1.終助詞
(1)出雲地方の終助詞は終助詞A+終助詞B(「ね」「の」「な」「や」)という公式が成り立つものがあり、その組み合わせやイントネーションで微妙なニュアンスを伝えます。なお、A部終助詞及び「ね」「の」「な」は単独で終助詞となります。
青色は共通語でも使用されるものですが、出雲弁との区別が難しく一緒に載せています。
B部終助詞の品位 | 高 | ← | → | 低 |
A部終助詞 | ね | の | な | や |
− | 〜ね | 〜の | 〜な | 〜や |
〜か(軽い疑念・念押し) | 〜かね | 〜かの | 〜かな | 〜かや |
〜が(軽い同意・念押し) | 〜がね | 〜がの(〜がん) | 〜がな | 〜がや |
〜かい(軽い疑念・念押し) | 〜かいね | 〜かいの | 〜かいな | 〜かいや |
〜じ(断定) | 〜じね | 〜じの | 〜じな | 〜じや |
〜て(軽い同意・念押し) | 〜てね | 〜ての | 〜てや | |
〜で(注意を促す) | 〜でね | 〜での | 〜でな | 〜でや |
〜と(伝聞) | 〜とね | 〜との | 〜とな | 〜とや |
〜ぞ(断定) | 〜ぞね | 〜ぞな | 〜ぞよ | |
〜に(軽い感情) | 〜にね | 〜にの | 〜にな | |
〜ね(上記「に」の訛) | 〜ねね | 〜ねの | 〜ねな | |
〜わ(確認) | 〜わね | 〜わの | 〜わな | 〜わや |
(原田レポートを参考にしました)
(2)その他の終助詞
用例(用例訳) | |
出雲地方の接続助詞は共通語と異なるものが多数存在する。
順接(共通語訳) |
用例 |
〜けん(〜から) | 今日は雨だらけん傘を持っていく。 |
〜だけん(〜だから) | 今日は雨だけん傘を持っていく。 |
〜てて(〜と) | 雨が降るてて言っとった。 |
逆接(共通語訳) | 用例 |
〜ども(〜けども) | 今日は雨だらども傘はいらん。 |
〜たてて(〜ても) | 雨が降ったててせわね。 |
〜に(〜のに) | 今日は雨だに傘持って行かんかや。 |
出雲地方の格助詞は独自のものは少なく、共通語を使っている。その使用方法について下記にまとめてみた。特徴としては格助詞「を」を省略することが多い。目上の主語には「の」を用い敬意を表す。
青色は共通語にもあるもの
赤色は出雲弁と思われるもの
用例 (共通語訳) |
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の(目上に使う) | 親のいーこた聞くもんだ。 (親の言うことは聞くものだ。) |
が(上記以外) | 弟がいーこた、あやがね。 (弟の言うことは訳がわからん。) |
所有格 | 用例 (共通語訳) |
の | おまえの手はがいなの。 (おまえの手は大きいね。) |
が | おまえが手はがいなの。 (おまえの手は大きいね。) |
ん | おまえん手はがいなの。 (おまえの手は大きいね。) |
用例 (共通語訳) |
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を | 本を買った。 (本を買った。) |
「を」の脱落 | 本買った。 (本を買った。) |
用例 (共通語訳) |
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に | 酒は台所に有ったじ。 (酒は台所に有ったよ。) |
ね | 酒は台所ね有ったじ。 (酒は台所に有ったよ。) |
へ | 仏さんへお茶を持っていってごいた。 仏さんへお茶を持っていってください。 |
用例 (共通語訳) |
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に | 先生にあげー。 (先生にあげる。) |
ね | 先生ね頼む。 (先生に頼む。) |
へ | 仏さんへお茶を持っていってごいた。 仏さんへお茶を持っていってください。 |
用例 (共通語訳) |
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から | 東京から来た。 (東京から来た。) |
用例 (共通語訳) |
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よま | 犬よま猫がえ。 (犬より猫が良い。) |
よか | 犬よか猫がえ。 (犬より猫が良い。) |
用例 (共通語訳) |
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〜だ | もーはい、仕事は終わっただかや |
○格助詞「〜の」のはたらき →「準体助詞」
格助詞「〜の」にはいろいろなはたらきがある。とても書ききれないほどだがその一つに「後に続くべき体言の代わりをはたす」意味の「〜の」がある。
「行くのを止めた」「働くのは当然だ」などの「〜の」がそれである。
これらは「〜事」の代わりをしているわけである。
このようにある語の連体形について一つの体言を表す形のものを「格助詞」と言わずに「準体助詞」と呼ぶべきだという説もあるくらいである「この本は誰が書いたノですか?」つまりこの場合の「〜ノ」は「本」を代用しているのである。
「こんな事誰がやったん(の)だ」この「〜の」は「事、物」を代用しているわけである。
この「〜たの = 〜たもの、〜たこと」が本論の主題である。
そこで出雲弁にかえってみてみると。
「芋のおもいタ があーけん食べないや」→「芋の蒸したの があるから食べなさいよ」という言い方がある。
つまり「準体助詞」とも言われる「〜ノ」をも省いて「芋のおもいタ」で止めて用い「芋の蒸したノ」を表現する言い方のことである。
「焼き魚」は「魚の焼いたの→魚のやいタ」、「大根の煮物」のことは「大根の煮たの→だいこの煮タ」となる。
言い換えるとこれは「連体形止め」の用法といえるものである。
○出雲弁の「連体形止め」「〜の」はずし
実はこの言い方は「〜たの」という動詞過去形だけでなく他の品詞、たとえば形容詞、形容動詞の場合でも「〜の 省き」は発生する。
「お前さん(風呂は)あち(ノ)が えかったね」→「お前さんは 風呂は熱いの(方が)がよかったね」。
「おばば マメな(ノ)が なんよーだわね」→「おばあさん マメなのが(ことが)なによりですよ」。
これらは「連体形止め」「ノ 省き」で体言を表している。
こんな言葉遣いは一般ではみられないもので、出雲弁の特色といえる。
出雲弁においては格助詞(準体助詞)「〜の」も省かれるのである。
詳細は『出雲弁における「連体形止め」の体言表現』をご覧ください。
金沢育司