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無 題

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(17)
アンドレイ公爵はこの戦いをなんとしても勝ちたいと思った。領地を蹂躙されてたまるかと思った。また、なんとしても生き残りたかった。そのためには何が必要か。どうすれば生き残れるのか。アンドレイ公爵のだした結論はただひとつ“身を捨てる”ことだった。

なお、空也上人絵詞伝(903〜972)にこのような作品がある。物語と併せて読むと興味深い。
「山川の末に流れる橡殻も 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」
(山あいの川を流れてきたトチの実は、自分から川に身を投げたからこそやがては浮かび上がり、こうして広い下流に到達することができたのだ)・・・インターネットより

身を捨てて戦闘に望まなければ生き残れない。弱気を出したらそれまでだと思った。そんなときに、彼の前にピエールが現れた。彼は民間人の服装だった。ピエールはアンドレイ公爵と言葉を交わしたがアンドレイ公爵の態度はとげとげしいものだった。(ピエールがフリーメーソンの会に入っていることを好ましく思う人はいなかった)
アンドレイ公爵はピエールに“何をしにここに来たのか?”とたずねた。ピエールは“なんとなく興味があってきた”と答えた。アンドレイ公爵は“フリーメーソンの会では戦争をどう思っているのか。未然に防ぐ手立てはあるのか”といらいらしながら言った。ピエールに早く帰ってくれともいわんばかりだった。この考えは当たり前のことだと思う。敵と戦おうとしているのに見学とは何事かと誰でもいいたくなる。
ボロジノの戦闘は凄惨なものとなった。ロシア軍とフランス軍が正面からぶつかった。ナポレオンは戦闘の状況を見ながら命令をだした。だが、その命令は正確でなかった。なぜなら、戦況は常に動いていたから。これはクツゾーフの側でも同じだった。はっきりしていることは戦場に累々として横たわっている死体だった。兵士たちはろくに食事や休息もとらずに戦った。つかれきっていた。1日の戦闘がようやく終わった。闇があたりを覆った。負傷者は苦痛のためうめき苦しんだ。負傷を免れたものも敵とはいえ人間のいのちを奪った。その罪の重さに苦しんだのではないだろうか。この戦闘の最中に、アンドレイ公爵の連隊は後方に陣取っていた。命令を待ちながら敵の動きを注視していた。戦いは双方入り乱れて行われていた。戦況の把握は困難だった。アンドレイ公爵は連隊の兵士とともに顔面蒼白になって命令を待っていた。兵士たちの緊張は高まり身体中を血が駆け巡っているように感じたはずだ。その連隊の近くにも次第に敵の砲弾が落下するようになった。その内の一発がアンドレイ公爵の近くで破裂した。砲弾の破片が彼の腹部を襲った。アンドレイ公爵はうめき声をあげて倒れた。農民の救護隊が彼を担架に乗せた。救護所は血まみれの負傷者で溢れかえっていた。彼らは苦痛に耐えながらも治療を待っていた。アンドレイ公爵は手術台にのせられた。
軍医が“すぐにやる。服を脱がせろ”と言った。
近くにいた誰かがつぶやいた。“腹をやられている。だめだ。これでは助からない”
アンドレイ公爵はうめきながらも天幕の外を見た。草が見えた。蓬や麦畑が見えた。生きたいという激しい思いがこみ上げた。それはちょうど、初陣のロストフがエンヌの橋から逃げ帰る際に感じた思いに似ているのではないか。
ロストフは走りながら“
ドナウの向こうに青く見える丘、そこにある修道院、神秘的な峡谷、それらは比類ないほど美しい。また、ふもとから頂きまで霧に洗われている松林、なんという美しさだろう。もう、これらを見ることができなくなってしまうのか”と思った。アンドレイ公爵はまだ生きていた。だが後日、このときの傷が癒えずいのちを落した。優れた指揮官であった彼が死んだ。ピエールも彼の死を知った。アンドレイ公爵は人を愛するきわめて善良な心をもった人だった。・・・
未完・・・ (2008.9.19)
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このページでしばらく中断してしまっている。この先にすすみたいのだが、なかなか思うようにならない。他に考えることが多くあって進めるのが難しい。次はいよいよ、ナポレオンが炎上するモスクワに入城して、物語はクライマックスに達するところになるが思うようにならなくて止まってしまっている。ページを進めるにはしばらく時間がかかる。このページはソルジェニーツィンから始ったが、場面が“戦争と平和”に移ってしまった。私も最初は考えていなかったことだがさらにページを進めたい。そのときを楽しみにしている。・・・(2009.1.14)