ハム蔵 1998年6月に拾われる。生後1日か2日。 誰からも愛される猫に育てよう計画を実行中。 自宅にいる時は誰が来ても大丈夫。外では弱虫。 |
1999年10月5日
その日の夕方、仕事場に1本の電話が入りました。トゥルルル〜
「こゆきさん、お家から電話みたいよ?」
「え?!どうもすみません。(なんで仕事中に電話してくるんだー。)」
電話は滅多なことではかけてこない母からだった。実は私は家の人が職場に電話してくるのが嫌いである。
だから母が電話をかけてくるのはよっぽどの事・・・のハズなんだけど・・・
「もしもし、なに?!」
『恐れていたことが起こってしまったよ。』
「はい?!」(頭の中で色々なことが駆け巡る)
『ハム蔵がベランダから落ちた。』
「ええっ?!」
実はハム蔵はベランダの柵の外側に出ることが度々あり、早く囲いをつけなければと言っていたのだ。
「それで、大丈夫なの?」
『わからない。』
「分からないって何よ?」
『見に降りたら思いっきり逃走して、行方不明になった。』
「・・・・・・・・ 何それ・・・」
ハム蔵は最初の頃は私と一緒に病院に通勤したり、いろんな人と会わせて社会化を試みたのだが、
大きくなるに連れ家で猫だけで留守番する事が多くなり、静かな生活になってしまった。
そのため自宅ではわりと誰にでもなつく、愛想のいい大人しい猫に育ったものの、
一歩家を出るとビクビクした、ちょっと臆病な猫になってしまった。
ようするに外の世界になれていないので、恐怖でパニック状態になってしまった・・・と言う事らしい。
病院に来る猫でも外にでて、車の音や何かでパニックを起こして逃走し、行方不明になって見つからない子もいる。
だから病院に来る子は「絶対キャリーバックか何かに入れて下さい」と言う。
「うちの子に限って」と言うのは、ものすごく怖い考えだと思う。例えば逃走して怪我をしても捕まればいい。
運悪く死んでしまっても、いなくなって、どうなったか分からないのを心配するよりまだいい。
ハム蔵の状態はまさにこの「いなくなって、どうなったか分からない」最悪のケース。
時計はそろそろ6時・・・でも仕事が終わるまでにまだ1時間以上もある。
「私まだ仕事あるから、電話してきても帰れないよ。」
『分かってる。帰って来てからいないって聞いてショック受けるよりいいかと思って。じゃあね。』
ガチャン。ツーツー。「・・・・・・・・。」
帰ってから話し聞くのもショックだけれど、帰るまでの時間中、心配する私の身にもなって欲しい。
とりあえず仕事をしながら、でも頭の中はどこに逃げたか隠れてるか、どうやって見つけるか、いろいろシュミレーションをしてみる。
病院の先生方やスタッフにも話しをし、いろいろアドバイスをもらって、「最悪の場合は捕獲ケージを使う」まで考える。
そして先生方の「大丈夫、きっとすぐ見つかるよ。」と言う言葉を心の支えに、私はすっとんで家路についたのでした。
帰宅後・・・
自宅に近づく頃にはすっかりあたりは暗くなっていて、草むらなんかは真っ暗で何も見えない・・・。
「見つからないかもしれない・・・」と、最悪の異状況ばかり考えてしまうものの、何となく「すぐ見つかるんじゃないか・・・」という気持ちもありました。いま思うと不思議なんですが。
とりあえず自宅でもう一度母から話しを聞くと、どうも病院に電話をかける2時間くらい前にはベランダから落ちていたらしい。
最初にハム蔵がいなくなったのに気が付いたのは弟のお嫁さん(義理の妹ですね。)で、「さっきまでベランダにいた」と言う事でのぞいてみると、3階下の芝生の上でうずくまっているハム蔵を発見。
驚いた母は急いで階段を駆け降りてハム蔵を捕まえに行ったが、本人は落ちた事と初めて外の世界を目の当たりにして
相当パニックを起こしたらしく、母の姿を見るなり一目散に逃げ出したらしい・・・・(>_<)・・・バカモノが・・・
パニックを起こしたハム蔵は、母の手を振りきり、団地を2周くらいして、姿を暗ましたらしく、母も必死になって探したが見つからず、ついにあきらめて電話をしてきたらしい・・・。
となると、私が家に帰るまでに4時間近くも外にいる訳で、またしても最悪の状況が頭を過ぎっていった・・・。
