単車で街をバビュ〜ンと。

サイドカー乗り始めて1年位。クライアントの行き帰りにいつも気になる少し古びたバイク屋さんが。昔ながらの木枠のガラス戸と手書きの看板がいい味出して。作業場の奥は座敷きみたいで、よくお店のおじさんがタバコ吹かしてたりしてる。
店に置いてあるバイクと言えば、BMWや70年、80年代あたりの日本車や英車で、たぶんみんな空冷エンジンもの。まちがっても今時のスクータとかは置いてなさそう。だから、90年代水冷マルチの僕には敷居が30メートルくらいありそうなお店で、通りかかった時にチラリチラリと横目で見てたんだけど。

そんなある日。
何やらがそのお店の前に。一瞬停り損ねて、アワワと数メートル先で停車。振り向くと旧〜いBMWのサイドカーが停まってる。真っ黒けのそれは何やらカッコいいぞって。きっと乗ってる人はお金持ちのダンディなおじさんだろなって、そんなイメージを抱かせるたたずまい。しばらく単車にまたがったまま僕、見とれていたんだけど。生サイドカー乗り=素敵なダンディってどんな人? ぜひともお会いしたい、こんなチャンスは二度とはないぞって言い聞かせ、そのお方がいらっしゃるであろうそのお店に行ってみた。
ガラス戸を覗き込むと、店の中ではおじさん二人が喋っていた。一人は店のご主人、よく見る人。もう一人はその辺にいるフツーのおっちゃん。素敵なダンディじゃあないぞ。ってことはサイドカーの持ち主、どこかに行ってるのかな? って思って。でもま、すぐ戻って来られるかもしれないし、ちょっと聞いてみようかなって「すいません、外にあるサイドカーの方っていらっしゃいます?」フツーのおっちゃん答えて「おお、オレんだ」僕、声詰まって。「オレんだけどさぁ、ど〜した?」思い描いていたイメージとのあまりのギャップに、僕、ますます声詰まって。やっと「あ、いえ、あの、その、僕もサイドカー乗ってますんでよかったら、は、話しをきかせていただっこかかこっこ…」「お、そ〜かそ〜か、何でも聞きねぇ。その前にちっと乗ってみるか?横」って。
あららと思う間もなく僕、船上に。「じゃ、行くか」バッビュ〜〜〜〜ン。で、サイドカー浮かせるわ、細い道すっ飛ばすわで僕もうヘトヘト。よく考えりゃ、横って殆ど乗った事無いし。でも面白い事このうえなく。また、運転するのと違ったスリルが楽しめて。なんせ目線が低いんだもの。こりゃ、クセになりそ。
聞けば、もう何十年と乗ってるとの事、「そりゃ〜最初は怖かったけどよ〜」って。「みんなやるんだよな、一回はブツけるって」これって励まし? 「でもやっぱ面白えからよ〜」やっぱそうっすよね〜って僕。「現場にだって乗ってちゃうんだぜ」職業、大工の棟梁、そのままやんけ。「兄ちゃんのはどんなんだ?」「すぐそばだけど見に来ます?」「おうおう」って。それからウチの駐車場でひとしきり。名刺交換したりして。

そんなこんなで始まったお付き合い。朝が早い棟梁と、朝が昼の僕だから、一緒にどこかに行くって事はないんだけど、現場が早く終わったりして仕事が空いた時にお土産片手に来てくれる、僕の数少ない大事な友達のひとり。サイドカーのみならず、人生の色んな事を面白く教えてくれる。つ〜か、ほとんどがサイドカー以外の事ばっかりだけど。

←特別付録『師匠のありがたい手』

そんな彼を「師匠」ってウチでは呼んでいる。師匠、これからもよろしくね。車検代で飲んじゃダメだって〜の。

愛はどこだ?

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