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■はじめに

 ――幸せが、掴みかけたこの手から、零れ落ちる…。
 …まるで、雪。
 …手にした瞬間に、溶けて消える。
 …雪は、いつまでも降り続ける。
 …何度でも、永遠に繰返し、繰返し、この手から、こぼれてゆく…。

 …今回は、それなりにシリアスモードでお送りします。いつまで続くかわかりませんが。
 で、期待されているようなので、今回も長文となっています。
 読まれる方、それなりにネタバレと眼精疲労にご注意下さい。
 
 それでは、「龍神村観光ツアー」に行ってらっしゃいませ〜♪ <少し不謹慎


■あらすじ

 ――遙か昔、この空には龍が存在した。

 龍は天を司る姫。
 ある日、地の男に恋をする。
 だが、それは叶わぬ恋だった。

 龍は地に雪を降らす。
 何もかも真っ白に覆い尽くしていく。
 男への想いを断ち切るように。

 ――物語は、それから数百年後、同じ土地の現代から始まる。

 フリーターの青年、出雲彼方は、従姉から旅館のバイトを頼まれる。
 子供の頃、一度だけ滞在した、記憶の片隅に残る、雪の村。

 だが、その龍神村に着いた早々、落石事故に遭い、瀕死の重傷を負ってしまう。
 …次に目が覚めた時には、従姉が経営する旅館、『龍神天守閣』にいた。
 重傷を負っていたはず、なのに、何事も無かったかのように。

 そして、その日から出雲彼方は、見えない運命に翻弄されていく…

 ――気が遠くなるほどの時を越えて、交差するそれぞれの想い。
   降る雪はただ白く、真実だけを埋め尽くしていく――

 (筆者注:フルボイス版、マニュアルより再構成)


■システム

 ビジュアルアーツ作品群の標準でしょうか、発売当初はボイスレスでのリリースでした。
 2004年9月24日に、「友達以上恋人未満」と共に、フルボイス版がリリース。
 筆者は積んでしまっているので、以下、ボイスレス版を前提に話を進めます。
 (一応、手元のフルボイス版マニュアルを見てみましたが、システム面の変更は無い様です)

 要求スペックですが、HDDの空き容量確保が最優先です。
 フルボイス版は、3〜5GB(!?)使用します。
 後、起動ディスクが都度必要になるので、フルインストールした場合でも、
 ディスクは仕舞わないようにしましょう(筆者はよく起動ディスクを見失います)。

 ●抱っこシステム
  目線スクロールのシステムと被りますが、
  画面=主人公の視野、という解釈で、ヒロインが画面の端っこに、ちょこんと座ったり。

  …このシステムが後に、「娘属性」を開発することに…(堕ちた人)。
  
 ●演出とか
  画面上では、雪がちらほら舞っていたり、吹雪になっていたり。
  他、同じ場所でも、朝・昼・晩・夜、そして雪の日といえば曇り空の雰囲気とか。
  イベントCG・通常シーン共に、延々と雪が舞っています。

  ボイスレスの関係もあってか、目パチ・口パクの類はありませんが、
  龍神村の雰囲気は抜群です。

  その他、印象的なシーンは、拡大・縮小を使って、インパクトある演出が光っています。 

 ●目線スクロール
  良くある?事ですが、通常、アドベンチャーゲームでは、立ちCGが「全く同じ大きさ」
  で描かれていることが多いです。
  これはつまり、身長160cmの「おねえさん」と、150cm未満の「ちみっこ」が、
  (画面表示が同じ大きさであるせいで)「ちみっこ」であることを、
  (プレイヤーが)認識できない場合がある、という事です。

  これを解消するために、本作品では、
  登場時:表示無し、またはメッセージウィンドウに立ちCGが重なる、
  会話する時:(主人公の視線移動に合わせて)全画面表示、というスタイルを採っています。

  …これにより、登場人物の背丈が、プレイヤー側にも分かるわけで。

  やはり、このシステムも、「ちみっこ属性」を開発した、素晴らしいシステムかと。

 ●セーブ&ロード、その他
  セーブポイントは8ポイント/1ページ×8ページ=64箇所です。
  サムネイル画面が表示されますが、コメントは入力できません。
  従って、ヒロインルート毎にページを切り替える方が良いようです。

  いつでも何処でもセーブできます。眠くなったらいつでも終われます。

  バックログは、ホイール対応ですが、メッセージウィンドウのみの表示です。
  この手の「読ませる」ゲームは、全画面表示の方が良かったかもしれません。

  …余計な機能かもしれませんが、「未読スキップ」も有りますので、重複プレイ
  (私のような、旧版ユーザへの配慮?)をする場合には、有効な機能かもしれません。


■グラフィック
 
 人物原画は、飛鳥ぴょん氏が担当されております。
 通常シーンで使われるCGに関しては、問題ないレベルかと思っています。
 …但し、えちぃシーンのイベント絵が、好みの分かれるところかな、という気がします。

 …そういえば、続編扱いの「友達以上恋人未満」では、一切絵を描かれていないようですが、
 フリーになられたのでしょうか。…詮索するだけ野暮な気もしますが。

 背景CGですが、雪の情景を上手くまとめてあると思います。
 …本来は、万年雪だから、民家の類は全て雪の中に埋まっていないと、おかしいのですが、
 まあそれは突っ込まない方向でお願いします。

