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人前じゃ踊れないの。明るいところは苦手なの。 でも、選抜に残らなくてはいけないの。もっと先に行くためには。 枯れ葉の落ちる石畳は私のステージ。冷たい空気に瞬く街灯がスポットライト。風が奏でる組曲にのって、ステップを踏むわ。 タン。タン。タン。 タン。トン。タン、パン。 ほら、できた。 まるで操られているように、ここでならうまく踊れる。 「アン、ドゥ、トワ。アン、ドゥ、トワ…ルーシィ」 先生の手が止まる。足をおろしたみんなの視線が集まってくる。手を振り上げた私は、そのままの姿勢で止まってしまった。手すりの先鏡の向こうには、縫いつけられたように両足を床につけた私がいる。 「ルーシィ。そこは手と一緒に足を上げるの。サラ、見せてあげて」 「はい」 主席のサラ。背も高くて姿勢も綺麗。もちろん振りもとても綺麗。 パン、パン、パン。トン、タン、トン。 先生の拍子に合わせて、すっと伸びた手足が舞う。一拍ためて、すっと手足が同時に上がる。 判ってるのに。覚えてるのに。どうしてもできない。 「選抜会に出るのでしょう? せめて振りを覚えなきゃ。サラ、ありがとう」 「ハイ」 「最後よ。終わった次のSTEPに進みましょう。ルーシィ、間違えたら抜けなさい」 「ハイ!」 ……結局私は見学に回ることになった。 覚えてる。できるわ。 リズムをとって、手を挙げる。おろして回って、一拍引きつけて、手と足を同時に上げる。 軽いわ。手も、足も。どこまでも飛んでいけそう。 街灯に照らされてひしゃげた私の影は、楽しそうに石畳を舞った。妖精のよう。 私の目は影を追った。……まるで、影が踊っているみたい。こんなに軽く、こんなに自由に。あぁそうね。身体なんて重いだけだわ。影だけならもっともっと自由になれるのかしら。影になったら。 ぷつん。 「え?」 どこかで音が聞こえた気がして、私は地面に座り込んだ。急に重さを取り戻したように、手足が動かなかった。 音を聞いたあのときから、私の影は踊らなくなった。街灯の中でも鏡の前でも、身体は重く、枷のようで。 みんなは三つも新しいSTEPを学んだ。私は最初の一つもできずにいた。 「もう少しがんばろうよ」 みんなが声をかけてくれる。 「やめたら?」 サラが目を合わせずに言い置いていく。 定席になった柱の前で私は泣いた。誰もいない教室で。どうして、うまく踊れないの? あのときまではあんなにうまく踊れたのに。教科書通り、サラよりもうまく、踊ることができたのに。 「選抜は諦めましょう?」 先生の声を思い出した。また来年があるじゃない。続く言葉が思い浮かんだ。 「……嫌だ」 一年遅くなればそれだけ夢は遠ざかる。プリマになるためには、プリマとして舞台に立つためには。 私は踊れるんだ。あんなにうまく。絶対、絶対踊れるんだ。 私は立ち上がった。鏡の向こう、にらみつける私をにらみ返して。 覚えてる、あの感覚。覚えてる、あのリズム。だから絶対、できるんだ。 頭を真っ白にして、力を抜いて腕を上げる。ふわりとおろしてくるっと回転。一拍おいて、手と足を……。 「できた!」 何度も何度も繰り返した。身体が覚えている通りに、教科書で習ったままに、私は踊り続けた。 「シャル、合格だって」 「あぁ、そう」 「なによ、嬉しくないの?」 カーリーが僕の方に腕を投げかけてくる。腕の先には、合格通知。 「オレ、落ちるつもりだったのに。失敗したな」 「やーね。影使いの特級までとっておいて、嫌みに聞こえるわ。……その子?」 モニタの向こうには人形のように踊る少女がいた。なんの感情もなく正確に、ただ、踊る。学校では優等生だろう。でも、それだけだ。 「すごいわね! シャルのプログラミング通りじゃない」 「今はなんもしてないよ」 「嘘ぉ」 マシンはジーともウィーンともいっていない。動いていない証拠。 「なるほど、これは合格するわねー。あたしも頑張らなきゃ!」 妙に感心してオレの肩を叩き、カーリーは出て行った。 とん、とん、とん。 オレはいらいらしてキーを叩いた。 ……彼女は、人形をえらんだんだ。 |
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