素敵な出会いの。

確かちょっと暖かい春の日。サイドカーの運転にも春の日差しが見え始めた頃。
はたまたブイ〜ンとクライアントにお届けもの。この日はかさばる荷物なんでひとり。渡すだけだからと近場で路上駐車。辺りを見回して「5分だけね」と心の中で言い訳して。
多分3分ほどで戻ってみると、体中荷物でいっぱいのおじさんが熱心にサイドカーを眺めてる。
近付いてくる僕が主だとわかったようで、眼にちょっと警戒色。いえいえ僕、凶暴じゃありませんからって風に少し微笑み加減で。
「邪魔だ」って言われるより前に退散しちゃおうと早足で向かい、緊張気味にトランクからヘルメットを出そうとしたら。
「これ太陸製?」って。「これ太陸のGTじゃないの?」って遠慮がちだけどハッキリと。実物見た事無いけど、太陸のGTったら幻のサイドカー。値段だって頭がクラクラってするって何かの本で読んだぞ。
「いえいえ違いますよ。他のメーカーさんのですよ」「へ〜、太陸以外でも作ってるんだ、俺昔乗ってたんだよ、太陸」よく見るとおじさん60才ちょい過ぎくらい。「若い頃だったけどさ、仲間とよく乗ったなぁ」「ちょっと当て舵してさ、グイッってやって舟浮かせてさ」なんて。「お、フロント、ノーマルなんだ。ハンドル振れねえかい?」なんて。もう僕の眼は尊敬の眼。なにしろ乗り始めてまだ間もない頃、サイドカーに乗ってる、乗ってた人なんて周りにそういなかった頃。サイドカー話に飢えてた頃だもの、緊張はスルっと雪解け。この際だから何でも聞いちゃお。
「ようやく慣れてきたから平気ですけど、最初はバタバタしちゃって。とっても怖かったっす」「そ〜なんだな、最初は。でもね」って、ハンドル振れた時はちょこっとアクセル開けてやると平気なこととか、舟側に曲がる時はゆっくりが一番だとか、サイドカーについてのあれやこれや。
道端で談笑する怪しげな二人と傍らのマイナーな乗りもん。最初は道行く人の視線気にしたけど、そんなもんどこ吹く風の楽しい時間。気がつきゃ結構な時間が過ぎていた。

そろそろ仕事せにゃあならんし、と僕。おじさんもどっこいしょと立ち上がる。「久し振りに見たなぁ。もう乗れないけどなぁ。懐かしかったからつい声かけちゃって、ごめんな」って。そんなことないって手を横に振る。ヘルメットを被りセルを回す。「気をつけてな」の声に「おじさんもね」って言おうとして止めた。代わりにバイバイと手を振ると、おじさんニコニコ笑って頷いて。もう一度軽くおじぎをして発進。バックミラーの中でおじさんだんだん小さくなる。
あれから何度か行ったんだけどそれっきり。その内クライアントとも仕事の付き合いが無くなって、ずっとそこには行ってない。

だから寒くなると思い出す。おじさん元気なのかなって。元気だったらいいなって。

初体験だったの

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