 
■サウンド

 ボイスレス、ということもあり、BGMはかなり力が入っています。
 日常シーンは、寒いながらも暖かな雰囲気が醸し出されるBGM。

 おやくそく気味のギャグシーンでは、2種類のBGMがあります。

 中でも、「芽依子様」登場と共に流れてくるBGMは、必聴かと。
 何せ、芽依子様を主人公にしたゲームが発売されるくらいですので、その威力、推して知るべし。

 ボーカル曲は、3曲。
 オープニング曲と、エンディング曲が2種類。
 中でも、「過去編」にのみ流れてくる、「雪のかなた」が筆者的には、お気に入りです。

 当然、ストーリーのクライマックスでは、「雪のかなた」がオルゴールで流れてきます。
 特にバッドエンドで流れてきた時には、積み重ねてきた悲しみが、こちらにも流れ込んできました。

 …余談ですが、オープニングで流れてくる「SNOW」。
 これは、一体どのヒロインの心情を指しているのか…。
 個人的には、「あの方」だと思うのですが、それはゲームを実際にプレイして、お確かめください。


■ストーリー

 ビジュアルアーツに属するソフトメーカ様に共通するようなのですが、
 一回のプレイでは、何も明かされないまま、(どちらかというと)バッドエンドに堕ちます。
 (例えるなら、CLANNADのアフターストーリーエンドみたいな)

 プレイヤーは、雪月澄乃>日和川 旭>過去編>北里しぐれ>若生桜花、
 の順(筆者ほか、色々な方がオススメする攻略順)で龍神村の呪い?を一つ一つ解いていく事になります。

 …序盤は、とにかく訳も分からず、悲しい結末が待っています。
 ですが、自分とヒロインを信じて、立ち向かいましょう。
 
 …きっと、未来は必ず開けるはずです。

 個人的意見ですが、メーカ側は、あえてバッドエンドを見せることで、
 プレイヤー側の思い入れを期待しているのではないかと。

 …そりゃあまぁ、ゲームとはいえ、切ないだけではどうしようも有りませんので。
 むしろバッドエンドの存在によって、ハッピーエンドに辿り着いた時の達成感とか、
 幸福感とかが引き立つわけで。

 唯一つ、難点を挙げるとすれば、桜花ルートでの「しぐれ」がどうなったのか。
 できれば、エンディングにさりげなく登場して、「さくら」の頭をなでなで、
 という位の事はやってほしかったな…と(彼女はヒロインルート以外、ほとんど絡んできません)。

 …で、例によって、下のほうで妄想プレビューとか書いてみましたので、参考まで。


■シナリオランキング

 上から好きな順で並んでおります。

 ●しぐれBAD
  :切なすぎです。…大量にCGがあるので、イヤでもプレイする事になります。
   帽子が取れるシーンから一連の描写は、筆者にとてつもないダメージを喰らわせてくれました。
   CLANNADのアフターストーリーエンドが、強制エンドであるのに対し、
   こちらは選択肢次第で回避可能なのですが、それだけに、
   「自分の行動選択が間違っていた」事を、イヤという程実感させてくれます。

   …凍え切った彼女の心を溶かしてくれるのは…一体何なのでしょうか…
   それはゲーム本編でご確認ください。

 ●しぐれEND
  :プレイ順のせいかもしれませんが、BADエンド後に是非。
   最後の最後まで、ヒヤヒヤとさせられましたが、最後に現れた彼女の笑顔に、
   「良かった…その笑顔が見たかったんだよ…」と、思わずこぼしてしまいました。
  
 ●澄乃END
  :最初、誰もが一度は経験することになる、このエンド。
   こんな素直でいい子が、何故…。
   天に神が居ると言うのなら、何故…。
   本当の幸せを知らぬまま、天に召される結末に、涙してください。

 ●過去編
  :選択肢は一切ありませんが、このお話の根源に触れる物語ですので。
   悲しき運命の始まりと、延々と続く悲恋のお話。
   このルートをクリアしていないと、「しぐれルート」には行けない仕様になっています。

 ●桜花END
  :物語の冒頭に、出会う少女。
   最重要なキャラでありながら、その他ヒロインのルートでは自然消滅…。
   悲しみと寂しさを癒しながら、娘属性に目覚めてください。
   
 ●あさひEND
  :…え〜と。最下位になってしまいましたが、他のヒロインと違い、
   BADエンドがありません。
   とはいっても、彼女もまた、龍神村の因果に取り込まれている一人ではあるのですが。

 う〜む。こうしてみると、やはりこの、「SNOW」というゲームは、
 バッドエンドを見るためのゲームなのかなぁ、とか思ったり。

 全体を通してみるならば、SNOWは「桜花」のための物語、とも言えるのですが、
 その辺はプレイした方それぞれの判断に任せる、ということで。 


■キャラランキング

 これもまた、上から好きな順で並んでいます。
 …で、ネタバレが過ぎるかとも思いましたので、過去編のキャラは除外します。

 ●北里しぐれ
  :筆者はツンデレ系のキャラは大好きなのですが、
   しぐれさんは多少違っていて、「笑顔をなくした」キャラでして。
   …そのせいか、時折見せる幸せそうな表情が、ツボを突いた結果です。
   ストーリーでの切なさも、大きなポイントだったり。

