体格、一見クールな表情の中に熱い正義感が脈打つ優秀な刑事。

2)レギュラーにスーパー刑事はいない−−−つまり特別な推理力や、格闘能力があるわけではない。
    (但し、空手の達人はいないが、柔道の達人は1人いる)

3)リアリティ : 捜査は実際の警察捜査に基づいていると言われ、事件もリアリティのあるものである。

4)レギュラーの殉職が数人あった。
    主人公が1〜2人のドラマではなく、数人のレギュラーがいることから可能な設定。
    一番人気の、キャレラ刑事さえも殉職させようとしていたことがある。

7.87分署シリーズが、Gメン75と違う点は

1.私生活も描かれている。

これは意識して書いたとマクベインは言っている。
太陽にほえろには、私生活の部分もあったが、Gメンでは初期はほとんど描かれなかった。
吹雪刑事のころは何話か描かれることがあった。

2.刑事の恋愛感情やセックスも良く描かれる。

3.87分署シリーズには女刑事は登場しない(と思う)−−−私が寡聞なためだけかも知れないが。

8.偉大なる連作

50年も続けて発行するのは凄い。

マクベイン自身が、これほど長く続くとは想定していなかったため、当初は何年の出来事とか年齢を書いていたが段々と書かなくなっている。これは長い間につじつまが合わなくなってくるからとの事。
レギュラーはずっと年をとらず、その子供たちも年をとらない。キャレラ刑事も、デビュー作と50年後の最後の作品と年齢はほぼ同じ設定となっている。

ところで、日本のテレビドラマには、44年間も続いたバケモノのような超長寿の刑事ドラマがある。小説と違ってテレビドラマは視聴率が常に問題になるので比較しにくいが、1人の作家による50年もの連作はとにかく凄い。


9.作品について

 (実はそれほど数多くの87分署シリーズを読んではいないが、少し紹介を)

第1作 警官嫌い

記念すべき最初の作品。
一番最初に登場するのは男。しかしその男は登場直後に、あっという間に撃ち殺されてしまう。
      (この最初の展開、どこかで見たような気がしませんか?)

この作品は、私が思うに第1作としての重要性はあるが、それほどの作品とは思えない。
さらにクリスティのある作品からのリメイクの部分もあり、それを途中で私が気付いた程度だからそれほどあまり上手くはないと思う。

小説とテレビの比較はしにくいが、Gメン75の第1話の方が優れていると思う。
なおGメン75には、184話に同じタイトルの作品がある。

(右の画像はハヤカワ文庫のものであるが、3作とも雰囲気が良く出ていると思うので掲載する事にした)


最大の異色作 第34話 幽 霊  (原題も「Ghosts」)

87分署で最大の異色作でありかつ面白いのが、この第34話「幽霊」。
物証による証拠を重視し、論理的な推理の積み重ねで成立している、リアリティなシリーズの中で1980年5月発表の、この作品だけは「本物の霊魂と霊媒師」が登場する、唯一の作品。
荒唐無稽ともとれる題材にも拘わらず、リアリティが感じられる出来ばえに仕上がっていて、間違いなく面白い。

メインレギュラーのキャレラ刑事が、美しい霊能力者ヒラリーとともに様々な心霊現象を体験する。アメリカの読者投票では、シリーズの人気投票で第9位になっている。
なぜこのような異色作を作ったのか? しかもこの一作だけである。

同じ1980年度に、Gメン75に本物の霊魂が登場する作品がある。
87分署の「幽霊」が発表されてから、数ヶ月後の作品である。
その2作とは、
   273話「怪談 死霊の棲む家」
   282話「肉体のない女が呼んでいる」

2作とも、ストーリーは87分署の「幽霊」とは違うが、「幽霊」の発表から僅か数ヶ月後の作品であることと、全355話の中でこの80年度だけに「本物の霊魂」が登場することから考えると、87分署に影響されたような気がしてならない。
丹波さんの影響もあるかも知れないが、タイミング的には違うと思う。

この「幽霊」については、吹雪のページ「140.吹雪刑事と霊魂と87分署」、作品のページ「282話 肉体のない女が呼んでいる」にも記載。


第12話 電話魔

タイトルがGメン75と同じものには、第12話の「電話魔」がある。
Gメン75の226話「電話魔」と同じであるが、ストーリーは違う。

(タイトルの和訳について)
87分署の「電話魔」の原題は「The Heckler」。
訳者の高橋泰邦氏は、これをどう訳そうか、全く別の邦訳題にしようかと考えた末に、あることを思い出した。
遠藤周作は、友人たちへいたずら電話をかけて楽しむ趣味があり、友人間で「電話魔」と仇名されていることを思い出して、これに決めてしまったというエピソードがあるとの事。

アメリカの読者投票では、シリーズ中の人気第8位になっている。

(この作品の特徴)
87分署シリーズは、現実的な雰囲気が基調になっていて、登場人物は警察側も犯人側も"超人的"な人物は登場しない。
しかしこの作品は違う、この犯人は高い知能をもち、論理的な思考と、正確な確率論と、奇想天外なトリックを組み合わせる才能を持っている人物である事。つまり凄腕の悪人が登場する。


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