知って楽しい香りと匂いの話


1.匂いはなぜ感じるのか?

 匂いは、物質が揮発して鼻の中にある嗅覚器に作用することによって感じます。従って、物質が「匂う」ためには揮発できることが必須条件となります。揮発しない物質では匂いを感じることができません。
 概して、軽くて小さい物質は揮発しやすいために匂いを感じやすく、反対に大きくて重い物質は揮発しにくいことになります。
 しかし、人間にとって重要なことは匂いの「質」で、嫌な匂いはたとえ少量でも感じやすいことになります。例えば、「イソ酪酸」と呼ばれる物質はホンの少量でも鼻が曲がるほど嫌な、汗の腐ったような匂いを感じます。一方、ジャスミンの香り成分「ジャスモン」は多量でも不快感を与えません。このような匂いの好き嫌いについては、よくある赤ちゃんの排便摂食などから考えると、後天的に学習することなのかもしれません。

2.みどりの香り、森の香りの正体は?

 私は田んぼと山に囲まれた田舎暮らしですが、都会に住む多くの方は、週末を緑の香りに包まれた森林浴で身も心もリフレッシュ・・と思っていることでしょう。今、ブームになっている森林浴ですが、さて、「みどりの香り」、「森の香り」の正体はなんでしょう。

 (1) みどりの香りの正体

  • 「みどりの香り」の正体は、炭素が6個つながったアルコール類とそれが酸化したアルデヒド類です。
  • アルコール類は、炭素Cが6個つながったヘキシルアルコール(ヘキサノールともいう。”ヘキサ”は6という意味)と、その類似物質3種類で、その仲間の1つは青葉アルコールと呼ばれています。
    アルコール類の基本構造は、炭素Cを骨格にして水素H、酸素Oが結合したもので、下のような形をしています。
         CH3−CH2−CH2−CH2−CH2−CH2OH
  • アルデヒド類としては、上のアルコール類と同じ骨格のヘキシルアルデヒド(ヘキセナールともいう)と、その類似物質3種類で、その仲間の1つは青葉アルデヒドと呼ばれています。
     アルデヒド類の基本構造はアルコールのCH2OHに代わりCHOが結合したもので、下のような形をしています。
         CH3−CH2−CH2−CH2−CH2−CHO
  • 人間がこの青葉アルコールや青葉アルデヒドの匂いを嗅ぐと、「新鮮な匂い」を感じます。また、青葉アルコールは「緑葉の匂い」など青臭さが特徴で、青葉アルデヒドは「甘い香り」、「果肉の匂い」など果実様の香りが特徴です。
  • なお、アルコール類はCH2OHのようにOH基を含み、呼び名に・・”オール”とつきます。また、アルデヒド類はCHOを含むのが特徴です。

 (2) 森林の香り(フィトンチッド)の正体

  • 森林の香りは、みどりの香りに加えて、緑葉や樹幹、さらには土壌などから発散される各種の香りのミックスです。
  • 緑葉や樹幹からは、主として炭素Cが10個程度結合したテルペン類が多く発散されます。例としてはタイワンヒノキやヒバに含まれる抗菌性成分のテルペン類「ヒノキチオール」が有名です。
  • 植物は、他の植物の生長を阻害する作用(アレロパシーという)や病害虫から自分の身を護る作用などを持っており、旧ソ連のトーキン博士はこの植物の不思議な力を「フィトン」(植物)「チッド」(殺す)と呼びました。
  • ポプラ、ミズナラなどに傷をつけると青葉アルコールを発散します。これは、青葉アルコールを発散して周りの仲間の樹木に昆虫の防護を呼びかけている行動と言われています。
  • フィトンチッドとは植物が分泌・発散する各種の物質で、植物の自己防衛のための秘密兵器です。他の生物には攻撃的に作用する武器である物質でも、人間にとっては精神の安らぎや爽快感をもたらし、ストレスを解消する果があります。このような香りの効果を利用したのがアロマテラピー(芳香療法)と呼ばれる治療法です。
  • 森林の香りに限らず、一般に香り成分のなかには殺菌作用の強いものが多い。例えばユーカリの葉の芳香油には蚊に対する忌避物質が含まれています。また、バラのゲラニオール、レモンの香りのシトラール、松に含まれるテルピネオールなどはいずれも強い殺菌作用を持っています。

3.おいしいメロンの香りの正体は?

  • とろけるようなおいしいメロン。ではその香りの正体は何でしょうか。実は、メロンを分析すると、軽い(小さい)物質から重い(大きい)物質まで、ゆうに100を越える揮発性の物質が検出され、その量もまちまちです。
  • 100を越える揮発性物質の織りなす複雑な香りですが、実は下に示したたった4つの物質を混ぜ合わせるとメロンの香りとほぼ同じ香りを作り出すことができます。
    • シス−6−ノネノール(Nonenol)・・・メロンの基本的な匂いでウリの生臭い匂い。
    • エチルブチル酸(Ethyl Butyrate)・・・フルーティーな果実の匂い。
    • フェネチルアルコール(Phenethyl alcohol)・・・花のようなフローラルな匂い。
    • シス−3−ヘキセノール(Hexenol)・・・”みどりの香り”で述べた、干し草のような、あるいは緑葉のようなフレッシュ感を感じさせる匂い。
  • メロンの香りは品種ごとに異なります。上の4つの物質のうちエチルブチル酸の含有量は品種によって大きく異なり、概して収穫後すぐ黄化するような日持ちの悪いメロンはエチルブチル酸が多い傾向にあります。つまりこの匂いはメロンが熟することによって発散する匂い物質に由来します。

4.花の香りの正体は?

  • 花もメロン同様、100を越える揮発性物質が織りなす複雑な香りを有している。例えばラベンダーには約300種類もの香り成分が含まれています。
  • しかし、メロンで述べたように、特徴的な香り物質で代表される例もあります。例えば、ウメやサクラ、モモなどバラ科サクラ属の香りはほぼ同じで、ベンジルアルコールとベンズアルデヒドであり、また、ジャスミンの主な香り成分は、ジャスモン、ジャスモン酸メチル及びジャスミンラクトンの3種類で示されます。
  • 最近、花の持つ効用としてアロマセラピー(香り療法)への利用が増えつつあり、このため、花の香りの研究が進みつつあります。
  • 香り成分の多くは「精油」成分と呼ばれ、水よりも油やアルコールに溶けやすい性質を持っています。香り成分を芳香油などと呼ぶのはこのためです。
ホームへ            アラカルトインデックスへ