 ●橘 芽依子
  :このお方は、どちらかというと物語の説明役なのですが、
   事ある毎に、主人公をいぢめるそのギャグに、完敗しました。
   好みが分かれるキャラですが、続編が出る辺り、人気は抜群であると確信しております。

 ●佐伯 つぐみ
  :芽衣子様同様、お笑い担当ではありますが、むしろそこがツボ。
   「暗黒SNOW」での大活躍が、この順位の理由です。

 ●雪月澄乃
  :ぽんこつ・天然系のヒロイン。
   形式上、メインヒロインではあるのですが、彼女のルートだけでは、
   ハッピーエンドに辿り着けないので、この位置に。
   個人的な理由としては、桜花ルートで、『「途中のプロセス」を省かれた』 <ここ重要
   (何かはゲーム中で確認しましょう)せいです。

 ●日和川 旭
  :ちみっこや良し。…が、シナリオインパクトが低めだったので、この位置に。
   「友恋」みたいに、コミカルCGの一つでもあれば、もっとポイントが上がったかもしれません。
   その割には、何かあったときに、
   「きしゃ―――――――!!」とか、叫んでたりするのですが。

 ●若生桜花
  :まんまお子様キャラです。
   もしかすると、ただの「ガキんちょ」にしか見えないのも事実ですが、
   彼女のルートに入ったらさあ大変。無邪気な娘として振舞ってくれます。
   幸せそうにコタツで寝入る姿に、「娘属性」開眼です。

 ●橘 誠史郎
  :芽衣子様が突っ込み役なら、この人はボケ役。
   いい味出してます。だからこそ、「友恋」にも出ているのでしょうが。

 ●出雲彼方
  :…ん?主人公がこんな位置で良いのか?
   バカでは有りませんが、程よい突っ込みとボケ具合。
   自分のヘタレ具合もまた、ネタにできるしぶとさに脱帽です。

 ●雪月小夜里
  :澄乃の母親であり、またよき理解者。
   ちょっと、出番が少なかったからかな?最下位になってしまったのは…

 しかし、何故、攻略対象外のキャラを上位に持ってくるかな〜(滝汗)。
 我ながら変だとは思ってます。突っ込みは無しで。


■龍神村の伝説に挑む「某探検隊」風のプレイ日記(筆者注:ネタバレと妄想全開です、ご注意を)


 ●序章・先遣隊、消息不明〜暗黒SNOW編〜

 ――我々、探検隊が求めるのは伝説の真偽。
 …しかし、何の準備もなしに大いなる伝説に挑むのはあまりに無謀といえた。
 …そこで、我々は鬼畜な主人公とその部下達を龍神村に派遣した。

 …しかし。

 最初に落石現場で遭遇した少女に敗退。決まり手は「金的」。…反則攻撃だった。
 翌日。
 あんまん娘を捕獲。…流石は、「絵に描いたようなバカ娘」というだけの事はあった。
 更に翌日。山奥に分け入った伸一は、謎の少女を捕獲…。
 ところが、少女の出した交換条件を反古にしたため、「強制成仏」…END。

 根性で再度現世に戻り、「自称・正義の味方」を捕獲。
 …気がつけば、晩飯は「ウサギ鍋」…
 「…まあいい。俺には獣姦の趣味はない…」謎が謎を呼ぶ。

 更に今度は、「あんまん」をエサに、子供と猫を捕獲。

 何とか役者が出揃った感じで、今回の犠牲者を選択、本懐を遂げるつもりが…。
 「貴様等、現実逃避していないか?…しばらく女とメシ抜きッ!!」
 「こんな村、二度と来るかぁー!!(かぁ〜かぁ〜かぁ〜 ←山びこ)」…END。

 ラストチャンス。…あの小生意気な娘を捕獲しに橘診療所へ。
 しかし、拉致には成功したものの、土壇場で大逆転…
 「こんな村、来るんじゃなかった…(泣)」…END。

 ・・・

 「…隊長。如何いたしましょうか…あれだけやって、どうにもならなかった上に、消息不明ですよ…」
 「…仕方あるまい。真実を知るためには、正攻法しかないようだな…。
  だが、メリットはあったぞ。音声を脳内補完できる…」
 「…流石は隊長。…では早速、龍神村に向かうとしますか…」

 (筆者注:「暗黒SNOW」は2004年春ごろ発売された、
  スタジオメビウスファンディスク「めびにゃ!」に収録されています)


 ●第1章・因果は巡る〜雪月澄乃編〜 

 …真っ白な雪。…この村は、年中、雪に覆われて…(以下略)…
 …今度は、死んだらしい…お経の調べが、俺を再びこの世界に…

 「彼方ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」
 「えうぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜」

 …で、誰だっけ?

