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 ――結局の所、そういう事なのだろうと思う。
 
 
 
 

 別の価値観を持つから、別の世界の住人だから、別の存在だから――それらの『線引き』は、ひどく単純でわかりやすい。

 だから、人は簡単に納得する。自分自身すら、納得してしまう。

 元より人は、大なり小なり『線』を引いて生きていくものだから。だから、それはとても楽な言い分と言える。
 
 
 
 

 だが、そんな『線引き』をしない人々も世界には希少ながら存在する。……彼女は、そんな中の一人。

 しばらくして、彼女――『モナーク』の表情が険しさに帯びた。
 
 
 
 

「……『あくまでここの人間だから』、だぁ?」
 
 
 
 

 表情と同じく、穏やかとは言い難い声音。私は、小さくため息をつく。

 予想通りの反応。そう、『モナーク』には理解できるはずもない。

 納得できないのではなく、理解できない。相手の事を本気で考えているからこそ、理解出来ないその理由に腹を立てる。一体、何が言い

たいんだ――と。
 
 
 
 

 それはひどく身勝手な心情かも知れない。だが、否定される感情では決してないと思う。

 私は、苦笑混じりに口を開いた。
 
 
 
 

「……私としては、至極真っ当な理由だと思うがね。

 『あくまでここの人間だから』――少なくとも、この“店”の者なら納得が出来よう。彼女の気質を知るものなら、尚更だ」

「悪いけど、その理由って奴がいまいち理解できない、やたら頭の悪い小娘がココにいるんだけど?」
 
 
 
 
 

 自らを指差し、『モナーク』。

 この辺は自分自身への卑下と言うより、含んだ物言いをした私に対する皮肉だろう。

 私の視線をどう受け取ったのか、彼女は勝手に結論付ける。
 
 
 
 
 

「結局の所、アレか? 『ツァリーヌ』は、仮に志貴とくっついた所で『添い遂げられない』から嫌がってるのか?

 なら、あたしは理解できないし納得もしてやらないぞっ!

 あたしの『世界』から見れば、そんなの――」

「――いや、それは微妙にズレている」

「あん?」
 
 
 
 

 それは近いようで……遠い。

 『取り残される』――それは確かにそう受け取られても仕方がないと思う。

 しかし、それだけなら私の応援するアルクェイドだって変わらない。
 
 
 
 

 ――彼女と『ツァリーヌ』、そう言う意味では似ているかも知れない二人。しかし、決定的に違う点が一つ。
 
 
 
 

「『モナーク』、君の考えは間違ってはいないよ。

 この[MOON  TIME]の中では、時間は流れると同時に止まってもいる。

 それは、『疑似的に』にしろ、この“店”の中にいる者達が『不老不死』状態になるに等しい」

「……だからこそ、ここで『暮らしている』店員達の中には、せーぶつがく的にはさして変わり無いはずなのに、あたしや『エル』とかよ

り余程年寄りってパターンが生まれるんだよな?」

「その通り。君も知っての通り、君よりも年下に見える娘が、私より遙か年上というケースも、この『店』では決して珍しくない」
 
 
 
 

 『モナーク』の問いかけに同意する。――そう、それ自体は間違っていない。
 
 
 
 

「じゃあ、何でさっきは否定したんだよ?」

「私は間違っていると言った覚えはないよ。ただ、微妙にズレていると言っただけだ」

「うー……。さっきから思うんだけど、何だよその含みのある言い方は?

 ――この“店”の連中とあたし達の時間は違う。

 それが、『ツァリーヌ』がくだんの『トオノシキ』と変な付き合い方をしようする原因になってる訳だろ?

 それって、『寿命』が絡んでるって事じゃないのか?」
 
 
 
 

 『モナーク』は、そう言ってこちらを見る。

 そう捉えるのが普通なのだろう。確かに、現状では結果的にそうなるのだし。
 
 
 
 

 ……少々長話になりそうだ。私は、チラリと『バーテンダー』へ視線を向ける。

 それだけで意は通じたようで、彼は流れるような動作でカクテルを作り、私の前へとそれを置いた。

 カクテルのセレクトも、期待通り。
 
 
 
 

 ――『ロング・アイランド・アイスド・ティー』。……そう言えば、アルクェイドに初めて恋愛指南などをした時も、このカクテルだっ

たか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

★ロング・アイランド・アイスド・ティー『Long Island Iced Tea』★
 

 ドライ・ジン………15ml

 ウォッカ………15ml

 ホワイト・ラム………15ml

 テキーラ………15ml

 ホワイト・キュラソー………15ml

 レモン・ジュース………30ml

 コーラ………40ml

 レモン・スライス………1枚

 レッド・チェリー………1個
 

  クラッシュド・アイスを詰めたゴブレットに、上記の順で注ぎ、ステアする。

  レモン・スライスとレッド・チェリーをカクテル・ピンに刺して飾り、ストローを添える。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「……先程も言ったが、君の立てた仮説は間違いではないと思う。

