「有事法制を廃案に!9.13学習会」
                        に参加して
              
(文責:ちば・いちはら連絡会M.H.記)

 主催:有事法制に反対する君津地域市民連絡会

 
学習会のようす 講演後質疑に答える市川清文弁護士


  • 日時・場所・・・9月13日(金) 木更津市中央公民館

  • はじめに
     千葉県にまた一つ、いくつもの草根の運動、労働組合、そして政党が力を合わせ、
    有事法制を廃案に追い込んで行こうとする組織が力強く立上がった。
    君津地域4市の「有事法制に反対する君津地域市民連絡会」(代表:中村 強さん、
    以降連絡会と略す)
    がそれである。
     連絡会は今年の7月23日に「平和・人権・教育と文化を考える会」(代表:中村 
    強さん)のよびかけに応えた君津地域4市の団体、個人が集まって結成されたもので
    ある。これまで月1回の定例会のメンバーを軸に、市議会への働きかけ、街頭宣伝・
    署名活動などを行ってきたが、このたび、この法案を廃案に追い込むため、その中味
    を更に深く学習する必要を感じ、「有事法制を廃案に!9.13学習会」を開催すること
    となった。
     
     当日、約70名の参加者があり、用意した席と資料が不足するなど嬉しい誤算が生じ
    たとのことであった。この地域でこのような学習会にこれだけの人が集 まって行われ
    たことはあまり例が無く、秋分まじかで外は真っ暗であったが誰一人帰る人も無く、最
    後まで熱心に講演に、質疑にと耳を傾けていた。    
     今後も当HPの頁を割き、「有事法制に反対する君津地域市民連絡会」の皆さんの
    活動の様子を全国の廃案を求める仲間に届けたいと思う。

  •  学習会のあらまし        
    1. 最初に主催者を代表して中村 強さんから
        中村さんを中心に、地域の市議会が有事法案に反対決議をすべくこれま
       で木更津、富津、袖ヶ浦の3市議会に請願を続けてきた。しかし、一応は聴
       き置くものの、「内閣法制局で作ったものだから大丈夫だ」などと、真剣に
       審議をしようとはせずに全て不採択になってしまったとのことである。
        これを聴き、筆者の思ったことは、当地域の議員たちが有事法制の中味
       を理解していないこと、地方自治のなんたるかが分かっていないことがはし
       なくも暴露されてしまったことである。主権者たる民衆一人ひとりがしっかり
       していないと、本当に危ないことになってしまう。
        また、連絡会の賛同者人でおられる沖縄県出身の医師:藤井昭夫さんの
       沖縄戦体験の紹介があったが、これについては別のページに譲ることにし
       たい。

    2. 講演:「法律家からみた有事法案」
         − 有事法制のたくらみを許さないために −


                          弁護士:市川 清文さん
                         ・ 千葉第一法律事務所
                         ・ 千葉県自由法曹団事務局長
                         ・ 千葉県弁護士会有事法制対策事務局長

     (1)日弁連の極めて異例な対応
         有事法案に対し、日弁連は異例な慎重審議を求める声明を出してい
        る。また、対策本部を立ち上げいるがこれも坂本弁護士の事件以来の
        ことである。

