□ RETURN


01.緑の玉

草色の玉が跳ねる。
僕の前をぽんぽん跳ねる。
右。左。前。後。上。下。
僕は追う。一生懸命、玉を追う。
手を伸ばして、走って隠れて。飛んで狙って、手を出して・・・。
そいつは僕を馬鹿にする。
手を伸ばすとひょいと下がって、狙うとひょいと消えてしまう。
僕が下がればちょこんと現れ、おいでおいでと手招きだ。
僕は狙う。じーっと狙う。隠れてそいつの一瞬を狙う。

目の前をそいつがよぎる。一瞬を僕は逃さない。
ためた力で腕を伸ばして、平でそいつをちょいとつかむ。
ふさふさした感触。思ったより軽い手ごたえ。
伸ばした爪は、そいつを裂いて。
そいつは僕の平から逃げる。
あわてて伸ばした僕の平を、そいつはちょいと動いてかわす。
そいつは僕を馬鹿にする。
ぽんぽんぽんぽん、前を跳ねる。
僕のプライドはずたずただ。
僕は構える。次こそは。
そいつが動く。僕を誘う。動いてとまり、跳ねて転がり。
僕はじっと待ち続ける。そいつに手を伸ばす一瞬を。

僕の前をそいつが過ぎる。今度こそと手を伸ばす。
平にあたった感触に、僕はしっかり爪を出す。
爪を伸ばして固定して、僕はそいつを抱え込む。
草の色した丸いもの。細かい葉を出す丸いもの。
僕はしっかり抱え込む。暴れるそいつを押さえ込む。
牙をたてて、そいつをかじる。
これ以上、僕を馬鹿にさせない。二度と僕の前であそばせない。
そいつはぱさぱさ、・・・まずかった。

僕が離すとそいつは逃げて、僕の前を通り過ぎる。
右。左。前。後。上。下。
僕の前をぽんぽんはねる。


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