 …子供の頃、両親の保養についてきた時に知り合ったあの子。
 …連絡するっ、て約束もしたのに、今の今まで思い出すことすらなかった
 …それなのに、澄乃は俺のことを覚えていた。
 …ただひたすら、俺がこの龍神村に帰ってくることだけを待っていた。

 ――誰よりも純粋で。
 …おっちょこちょいで。
 …あんまんが大好きで。
 …一緒に居ると、とにかく楽しかった。

 …なけなしの給金(2日分:ちなみに消費税かかっているとかなりヤバ目)で買ったおもちゃの指輪。
 …本当はもっとちゃんとしたものをプレゼントできれば良かったんだけれど。
 …澄乃は、これがいいっ、って言ってくれた。
 …そして、満面の笑顔で、左手の薬指にはめてくれた。

 …ひょんなことから、龍神天守閣をいきなり任されることになった俺。
 …つぐみさんの代わりに、澄乃が来てくれたおかげで、何とかなりそうだった。

 ――最初は、些細なことだった。
 …昨日と同じ夕食の献立。
 …自分の家、名前。…俺のこと。
 …俺と愛を誓い合ったこと。
 …自分の母親。昨日食べたもの。今さっき食べたもの。
 …ムキになってヒステリックになる彼女。
 …彼女の記憶の中には、俺はもう存在しない。
 …あの指輪すら、投げ捨てられた。

 …彼女を信じるしかなかった。
 …手足の感覚がなくなるまで、指輪を探し続けた。
 …これを失ってしまったら、2度と彼女には会えない気がして、必死に探した。

 …何も出来なくて、ただ祈ることくらいしか出来なかった。
 …今日は、頼んでいたウェディングドレスを取りに行く日。

 ――奇跡が起きた。

 …彼女は、忘れていたことすら忘れていた。
 …とにかく、涙が出た。
 …病み上りの体をおして、澄乃は俺についてきた。
 …途中から、俺に背負われながら、話をした。

 …結婚式のこと。
 …これからの生活のこと。
 …ごくありふれたもので、ごく普通の幸せ。

 「彼方ちゃん…私…幸せだよ…」

 ――この手に落ちた瞬間、そっと消えてなくなる雪。
 …つかんでもつかんでも、この手からこぼれる雪。
 …幸せをつかみかけたこの瞬間、儚く消えてゆく命。

 ――いつまで繰り返せば、この想いは解き放たれるのだろう…。

 ・・・

 「…隊長。如何いたしましょう。…信じてみたけど、途中でお亡くなりになってしまいましたが…」
 「……」
 「…あの、隊長?なんかコメントを…」
 「…う〜む。叶わぬ恋の物語、というのも、美しい…ちょっと切ないのが難点だが。」
 「でも、寂しい結果に終ったから、ハッピーエンドに向かって、続けるんですよね…」
 「…聞くまでもないと思うが?」


 ●第2章・掛軸の秘密〜日和川 旭編〜

 ――彼女と出会ったのは、水汲みの帰りだった。

 「悪撲滅、な〜のだ〜!!」
 「えう?」

 …ていうか、俺の知り合いに、こんなちびっ子、いたっけ…でも、俺のこと、知ってるし…。

 …成り行きで龍神天守閣の手伝いをすることになったあさひ。
 …ことあるごとに、俺に手料理を振舞ってくれた(内容はメチャクチャだったが)。
 …彼女との過去を一切思い出せない俺に、ついに旭がキレた。

 「2人で朝まで抱きあって、ぬくもりを確かめ合ったのだ〜」

 (ぴしゃーーーーーーん!) <雷鳴

 「彼方ちゃん、責任、取りなさぁぁぁぁぁぁぁーい!!」

 ――こうして、女将公認の通い妻が誕生した…。

 …今まで以上に俺の世話を焼き始めるあさひ。
 …最初は、…まあ、アレだったけど、いつしかマトモな料理が作れるようになってきた。
 …そういえば、バレンタインデー。
 …愛の力で、何とかやり過ごした…(プレイヤー視点では楽しいイベントのひとつ)…。

 ――外見も中身も、まるっきり子供で。
 …独占欲が過剰なほど旺盛で。
 …でもそれは、一途な愛情の裏返しで。
 …俺が何も思い出せないのに、一生懸命に尽くしてくれた。
 …例えきっかけが彼女の誤解からだったとしても、俺は彼女との未来を選択するだろう。

 ――最初は、ただ、疲れているだけだと思っていた。
 …日に日に生傷が増えていく彼女。
 …ゆっくり休ませてみたけれど、一向に改善の兆しもなく。

 …原因が分からないまま、ついに彼女は光を失った。
 …彼女は、大好きな俺に、迷惑がかかるからと、自ら去ろうとした。
 
 …バカヤロウ…っ。そんな、目もろくに見えない状態で、どうやって生きていくんだよ…
 …きっかけがどうあれ、俺はお前と、一緒に生きて行きたいんだよ…。

 …彼女は、俺の部屋に飾ってあった、掛け軸と一緒に、いなくなっていた。
 …彼女を捜しに、森の中へ分け入ってみた。
 …何故だか、足が勝手に向かっていた。
 …そしてそこには、掛け軸を抱えたまま、寒さに震える彼女がいた。

 …半狂乱になって、掛け軸を燃やそうとする彼女。
 …よく分からない。
 …よく分からないけれど、それだけはダメだと、俺の何かかが叫んでいた。

 ――だが、掛け軸は無事だったものの、彼女の最後は近づいていた。

 ******

 ――龍神天守閣に泊まっていた、子供の頃。
 …物置から、掛け軸を取り出して飾ってみた。
 …その掛け軸に描かれた、小さな○○○。
 …子供心に妙に訴えかける、かわいい○○○。

