2003年 広島平和宣言

2003年8月6日

広島市長 秋葉 忠利   

今年もまた、58年前の灼熱(しゃくねつ)地獄(じごく)を思わせる夏が(めぐ)って来ました。被爆者(ひばくしゃ)(うった)え続けて来た核兵器(かくへいき)や戦争のない世界は遠ざかり、(いた)る所に暗雲が()れこめています。今にもそれがきのこ雲に変り、黒い雨が()り出しそうな気配さえあります。

一つには、核兵器(かくへいき)をなくすための中心的な国際(こくさい)合意(ごうい)である、(かく)不拡散(ふかくさん)条約(じょうやく)体制が崩壊(ほうかい)危機(きき)(ひん)しているからです。核兵器(かくへいき)先制(せんせい)使用の可能性(かのうせい)を明言し、「使える核兵器(かくへいき)」を目指して小型(こがた)核兵器(かくへいき)の研究を再開(さいかい)するなど、「核兵器(かくへいき)は神」であることを(ほう)じる米国の核政策(かくせいさく)が最大の原因(げんいん)です。

しかし、問題は核兵器(かくへいき)だけではありません。国連(こくれん)憲章(けんしょう)や日本国憲法(けんぽう)さえ存在(そんざい)しないかのような言動が世を(おお)い、時代は正に戦後から戦前へと大きく(かじ)を切っているからです。また、米英軍(べいえいぐん)主導(しゅどう)のイラク戦争が明らかにしたように、「戦争が平和」だとの主張(しゅちょう)があたかも真理であるかのように喧伝(けんでん)されています。しかし、この戦争は、国連(こくれん)査察(ささつ)継続(けいぞく)による平和的解決(かいけつ)を望んだ、世界の声をよそに始められ、(つみ)のない多くの女性(じょせい)や子ども、老人を殺し、自然を破壊(はかい)し、何十億年も(ぬぐ)えぬ放射能(ほうしゃのう)汚染(おせん)をもたらしました。開戦の口実だった大量(たいりょう)破壊(はかい)兵器も(いま)だに見つかっていません。

かつてリンカーン大統領(だいとうりょう)()べたように「(すべ)ての人を永遠(えいえん)(だま)すことはできません」。そして今こそ、(わたし)たちは「暗闇(くらやみ)を消せるのは、暗闇(くらやみ)ではなく光だ」という真実を見つめ直さなくてはなりません。「力の支配(しはい)」は(やみ)、「法の支配(しはい)」が光です。「報復(ほうふく)」という(やみ)に対して、「(ほか)(だれ)にもこんな思いをさせてはならない」という、被爆者(ひばくしゃ)たちの決意から生まれた「和解(わかい)」の精神(せいしん)は、人類の行く手を明るく照らす光です。

その光を(かか)げて、高齢化(こうれいか)の目立つ被爆者(ひばくしゃ)は米国のブッシュ大統領(だいとうりょう)に広島を(おとず)れるよう()()けています。(わたし)たちも、ブッシュ大統領(だいとうりょう)北朝鮮(きたちょうせん)の金総書記(そうしょき)をはじめとして、核兵器(かくへいき)保有国(ほゆうこく)のリーダーたちが広島を(おとず)核戦争(かくせんそう)現実(げんじつ)直視(ちょくし)するよう強く求めます。何をおいても、(かれ)らに核兵器(かくへいき)が極悪、非道(ひどう)国際法(こくさいほう)違反(いはん)武器(ぶき)であることを伝えなくてはならないからです。同時に広島・長崎(ながさき)の実相が世界中により広く伝わり、世界の大学でさらに多くの「広島・長崎(ながさき)講座(こうざ)」が開設(かいせつ)されることを期待します。

また、(かく)不拡散(ふかくさん)条約(じょうやく)体制を強化するために、広島市は世界の平和市長会議の加盟(かめい)都市(とし)(なら)びに市長に、核兵器(かくへいき)廃絶(はいぜつ)のための緊急(きんきゅう)行動(こうどう)提案(ていあん)します。被爆(ひばく)60周年の2005年にニューヨークで開かれる(かく)不拡散(ふかくさん)条約(じょうやく)再検討(さいけんとう)会議(かいぎ)に世界から多くの都市の代表が集まり、各国(かっこく)政府(せいふ)代表(だいひょう)に、核兵器(かくへいき)全廃(ぜんぱい)を目的とする「核兵器(かくへいき)禁止(きんし)条約(じょうやく)締結(ていけつ)のための交渉(こうしょう)を、国連で始めるよう積極的に(はたら)()けるためです。

同時に、世界中の人々、特に政治家(せいじか)宗教者(しゅうきょうしゃ)、学者、作家、ジャーナリスト、教師(きょうし)芸術家(げいじゅつか)やスポーツ選手など、影響力(えいきょうりょく)を持つリーダーの(みな)さんに()()けます。いささかでも戦争や核兵器(かくへいき)容認(ようにん)する言辞は(ろう)せず、戦争を起こさせないために、また絶対(ぜったい)悪である核兵器(かくへいき)を使わせず廃絶(はいぜつ)させるために、日常(にちじょう)のレベルで(いの)り、発言し、行動していこうではありませんか。

また「唯一(ゆいいつ)被爆国(ひばくこく)」を標榜(ひょうぼう)する日本政府(せいふ)は、国の内外でそれに(ともな)責任(せきにん)を果さなくてはなりません。具体的には、「作らせず、持たせず、使わせない」を内容(ないよう)とする新・非核(ひかく)三原則(さんげんそく)を新たな国是(こくぜ)とした上で、アジア地域(ちいき)非核(ひかく)地帯化(ちたいか)誠心(せいしん)誠意(せいい)取り組み、「黒い雨降雨(こうう)地域(ちいき)」や海外に住む被爆者(ひばくしゃ)(ふく)めて、世界の(すべ)ての被爆者(ひばくしゃ)への援護(えんご)充実(じゅうじつ)させるべきです。

58年目の8月6日、子どもたちの時代までに、核兵器(かくへいき)廃絶(はいぜつ)し戦争を起こさない世界を実現(じつげん)するため、新たな決意で努力することを(ちか)い、(すべ)ての原爆(げんばく)犠牲者(ぎせいしゃ)御霊(みたま)衷心(ちゅうしん)より哀悼(あいとう)(まこと)(ささ)げます。

2003年(平成15年)8月6日

広島市長 秋 葉  忠 利