 『ツァリーヌ』がここで『暮らしている』以上、やがて彼女と遠野志貴の間には、致命的なほどの時間の開きが生まれるだろう。

 私や、君と同じくな」

「ああ。あたしも『エル』も、ここで『暮らしている』訳じゃない。

 ここに入り浸ろうが入り浸るまいが、あたし達は元の『世界』で歳をとっていく訳で、最終的には死んじまう。

 『トオノシキ』だって、別の『世界』の人間ならやっぱりあたし達と同じで――」

「――そこだよ」

「んん?」
 
 
 
 

 私は、再び『モナーク』の言葉を遮る。

 彼女の言う通り、確かに私達と――遠野志貴と『ツァリーヌ』の間には、決定的な違いがある。

 時間、それによって訪れる寿命。

 アルクェイドや『レッド・アイ』のような超常の存在ならいざ知らず、寿命に縛られている私達にとっては、双方の時間の違いは余りに

も問題だ。
 
 
 
 

 ……だが、ここで一つ意識を戻してみる。

 流れる時間の中を生きている私達。流れない時間の中にある『ツァリーヌ』。
 
 
 
 

 ――『モナーク』の立てた仮説。それは、時間のズレを生む『場所』があるが故に他ならない。
 
 
 
 

「――君は先程、『ツァリーヌ』の言に頭に来たというような事を言っていた。

 だが、彼女にしてみれば、それがせめての妥協点と考えてはどうかな?

 彼女の『世界』は、元よりここでしかないのだから」

「あ……」
 
 
 
 

 初めて気が付いたように、『モナーク』は声を漏らした。
 
 
 
 

 仮に想い合った所で、顔を合わせるのはここでしかない。

 彼女がここに生きているように、彼は別の『世界』で生きている。

 ここで彼女は生きているけれど、この『世界』の時間は他の『世界』とは致命的に違っている。

 何故なら、ここの時間は元の『世界』で加算される事はないのだから。それはもう、寿命とは似ても非なるものだ。
 
 
 
 

 ――故に、『ツァリーヌ』がこう考えるのを、誰が非難できるだろうか。『自分は、あくまでここの人間だから』、と。
 
 
 
 

 『モナーク』は何も言おうとしない。しかし、その表情で理解できてしまったのはわかる。

 『ツァリーヌ』が何故、こんな恋のやり方を選んだのかは。
 
 
 
 

「この“店”はありとあらゆる『世界』と繋がっているが、それは、ありとあらゆる『世界』と隔絶されている事に他ならない。

 『世界』が文字通り繋がっているのなら、影響を受けずにはいられないのだから。

 故に、仮に想い合った所で、二人の時間はゆっくりとズレていく。そして、『終わり』を迎えたその時は――」

「……『ツァリーヌ』だけが、取り残される」

「これは、仮に想い合った所で、相手は先に死んでしまう――そういう問題ではない。

 『ツァリーヌ』は、常に『隔たり』を意識せねばならない……」
 
 
 
 

 そして、それは相手にも言えること。
 
 
 
 

「どう足掻いた所で、その事実は変わらない。

 遠野志貴が、文字通りここに『留まる』事を選んだなら話は別だが、それも無理な相談だろう。

 それは、『ツァリーヌ』の抱える苦しみを、彼にも味わえと言っているに等しい。

 しかも、自らが与り知らぬ所で全てを失った自分とは違い、己の周りにあるもの全てを自ら捨て去るのを彼に強要してだ」
 
 
 
 

 それを、『ツァリーヌ』が望むだろうか? ――否。望むはずもない。

 苦痛を知るからこそ、相手を思いやる事の出来る彼女が、自ら知った苦痛を相手に強要できるはずがない。

 だからこその、彼女なりの妥協点。

 多くは望まない事で、せめてここにいるだけの恋とする事で、それ以上踏み込む事を防ぐ。最初から、決めてしまう。

 『ここにいる時だけ』――当然だ。『ここにいる時だけ』が、彼女が彼と同じ時間でいられるのだから。
 
 
 
 

 ――それは、確かに私達の目には痛々しくはあるのだが。
 
 
 
 

 私は、改めて『モナーク』に問いかける。
 
 
 
 

「……これでも、君は『ツァリーヌ』を責めるかね?」

「…………」
 
 
 
 

 『モナーク』は答えず、しばらくの間辺りに静寂が下りた。

 私はカクテルに口を付け、じっ、と彼女の言葉を待つ。彼女は、ただ黙って空になったグラスを弄んでいる。

 それでも待つ。……後は、彼女次第だ。

 期待通りの展開になるのも、期待はずれな展開になるのも。
 
 
 
 

 ……どれほど、そうしていたろうか。ふと、グラスを弄ぶ彼女の手が止まった。
 
 
 
 

「――やっぱり、納得いかない」

「……ほう?」
 
 
 
 

 発せられた呟き。つい、口元が上向きに歪んだ。
 
 
 
 

「納得いかない、かね?」

「お陰様で理解はしたさ。……でも、納得できない。つーか、余計許せない」
 
 
 
 

 シンプルな、これ以上ないぐらいに身も蓋もない反論。

 少し、心配になる。――今の私は、既に笑ってしまっているだろうか?
 