 …外で遊んでいたら、小さな友達が出来た。
 …それは、掛け軸でみた○○○にそっくりだった。
 …ある日、森で迷って、一晩中、木のうろの中で過ごした。

 「あさひは、あったかいね…」

 ――凍えるような寒さの中、互いのぬくもりだけが、たった一つの支えだった。

 ******

 …あれから数日。
 …龍神天守閣の中庭に、一匹の○○○が迷い込んできた。

 「おかえり…」 

 ・・・
 
 「隊長ぉ〜なんか変なモノローグが混ざってるんですけど、何ですか?」
 「知るか…次だ、次……ゲームをやってみろ(ぼそ)…」


 ●中間報告・因果の始まり〜過去編〜

 ――蝉時雨が耳にこだまする。
 …私は、ようやく帰ってこれた。

 …荒れ果てた龍神様の社。
 …だが、必ず成し遂げてみせる。

 …父上、母上。見ていて下され。
 …必ずや龍神の社を元通りにし、龍神様をお迎えしてみせまする。

 ――無事、龍神様をお迎えして、祭りに向け盛り上がる村。
 …だが、この時を待っていたのは、村人達だけではなかった。

 …ずっと以前、村を襲った野盗たち。
 …父と母は、幼い私達兄妹と、龍神様を無事に天に帰したものの、帰らぬ人となった。

 ――思えばあの時から、私は龍神様に焦がれていたのかもしれない。

 …龍神様もまた、天から私をいつも見続けていたようだった。
 …許されないことは分かっている。
 …でも、自分に嘘を吐き続けることが出来なかった。

 …そして、私達は、天に祝福されない恋人として、罰を受けることになった…。

 ――季節はずれの、雪。
  全てを覆い尽くすかのごとく、降り続ける。

 …遥かな未来、誰かがこの因果を断ち切ってくれることを信じて。

 ・・・

 「なるほど…そういうことでしたか…ん?、隊長、どうしました?」
 「ネタバレには十分注意だな…コメントできねーよ…」


 ●第3章・雪女伝説の顛末〜北里しぐれ編〜

 ――いつものように、水汲みに行った途中。
 …森の中、眠りこける少女がいた。

 「…すぅ…すぅ…」

 ――その面差しは、まるで天女様のようで。
 …彼女は人見知りらしく、中々口を開いてくれなかった。

 …水汲みの帰り、突然、猛吹雪に見舞われた。
 …でも、気がついたら、龍神天守閣に帰ってきていた。

 …そんな中、つぐみさんや澄乃が、雪女だとか、イエティだとかの話をし始めた。
 …いや…まさか、そんなはずは…

 …再び彼女に出会えたとき、彼女は花束を手にしていた。
 …彼女が手向けた花束の先には、3つの石積み。
 …何か、見てはいけない物のような気がした。これは一体、何だって言うんだ…

 ――彼女は、ずっと一人だった。
 …いつも、悲しい目をしていた。
 …きれいな顔に、憂いをたたえた表情。
 …少しでも笑顔になれるように、差し入れとかしてみた。

 ――それだけ。たったそれだけの事なのに、少しだけ緩む表情。
 …もっと、笑顔が見たいと思った。

 …彼女が突然、龍神天守閣に下りてきた。
 …聞けば、人里に下りるのは、何年ぶりだとか。

 ――彼女は、悲痛な面持ちで、搾り出すように。

 「私を…抱いてください…」
 
 …欲望に取り憑かれた俺は、彼女の望むまま、彼女を抱いた。

 …気がついたら、彼女はいなくなっていた。
 …そして、いつもの場所に、悲しそうに佇んでいた。

 「長い、長い時を超え…私は、妹と、同じ過ちを…」
 「…え?…」
 「…でも…良いのです…私は、疲れました…」

 ――――!?

 ******

 ――夢を、見ていた。
 …何度繰り返しても、同じ結末。
 …悪夢となって、私を苦しめる。
 …あの時、私が、…私さえしっかりしていれば、こんな事にはならなかったはず。

 …そう。私のせい。わたしのせいなの。
 …許して、○○…。許して、○○様…。

 ――「なんもかんも、自分のせいにすんなよ。仕方がなかったんだろ、あの時は」

 ――え?

 ――「やれやれ。いい加減な兄上だったが、その兄上のおかげで、事なきを得たのだから、良しとするか」

 ――え?

 ――どうして?この夢は、私の夢なのに、どうして?

 ――「今まで、すまなかった。もう、自分を責めてばかりいないで、ほら…」

 ――え?…○○…様?

 ――「さあ…もう、我慢しなくて、良いんですよ…」

 ――…うっ…うっ…うっ…ひっく…えぐっ…ひっく…ひっく……

 ――ありがとう。…ありがとう…私は…やっと…

 ******

 ――随分と、長い夢を見ていたような気がする。
 …目が覚めたそこは、龍神天守閣だった。

 …確かに昨日まで、龍神の滝に、水汲みに行っていたはずなのに。
 …俺は、あの落石事故から今日まで、ずっと意識不明だったらしい。

 ――――ッ!?…しぐれ!!…そういえばしぐれはどうなった?

