続・東呉酒乱記


今夜も呉都では酒盛りが行われることになっていた。

雑兵A「おいおい・・・またかよ。酒これで足りるかな〜?」
雑兵B「だからいいっつってんだろ?足りなくなったら水でも混ぜとけって!」
雑兵C「そういえば呉の造酒屋、蔵を建てたそうだぞ」
雑兵A「・・・いいなあ。俺も転職しようかなあ」

そしてまた、今宵も孫権の隣の席をめぐっての籤引き大会が行われていた。

凌統「よ〜し、今度こそ勝つぞ!」
太史慈「俺もだ」
呂範「いいか、恨みっこなしだぞ!」
呂蒙「おう!」
陸遜「ああ〜やだな〜」
朱桓「まあまあ、あきらめて、ささ」
丁奉「え〜今回俺も?」
凌統「おまえ、こないだ遠征にいってていなかったからな」
甘寧「よし!いくぞ!」
 

その横を涼しい顔をして通り過ぎるのは、またしても周瑜、黄蓋、徐盛の三人であった。

周瑜「またやっていますね」
黄蓋「懲りん奴らじゃのう」
徐盛「しかし、なぜいつも彼らばかりが殿の隣なのでしょうか?」
周瑜「それは、あの方々が原因なのですよ」

周瑜が指さした方にいたのは呉の長老たちであった。

張紘「おお、やっておるな〜」
張昭「ほほう、今宵の生け贄は誰ですかな」
張紘「やはり、若い者が困っているところを見るのは楽しいのう」
張昭「いやはや、まったく。言ってみるもんじゃのう」
朱治「酒のあては何がよいかの?」
顧雍「・・・・・」
孫静「元歎は今宵も飲まぬつもりか?」
顧雍「いつ何時でも素面な者がおらねば緊急時にどうなさるおつもりですか」
朱治「堅いのう〜おぬしは」
カン沢「大のオトナがそろいもそろって・・・」

カン沢が溜息をついている後ろではその説明を周泰がしていた。

周泰「・・・・というわけだ」
蒋欽「ふうん。それであの連中だけが籤をひいてんのか」
谷利「酒の入った殿のおそばにはまちがってもいたくないからな」
韓当「ほう。おぬしでもそう思うか」
谷利「そりゃそうですよ」
程普「おぬしと幼平だけは別だと思っておったが」
周泰「・・・・時と場合によります」
蒋欽「嘘つけよ!いつもおまえ、殿、殿ってうるさいくせに」
周泰「なっ・・!そんなことは!」
韓当「ははは、隠すな隠すな」

そしてこちらは孫権の身内組である。

孫桓「・・・・またはじまっちゃったな」
孫瑜「まあ、良いではありませんか」
朱然「殿のあの酒癖さえ治ればな・・・」
孫匡「殿の止め役も籤で決めた方がよくはないでしょうか」
朱然「・・・一理あるな」
孫桓「でもそっちの方は実は怖かったりして・・」

そして広間に入ろうかどうしようか迷っている三人組がいた。

宋謙「・・・なんか俺達、場違いなとこに来ちまったみたいだな」
董襲「うん・・・・」
潘璋「どうしよっか・・・」
宋謙「帰らない?」
董襲「そうしようか」
潘璋「さ、三人で飲もう!」

この三名、ここで退場。

三人と入れ替わりに広間に入ろうとしているのは文官たちであった。

虞翻「こんなに大勢で飲んだって一人で飲んだって、変わりはないのにねえ」
歩隲「まったく、あいかわらずあなたはヘソ曲がりなんだから」
虞翻「だって、酒の味もわからないような奴らに飲まれる酒も可哀想じゃないか」
歩隲「わたしにゃ酒の気持ちなんぞわかりませんよ」
虞翻「・・ところであとの者はどうした?厳oや陸績は?」
歩隲「・・・・聞いてなかったんですか?今日のゲストのこと」
虞翻「ゲスト?」
歩隲「ほら、あれ」

歩隲の指さした方角から歩いてきたのは諸葛瑾と魯粛だった。

諸葛瑾「今宵こそは魯子敬どの、私の顔のことは言わないでくださいよ!」
魯粛「は?顔?なんだっけか、それは・・?」
諸葛瑾「うそ!憶えてないんですか!?」
魯粛「ははは、すまんすまん」
諸葛瑾「むっか〜〜〜!!すまんですみますかっ!!」

その諸葛瑾のすぐうしろから背の高い男がついてくる。

諸葛亮「兄上、そんなに怒ると血圧があがりますよ・・・」

虞翻「あ!あれは劉備んとこの!」
歩隲「なんでも子瑜どのを訪ねてきたついでらしいですよ」
虞翻「・・・・よく殿が許可されましたな・・・」
歩隲「さあ?知らないんじゃないですか」
虞翻「は??」
歩隲「諸葛孔明どのはまったくのプライベートで来ているわけですから」
虞翻「・・それってマズくないか・・・・?」
 
 