 
 
 

「普通に好いたり好かれたりするには、ちぃとばかりロクでもない状況だってのはわかった。

 だけど、こんな馬鹿げたやり方をする必要がどこにあるって言うんだ?

 好きなら好き、それで相手にも好いて欲しい。それでいいじゃないか。無理して変なやり方を選ぶ必要なんてある訳がない」

「……普通のやり方では、後が辛くなると先程も言ったが?」

「どっちもどっちだ。あいつの妥協案が、相手の『港』の一つに成り下がるだけなら」
 
 
 
 

 ……切って捨てられた。今の彼女の前では、『ツァリーヌ』の悲壮な決意ですらこの程度に過ぎないらしい。
 
 
 
 

「あたしはそんなに経験無いけど……恋ってのは楽しいものだろーがっ。

 何が楽しくて、変に辛くなるやり方をするのさ。最後にロクでもない目になったら、その恋は全て駄目か?

 それまでの楽しい思い出は全部ポイか?

 それがわかってるから、作れるかも知れないすげぇ楽しい思い出って奴も全て否定するんだろ、あいつは?」
 
 
 
 

 そこで、『モナーク』は私から視線を外す。そして、誰ともなく、自らに言い聞かせるように呟く。
 
 
 
 

「――だから、あたしは絶対に認めてやらない。そんな気に入らない考え、誰が認めてやるかってんだ」

「…………」
 
 
 
 

 ……なんて、身勝手な言だろう。
 
 
 
 

 理解はしたが、納得はしない。しかも、ただ気に入らないと言うだけで。

 身勝手で、滑稽にすら移る理屈。だが、こんな風に言い切れる者などそうはいまい。

 勿論、『モナーク』が認めなかったからと言って、何が起こる訳でもない。『ツァリーヌ』には関係のない話だ。

 だが、彼女ははっきりと否定した。私は、少なからず納得してしまったその考えを。
 
 
 
 

(……まったく)
 
 
 
 

 とうとう、笑みを漏らしてしまう。笑ってはいけない、それはわかっていたのだけれど。

 その身勝手極まる理屈が、余りに彼女らしくて。

 しかし、その通りだなと思えて。
 
 
 
 

 ――『ツァリーヌ』の側に彼女がいた事は、本当に僥倖だったと思えて。
 
 
 
 

 それはまさしく、期待通りの展開。

 私は、『モナーク』を改めて見る。彼女は、こちらの反応が気に入らなかったらしく、怖い顔で睨んでいた。
 
 
 
 

「……何がおかしいんだよ、『エル』?」

「いや……なら、君の悩みも解決したなと思ってね」

「あん?」
 
 
 
 

 私の言った意味がわからなかったらしく、『モナーク』は怪訝そうに片眉を上げる。
 
 
 
 

「悩みも解決って、どういう事だよ?」

「そのままの意味だよ、『モナーク』。

 ……君は先程、『どうしたらいいかわからない』と悩んでいたが、今その悩み事について何と断じた?」

「んん? 悩み事について断じたって――」
 
 
 
 

 『モナーク』は、そこでようやく言葉を止める。この辺、彼女らしいと言えば、彼女らしい。

 先の断言が、あくまで局地的な意識でしか働いていない辺り。

 『ツァリーヌ』のやり方を全否定した以上、取るべき行動もまた決まったようなものだというのに……。
 
 
 
 

 ともあれ、この調子では指摘しただけでは不十分かも知れない。私は、苦笑しつつ言葉を続けた。
 
 
 
 

「『ツァリーヌ』のやり方を認めない。そう言った以上、君の取る行動は一つしかあるまい?

 ……そう、今の彼女のやり方を否定してやめさせる、だ。

 君が、君なりに彼女の幸せを望むからには」
 
 
 
 

 ――彼女の心根は定まった。ならば、後はその方向に向けて背中を押してやればいい。
 
 
 
 

 『モナーク』は、呆然とこちらを見つめている。

 彼女からすれば、今の今まで、目の前を遮っていたものが唐突に取り払われたような感覚なのかも知れない。

 しかし、この考え方が実に彼女好みなのは確かである。
 
 
 
 

 ……やがて、『彼女の口元に笑みが浮かぶ。ようやく、気付いたらしい。

 彼女的に、全く以て――その通りだと。
 
 
 
 

「……そっか、そうだよな。そう決めた以上は、悩みの方もそうなるよな?」

「むしろ、そうならない方がむしろおかしいと思うがね。

 認めないだけで、気に入らないだけで、何もしない。それは、君がこの上なく嫌っている事だろう?