 …また会おうって、あの時約束したよな?
 …絶対会おうって、約束したよな?
 …花火するときは、一緒にって、約束したよな?
 …約束、したんだよな…。

 …何とか体調が元に戻って、明日は東京に帰らなきゃいけない。
 …でも。

 …約束、したよな?
 …花火するときは、一緒に、って…。

 ――しゅっ。…

 …一本。
 …また一本。
 …そして、最後の一本。

 …チクショウ。どうして…これが、最後なんだよ…

 ――しゅっ。ぱちぱちぱち…

 「…花火…するときは…いっしょに…」
 「…あ…」

 「…ただいま…です…」  

 ・・・

 「隊長ぉ〜、すっかり妄想『全壊』なんですけどぉ〜」
 「バッドエンドといい、ハッピーエンドといい、泣かせるお話ですな〜
  やっぱ、最後のシーンの『にぱ顔』が最高〜♪♪」
 「ダメだ…この人」 


 ●終章・座敷童伝説の真実〜若生桜花編〜

 ――落石現場で、出会った少女。
 …自分のこと、「わらわ」とか言ってたっけ。

 …龍神の社で、お父さんとお母さんが迎えに来るのをいつも待っていた。
 …小さな子供と、猫一匹だけじゃ、心配だった。

 ――だから、ちょくちょく暇を見つけては、遊んでやった。
 …お菓子を買ってあげたり、一緒に雪だるまを作ってあげたり。

 …ところがある日、あの子は龍神の社から居なくなった。
 …てっきり、両親が迎えに来たものだとばっかり思っていたが、そうじゃなかった。

 …あの子は、帰らぬ両親を、誰も居ない龍神の社の中で、ずっと待ち続けていた。
 …しかも、風邪をこじらせて、すごい熱を出していた。

 …だが、目を放した隙に、あの子はふらふらした足取りで、龍神の社に戻ろうとした。

 「いやじゃ!わらわはあそこで、父上と、母上が迎えに来るのを待つのじゃ!」

 …階段を踏み外した拍子に、転落したあの子は、以前の記憶を失っていた。

 ――どすん。
 「父上〜、おはようなのじゃ」
 「母上〜、おはようなのじゃ」

 …なぜか、まだ結婚もしていない俺と澄乃を、父上、母上、と呼ぶあの子。
 …悪い気が、しなかった。
 …そうか。これが、子供を持つ、って事だよな…。

 ――よし。今日からお前は、うちの子だ。

 ******

 ――あれから数ヶ月が経つ。
 …なんかすっかり、お腹が大きくなった、澄乃。

 …桜花もすっかり、おねえさん気分だ。
 …ありきたりだけど、これが、家族、って言うのかな…

 …澄乃の予定日も近くなったある日。
 …桜花が熱を出した。
 …誠史郎さんの代わりに、芽依子が診察してくれたのだが、一向に回復の兆しが無い。

 …業を煮やした俺と澄乃は、直接、桜花を誠史郎さんに診てもらう事にした。

 「君達が、嘘をついているようには、見えないんだが…」

 ――え?

 「いや、僕には、その子が見えないんだが…」

 …え?…じゃ、芽依子には、どうして見えたんだろう…
 …それに、俺と澄乃には、息づかいまで感じられるのに?

 …どんどん悪化する病状。
 …なのに、あいつはまた、ふらふらと龍神の社に向かっていた。

 「父上、…母上、…やっと、わらわを迎えに来てくれたのじゃ…」

 …駆けつけた澄乃と俺の腕の中で、幸せそうにほころぶ桜花。
 …けれど、その体は、ゆっくりと、ゆっくりと消えていく…。

 ――その時。
 …澄乃が急に、産気づいた。

 ******

 ――あれから数年が経つ。
 …あの時入れ違いに誕生した命は、今もすくすくと育っている。
 …今でも思う。この子は、桜花の生まれ変わりじゃないかって。

 …今でも冬は厳しいが、この龍神村にも四季が巡ってくるようになった。
 …確信は持てないが、俺には何となく理由が分かるような気がする。

 …いてっ。
 …まったく、つぐみさんときたら、人が折角、綺麗にまとめようとしてんのに。
 …ま、いいか…。

 ・・・

 「大団円ですねぇ〜、隊長ぉ〜」
 「うむ。最初はどうなるかと思ったが、なんとかレビューの体裁になったな…」
 「あの〜。ところで、あの方は、どうなったんでしょうか…」
 「その疑問に答えるべく、次回作に期待しておるのだ」
 「ふ〜ん。で、いつ崩すおつもりで?」
 「…(痛い所を突くな、こやつ)…」


■例によって、色々と考察編(長いです、ご注意を)

 ●名前に関するあれこれ

 さて、龍神村の悲劇はいつ頃なのか?ゲーム中に出てきたキーワードを元に、
 色々勝手に想像してみましたのでご参考まで。

 …とりあえず服装など。龍神様はやや中華風。宮司は狩衣風なので平安時代調。
 ところが気になる点がいくつか。
 この時代、貴人の本名(忌み名、と当てるとわかり易い)は口にしてはいけないのです。
 (というよりは、タブーであり、知らない、教えてはいけない、といったところ)

 現代に例えるなら、上司や先輩に対して、敬称無しで呼びかけるような。
 社長、とは呼べますが、本名、特に下の名前ではとても呼べませんね。

 優れた詩歌というものは、人の心に感動を与えます。
 古来、日本人はそういった現象を見て、「言葉には魔力がある」と考えてきました。
 これが、「言霊(ことだま)」というものです。

 「名は体をあらわす」と言いますが、言葉と実体は同じもの。
 従って、名前=本人そのもの、という認識が働いています。

 これが発展して、本名=その人の全て、という考えになります。
 それゆえ、名前を知っている=その人を支配下に置いている、という事になるわけで。

 「戒名」という習慣があります。死んだ人に贈られる名前ですね。
 生きている時は本名は禁忌なのですが、死んだ人の場合は、下手に名前を呼ぶと、
 「呼んだ?」とばかりに、あの世から化けて出てくる、と信じられてきました。
 ということもあって、死後は(天皇なら)諡号、一般人なら戒名が付けられる、ということです。