甘寧「うぎゃ〜〜っ!!俺かよ!!」
呂範「はっは!」
太史慈「た・・・助かった・・」
朱桓「いつもながらハラハラしますね」
呂蒙「・・・・・・」
陸遜「し、子明どの・・・お気の毒です・・・」
丁奉「なぁんだ。良かった」
凌統「ははは!興覇どの、しっかりな〜♪」
甘寧「公績〜!貴様まだ俺を恨んでやがるのか」
陸遜「まあまあ、落ち着いて」
呂範「そうだぞ、甘興覇。大切なお務めだからな。しっかりやれよ」
甘寧「くっそ〜〜!人ごとだと思いやがって!」
 

周瑜「どうやら決まったようですね」

甘寧が暴れているのを見守って、皆はそれぞれ席に着いた。

席について、孫権がやってくる前にまずみんなが驚いたのはその席に諸葛亮がいたことだった。

張昭「な、なんであやつがここにおるのだ」
張紘「儂も聞いておらんぞ」
孫静「どれ、子瑜に聞いてみるとするか」

まわりがざわざわしているが、当の諸葛亮はといえば涼しい顔をして白羽扇で扇いでいた。

諸葛瑾「はあ、たまたま弟が来ていたのでちょっと連れてきてしまったのです」
孫静「ちょっと・・・って、おいおい。このことは殿はご存知なのか?」
諸葛瑾「さあ・・」
孫静「さあって・・・」
魯粛「まま、良いではありませんか、幼台どの。一人くらい増えてたって殿は気にしませんよ」
虞翻・歩隲・孫静「気にするって!!」

諸葛亮「ご心配なさらなくともあとでちゃんとご挨拶に伺いますよ」
張紘「それが心配だというとるんじゃ!」
諸葛亮「心外だなぁ〜」
張昭「だなぁ〜、ではないわいっ!」
諸葛亮「赤壁では一緒に戦った仲じゃないですか〜」

周瑜「何が一緒に、ですか。戦ったのはうちだけでしょう」
諸葛亮「あ、周瑜どの〜今日はまた一段と麗しく♪」
周瑜「世辞などいらぬ。のこのことよくここへやってこれたものですね!」
諸葛亮「実はあなたにお会いしたくて〜v」

甘寧「あっ!あいつ!」
呂蒙「な、なんか公瑾どのと話してるぞ」
陸遜「大丈夫でしょうか・・」

そうしているうちに孫権が入ってきた。

孫権「おお、今宵も大勢おるな!今日は俺が狩った虎が出るぞ!わははは!」
 
凌統「と、虎・・・?おいしいんですか?」
呂範「まあ、コックの腕にかかってるな」
丁奉「食えりゃ、なんでもいいけどな、俺は」
太史慈「う〜む。レシピレシピ・・・と」
凌統「なんですか?子義どの?」
太史慈「あ、今ちょっと料理の研究をしておってな・・・」
呂範「料理?おまえが?」
太史慈「そのうち本でも書こうかなと思って」
丁奉「へえ〜意外な趣味だな〜」
呂範「・・・・本、できたらくれないか?」
太史慈「別に構いませんが・・・子衡どのも料理をなさるので?」
呂範「うちのかみさん、いいとこのお嬢だもんで料理がぜんぜんダメなんだ」
凌統「・・・大変なんですね・・・」
 

孫権「む?見慣れん顔がおるな」
周泰「殿、あれは諸葛亮でございます」
孫権「諸葛亮・・?なぜここにそのような者がおるのだ?」
程普「なんでも子瑜どのの元へ来たついでだとか」
孫権「ついで?ついでとはなんだ!失礼ではないか!」

そこへ諸葛亮が歩み寄ってきた。
深く一礼する。

諸葛亮「ご無沙汰しております、将軍さま。諸葛孔明でございます」
孫権「・・・何をしに参った?」
諸葛亮「実の兄に会いに参るのに理由などございましょうか」
孫権「ふん・・」
諸葛亮「ささ、とにかくお飲みください」

諸葛亮はさっさと酒瓶を持って孫権の器にたっぷりと注いだ。
孫権はちら、と孔明の方をみて、その酒を一気飲みした。
諸葛亮「いよっ!大将!良い飲みっぷり!しびれますねえ〜」
まるで場末の酒場のホステスのような接待ぶりであった。

甘寧「・・・なあ、今日はあいつに任せちゃってもいいんじゃないか?」
呂蒙「うん、俺もそう思う」
甘寧「殿が酔っぱらって寝ちまうまで、あいつに殿の傍にいてもらおう」
呂蒙「おう。もし殿から離れようとしたら戻せばいいんだな」
甘寧「ああ。じゃ、そういうことで、こっちきて飲もうぜ」

呂蒙と甘寧が孫権の隣をそっと抜けだし、朱桓や黄蓋の輪のなかへ入ってきた。

谷利「お?なんだ二人とも。籤で当たったのだろう?ダメではないか」
呂蒙「今日はあいつに任せることにしたんだ」
蒋欽「諸葛孔明どのか・・・?大丈夫かな?」
甘寧「公瑾どのでなければいいんだ」
黄蓋「興覇は、本当に公瑾どの贔屓であるな」
甘寧「贔屓、っていうより好きなんだ」
韓当「おお、はっきり言いおったな」
朱桓「いいなあ〜興覇どの、そんなにはっきり言えて」
徐盛「まったく」
呂蒙「おまえってそういうキャラだよな〜」
 