 入らぬ節介と余計なお世話――それが、君の心情と聞いている」

「――ああ、その通りだ。だから、『ツァリーヌ』の事だって見逃せる訳がない」
 
 
 
 

 私の揶揄気味な言葉に、『モナーク』はその紅い眼差しでこちらを見返し、実に好戦的な笑みを浮かべる。いや、私自身も笑っている。
 
 
 
 

 ……これが、いつもの彼女。

 自らが気に入らなければ、例え関わりが無かろうが割って入り、干渉する。そして、無理矢理自分の思い通りにしてしまう。

 他人のためにいらぬ節介をし、他人のために余計なまでの世話を焼いてしまう。

 どこまでも自分勝手で、真摯で、一生懸命――。
 
 
 
 

 ――そして、そのスタンスはこの“店”の中でも変わらない。
 
 
 
 

 やや物騒な笑みを交わした後、彼女が不意に表情を緩めた。

 浮かべたのは、感謝の意を示す、柔らかな笑顔――。
 
 
 
 

「……『エル』、礼を言うよ。お陰様で悩み事は解決したし、やる事も決まった」

「やる事、か。それで、どうする事にしたんだ?」

「とりあえず、この後すぐに『魔界図書館』に行って、あいつと改めて話してみる。

 それで、はっきり言うよ。――ンな、馬鹿げた恋なんてやめちまえって」
 
 
 
 

 笑顔とはいささかギャップのある、ストレートにも程がある一言。こちらとしても、笑う前に呆れてしまう。

 だが、これが『ブラッシング・モナーク』と言う少女。
 
 
 
 

 ――日の光は自ら『曲がり』もしないし、『後ろ』に進む事もない。遮る物さえなければ、常にその方向へと真っ直ぐに進む。
 
 
 
 

 だから、彼女はこれでいいのだと思う。……勿論、それはこのような気質が本当に希少だからこそ言えるのだけど。
 
 
 
 

「……まったく、君らしい言だな。

 しかし、果たして彼女に会えるかな? 先の件でしばらく出入り禁止になったのだろう?」

「なぁに、言われたら館長なりに地面に頭を擦り付けでも許して貰うし、それでも駄目なら、あいつの『自宅』に押しかけるさ。

 こーゆーのは早い方がいいんだから、そんなのに構ってられるかっての」
 
 
 
 

 こともなげに、『モナーク』は言ってのける。どうやら、本当に今から『魔界図書館』へ出向くつもりらしい。

 彼女は、早速スツールから降りる。即断即決も、ここに極まれりと言った行動力。

 私は、苦笑と共にその姿を見送る事にする。
 
 
 
 

 ――と、そこへ不意にカウンターの方から声が聞こえた。
 
 
 
 

「――『モナーク』様。出向かれる前に、これを飲んでいきませんか?」
 
 
 
 

 同時に、カウンターへと視線を向ける。

 カウンターの向こう側では、今まさに『バーテンダー』がシェイカーからカクテルをグラスへと注ごうとしている所だった。

 いつの間にやら、彼はカクテルを作り始めていたらしい。しかも、まるで申し合わせていたかのようなタイミングで。
 
 
 
 

 私達が驚いている内に、『バーテンダー』はグラスへの飾り付けを終え、カクテルを『モナーク』の前へと置く。

 グラスの中で微かに揺れる、華やかな色の液体。そのカクテルの名を、私と彼女は知っている。

 彼女は、苦笑混じりの表情で『バーテンダー』を見つめた。
 
 
 
 

「……あたしのカクテル、か?」

「はい。やはり、『モナーク』様は笑っている顔が一番お似合いと思いますから」

「…………」
 
 
 
 

 臆面もなく『バーテンダー』。流石の彼女も、これには珍妙な面持ちで応じるしかない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

★ブラッシング・モナーク『Blushing Monarch』★
 

 ジン………3/10(18ml)

 カンパリ………1/5(12ml)

 オレンジ・キュラソー………1/5(12ml)

 フレッシュ・パッション・フルーツ・ジュース………3/10(18ml)
 

  シェークして、カクテル・グラスに注ぐ。

  オレンジ・スライス、ライム・カット、チェリーを飾る
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 『ブラッシング・モナーク』――『はにかむ妃殿下』。

 彼女が、オーナーの誘いを受けてこの『店』へと訪れた際、オーナーがほとんど即決で決めたというカクテル。

 初めて彼女と顔を合わせ、その話を聞いた時には、何故オーナーがこのカクテルを選んだのか、いささか首を傾げたものだが――。
 
 
 
 

「…………」
 
 
 
 

 こうもきっぱりと言い切れられると、流石に恥ずかしいらしい。やがて、『モナーク』は照れたように笑う。

 その、はにかんだような表情――。
 
 
 
 

 ……今なら、納得する。彼の見立てに、間違いはなかったと。
 
 
 
 

「――ったく、じゃあ、とっとと頂いて行きますかね。

 なーんか、お二人の視線が気になるし?」

「それは失礼致しました」
 
 
 
 

 はにかみを苦笑へと変えてグラスを手に取る『モナーク』に、『バーテンダー』も微笑する。

 まぁ彼としては、彼女がいつもの彼女に戻って良かったと言いたかったのだろうが。
 
 
 
 

 ――そう言えば、『モナーク』が元に戻ったと言う事は、アレを見る事になるのか?
 