     (2)いまなぜ有事法制なのか
          1996年に総理大臣と大統領は冷戦崩壊後の日米安保の再定義に
         ついて、日米安保共同宣言と日米同盟関係の確認を行い、ガイドライ
         ンの見直し作業開始することに合意した。
          これを受けて、1997年「新ガイドライン」が発表され、アメリカのアジ
         ア戦略に随って拡大された周辺概念により日米軍事協力の範囲が拡
         大された。日本国内のあらゆる施設が米軍の利用に確保され、米軍
         後方支援のためには政府、地方自治体、民間の有する能力を活用す
         るものとされた。
          1999年の「周辺事態法」では、新ガイドラインで拡がった周辺事態
         概念(米軍が台湾海峡や朝鮮半島で行う戦争)における米軍の後方
         支援(補給・輸送・捜索救助・通信支援など)を行う海外任務を負うこと
         になった。これによって、国は地方自治体やその他の団体に必要な協
         力を求めることができることになった。
          2001年9.11同時多発テロでは「テロ対策特別措置法」が作られ、
         周辺どころかインド洋まで出かけて後方支援を行っている。これを更
         に、アメリカの対イラク戦争支援のために改悪版までも作ろうとしてい
         る。(筆者感想:自己で作った法を都合によって際限も無く拡大させて
         ゆくやり方。有事法制の制定とその運用で基本的人権や民主主義の
         ルールを際限もなく規制してゆくのではないか、大きな危惧を感じざる
         を得ない。)
          そして今年4月に上程された「有事法制」は「周辺事態法」を有効に
         働かせるための国内の軍事基盤の整備行う性格を持っている。
         小泉首相の「備えあれば憂えなし」などと雰囲気的な議論を行ってい
         る時ではなく、法案の条文を具体的に抑え問題を明確にしなければな
         らない。この法案は「備えることで憂えを誘発する」のだから。

      (3)アメリカが始めた戦争の支援をスムーズに行うのがその狙い
           アメリカ軍が台湾海峡や朝鮮半島で武力介入すると、「周辺事態法
          」のあいまいな有事認定(*)と、「有事法制」のこれも誠にあいまいな
          “武力攻撃のおそれ”、“武力攻撃の恐れが予測される”などの事態認
         定がつながって、法律の発動に至るのである。
            * 「周辺事態法」(第1条、目的)
            「この法律は、そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻
            撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国
            の平和および安全に重要な影響を与える事態に対応して我が国
            が実施する措置」

       (4)戦争を始めるのも推進するのも
                  総理大臣1人に過度な権限が集中

            「武力攻撃事態」の認定は総理大臣が自らその長を務める「安全
          保障会議」に諮問してこれを行う。そしてこれもまた自ら長を務める
           「武力攻撃事態対策本部」によって、超憲法的な措置が国の機関の
          みならず、地方自治体、指定公共機関へ責務として指示される。
           また、国民もこれに協力するように求められるのである。

       (5)そして憲法は死に、基本的人権と
                   民主主義の際限の無い破壊が・・・

            このように権限が総理大臣に集中して措置がとられる結果、憲法
           の五原則(国民主権、三権分立、基本的人権の尊重、平和主義、
           地方自治の尊重)は停止状態となる。主なものを具体的に取上げ
           てみると・・・・・ 
            (イ) 武力行使を明言(2条6項イ(1)、3条3項)し、紛争解決の
              手段として武力行使を禁ずる憲法に正面から挑戦している。
              憲法の平和原則と相容れない。
            (ロ) 武力攻撃事態に「万全な措置」(3条1項)と称し、人権の制
              限が無限定に行われる。憲法上の非常事態を想定する「ドイツ
              基本法」でもナチスドイツのにがい経験を踏まえ、信仰、言論出
              版、報道、学問、集会、結社(争議弾圧禁止を明示)の自由は
              制限をしていない。
            (ハ) 報道管制が行われ、知る権利が侵害される。NHK、民放、
              新聞、インターネット・プロバイダーが指定公共機関に指定さ
              れ、政府に不都合な情報を規制する。(民主主義の根幹が損
              なわれてしまう)
            (ニ) 基本的人権を支える重要な柱の一つでもある「地方自治」
              が空洞化する。
            (ホ) 国民に各種の義務を要求する。
               A. 水、食料、燃料など戦争用途が優先する。日常生活に影
                響が出るがこれに反すると刑罰に処せられる。
               B. 土地、建物が勝手に収容される。
               C. 医療は傷病兵優先となり、一般の病人は後回し。
               D. 医療、港湾、運輸などの職場で働く人は軍事のための仕
                事に強制従事させられる。実質的に徴兵制と同じ。従わな
                ければ、懲戒解雇、刑罰などが科せられる。
               E..今後予想される法律
                 治安立法、集会規制、物価統制、物流規制、生活必需品
                 の配給などいつかきた道が好きな政府関係者懐かしのリ
                 バイバル法制の数々。

