治療

 猫の甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺腺腫様過形成の基本的原因は不明である。この疾患は自然寛解が起こらないので、治療の目的は腺腫性甲状腺からの甲状腺ホルモンの分泌過剰を抑制する事にある。猫の甲状腺機能亢進症は以下の3つの方法で治療できる。すなわち、外科的な甲状腺切除術、放射線ヨウ素あるいは抗甲状腺薬の長期投与である。抗甲状腺薬は甲状腺機能亢進状態の猫に「甲状腺切除術前の準備」として短期治療(3〜6週)しても非常に有用である。

 個々の猫に対する治療法の選択は猫の年齢、付随する心血管系疾患あるいはその他の主要な内科疾患(たとえば腎疾患)の存在、熟練した外科医あるいは核医学部門の利用性、推奨した治療法を飼い主が快諾するかと言ったいくつかの要因に依存する。利用しうる3つの治療法のうち、外科的方法と放射性ヨウ素の利用のみがそれぞれ腺腫様性甲状腺組織を除去し破壊して、甲状腺機能亢進状態が「治癒」する。抗甲状腺薬(たとえばメチマゾール)の利用は甲状腺ホルモンの合成を阻止するが、薬物療法の中止後24〜72時間以内に甲状腺機能亢進症の再発が必ず起こる。甲状腺機能亢進症を主に抗甲状腺薬で治療する場合には、抗甲状腺薬を生涯投与しなければならない。

〇内科療法(抗甲状腺薬)

 抗甲状腺薬プロピルチオウラシル(PTU)又はメチマゾールで治療する事が出来る。これらの薬剤はサイログロブリンのチロジル基へのヨード取り込みを遮断し、ヨードチロジル基のT3、T4への結合を抑制する事で甲状腺ホルモン合成を阻害する。

 メチマゾールとPTUの副作用としては、食欲不振、嗜眠傾向、嘔吐、意気消沈、血小板減少、血清抗核体の発現、皮疹、顔面腫脹、掻痒感などがある。PTUはまた免疫介在性溶血性貧血を引き起こす事がある。PTUのほうが副作用が多く重症なため、猫の治療にはメチマゾールを選択する。

  メチマゾールは初回投与として1日総量1015mgを3回に分けて投与する。血清甲状腺ホルモンは濃度は殆どの場合、投与23週間以内に正常又は低値にまで低下する。

(この時期、甲状腺摘出手術を行う事が出来る。)

 メチマゾールの長期投与では、1日総量を2.55mgずつ漸減し、血清甲状腺ホルモン値を正常又は下限値に維持できる最低量まで減量する。

 メチマゾールの最も重篤な副作用は治療開始後の3ヶ月間に起こり、この間は2〜3週間ごとに患猫の検査をする必要がある。検査時にはCBC、血小板数、血清T4濃度を検査する。

●抗甲状腺ホルモン製剤

品名

規格・単位

成分および商品名

チアマゾール錠

5mg/1

メルカゾール錠 (HMR-中外)

プロピルチオウラシル錠

50mg/1

チウラジール錠 (白井松-東京田辺)

プロパジール錠 (中外)

終わりに

 甲状腺機能亢進症は、本を見ると殆どのもので「よく知られた、かなり多く見られる病気」とありますが、日本ではまだまだ診断の実績に乏しく、飼い主にとっては殆ど「夢想だにしない病気」のようです。一見「食欲も旺盛で元気」なため発見が遅れ、手遅れになりがちです。

 多すぎる甲状腺ホルモンの作用で体中の細胞の新陳代謝がどんどん活発になり、細胞の酸素消費量の増大で心臓は多くの酸素を送るために肥大化し、肺も多量の酸素を取り込むために猫の呼吸も荒くなる・・・いくら食べても体内の細胞がどんどんエネルギーを使うので身体は痩せるばかり。あとは心臓も呼吸器も、体力もその限界をこえて「燃え尽きて死んでしまう」という恐ろしい病気です。

 老齢猫を飼う飼い主、またそういう猫が来院した時は、よく様子を観察し、話を聞いて、早期発見に努めたいと思います。

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この「猫の甲状腺機能亢進症」をまとめるのにあたっては、色々な本・HPを参考にさせていただきました。