 
 
 

 ふと脳裏に過ぎった考えに、私は彼女へと視線を向ける。

 その期待(?)に違わず、彼女は手に取ったグラスを口元へと持っていくと、そのまま――文字通り、ほぼ一息に飲み干した。
 
 
 
 

(――少なくとも、カクテルは一息に飲む類のものではないと思うのだがな)
 
 
 
 

 ……少なくとも、カクテルの飲み方としては論外な飲みっぷり。

 しかし、『バーテンダー』はそんな『モナーク』を微笑みながら見つめている。

 それは、その飲み方こそが彼女の飲み方であり、彼女が決してカクテルを味わっていない訳ではない事を知っているからだろう。
 
 
 
 

 ――でなければ、飲んだ後の『モナーク』の表情は説明が付かない。
 
 
 
 

「――ん、うまかったよ。……ありがとう、『バーテンダー』」

「恐れ入ります」
 
 
 
 

 傾けていたグラスをカウンターに置き、『モナーク』は『バーテンダー』へ笑いかける。
 
 
 
 

 ――その笑みの中にあるのは、喜びと感謝。
 
 
 
 

 誰もが払える、しかし彼女ならではの大きな報酬。

 そう、この少女の『笑顔』は、確かに『名』を与えられる程の価値がある――。
 
 
 
 

「――それじゃあ、あたしはこれで。『エル』、今日は本当に助かったよ」

「私は、君の相談に応じただけだよ。

 それより、『ツァリーヌ』の説得の方をしくじらないように。ああも言い切ったからには、失敗したでは済まない」

「わかってるって。――『バーテンダー』?」

「カードを」
 
 
 
 

 最後にはいつもの、やや女性らしからぬ日向のような笑みを残し、彼女は軽やかな足取りで“店”の“奥”へと消えていった。

 後には、私と『バーテンダー』だけが取り残される。
 
 
 
 

 ――いや、後一人いるか。
 
 
 
 

「――まったく、ホントに立ち直りが早いコだねぇ。さっきはあんなに落ち込んでたってのにさ」
 
 
 
 

 ふと、“店”の“奥”から声が聞こえた。

 視線を、そちらへと向ける。やがて、“奥”から現れたのは、先程この場を立ち去ったはずの『ヨランダ』だった。

 気になって戻ってきた――ではない事は、私もよく知っている。

 彼女は『バーテンダー』の視線に苦笑めいた笑みで応じ、私の隣のスツールへと腰掛けた。
 
 
 
 

「……『ヨランダ』、いつからいた?」

「心にもない事を聞くねぇ、旦那も。実際の所、あたしが持ち場へ帰ったように見せて聞き耳立ててのに気付いてたんだろ?」
 
 
 
 

 そのような言は、臆面もなく言うものではない――と言ってやりたい所だが、彼女には言うだけ無駄なので黙っておく。

 やがて、『バーテンダー』からスコッチ・ウィスキーのボトルとショットグラスを受け取った『ヨランダ』は、こちらと笑いかけた。
 
 
 
 

「――ま、何はともあれ、ご苦労様。見事、落ち込んだあの『お姫様』を復活させたよーで?」

「落ち込んだ、と言うのはやや不適当だな。彼女は、ただ思考の袋小路に入り込んでいただけだよ。

 元より、日の光をそのまま形にしたような少女だ。

 困惑していたのも己の行き先を遮られていただけの事で、『前』を遮っていたものを取り払ってしまえば、あの通りになる」

「……なるほど。オーナー言う所の、『なかなかに希少な気質』って奴か。

 まぁ、それはそれとして――」
 
 
 
 

 不意に、『ヨランダ』の眼差しが、こちらを探るようなものへと変わる。
 
 
 
 

「……何かね?」

「いや、本当によかったのかなってさ。あのコを焚き付けちゃって」
 
 
 
 

 ウィスキーをショットグラスに注ぎながら、『ヨランダ』。

 その言葉に、私はつい苦笑を浮かべる。
 
 
 
 

「……今更だし、旦那の応援してるアルクェイドを軽く見ているつもりはないけどさ。

 『ツァリーヌ』が本格的に争奪戦に参加したら結構な強敵だよ? 結局、コレって敵に塩を送った――」

「――何を言っているのだか」
 
 
 
 

 私は、皆まで言わせずにそう断じた。

 何を今更、だ。そちらはわざわざ身を潜めて、聞き耳まで立てておいて。
 
 
 
 

 ――第一、『ツァリーヌ』の話となれば、むしろ彼女達の方が気になるはずなのだから。
 
 
 
 

「『ツァリーヌ』のこと。それは、君だって他人事ではあるまい?

 初めてこの店へと足を踏み入れた彼女を、応対した者達の一人である君としては」

「……やれやれ、旦那にはかなわないねぇ」
 
 
 
 

 私がそう告げると、グラスに口を付けようとしていた『ヨランダ』は、グラスをカウンターに置いて降参して見せた。

 その仕草に苦笑を覚えつつ、私は彼女から視線を外して続ける。
 
 
 
 

「まさに期せずして、と言った所か。

 『モナーク』が集めた者達が、そのまま『ツァリーヌ』が初めてこの『店』に訪れた時に応対した者達だったと言うのは」

「……だね。奇縁と言うか何と言うか。この『店』らしいと言えば、そう言えない事はないけど、ねぇ?」
 
 
 
 

 しみじみとした、呟き。
 
 
 
 

