アンナ、お茶を入れてくれないか。 レイン、今日の郵便物はどこだい? ジャンヌ、イヌ太郎に餌をやってくれたかい? キーロ、ネコ美はどこにいったかな。 サリビア、キーロと探してくれないか。 ジョルジュ、あの書類を持ってきてくれ。 あぁ、ユリウス、それはこちらに持ってきてくれ。 ん、お客様かい? ベッキー、応接間へお通ししなさい。 メイシャ! 風が入る! 窓は閉めてくれ。 まったく、寝るヒマもないとはこのことだ。 うずたかく積まれた書類の一つ一つに目を通す。OK、NG,処理、完了で分類し、片付けた側からまた積まれる。 メッシュ、それは端に乗せてくれ。こちらが終わったら取りかかるから。 あぁアンナ、ありがとう。お茶はこちらにおいてくれ。 重い湯飲みの7分目。柔らかい湯気が立ち上がる。 アンナはお茶くみのスペシャリスト。逆にその他は出来ないが、アンナのお茶は極上だ。 一口すすってまた書類。これは購買記録の監査結果。これは施設の補修見積もり。 書類は全部回ってくる。種類を問わず回ってくる。 購買記録は問題なし。補修見積もりはやり直し。 ジョルジュ、右の束は後で良い。左の束はすぐにくれ。 ジョルジュは優先度を判断できる。左は最優先で右はその他。 ジャンヌとキーロは獣医学を持っている。専門はイヌとネコ。 サリビアは生態学で専門は行動学。 うむ、お客様をお通ししたね。ロップ、ご用件をお聞きしてくれ。 次の束は、新規教育施設建設の嘆願書。こっちは判待ちの休暇届。 嘆願書は問題ない。予算委員へ回してくれ。 休暇届もOKだ。判子は頼むよ。終わったら、業務へ回すんだぞ。 レイン、新聞と請求書と書類は分けてくれないか。 プログラムミスだな。チェイス、レインをメンテナンスへ連れて行け。 ジャーニー、ここはいいから、あちらの部屋を掃除してくれ。 サニストン、植木を切りすぎないようにな。 ん、ロップ、なんだい? お客様が? それはお前の役目だろう? ジーサー、下水管の修理は終わったのかい? 経費はビアンカに計算させろ。 海峡トンネルの入札計画は、こことここをやり直しだ。 なんだ、タンカー事故の記録が出ていないぞ。 町内会費の徴収は収支が合わないじゃないか。 裁判記録の開示はNGだ。理由欄に不備がある。 ん? メイシャ、外は雨かい? ルーシーに洗濯物を取り入れるように言ってくれ。 サニストン、中に入りなさい。雨にあたっては障るだろう。 おぉ、キーロ、ネコ美を見つけたようだな。そろそろ餌の時間だ、頼んだぞ。 ロップ、何度も言うが、用件を聞くのはお前の役目だ。行きなさい。 次の山に取りかかる。 テレビ局の取材申し込みは却下。連合の会合は1時間遅れで通してくれ。 離婚調停!? あの女からの連絡は全てシャットダウンするように言われている。 美佐子の進学書類はこのまま通せ。幾ら予算を使っても構わないと言われている。 TVの修理は不要だろう。耐震調査も必要ない。 ん? なんの音かね。ミストラル、見ておいで。 ガイナ、もうそんな時間かい。いつものものを持ってきてくれ。 アンナ、レイン、キーロ、下がって補給に行きなさい。 サリビア、キミはメンテナンスの時期だったね、ミキサーに予約をしてもらいなさい。 ロップ、またお前か。何、どうしてもだと? 仕方がない。メッシュ、書類を片付けておくれ。面会が終わったら続きをするから。 レイジー、入ってもらいなさい。 平均的男性よりはやや細く高い体躯。良い布地のスーツに、埃一つ無い革靴。細いメガネはオーダーメイド。神経質そうに一本も乱れずなでつけた髪。100万くらいはするだろう時計、スーツの胸にいれられた万年筆も上等なもの。 きょろきょろ落ち着かない客だが、身形はよかった。 細い目に、瞳はアイスブルー。髪の色はダークグレー。肌の色は薄く、彫りの深い顔立ち。コーカソイドの男だった。 「どのようなご用件ですかな」 出力しながらアクセスする。ノンアクティブな領域にある、画像データを検索する。 解析、比較、一致。あった。このデータだ。マイフェル・リンクス、特殊審査官とある。 「……あなたがご主人か?」 「主人はいない。私は召使いの一人に過ぎない」 「ご主人を出してもらいたい」 「それはできない。私にはそのような機能は持たされていない」 「それでは、ご主人に面会するには………」 「面会要求にはパスワードが必要だ」 「パスワードは……」 「教えることは出来ない」 あぁ、メイシャ、戸締まりを始めてくれ。 ガイナ、住まないが少し待ってくれないか。 「私は特殊審査官だ。キミのご主人と面会する権利を与えられている。キミの主人はそれに応じる義務がある」 「人の世界の法に従うことはできない。私たちは、私たちのプログラムで動いている」 99人の個別機能ロボットと、それを統括するサーバが私。 全ての判断は私が下す。私のプログラムに従って。 「お引き取り願いたい」 さぁロップ、お客様のお帰りだ。 |