 それぐらい、昔は「名前」というものに気が遣われていた、というお話。

 しかし、日常生活上、呼び名が無いのは不便なわけで。
 そのために、「字(あざな)」というものがあるわけです。
 例を挙げれば、三国志でおなじみの、「孔明」とか。
 日本では、役職名で呼ぶことが多いですね。源義経なら、「九郎どの」と呼ばれておりました。
 もっとも、官位を貰ってからは、「判官殿」と呼ばれたはずですが。
 (ちなみに頼朝は「鎌倉殿」と呼ばれておりました)
 現代に例えるなら、ネット上でのHNみたいなものです。
 昔とは違った意味で、セキュリティ上の問題があるからですが。

 現代でのナンパで「ねぇ、名前なんて〜の?」と言った行為すら「求婚」を意味します。
 …まあ、そういった意味では、菊花の行動はとてつもなくストレートなのですが。
 ちなみに古典などでお目にかかる、「○○の母」「○○の娘」と言う表現は、
 名前がない、のではなく、「(旦那以外)誰も知らないから」だったりします…。
 …そういうわけで、しぐれさんは現代になってようやく名乗っていたりしているわけで…

 さて、名前の話が出たところで、少し脱線な話とか。
 某ゲームの第1章、「名無し」さんが出てきますね。
 …あれ?今までの話と、何か矛盾を感じませんか?
 本来なら、本名はともかく、字は、自分でつけるものだったりします。

 実際には、成人した時に本名(忌み名)をつける場合が殆どですが、それでも字は必要でして。
 これにあえて答えるならば、
 「記録に残っている」のは貴族とか、上流階級の人間だけで、
 「名無しさん」のような一般人は、(記録が無いから)断定できない、ということで。
 インテリ階級と一般人が同じレベルの習慣を持っているのかどうか、
 (記録がありませんので)「違う」とは言い切れないのです。

 …ふぅ。なんとか屁理屈で切り抜けた…。


●時代特定の根拠とか

 傍証となる事件・事項について。
 …10年来、全く同じ野盗の集団が活動している点に注目。
 …警察は、何をしているんでしょうか。…要は、機能していない時代であるということ。
 戦乱の類が続いて、治安が悪化していることが容易に想像されます。
 龍神の里が辺境だから、と言うのは通じません。なぜなら、野盗集団は10年以上、
 ソレで食っているのですから、他の(豊かな)村だって沢山襲っているはずですが。

 もうひとつ。この時代の人々は「花火(火薬)」の存在を知らないこと。
 記憶が定かではありませんが、鎌倉時代の「元寇」の際に「てつはう」なるものが使用され、
 応戦する日本軍?は苦戦したとのコト。
 後になって、鉄砲伝来とともに火薬の製法も広まっていきますが、戦国時代の話です。
 …この時点で、ざっと500年前。
 …すると、それ以前に龍神村の悲劇は起こっていた、と言うことになります。

 平安時代初期に、陸奥などの辺境の地を除いて、軍隊が廃止されてしまっていたせいで、
 都には検非違使(要するに警視庁)なるものが置かれたものの、地方に至っては何もなくなりました。
 鎌倉時代以降の主役となる武士階級は、自らの生命と財産(土地)を守るため、
 国に頼らず武装したことがその起こりといわれています。
 …そうしないと龍神の里のように、野盗の影に怯えて暮らさねばならないから…

 (余談。かの有名な「7人の侍」などでは、武器を持たぬ百姓が、村を守るため、
 7人の用心棒を雇うのですが、時代背景として有り得なかったり…
 どこかで聞いたような話ですが、お上(政府)が役に立たないから、自分たちの生命・財産は、
 自分の手で守らねばならない時代…まあ、今風に言うと自己責任の時代だったということで…)

 …ああ…ということは…少なく見積もっても、1000年以上前って、ことに、…?。
 …しぐれさん、そんなにも長い間、悪夢にさいなまれていたなんて…悲しすぎます(大泣)。

 余計ついでにもうひとつ。
 湯船につかる「お風呂」が一般化するのは江戸時代になってからです。
 それ以前、風呂と言えば読んで字の如く、「サウナ」がメインです。

 …よく考えてみましょう。水道は存在しません。ポリタンク(笑)もありません。
 (都市の発達により、江戸では玉川上水がひかれた…と記憶しています)
 水プラス容器(甕・桶・樽)の重さに耐えて、何度も水を汲みにいかねばなりません。
 …だから、湧き水が引かれている「龍神の社」(手水鉢には湧き水が…の記述があります)では、
 豊富な湧き水を利用して、難なくお湯に浸かれるわけですね…最高の「おもてなし」です。


 ●思想的背景について

 「因果」とか「輪廻」の思想はもともと仏教のものです。
 日本に古来より伝わる「神道」にはそんな思想はありません。

 例えば古事記のエピソードには、(火の神を産んで、大事なトコを火傷して)死んでしまった
 イザナミに会いに、(旦那の)イザナギが「黄泉の国」に行く、と言った話があります。
 …死んだイザナギは、別の誰かに生まれ変わらずに、黄泉の国で暮らしていたのです。
 …あり?…じゃあ、死んだ龍神様と、○○とは、「あんこ好き」の別人…!?

