中越は日本酒の宝庫

 中越地方は日本酒の宝庫である。
江戸時代の中期以降になると、幕府は農民の貧困の救済として、季節的な出稼ぎを黙認するようになった。特に農業に影響しない冬季の間だけ、関東地区に酒造りの出稼ぎに行くようになった。勝手に他領に出入りが許されない時代なので、代官所の許可証をもらって関所を通った。

 明治以降は優れた講師を呼んで、夏季の酒造講習会も盛んに行われたこともあり、その成果として多くの杜氏を輩出し、日本の三大杜氏の里として地元や全国の蔵元に送り出した。
現在も良質の水と勤勉な蔵人に支えられ、長岡市、栃尾市(長岡市と合併)、小千谷市には沢山の蔵元がある。

 「柏露」は牧野家が蔵元になったこともある酒で、ラベルには柏のご紋が入っている。
ずばり継之助の号「蒼龍窟」や、「越後長岡藩」、「越後長岡城」、「米百俵」、「良寛」、継之助と同時代の長岡藩士で放浪の俳人井上井月(せいげつ)の「越の井月」、文人会津八一の「八一」などは歴史を感じて面白い。

 栃尾の生んだ英雄上杉謙信の「越乃景虎」、山古志村復興を願って「山古志」、そして締めは人気抜群の「久保田」である。
最近ではテレビや漫画で、夏子の酒の「亀の翁」は全国的に知られることになった。
日本酒の代表的銘柄の「八海山」の八海譲造(六日町)や、「緑川」の緑川酒造(小出)も中越地方である。

代表的な銘柄 蔵元 代表的な銘柄 蔵元
柏露 
越乃柏露
柏露酒造
(長岡市)
越後長岡藩
群亀
関原酒造
(長岡市)
米百俵
越の井月
雪の城下町
吟の夢
栃倉酒造
(長岡市)
長稜 
八一
壷中天地
貞心
越乃玉雪
高橋酒造
(長岡市)
良寛
美の川
越の雄町
越後路
やすらぎのさと
美の川酒造
(長岡市)
お福正宗
山古志
越の吟醸
お福酒造
(長岡市)
吉乃川 
極上吉乃川
吉乃川
(長岡市)
住乃井
笑満寿
初日正宗
住乃井酒造
(長岡市)
久保田
越州
朝日山
越のかげろひ
得月
朝日山酒造
(長岡市)
想天坊
嘉八
じゃんげ
河忠酒造
(長岡市)
越乃白雁
いなが鶴
福寿海
中川酒造
(長岡市)
舞鶴
越の吟月
恩田酒造
(長岡市)
越後雪紅梅
越後長岡城
初日正宗
長谷川酒造
(長岡市)
和貴泉
和貴泉酒造
(長岡市)
越乃景虎
蒼龍窟
越乃千禄
諸橋酒造
長岡市
越の鶴 
雪の足跡
越銘醸
長岡市
亀の翁
清泉
夏子物語
久須美酒造
長岡市
和楽互尊
天上大風
池浦酒造
(長岡市)
長者盛
越の寒中梅
越後の長者
新潟銘醸
(小千谷市)
越の初梅 
たかの井
梅の舞
ひとり静
高の井酒造
(小千谷市)

 江戸時代に始まった越後の酒男による酒造りは、明治以降の最盛期には2万人を超す規模にまで膨れ上がり、全国に送り出す杜氏の数も日本一となり、越後杜氏の全盛期を迎えた。
しかしながら、昭和40年代に入ると、高度成長期の到来に伴い、多くの企業が杜氏の里に進出することとなり、農業の機械化が進んだこともあり、若者が離農し、企業勤めを始めた。このような農村構造の変化により、寒造りを支えてきた季節労働力が激減した。
また酒造工程の機械化と改善により、季節を限定しない酒造りが可能となった。この結果、近年では冬季の酒男はほとんどなくなり、高齢化した一部の杜氏を残すのみとなってしまった。

 手元に昭和36年の越路杜氏と蔵元が載った名簿がある。県下の約千名の杜氏の中で、312名の越路杜氏は、県内は無論のこと、関東、関西、東海、北陸、そして東北、四国にまで送り出している。
かって隆盛を極めた杜氏と酒男集団が消え去ることは寂しい限りである。
三大杜氏 越後杜氏、丹波杜氏、南部杜氏をいう。そして出身地を三大杜氏の里という。
越後杜氏の
四大出身地
越後杜氏の四大出身地は
・頚城杜氏:吉川、柿崎の一帯
・刈羽杜氏:鯖石川、鵜川流域の一帯
・越路杜氏:塚山、岩塚、来迎寺の一帯
・野積杜氏:寺泊町野積の一帯
宮尾登美子の小説「蔵」に出てくる杜氏は野積杜氏である。
酒男集団の
組織
最近は蔵人を杜氏と誤解されることが多いが、杜氏は1つの蔵でただ一人の最高責任者で酒造工程の全責任を負う。酒造りに従事する者を一般に蔵人や酒男と呼び、杜氏を頂点とする子弟関係を重視する縦型組織になっている。
・杜氏:酒男集団の最高責任者で親方と呼ばれる
・頭(かしら):杜氏を補佐するナンバー2
・麹屋(こうじや):麹造りの責任者
杜氏、頭、麹屋を三役といい、各蔵は三役を中心に動く。
・もと屋:酒母造り担当
・二番:酒造用具の担当
・釜屋:蒸米の甑(こしき)担当
・舟頭(せんどう):もろみの圧搾・濾過の担当
もと屋から舟頭までを役人(やくびと)と呼ぶ。いわゆる中堅幹部で、その下に一般の働き衆で組織されている。
酒男集団は特異な技能集団のため、杜氏は酒男の採用も担当し、酒男を引き連れて蔵入りした。

 中越地震復興の酒
「五間梯子」
長岡藩の象徴であった五間梯子に願いをこめて
吉乃川酒造
「ゆく年くる年」
季節限定の酒だが、今年は万感の想いをこめて送り出す
朝日酒造
「清酒小千谷」
美しい郷の小千谷再生を祈念して
高の井酒造
新潟銘醸

「山古志復興支援の酒」
あの自然豊かな山古志に帰ろう
関原酒造
「山古志」
山古志の棚田でとれた米を使い、復興の願いをこめて
お福酒造

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