花の色の不思議について


 花の色素、白い花、黒い花、ビロード状の花、赤とピンクの違い、色の七変化の原因、青色色素のなぞ、遺伝子組み替えによる新花色作出など、つれづれにまとめてみました。少し長くなりましたが、根気よく最後までおつき合い下さい。

1.花の色を決める色素にはどんなものがある?
カロチン類・・オレンジ、黄色、赤などの色素群。濃い黄色や橙色の花に多く含まれる。水に溶けず、油に溶ける。
フラボン類・・薄い黄色から濃い黄色の色素群。アントシアン色素と類似した構造を持つ。野菜の煮汁が黄色になるのはこの色素が溶けたことによる。溶液の酸性度で色が変わり、酸性では薄く、アルカリ性では濃い発色を示す。

アントシアン類・・赤、青、紫、ピンク、オレンジまで幅の広い色素群。溶液の酸性度で色が変化し、酸性では赤、中性で紫、アルカリ性では青を示す。ただし、この色素は酸性溶液では安定しているが、アルカリ性溶液では不安定で極めて短時間に分解する。

2.色素は花びらのどこにある?
◎色素は花びらの表裏の表皮部分に含まれており、中心には含まれていない。紙を千切るように花びらを引き裂くと、薄くはがれた表皮に色があるのが分かる。

3.白い花の色素はどんな物質?
◎白い色素はない。白い花の色素の本体は花弁表面の色素細胞の下にある海綿状細胞の小さな気泡。花弁表面の色素細胞中には黄色のフラボン系色素がわずかに含まれるが、色としてはほとんど感じない。このような場合には、黄色が目立たず、下にある海綿状細胞の気泡に当たって反射した光が白く見える。タイトルを黄色にしてみたが、目立たないことがお分かりと思う。なお、花弁は厚いほど白さが発揮される。

4.黒い花の色素はどんな物質?
◎黒い色素はない。黒花の原因は2つ。一つは紫の色素が多量に含まれることで黒く見えること。もう一つは花弁表面の色素細胞の形に拠る。表皮細胞は小山が連なっているように凹凸になっているが、花弁に光が当たった時に、この小山が高いほど山の影ができやすい。影は暗く見えるため紫色素の花が、より黒く見える。

5.色に厚みがあり柔らかなビロード状に見える花があるが、その原因は?
◎4.と同様の原因。花弁に光が当たったとき、花弁表面の色素細胞の小山の凹凸が大きいほど、光が細胞の凹凸の隙間で乱反射する。このため、色感に厚みが出て、柔らかなビロード状を呈する。反対に、細胞の凹凸が少ない花は金属質のクリヤーな色感になる。

6.赤とピンクの色の違いは?
◎同じ種類の赤系色素を含んでいる場合、色素の量が多ければ赤く、また、少なければピンクになります。

7.同じ花で、色が変化する原因は? 
色の濃さだけが変わっていく場合。単に含まれる色素の量が変化していくことによる。
極端に色変わりする場合。複数の異なる色素が混在しており、細胞の成長と共に、主役となる色素が変わるため。例えば、最初はフラボン系色素のクリーム色や白、緑色で、やがて主役がアントシアン系色素になり、ピンクから赤色に変化する。
色の感じ(ニュアンス)が変化していく場合。一般的には赤・紫系に多く、時間が経つと青みを増す場合が多い。これは、色素細胞中の酸性度(pH)が細胞の老化と共に微妙に高くなり、色素が青系に変化していくため。バラが老化とともにブルーイング(青色化)を起こすのは別の原因。これは老化と共に細胞中にタンニン様物質が溜まり、これとアントシアン色素とが会合して青紫色に変化する。・・・・・関連項目は次の8で

8.西洋アサガオ「ヘブンりーブルー」色素の変化アジサイの色の七変化の原因は?
◎西洋アサガオは蕾が赤紫で開花すると鮮やかなブルーに変化する。色素はアントシアン系のペオニジン一種類だけ。この色素は花の中で唯一、アルカリ性でも安定した色素であり、細胞の酸性度(pH)が蕾から開花までに酸性からアルカリ性に劇的に変化するため色が変化することが証明された。通常、植物細胞のpHは極端なアルカリ性にはならないが、このアサガオだけはpH7.7(pH7が中性)まで変化することが、細胞内の微小部位のpH測定で証明された。なお、色素ペオニジンは細胞内では助色素のカフェ酸という物質と会合して安定していることも明らかにされている。
◎アジサイは赤紫〜青と変化する。まず、アジサイの色素本体はアントシアニン系のデルフィニジン一種類だけ。そして、アジサイの青色は、色素本体(デルフィニジン)及び助色素(発色を助ける物質、この場合はイソクロロゲン酸)、金属(アルミニウム)、糖類が、比較的安定な色素複合体を形成して存在していることによるといわれる。では、七変化はどうして起こる?。それはまだ明らかにされていないが、おそらく細胞内のわずかなpHの変化で色素複合体が構造変化して色調を変えるものと考えられる。この説はかつて1917年にウイルステッター氏が唱えたpH説とは根本的に異なる。ウイルステッター氏は、アルカリ性になると青色になると唱えたが、アジサイの細胞内のpHはそれほど高くないし、また、アルカリ性で発色するアントシアニンの青色は不安定で瞬時に消失してしまうことによる。

アジサイの七変化にアルミニウムや土壌の酸性度は関与しているのか?。アルミニウムは上で述べたとおり金属色素複合体(メタロアントシアニンと言う)の金属として重要であり、一般にアルミニウムが少ないと赤色系、多いと青色系であるが、この反対もあるため、アルミニウムのみで色の違いがあるとは考えにくい。  また、土壌の酸性度は土壌中のアルミニウムの溶けやすさと関連しており、酸性側では溶けやすいため土壌中のアルミニウム含量が高いため青色系が出やすいとも言われるが、思い通りには行かない場合が多い。この原因は先に述べたとおり、色の発生には助色素など、他の要因も関わっているためである。

9.花では貴重な青色色素については解明されているの?
◎青色色素が注目されるのは、色素が非常に不安定で、植物から抽出する際に分解してしまい、純粋な結晶が得られないため未解明の部分が多いためである。
◎ツユクサの色素複合体「コンメニリン」は林氏らが結晶を得てその詳細な構造を世界で初めて明らかにした。その後、青色色素の発色には、7で述べたとおり、色素本体に加えて、助色素、金属、糖類などが複雑に組み合わされて安定した色素複合体(超分子構造)を保っていることが明らかになってきた。色素複合体の様式には、「自己会合型」「コピグメンテーション型」「金属錯体型」「分子間会合型」などがあることも明らかにされつつある。
◎今までに明らかにされた青色花は、ツユクサ(コンメニリン)、ヤグルマギク(プロトシアニン)、サルビア(プロトデルフィン、シアノサルビアニン)、ネモフィラ(ネモフィリン)などである。アジサイは7で述べたようにまだ純粋な色素結晶が得られていない。
◎金属としてはマグネシウムが多いが、他に鉄、アルミニウムも知られている。

10.遺伝子組み替えで青色のバラはできるの?
◎これまで、青色色素の複合体構造が明らかにされつつあることから、この色素を発現させる遺伝子を突き止めることも可能になってきた。事実、ある青色花の遺伝子をカーネーションの遺伝子に組み込んで、青色のカーネーションを作出する事に成功している。長年の夢であった青色のバラの出現もそう遠くない将来、可能になるだろう。

ホームへ       アラカルトインデックスへ