 ――そう、そう言う意味では、彼女達こそが尤も『ツァリーヌ』の事を気に掛けていると言えるのだ。始まりからの付き合いとして。
 
 
 
 

 『ヨランダ』はそこで一つため息をつき、チラリとこちらに視線を向ける。

 表情が堅い。『面倒事』に駆り出された時ならともかく、普段は余り見られない顔だ。

 しばしの間を置いて、彼女が口を開く。
 
 
 
 

「……旦那。さっきの『モナーク』に聞かせてた仮説ってさ、本当かい?」

「所詮、ただの仮説だよ。確認もしていないのに、間違いないと言い切る事は出来ない」

「じゃあ、『モナーク』は不確かな仮説でその気になったって訳だ。でも――」
 
 
 
 

 苦笑を浮かべた『ヨランダ』は、そこで一旦言葉を切る。
 
 
 
 

「……多分、それで間違いないんだろうね。少なくとも、あたしは旦那が話すまで気付きもしなかったし」

「…………」
 
 
 
 

 応じるのはやめておく。……それを非難する気はないし、元より必要もない。
 
 
 
 

「あのコはここへ『逃げた』訳でも、ここを『選んだ』訳でもない。

 オーナーの好意から、一時の居場所としてこの『店』の一員として迎えられただけのこと。言わば、例外。

 ……一応、自覚していたつもりだったんだけどねぇ」

「相手の事を、文字通り全て読みとれるような存在などそうはいないさ。

 脳から直接情報を読みとれるような輩も、相手自体を完全に理解できる訳ではない。

 何より――」

「何より?」

「大事になる前に気付く事が出来た。……君も、彼女も」
 
 
 
 

 まぁ、そうなるね――『ヨランダ』は、ようやく微笑した。
 
 
 
 

 間違いは、誰にだってある。決して、彼女達が『ツァリーヌ』を軽んじていた訳ではない。

 彼女達は『ツァリーヌ』を好いている。『ツァリーヌ』も、同じだろう。

 これは、これからもここに居続ける彼女達、結果的に未だこの場所に留まり続けている彼女。この立場の違いが生んだズレに過ぎない。
 
 
 
 

 ――いずれ来るかも知れない別れを、今の楽しさから忘れていただけに過ぎない。
 
 
 
 

 ……勿論、今はまだ、そうと決まった訳ではないのだけれど。
 
 
 
 

「……今度、あたしもあのコの元へ出向かないとな。

 オーナーも伝え忘れてたっぽい大事な事を、教えてやらないといけないから」

「そうするのだな。遠野志貴の件は『モナーク』に任せておけばどうとでもなるだろうが、彼女にとって大事な事柄であるだけに、すぐに

教えるに越した事はない」

「だね。で、後は『モナーク』に任せちまうと。

 どーせ、あのコとしても『ツァリーヌ』の尻を蹴飛ばす手前、最後まで付き合うつもりだろうし」
 
 
 
 

 それは、間違いない。

 何しろ、『モナーク』は今の『ツァリーヌ』のやり方を全否定した挙げ句、無理矢理その気にさせようとしているのだ。

 入らぬ節介と余計なまでの世話焼きを心情とする彼女が、途中で投げ出す訳がない。

 仮に、『ツァリーヌ』が遠慮しても付き合うだろう。

 だから、そう言う意味では最早心配はない。後は、武運を祈る事ぐらいだ。
 
 
 
 

 ……まぁ、私達は私達で応援している相手がいるのだから、ライバルの武運を祈っている場合ではないのだが。
 
 
 
 

「……まったく、妙な話だねぇ。

 既にあたしはシエルを応援すると決めていて、事実そうしてるのに、『ツァリーヌ』の方の武運も祈ってるんだから」

「気にする事はないさ。私も、そう言う意味では変わらない」
 
 
 
 

 同じ思いらしい『ヨランダ』に、私は応じる。
 
 
 
 

「確かに、私はアルクェイドに幸せになって欲しいと思っている。

 それが理想の結末なのも確かだ。だが、だからと言って他の遠野志貴を想う女性達の恋を否定するつもりは毛頭無い。

 状況が状況だ。どんな恋の達人と言えど、これを上手く収めるのは至難の技だろう。

 ……だが、最終的に誰かが傷つくのが避けられないにしても、その仮定で傷つけ合う必要がどこにある」
 
 
 
 

 誰かを傷つける生き方は、巡り巡って自らをも傷つける。

 自らを磨き、創り出す生き方なら、それは――自分にも他人にも更なる飛躍を促すだろう。

 どちらがよい生き方かは、敢えて語るまでもない。
 
 
 
 

「どうせなら、例えどんな結末を迎えたにしても、それを後には笑顔で思い出せる――私は、彼女達にはそんな素敵な恋をして欲しいと思

うのだよ」

「……それ、いささか爺臭くないかい?」

「少なくとも、若人を気取る歳ではないさ」
 
 
 
 

 元より、余計な事を知り過ぎている身だ。故に、こう思う。

 所詮、恋はその場限りのもの。だからこそ、その巡り会った恋一つ一つを大切にして欲しいと。

 それは、全てが終わってからでは、決して取り返しが効かないものなのだから。
 
 
 