とにかく探さなくては・・・ということで、暗い団地内を懐中電灯片手に、草むらや自転車置き場、駐車場など、猫が潜みそうな場所をグルグルと延々2時間ばかり探していました。この時に痛感したのは、分譲団地とはいえもともとはペット禁止の団地なので、大声でハム蔵の名前を呼んで探す事も気が引けたのと(ハム蔵と言う名前も何となく呼びにくいものがあったし・・・ひどい飼い主だけど)首輪、迷子札を付けていなかったので、万が一誰かに保護されても連絡先が分からないと言う事でした。
暫く探していると近所のオバサンが公園で猫に話しかけているのに遭遇。その猫は私がずっと「ノラ猫」と思っていたネコだったがよくよく話しを聞くとそのオバサンのネコで、「今の時間はいつも散歩している」と言う事らしい。そしてもう一匹現れて、
「この子はうちの子のお友達」と言う事だった。そのオバサンはハム蔵が逃げた事を話すと、色々アドバイスしてくれて、最後に
「○○ちゃん、〈←ネコの名前)、あなた探して来てあげなさいよ」と言って去っていきました。
ホントーに探して欲しい、ネコの手も借りたいと思った瞬間でした。
その後も暗い団地の中、夜中に懐中電灯でベランダの下やら、植木の内側やらを照らし歩く不信な人物になっていましたが、散々探しても見つからないから、これはもう明るくなってから探そうと心に決め、頭の中では「迷いネコ」のお知らせをする病院をリストアップしつつ、最後にもう一度・・・と自分の住む団地の棟を一周していきました。
もう何周したかも忘れたくらい見て回っていたので、諦め半分で懐中電灯を照らした草むらの中で、何やら白い物体を発見。
あれっ?!と思い、もう一度ゆっくり光を当て、草むらの中をのぞいてみると、「いたー!!!!」
地べたにへばりつくようにしてハム蔵は隠れていました。
ここで取り逃がしてはいけない!と、ゆっくりゆっくり「ハムちゃん、大丈夫だよ」とやさしく声をかけながら、むんずと背中を掴み、しっかりと両腕に確保しました。
捕獲後・・・
ハム蔵は捕獲されると私にへばりついて離れませんでした。その様子からよっぽど怖い思いをしたんだなぁ・・・と思って
なんだか可哀相になってしまいました。考えてみれば生まれて初めての外の世界。見るものすべて、聞く音すべてが初めてのものです。想像以上に不安だった事でしょう。
家に連れて帰ると、不安そうに家の中を歩きまわりはじめました。歩く様子からは特に怪我をしている感じもなかったのですが、ひとしきり歩いた後、いつも寝そべるテーブルの上に行き、横になるのですが、何だか様子がぎこちない・・・。
身体中が痛い・・・という感じで、腕を伸ばしてみてはすぐ引っ込めたり、体の向きを変えたりして、挙げ句の果てには
何時もは自分からは入らないケージの中に入っていき、丸くなってしまいました。
声をかけてもこんな感じ・・・虚ろな瞳のハムちゃんうるるん・・・
確かに3階から落ちたわけなので、何ともないはずはない。やはりどこか打ったかなぁ・・・と思い、とりあえず院長に電話してみました。
「もしもし、こゆきです。どうもお騒がせしました。ハム蔵見つかりました。」
『ほんと?!よかったねー。』
「はい。でもちょっと様子が変なんですけど。ケージに入って動かないんです。なんか痛そうだし・・・。」
『呼吸は?荒くない?大丈夫そう?』
「はい。普通です。」
『それだったら様子見て大丈夫だと思うよ。3階から落ちたんだから全身打撲かもね。何か様子が変わったらすぐ電話して。』
「はい。ありがとうございました。また明日。」
こうしてハム蔵は無事家に帰り、全身打撲で2,3日痛い思いをしていましたが、特に何事もなく回復しました。
もうあんな事は二度とごめんだ!!という事で、家のベランダには私自身の手ですべてに柵を取り付けました。
当の本人はそれでもベランダで遊ぶ事は止めませんが、柵を乗り越えるような無謀な真似はせず、また玄関が開いていても絶対に外には出なくなりました。外に出なくなっのは良いのですが、あの6時間くらいの外での出来事は、のんきなハム蔵にとっても怖い経験としてトラウマのように残ってしまい、、せっかく「誰からも愛される猫にしよう」と計画していたのに、外ではすっかり臆病な猫になって、実家のはずの病院でさえも怖がってシャーシャー言うようになってしまいました。
こうして私の計画は無残にも崩れ落ちたのでした。家では愛想の良い猫なのに・・・(^_^:
残念無念。
おわり