 神仏混交、という言葉があります。
 近代(明治維新)以前、神社と仏閣は明確に区別されていませんでした。

 仏教の伝来以降、紆余曲折を経て、お釈迦様も日本に古来から存在する「八百万の神々」の一人に
 なっていたりして。…何しろ、日本人は困ったときに「神様仏様」と祈るくらいですから…。
 延暦寺の中に日吉神社があったり、三井寺(園城寺)に新羅明神があったり…

 …ということで、平安時代から、「神仏混交」は、始まっています。
 …つまり、神に仕える者が、異国の神(仏教)の教え(因果と輪廻の思想)を
 語ることも有り得る話、ということです。

 こういう感覚って、現代の日本人も受け継いでいます。
 結婚式は、キリスト教会で。
 葬式は、お寺で。
 端から見れば、これほど宗教的イデオロギーに無頓着な民族もいないわけで。
 日本人が国際的に見てあまり信用されていないのは、こういう面の影響があるのかもしれません。


 ●文化史的な考察とか
 
 掛け軸と水墨画について。
 水墨画は「宋画」とも呼ばれ、大陸で発達したのはその名の通り、「宋」の時代、
 日本で言うところの平安時代末期から、鎌倉時代にかけてです。

 それと、肝心なのは現代と違って、メディアの類が一切ない時代で、流行り廃りのサイクルが、
 とてつもなく長い、ということにご注意下さい。
 (水墨画が)伝わってから、一般化するまでの時間…ケータイが普及するのとは訳が違います。
 いわゆる「線画」の類は確かにありましたが、陰影まで表現したものとなると…
 しかも、コレクションとして流通しており、貨幣経済の発展なくしてはありえないシチュエーション…。

 実際、水墨画に代表されるような「幽玄」(これも仏教用語)芸術がそれなりに一般化するのは、
 室町時代からです…だとすると、例の事件は室町時代、それも15世紀ごろ…
 世の中が戦国時代に向かって、混沌とし始める頃以降、ということになります。

 まあ、それでも500年は経っているのですから、
 「気の遠くなるほどの時を越えて〜♪」というのはあながち嘘ではなさそうです。


 ●ついでに、某2章の文化論的考察とか

 久世氏が寝起きしていた部屋ですが、「床の間と掛け軸」がありましたよね。
 日本家屋に床の間が登場するのは、室町時代後期、戦国時代辺りからです。

 それと、畳敷きの部屋。これが一般化するのは、同じく室町時代後期からです。

 近代以前の日本、特にこの室町時代以前の日本は、「極東」の言葉が示すとおり、
 文化的には最後進国だったりします。
 たとえば貴族のお屋敷。畳は貴重品で、座布団みたいな使い方をしてました。
 残りは全て板敷きです。大河ドラマとかで見れば、一目瞭然ですね。

 それ以前、畳敷きの部屋と言えば、お寺でも高級僧侶の一部とか、極々限られたものだったのです。
 ところが、ゲーム中では、使用人に過ぎない狭霧さんの部屋にも、畳がありましたね。
 …つまり、背景から察するに、2章の時代は、安土桃山から、江戸時代のお話であると。

 しかし困ったことがいくつか。
 久世氏=貴族に属する(武士階級ではない)、とすれば、この時代は、支配者としての権威を失っていた時代です。
 江戸時代になって、朝廷の運営費用として、幕府から予算が宛がわれる様になりましたが…。
 戦国時代は、「現地領主」が幅を利かせていましたし、江戸時代は大名(藩主)の時代ですし…。

 中央の有力寺社ならともかく、地方の一神社が、それ以前の時代で畳敷きの部屋をそれほど用意できるはずもなく。

 後、先に出ましたが、使用人の狭霧さんが、「頼人様〜」などと呼べるはずが…。
 まあ、狭霧さんはともかく、一応都育ちの頼人が、自分の本名を使用人に明かすかどうか…。
 明かした時点で、「求婚」と解釈されても文句は言えない時代のことです。

 それとも、頼人さんは、現代人並みにフランクな方だったのか。
 相当な下級貴族でもなければ、激怒する事柄だと思いますが。
 「頼人」が字であったのなら、多少は説明がつきますが…。

 以上、無粋なツッコミでした。
 単純に「御伽噺」と割り切ってしまえば、どうってことは無いのですが、
 「歴史的考証」という面で見ると、色々と出てきてしまうわけで。


■謝辞とか

  …参った。色々と書き連ねたせいで、とてつもない長文になりましたね…
  とりあえず、最後まで読んでいただいた方に感謝です。

  やめんか、という方に、芽衣子様からひとこと。

 「年寄りから楽しみを奪うな…ふおっふおっふぉ…」

  一応校正はかけたつもりですが、舌っ足らずの面もあるかと思います。
  ご意見、ご質問は、BBSまたは直接メールにてお願いします。
  出来うる限りの対応をさせていただきますので、お気軽にどうぞ。

  ではまた、「次が有れば」、お会いしましょう。


■更新履歴

 ●Ver.1.00 テキスト文をHTML変換、Web公開開始(2005.02.28)
 ●Ver.2.00 「SNOW P・E」関連記述追加(予定)


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