        (6)国会のコントロール機能の無視
             武力攻撃事態への対処は総理大臣が閣議決定を行った後、国
            会の承認を求めなければならないが(9条2項6)、国会の承認が
            得られない場合は「防衛出動を命じた自衛隊については、直ちに
            撤収を命じなければならない。」(9条2項10)とある。これは、国
            会の事前承認を得ないで、すでに防衛出動が行われていることを
            意味し、国会のコントロールが無視をされている。この面でもドイツ
            はナチスドイツの経験を踏まえ、国会が非常事態を判断することに
            なっている。
             (筆者感想:同じ過ちを犯した日本は、過ちを犯した系譜の政治
             勢力が統治権を握っているので、こうも違うんだな。)

         (7)ひるがえって考えよう
            (イ) 荒唐無稽な有事論議
                日本が軍事侵略されたのは、鎌倉時代の元の襲来のみ、ソ
               連(ロシア)の脅威がなくなったことは政府も認めている。
               九条が生きてきた50年間、日本は侵略されなかった。
                不審船、テロは「犯罪」。現在の法制度で対処できるし、そ
               れしかない。 
                有事法制を作っても、不審船、テロがなくなるわけではない
               =有事法を作る口実にならない。
               (筆者感想:アメリカと一緒の戦争を世界のどこででもするとな
               れば、アジア・太平洋戦争のこともあるし、アジアを始めとして
               他国への脅威となる。現にアフガニスタンや中東の国々とはこ
               れまで日本は良い関係を維持してきたのに、湾岸戦争やアフガ
               ニスタン攻撃の支援で、今後日本はテロの標的となりうると、こ
               の国々の政府関係者が語っていた。世界は日本が戦争をしな
               い国だとの良い印象をもっていたのだ。こんな現実的で立派な
               誇るべき安全保障が他にあるだろうか。)
            (ロ) 憲法の範囲内の有事法制はありえない
                憲法には、非常権限(憲法停止)は一切ない。米仏などは、
               戒厳権、緊急権が与えられているが、日本国憲法は、そもそ
               も九条によって、積極的に否定している。
                しかし、政府は自衛権の名の下に、明治憲法下で濫用され
               た非常大権を忍び込ませようとしている。
                今度の臨時国会で政府は国民保護名目の項目を明示して
               法案を通そうとするするだろうが、それはリップ・サービスであ
               ろう。
                有事法制は「戦前回帰」である。
                  ・ 軍機密保護法
                  ・ 国家総動員法 
                  ・ 産業報国会 
                  ・ 大政翼賛会 
                  ・ 戦争反対=“非国民・国賊”扱い
                  ・ 天皇の戦争に反対=治安維持法で死刑
                        ・・・・・>有事立法は時代錯誤の証左である。
                 暴力が暴力を生む 
                  ・ パレスチナとイスラエルの教訓を見よ
                        ・・・・・>九条による平和外交が必要だ
                  ・ アメリカ主義の危険性
                    米国はタリバン崩壊後もアフガンを攻撃
                       ・・・・・>テロ対策にならず。市民運動が必要だ
    3.講演会Q&A
       Q1.有事法制を知らない人への説明の仕方について
       A1.大枠をつかんで各論に入ったらどうでしょう。その際、有事法制の問
         題点を的確に捉えて説得力をもってアピールするのが大切。  
           相手が熟年者であれば戦争体験をアピールするのも良いのでは。
         また、アメリカの戦争に巻き込まれるのが大きな問題です。
         (筆者の体験: CHANCEの皆さんに聴いたことですが「若い人は有
         事法制を知らない(関心のない)人が多いので、そこから話を始めなく
         てはならない」とのことでした。そこで私は「・国会にかけられようとして
         いる法案であること。 ・アメリカのアジアを相手にした戦争に日本の自
         衛隊がどこまでもでていって、その手伝いをする内容であること。 ・平
         和憲法が紙くず同然になること ・テロは病気、貧困、失業、明日に希
         望が持てないなどから来るもので戦争では決して解決できないこと」を
         訴るようにしました。信号待ちの短い時間ですが道行く人に少しは訴え
         るものがあるように思います。それに、若い人ほど良く聴いてくれて同
         調してくれる率が高いように思います。どんな面白いかっこうをしていよ
         うが私は若い人が好きになりました。)
      