 

「……『命短し、恋せよ乙女』ですか」

「む?」

「うん?」
 
 
 
 

 不意に発せられた『バーテンダー』の呟きに、私と『ヨランダ』は同時に彼の方を見る。

 妙に語呂がよく、耳に残るその言葉。

 私達の視線に、『バーテンダー』は微笑を浮かべて応じる。
 
 
 
 

「いえ、先日オーナーが気に入ったとかで手に入れてきた楽譜に、そういう一節が。

 何でも、志貴様の国に伝わる古い歌だそうで」

「ふぅん? まぁ、確かにあの人が好きそうな一節だけど……どんな歌なのさ」

「楽譜は既に『ソノラ』に渡されたはずですから――大丈夫かい?」
 
 
 
 

 そこで、彼は一人いつものように舞台の上のピアノの前にいた『ソノラ』へ声をかける。

 『バーテンダー』の問いに『ソノラ』は軽く頷いて微笑むと、ピアノに向かって緩やかに弾き始めた。
 
 
 
 

 ――フロア全体を満たす、歌声。
 
 
 
 

 ……これを、何と評せばよいか。

 緩やかな、音色。呟いているような、静かな声。

 それらはとても穏やかで、ゆっくりと耳の内に染み入っていく。

 だが、これは――。

 どうやら、同じ思いだったらしい。やがて、『ヨランダ』が苦笑を浮かべて呟いた。
 
 
 
 

「なんか……ココで使うには、ちょっとばかりそぐわない歌だねぇ」

「俗に、『歌謡曲』と呼ばれる類のものらしいですからな。

 あれでも、少しでもここで似合うよう、色々といじってあるようですが」

「それであれなんだから、元の奴が流れようものなら場の雰囲気もへったくれもないかもね。――でも」
 
 
 
 

 『ヨランダ』は、そこで一旦言葉を区切る。

 『ソノラ』の方を見ているので、どのような表情を浮かべているのかはわからないが、その意図は私にもわかった。
 
 
 
 

「……悪くはない、かな?」

「旦那は駄目かい? こんな歌は」

「いや、悪くないと思うよ。……少なくとも、彼女達に向けられるなら」
 
 
 
 

 ……そう、悪くない。

 少なくとも、今恋をしている彼女達へ向けられるなら。
 
 
 
 

 不意に、腕を軽く小突かれる。

 視線を『ヨランダ』に戻すと、こちらに視線を戻していた彼女はボトルとグラスをかざして見せた。
 
 
 
 

「……どうだい、ここで乾杯の一つでも? 酒ならここにあるし、グラスはもう一つ頼めばいい」

「乾杯、か。何に向けてかな?」

「わかってるクセに聞きなさんな。この期に及んで、別の誰かに向けて乾杯をする気なんてありゃしないよ」
 
 
 
 

 呆れたように『ヨランダ』。まぁ、確かにここで乾杯する以上、対象は既に決まったようなものである。

 ともあれ、そういう事なら断る必要もない。

 私が早速それに応じようと口を開きかけた所で、不意にカウンターから声を掛けられた。
 
 
 
 

「――『ヨランダ』。乾杯をするのなら、似合いそうなカクテルがあるのだけど?」
 
 
 
 

 『バーテンダー』の声。カウンターへと視線を向けた私達に、グラスを磨いていた彼は微笑を浮かべる。

 その笑みに察するものがあったのか、『ヨランダ』が眉を寄せて問いかけた。
 
 
 
 

「……まさか、『バーテンダー』。そいつは『命短し恋せよ乙女』、なんて言うんじゃ――」

「――おや、先に言われてしまったね」

「あ?」
 
 
 
 

 こともなげに返ってきた返事に、『ヨランダ』は間を抜けた声を漏らす。
 
 
 
 

「――冗談だよ。もしあれば、確かにこれ以上ない程に相応しいのだけど」

「……ったく、冗談キツイよ。『バーテンダー』」

「それで、『バーテンダー』。君が、本当に勧めるカクテルとは何なのかな?」
 
 
 
 

 私が問いかけると、『バーテンダー』は早速カクテルを作り始めた。

 その流れるような動作。開店当初からの古株ならではと言うべきか、こればかりは他の店の者達には真似できないものだ。

 『ヨランダ』がやや複雑そうな表情を浮かべる中、やがてシェイカーからカクテルがグラスへと注がれる。
 
 
 
 

「これは私の思い付きに過ぎませんが――こういうのはいかがでしょうか?」
 
 
 
 

 そう言って、『バーテンダー』はそのカクテルを私の前に置く。
 
 
 
 

「……これの名は?」

「ええ、これは――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

★恋風『Koikaze』★
 

 竹鶴12年ピュアモルト………1/2

 レミー・レッド………1/4

 キューゼニア・マラスキーノ………1tsp

 バヤリース・オレンジ………1/4
 

  シェークして、カクテル・グラスに注ぐ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「……『恋風』、か。その心は?」

「その風、今はまだどこへ吹くかもわからず――」
 
 
 
 

 ……なるほど、そう捉えるか。

 私は、『ヨランダ』と顔を見合わせる。
 
 
 
