出雲地方の助詞

  1. 終助詞
  2. 接続助詞
  3. 格助詞
  4. 間投助詞
  5. 格助詞(準体助詞)「〜の」省き

 


1.終助詞
 (1)出雲地方の終助詞は終助詞A終助詞B(「ね」「の」「な」「や」)という公式が成り立つものがあり、その組み合わせやイントネーションで微妙なニュアンスを伝えます。なお、A部終助詞及び「ね」「の」「な」は単独で終助詞となります。

青色は共通語でも使用されるものですが、出雲弁との区別が難しく一緒に載せています。

B部終助詞の品位
A部終助詞
〜ね 〜の 〜な 〜や
〜か(軽い疑念・念押し) 〜かね 〜かの 〜かな 〜かや
〜が(軽い同意・念押し) 〜がね 〜がの(〜がん) 〜がな 〜がや
〜かい(軽い疑念・念押し) 〜かいね 〜かいの 〜かいな 〜かいや
〜じ(断定) 〜じね 〜じの 〜じな 〜じや
〜て(軽い同意・念押し) 〜てね 〜ての   〜てや
〜で(注意を促す) 〜でね 〜での 〜でな 〜でや
〜と(伝聞) 〜とね 〜との 〜とな 〜とや
〜ぞ(断定) 〜ぞね   〜ぞな 〜ぞよ
〜に(軽い感情) 〜にね 〜にの 〜にな  
〜ね(上記「に」の訛) 〜ねね 〜ねの 〜ねな  
〜わ(確認) 〜わね 〜わの 〜わな 〜わや

(原田レポートを参考にしました)

 

(2)その他の終助詞

  用例(用例訳)
   

 

 

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2.接続助詞

 出雲地方の接続助詞は共通語と異なるものが多数存在する。


順接
(共通語訳)
用例
〜けん(〜から) 今日は雨だらけん傘を持っていく。
〜だけん(〜だから) 今日は雨だけん傘を持っていく。
〜てて(〜と) 雨が降るてて言っとった。
逆接(共通語訳) 用例
〜ども(〜けども) 今日は雨だらども傘はいらん。
〜たてて(〜ても) 雨が降ったててせわね。
〜に(〜のに) 今日は雨だ傘持って行かんかや。

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3.格助詞

 出雲地方の格助詞は独自のものは少なく、共通語を使っている。その使用方法について下記にまとめてみた。特徴としては格助詞「を」を省略することが多い。目上の主語には「の」を用い敬意を表す。

青色は共通語にもあるもの
赤色
は出雲弁と思われるもの

  用例
(共通語訳)
(目上に使う) いーこた聞くもんだ。
(親の言うことは聞くものだ。)
(上記以外) いーこた、あやがね。
(弟の言うことは訳がわからん。)
所有格 用例
(共通語訳)
おまえ手はがいなの。
(おまえの手は大きいね。)
おまえ手はがいなの。
(おまえの手は大きいね。)
おまえ手はがいなの。
(おまえの手は大きいね。)
  用例
(共通語訳)
買った。
(本を買った。)
「を」の脱落 本買った。
(本を買った。)
  用例
(共通語訳)
酒は台所有ったじ。
(酒は台所に有ったよ。)
酒は台所有ったじ。
(酒は台所に有ったよ。)
仏さんお茶を持っていってごいた。
仏さんへお茶を持っていってください。
  用例
(共通語訳)
先生あげー。
(先生にあげる。)
先生頼む。
(先生に頼む。)
仏さんお茶を持っていってごいた。
仏さんへお茶を持っていってください。
  用例
(共通語訳)
から 東京から来た。
(東京から来た。)
  用例
(共通語訳)
よま よま猫がえ。
(犬より猫が良い。)
よか よか猫がえ。
(犬より猫が良い。)

 

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4.間投助詞

  用例
(共通語訳)
〜だ もーはい、仕事は終わったかや

 

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5.格助詞(準体助詞)「〜の」省き

○格助詞「〜の」のはたらき →「準体助詞」

格助詞「〜の」にはいろいろなはたらきがある。とても書ききれないほどだがその一つに「後に続くべき体言の代わりをはたす」意味の「〜の」がある。

「行くのを止めた」「働くのは当然だ」などの「〜の」がそれである。

これらは「〜事」の代わりをしているわけである。

このようにある語の連体形について一つの体言を表す形のものを「格助詞」と言わずに「準体助詞」と呼ぶべきだという説もあるくらいである「この本は誰が書いたノですか?」つまりこの場合の「〜ノ」は「本」を代用しているのである。

「こんな事誰がやったん(の)だ」この「〜の」は「事、物」を代用しているわけである。

この「〜たの = 〜たもの、〜たこと」が本論の主題である。


そこで出雲弁にかえってみてみると。

芋のおもいタ があーけん食べないや」→「芋の蒸したの があるから食べなさいよ」という言い方がある。

つまり「準体助詞」とも言われる「〜ノ」をも省いて「芋のおもいタ」で止めて用い「芋の蒸したノ」を表現する言い方のことである。

「焼き魚」は「魚の焼いたの→魚のやいタ」、「大根の煮物」のことは「大根の煮たの→だいこの煮タ」となる。

言い換えるとこれは「連体形止め」の用法といえるものである。



○出雲弁の「連体形止め」「〜の」はずし

実はこの言い方は「〜たの」という動詞過去形だけでなく他の品詞、たとえば形容詞、形容動詞の場合でも「〜の 省き」は発生する。

「お前さん(風呂は)あち(ノ)が えかったね」「お前さんは 風呂は熱いの(方が)がよかったね」

「おばば マメな(ノ)が なんよーだわね」→「おばあさん マメなのが(ことが)なによりですよ」。

これらは「連体形止め」「ノ 省き」で体言を表している

こんな言葉遣いは一般ではみられないもので、出雲弁の特色といえる。

出雲弁においては格助詞(準体助詞)「〜の」も省かれるのである。


詳細は『出雲弁における「連体形止め」の体言表現』をご覧ください。


金沢育司

 

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