作文能力向上を軸とする情報化推進
                                    2012年7月 志村英盛

IT化推進だけが情報化ではない。顧客ニーズにより良く適応するため、
社員の知恵と工夫を絞り出していく体制の強化こそが必要な情報化である。
社員の知恵と工夫を絞り出していくためには、社員一人ひとりの作文能力を
高めていくことが必要である。

1970年代までにおいては、字が下手なものが作文能力を高めることは難しかった。
作文能力を向上させるためには、一般的には、毎日、約2000字程度の量を
1年間以上書き続けなければならない。しかし、字が下手なものは、どうしても、
書き続けることができないからである。

1980年代以降、パソコンも、ワープロソフトも、年々、飛躍的に性能が高まるのと
反比例して、価格が大幅に下がり、今や誰でも利用できる状況になった。
パソコンのワープロソフトを使って、毎日、2000字(40字×50行−A4判1枚分)
程度の作文を続けることは、今では容易である。

社員一人ひとりの作文能力の向上が実現すると、企業が収集できる情報の質が
向上し、情報量は飛躍的に増大する。事前に情報を文書で提出させることによって、
会議の生産性も飛躍的に高まる。部門間、個人間のコミュニケーション密度を高める
こともできる。業務・商品・サービス等についての改善提案は、質・量共に飛躍的に
増える。収集した情報の有効性を検証することも可能となる。予実差異分析を、
より早く、より的確に行えるようになる。企業経営に多くのベネフィツトをもたらす。

ビジネスマンにとって欠かすことのできない作文能力は、3,000回を目標に、
毎日1回文章を書き続け、3年間続けることで身につけることができる。
すらすらと文章を書けるようになりたかったら、毎日1回、必ず何かについて
書くことである。営業担当であれば、毎日、パソコンを使って提案書を5件書く。
年間に約1000件の提案書を書くことになる。3年間で約3,000件の提案書を
書くことになる。確実に作文能力身につく。

小学館発行の『週刊ポスト』2004年8月20・27日号の第106頁で、作家の
曽野綾子さんは、「私は50年間、書き続けてきた。作文能力は、どんなに
下手でも年に2000枚ずつ書けばうまくなるものです。どんな下手でも、凡庸な
才能でも、とにかく続けていればなんとかなる」と述べている。

年に2000枚ということは、1日平均、約5.5枚ということである。字数で
約2200字ということである。字の下手な人が手書きするとすればたいへんだと
思う。しかし、パソコンを使って書くならば、A4判用紙で、1行40字、1頁55行に
設定した場合、A4判用紙1枚分ということである(=このホームページ1頁分)
決して多い量ではない。慣れれば楽々書ける量である。

齋藤孝明治大学文学部教授は、日本経済新聞(夕刊)2005年2月8日特別A頁で
「キーボードで文章を書くことは、脳を活性化させます。ITは思考のスピード向上と
意識の活性化に大きな役割をはたしましたね」と語っている。

2004年9月21日、NHK総合テレビの『クローズアップ現代』で
『あなたの【強み】は何ですか〜中高年・再就職セミナー〜』という番組が放送
された。その中でこれまで千人を超える中高年の再就職の支援をされた埼玉県
の主任職業訓練指導員の小島貴子さんは再就職の壁は次の二つであると
語っている。

@
今まで、ことがらの「言語化」をやってきていないため、体得した職業能力
(=成果を生み出してきた自分の能力=自分の強み)を再就職先に訴える
「言語化能力」が低いこと。
A
視野が狭いこと。

小島さんの言われる「言語化能力」とは作文能力のことである。小島さんが
言われる通り「【自分の考え】を【自分のことば】で相手に伝える」能力を身に
つけることは人生のさまざまな場面において大きく役立つと思う。

『週刊ポスト』誌2006年9月8日号第83頁で、大前研一ビジネス・ブレーク
スルー代表取締役は「重要なのは自分の【市場価値】を高める【誰もが
考えつかなかったことを考える力=発想力】【誰もが無理だといっていたことを
実行に移して成功する力=実行力】【何が何でも結果を出す力=結果力】の
実績を、数字だけでなく、文章で表現することだ」「ところが日本の場合は
自分の経営力を口語体の文章で書ける人はほとんどいない」と述べている。
作文能力強化の必要を説いた極めて重要な指摘である。

筆者が商社に入社して2年目の時のことである。筆者はあるメーカーに
対するクレームの手紙を3時間かけて作成した。課長に見せると、即座に
「こんな手紙は出せないよ」と言われた。課長はその場で、10分ほどで
全面的に書き直した。作文能力格差の大きさを痛感した。いわゆる
ホワイト・カラーの仕事においては、作文能力格差は時間生産性格差に
繋がる。この場合、課長は筆者の18倍の時間生産性であったわけである。

毎日作文するということは、毎日、見たり、聞いたり、読んだり、体験したりする
ことから得られる膨大な(ぼうだいな)情報を、整理・分類・蓄積していくことになる。
短い期間に400字詰原稿用紙300枚程度(=字数12万字程度=一般的な
1冊の本の字数)を書くということは、作家の浅田次郎さんのような天才は
別にして、普通の人にはできない。書くだけの情報が頭の中に整理・分類・
蓄積されていないからである。しかし、毎日2枚書いていれば、原稿用紙
300枚も150日、約5か月で書き上げることができるわけである。

作文能力を体得することは、自動車の運転技術を体得するより易しい。
役員やマネジャーが作文能力を体得していれば、会議や研修において、
事前にA4判1枚の文書で意見を事前提出する習慣を企業に定着させることが
できる。会議や研修の事前準備・事前情報確認のレベルを飛躍的に上げる
ことができる。会議の時間生産性を大きく高めることができる。

Plan−Do−Seeが経営の基本動作である。

Planとは、組織全体や、各部門において、目標を設定して、どのようなやり方で
目標達成行動を行うかを文書化して、組織のメンバーに周知させることである。

Doとは、組織の各部門の、毎日の目標達成行動の状況を、当日中に文書化して、
組織のメンバーに周知させることである。

Seeとは、Plan文書とDo文書を比較検討した結果を文書化して、
会議で検討することである。

以上