 

「いかがでしょうか?」

「……いや、確かに『バーテンダー』が推すだけの事はある。言われてみれば、確かに彼らによく似合う」

「それ以前に、あたしはそのカクテルの事を知りもしなかったよ。

 流石に『バーテンダー』相手じゃ、そっちの知識で太刀打ちはできないか」

「そこは、年の功と言った所だね」
 
 
 
 

 肩をすくめてみせる『ヨランダ』に、『バーテンダー』は微笑を浮かべて再びカクテルを作り始めた。

 やがて、彼女の前にもそのカクテルが置かれ、カウンターに残っていた空のグラスとウィスキーのボトルが下げられる。

 これで、準備は出来た。
 
 
 
 

「……では、旦那。一つ、乾杯といこうか?」

「うむ」
 
 
 
 

 『ヨランダ』の言葉に頷き、彼女に倣ってグラスを手に取る。

 一呼吸程の間。私達は、どちらともなく口を開く。
 
 
 
 

「……シエルの恋が、より素敵なものになる事を祈って――」

「……アルクェイド=ブリュンスタッドの恋が、より素晴らしいものになる事を祈って――」
 
 
 
 

 まずは、自らが応援する女性。そして、その次は――。
 
 
 
 

「「そして、『ツァリーヌ』……ひいては彼に恋する全ての女性達に幸あらん事を祈って――乾杯」」
 
 
 
 

 ――遠野志貴に恋している、全ての女性達へ。

 合わせて、グラスを掲げる。

 それに向けてのものなのか、『ソノラ』の唄は再び最初のパートに入ろうとしていた――。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 it is after short fall in love maiden

 A red lip While not carrying out

 Hot blood While not getting cold

 Tomorrow's days and months What is not
 

 it is after short fall in love maiden

 if compelled a hand taking Him Ship

 It is the cheek Which burns if compelled. You are on the cheek.

 It is also whom here. What not coming
 

 it is after short fall in love maiden

 a wave merely obtaining Appearance of a ship

 You are soft hand On my shoulder

 It is also a public notice here. What is not
 

 it is after short fall in love maiden

 Color of black hair While not fading

 flame of the heart While not disappearing

 today again What not coming
 
 
 

 いのち短し恋せよおとめ

 朱き唇あせぬ間に

 熱き血潮の冷えぬ間に

 明日の月日のないものを
 

 いのち短し恋せよおとめ

 いざ手をとりてかの舟に

 いざ燃ゆる頬を君が頬に

 ここにはだれも来ぬものを
 

 いのち短し恋せよおとめ

 波にただよい波のように

 君が柔手をわが肩に

 ここには人目ないものを
 

 いのち短し恋せよおとめ

 黒髪の色あせぬまに

 心のほのお消えぬまに

 今日はふたたび来ぬものを
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 end………?
  or continue………?
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 後書き

 何はともあれ、はじめまして。

 てぃーげると言う者です。拙作をお読み頂き、ありがとうございました。

 さて、今回のお話。発端は私めのリクエストによって生まれた常連陣の一人、『ツァリーヌ』が原因だったり。

 このキャラ、初登場の第漆夜『Czarine』では志貴と影ながらの関係を望んでいるのですが、 

 番外編第壱話『St. Valenyine's day』では、自らチョコレートを持っていったりと随分と積極的になっている様子……。

 これは間に何かあったんだなと脳内妄想。Lost-wayさんからその辺はまだ空白と言う話を聞き、

 『じゃあ、その辺の話を描いて良いですか?』と許可を得て、『その辺りの補完』にチャレンジしてみた訳です。
 

 ……案の定と言うべきか、すぐに後悔する事になりましたが。(爆)

 『彼女の恋を聞いて驚く常連陣』を描きたいが為に肝心の『ツァリーヌ』を外してしまったり、 

 変わりに狂言回しとして登場させたオリキャラが無意味に幅を効かしたり、

 三部構成にしたからには尤もらしい『理由』を、しかし第漆夜との接合性は?と延々と頭を抱えてみたり。(苦笑)
 

 ともあれ、そんなこんなでどうにか形になりました。

 “店”の常連陣に焦点を絞ったため、

 志貴達ら『月姫』の面々が一人も登場していないと言う問題点などもありますが、楽しんで頂けたなら幸いです。

 では、今回はこの辺りで。
 
 
 
 



 
 

Lost-Wayの感想。

 いやー、素敵でした。

 こっちが「なんとなく」で考え出した状況を、見事に補完して下さってます(笑)。

 『ツァリーヌ』の「変化」の理由。

 こうやって書いて頂けると、「てぃーげる」さんとふたりで『ツァリーヌ』を育てているような気分です。

 カクテルに関しては、いつものように『KAZ23』のサポートのもと、「てぃーげる」さんに選んでいただきました。

 20数種類送った恋愛系の名前のカクテルから選んでいただいたものを、見事に表現してくださってます。

 有り難う御座いました。

 また、おりあらばお願いしようかしら?

 でも、それ以前にこちらが頼まれモノを何とかしないとね(苦笑)
 
 

 では。

 Lost-Wayでした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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