行って帰って500kmほど。早朝発って昼過ぎには戻ってくる、お墓参り口実の精神淀み掃除。
限定解除して現在の単車クンを手に入れてから、年に1回くらいはこんな事やってみて。この単車クン、さすがにツアラーだけあって、ほとんど疲労感なく帰ってこられるスグレもの。すぐ図に乗るボク、右見て左見て、前後見て、「オッシ、誰も居らんゾ」って確認した後、メーター読み最高速にチャレンジしたりして。で、回数重ねる度に時間短縮図ったりしてたんだけど。
ここ数年はサイドカーで。元来Vmaxクン、追越加速命の最高速チャレンジ仕様じゃないし、なんせ側車が付いてるから風圧が凄い。だもんで高速道路はひとりで乗ってても150km/hくらいがボクには限界。まあ、足付かなくていいから長時間運転してても気分的にラクチン。だから、ここんところ、時間短縮ツーリングはやらなくなっちゃった。でも一度トホホなことが。まだ、サイドカーに乗り始めて間もない頃のおバカな話で。

電柱とのキスの修理から戻って3、4ヶ月ほど。そう、大天才の片鱗をうかがわせはじめた頃。バイク仲間からお食事ツーリングのお誘い。こりゃあイイやってんで、サイドカーで参加することに。で、ひとりで行くのもナンなんで、古くからの友人に「行かない?」って誘ってみたら、「行く行く」って。
でも彼、サイドカーなんておろか、バイクの後ろ座席すら乗った事なくて、車も運転した事ないしで、ちょっと不安気味。だもんでツーリングの前の週に予行練習ってことで誘い出してみた。
「ただ座ってりゃイイかんね」って、ヘルメット初体験の彼に優しくレクチャ。「重い〜」って泣き言抜かす彼。「ハイハイ」って僕。とりあえず街中流して。レーンチェンジする度にキャーキャー喜んでくれて僕満足。「んじゃ高速乗ってみんべ」「イェ〜!」

左回りのロータリー、ひとりで高速に入る時はいつも緊張。なにやら側車が浮きそうになってちょっと怖い。が、今日は横に友達(推定体重60kg弱、ちなみに連れ合いは彼よかずっと軽し。僕も彼よりおそらく軽し)が乗ってるから割合平気。そう言やあ一度、80kg超の友達乗っけた時、スピードが出るまでいつもよりタイムラグがあったっけって思いつつ、走行車線に合流。ブイ〜ン、ブイ〜ンって快調にスピード上げて。120km/hくらいで流してみる。彼にしてみれば、今までの街中走行とは趣が違うようで、何やらわめいてる様だけどよくわかんね。ま、怖かろうがど〜だろ〜がここは高速、停まることもできないし。とりあえず最寄りのSAまで我慢してね。って思う間もなく最寄りのSA着。
「首が痛ぇ〜」「ノドが乾く〜」ってブツブツ。でも「なんか判らんが面白いかも〜」って、少し僕に気を使ってくれてるんか? 「でもツーリングは何時間か乗るんだけどダイジョブ?」「ん〜多分ヘ〜キかも〜」なんて、缶コーヒーすすりながらベンチでひと休み。「じゃ、次のインターでUターンして帰ろっか?」「ん〜」ってほんと大丈夫かしらん。

んで帰り。
一応未経験者乗っけるんだからって、行きと同じトップで120km/hくらいの安全走行。で、もうちょっとでゴールって時。追い越し車線をVmaxがかっ飛んで行くのが見えまして。ほとんど何となく、ま、条件反射って言うんですかね、単車に乗ってる時の癖つ〜か。普段6速ホールドで「!」ってなったら2段落としてアクセル『ガバッ!』なんてのを無意識にやってるわけで。んだもので、この時もついつい「!」って公式が成立しましてのマイナス2段。一瞬、リアが沈んだかなって思った瞬間、力強いエンジンの咆哮『ガォーン!』。で、ギアを上げてまた一吹かし『ガォーン!』。穏やかに流れていた風景が僕と彼の脳ミソと共に、遥か後方に置いてけぼりになって…の予定なのに。
流れてる風景は次第にスピードを緩め、次第にゆっくり、ゆっくり、ゆっくり…。代わりに僕は慌てて、慌てて、大慌てでハザードをオンにして路肩へと。その間もアクセル開けて、エンジン音は響かせていたんだけれど。
あろう事かの高速路肩駐車。何をど〜やっても走る気配さえ無し。ど〜しょ〜もないんで、ふたりしてエッチラ、オッチラ押しはじめて。幸運にもゴールは1km先、なだらかな下りだったんでどうにかこうにか。
料金所を出た所で件のバイク屋さんにレスキューの電話。「どうしました?」「かくかくしかじかのこんなんなっちゃって」「じゃ行きますね、待っててね」
ふたりして夕焼け見ながらひざ抱えて。彼にしてみれば初めてのサイドカー、初めての高速、初めての高速での車両押し。「いや〜、イイ経験させてもらったわ」って、僕泣きそう。僕だって、高速での故障なんて初めてだわい。でも優しい彼、「直ったらまた乗っけてね」って夕焼け赤く染まる笑顔で言ってくれたりして。
そうこうするうち、いつものバイク屋さん到着。色々見てくれて、「クラッチっすね」。エンジンオイルの注ぎ口の蓋を開けると鉄の焼けた香り。「クラッチ。イっちゃってます。何したんすか?」「えっと、トップから2段落としてアクセル『ガバッ!』って」「5速から3速? んな無茶な」「え? だってあの単車ん時はいつもやってて」「バイクの種類が違います! あれは6速、こいつは5速! それに側車付いてるんすよ、あ〜可哀想に」「…」「じゃ、牽引しますから」
軽トラに綱つけて手際よく繋げて。それからしばし道行く人達の目線に晒されながら、僕サイドカーくんにまたがって。軽トラの運転席を見るとは無しに見てると、友達とバイク屋さんの彼、なにやら談笑してる。僕、少し寂しい…。

←時間短縮号、見参! なんちって。

お店に着いて点検してみると、1枚のクラッチプレートが跡形もなく消え去っていて。エンジンオイルからは金属片が、まるで星のように光り輝いていやがって。

件のツーリングは、予算がクラッチ交換に振り替わっちゃったんで、結局ボツ。ええ、その日は仕事いれましたよ、まったく!

けっこうムズかしかったりしたんだ、これが。

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