周瑜「・・・・」
陸遜「公瑾どの・・・大丈夫ですか?」
周瑜「あやつのせいで悪酔いしそうだ」
孫瑜「公瑾どの、気にしない方がよろしいですよ」
孫桓「そうそう、さ、こっちはこっちで楽しく飲みましょう」
孫匡「あれ?義封はどこ行った?」
孫瑜「朱然なら殿のところに行きましたよ」
孫桓「なんで?」
孫瑜「心配なんでしょ。諸葛亮って口がうまいから」
周瑜「・・・ききづてなりませんね」
陸遜「公瑾どの、我々も参りましょう」
周瑜「うむ」

張紘「む〜この味付けはちょっと年寄りにはきついわい」
張昭「そうか?儂には丁度よいぞ?」
張紘「なにを、若い者ぶりおって・・・」
朱治「う〜っ、この肉、堅い」
孫静「これこれ、そんなに大きな固まりをいっぺんにかぶりつくからじゃ」
顧雍「まあまあ、でござるな」
カン沢「・・・・大のオトナが・・・」
 

そして宴も盛り上がってきた。

孫権はもうすっかり出来上がっていた。
諸葛亮は孫権の隣に居座り、いまだお酌をしていた。

孫権「いや〜愉快愉快!美人に囲まれてシヤワセだ〜!はははは!」
諸葛亮「美人・・・?」

諸葛亮の隣には周瑜、陸遜そして反対側には朱然がいた。
諸葛亮は朱然にそっと耳打ちした。

諸葛亮「将軍は男女の区別なくご寵愛される癖でもおありなのですか?」
朱然「いいえ!断じてそのようなことはありません」
諸葛亮「ふ〜ん」

諸葛亮は周瑜、陸遜と順番に顔を見つめ、意味ありげにうなづいた。

周瑜「なんですかな?孔明どの」
諸葛亮「いえ。お二人ともきれいな顔をしてらっしゃるなあ〜と思いまして」
陸遜「そんな・・・・(ぽっ)」
周瑜「伯言。そんなことをいちいち真に受けていてはキャッチセールスにひっかかって変なものを買わされるのがオチだぞ」
陸遜「は?キャッチ・・・?どういう意味ですか?」
周瑜「なんでもない」
 
 

朱桓「で、ですね〜もう夜中にそれがおっかなくってもう!」
蒋欽「そ、それは本当か?」
韓当「見間違いではないのか?」
朱桓「何回もみたんですってば!うちの女中の首がこう、ひょいひょいっと夜中に飛び回るんですよ〜〜!」
呂蒙「お、俺は信じないぞ、そんな話・・」
谷利「あ、ちょっと怖いと思ってる」
呂蒙「ち、ちがうって!」
甘寧「なんだよ、そんな首、たたっ斬っちまえばよかったのに」
黄蓋「その女中は妖怪であったのか?」
朱桓「さあ〜昼間は普通の女なんですがね」
甘寧「おまえが手をだしたから恨んでんじゃないのか?」
朱桓「ばっ、馬鹿なことを言わないでくださいっっ!」
徐盛「それでその女中はどうしたのでござるか?」
朱桓「クビにしました・・・」
韓当「首が飛び回るからクビにしたのか!わっっはっっは!愉快愉快〜」
谷利「・・・・義公どの・・・」
黄蓋「ま、まあ、良いではないか、なあ?は・・ははは」
甘寧「・・・・俺、公瑾どののところへ行って来る」
 

そして、この二人。

魯粛「わっっはっっはは〜〜!や、やっぱりおかしい〜!」
諸葛瑾「わ〜ん、だからさっきもいったじゃないですか〜!もう人の顔みて笑わないって〜〜」
魯粛「だ・・・・・だって〜〜わは、わはは・・・な、長い!なんでそんなに長いんだ!?わははっは〜」

その二人のすぐ隣にいて冷ややかな視線を送る者もいた。

虞翻「・・・いつもこうなのか」
歩隲「お気の毒ですな・・・子瑜どのも」
 

そのとき。

「わあっ!!」

突然の叫び声に、広間にいた全員が緊張した。

呂範「な、なんだ!?」

程普「どうしたっ!?」

声は、孫権のいる上座から聞こえた。
全員がそちらを振り向く。

甘寧「・・・こっ・・・公瑾どの〜〜っ!」

甘寧の悲鳴が、まるで映画の予告編のように何事かと皆を慌てさせる。

陸遜「ひっ・・・ひっく・・・ひっく・・」

陸遜が泣いている。
その隣で、周瑜がひっくり返っている。

太史慈「な・・何が起こったんだ・・・?」
 
 

さあ、大変だ!何がおこったの?→