       Q2.アメリカに有事法制はあるのでしょうか。
       A2.アメリカ法の専門家ではないので、詳しくは分かりませんが戦争をで
         きる国なので当然該当する法律があるはずです。
          日本は平和主義の国です。アメリカがアフガンで戦争を行ったが、前
         向きな解決につながっていない。国際協調を行ってこれを解決するの
         が日本国憲法の立場です。

    4. 本日のまとめ(連絡会事務局長Kさんから)
       法律の条文にそって、有事法制の問題点を理解することができた。一人ひ
      とりに戦争を実感して貰うことが反戦のエネルギーになるだろう。
      私は日本史の教育に携わっているが、絵や写真をなるべく使って授業をす
      るようにしている。
       このような悪法に対しては民衆の声を大きくしていかねばならず連絡会の
       例会を軸に運動に取組んでゆきたい。

    5. 集会決議

                         9.13集会決議文

     今次通常国会で継続審議となった「有事法制」三法案に、私たちは強く反対し、その廃案を訴えます。
     有事三法案とは戦争法案です。それは日本が実際に戦争するための法案で、労働者・市民を総動員するものです。それは日本国憲法にも大きく抵触するものであり、戦争のない平和な世界を希求する私たちは断じて認めるわけにいきません。
     政府は通常国会でこの三法案を成立させようとしましたが、その危険な内容が明らかになるにつれ、反対運動の大きなうねりも高まり、通常国会での成立を断念し、継続審議にしました。

     有事三法案には次のような重大な問題点があります。

    T 武力攻撃事態法案では、「我が国に対する外部から武力攻撃」が、実際に行われた
    時に「対処」するのではなく、「武力攻撃めおそれ」とか「武力攻撃が予測される」事態で発動できる仕組みになっています。これはアメリカが「悪の枢軸国」規定などによって朝鮮半島や台湾海峡で戦争を起こした場合(周辺事態)に、ただちに日本が参戦できるための法制です。

    U 政府が「武力攻撃事態」と軌認定すれば、首相が全権を握り、自衛隊の防衛出動命令をはじめ、国の機関だけでなく、地方自治体、指定公共機関などに指示命令を下し、従わないと首相が直接「代執行権」を行使するすることになっています。地方自治体や公共機関の独立性も失われます。県知事や地方自治体の首長が「反対」や「懸念」を表明しているのはこの点です。

    V 武力攻撃事態においては、自衛隊の武力展開が「円滑に遂行」できるように人と物の全面動員・服従が強制されます。たとえば、物資の保管・収用命令に従わない者に対して懲役または罰金刑がはじめて導入されます。これは憲法29条の「財産権」の侵害となるだけでなく、保管・収用「業務」に関する強制命令です。労働者に業務命令、職務命令が乱発されるのは不可避で、憲法18条の「強制労働の禁止」が踏みにじられる内容です。

    W 戦争はこれら有事三法案だけでは遂行できず、政府は「国民保護法案」や「米軍支援法案」用意しています。国民保護法案は国民の基本的人権を制限し、自衛隊への協力を強制するものです。福田官房長官も中谷防衛長官も「戦争なのだから、思想・良心・信仰の自由は制約を受ける」と言っています。

     今秋はじまる臨時国会では、「有事法制」三法案に加えて国民保護法案なども提出されることが予想されます。政府は野党の修正要求に応じてでも、成立させると公言しています。
     7月23日、君津地域4市の団体・個人が集まり、それぞれの団体、個人のこれまでの活動を認め合い、その上で「有事法制反対」の一点で一致し、地域のおいて共同の運動を築くために「有事法制に反対する君津地域市民連絡会」を結成しました。
     私たちの行動にご理解とご賛同いただき、ともに運動をつくりあげることを決意し、私たちの決議とします。

     2002年9月13日

         「有事法案を廃案に!」9.13学習会参加者一同