ラクスは廊下のはしにぺたんと座り込んで、ぎゅうと膝を抱いた。
膝に顔をうずめてしまうともう見えない。
だれも通らない廊下はもう永遠に誰一人通らないのではないかというほど静まり返っている。
だからよかった、ラクスの小さな声をちゃんとひろってあげられる。

「先ほどまた、嘘をつきました」

繋いだ手を振り払われなかったから
同じように壁を背にして座り込む。有重力区画ではあるものの気をつけて動く。

「ハロを大切にしたのは、嬉しかったからです」

気をつける
人は作用し合うから、この手が宇宙の無重力に引き離されないよう


「ごめんなさい」
「どうして」
「ごめんなさい」
「ラクス」
「それでも、笑ったらおかあさまは悲しまないでくださったんです」






膝を抱えて泣く姿はひどく幼くて
髪を二回撫ぜることができた。

かわいい人




ラクスは睫毛をぬらしたまま、そっとこちらを見た。
この人はいま真実、偽りなく泣いたけれど、
今気づいたおれの真実はもうきっとずっと閉じておくのがいいように思う。

もしかしたら好きだったかもしれない真実は、恋などしていなかったという嘘で今、閉じるよ



「俺はね」

目を泣きはらし、声もかすれてきたころ。

「弧をかいたナイフで訓練をたくさんしたんだ」

おれはぽつりぽつりと自分についてきた嘘の連続をはなした。
ラクスはそれを黙って聞いていた。
そして彼女もぽつりぽつりと自分についてきた嘘の連続をはなした。
話の最中、一度も視線は交わさなかった。



「嘘がばれたね・・・お互いに」

「よかった」とラクスは深い呼吸とともにそうつぶやいた。

「うん、よかった」

もはや、つないだ手のひらにこめる力もなかったけれど、それでも祈るように手をつないでいた。








































長い沈黙を過ぎて
ぼくらが廊下に膝を投げ出したころ、興奮はだいぶ落ち着いてきていた。
泣きすぎて
もう
ねむたい


そしてラクスは不思議なことをいった。


「ふたごになりましょう」

「うん」


おれはその言葉を不思議に思ったのに、何の疑いもなく心からうなずいてしまった。


「ぼくらの両親は死んでしまったしね」

「大丈夫です、アスラン」

ラクスの手がぎゅうとおれの手を握る。

「ああ、大丈夫だね」

その手を握り返す。

「ぼくらは双子だから」







目も合わせず、声もなく笑ったぼくらは嘘などひとつもついていなかった。


等しい遺伝子をもつのが双子なら

対の遺伝子をもつぼくらはうそつきの双子だろう。



指をすべて絡めたから小指をからめる約束よりももっと強くて真実だ。












































































「アスラン!」「ラクス!」


怖い顔のカガリとキラが同時に声をあげた。
ぼくときみは廊下のはしに力なく座り込んだまま、手をつないでいた。

ぼんやりと顔のそっくりな双子を見上げる。
泣きすぎて頭が痛い。
腫れぼったい顔をしていると恥ずかしいので、何度か目をこすった。


「ちょ、なんで手なんかつないで二人でぼんやりしてるんだよ!」

顔を赤くして叫んだのはカガリだ。

「なんでこんなところに座り込んでるのっ」

慌てているのはキラだ。
ろくに反応をかえさないぼくらにキラとカガリは言う。


「「とりあえず立って!」」


カガリはおれに、キラはラクスに手を差し出す。

ぼくらは顔を見合わせてからゆっくりと
差し出された手に手を伸ばす。

つないでいた手をはなした。



あたたかい



つないだ方の手の暖かさを愛しく想いながら、
放れた方の手の冷たさをあたたかにおもった。



おれときみは別々の方向に連行された。
そのあとカガリに散々「ラクスに手をだしていないか」と問いただされて怒られて、
ラクスもキラに「アスランに手を出されていないか」と詰問されたらしい。





図らずしも、おれもきみもこう応えた。








「ふたごだから大丈夫」



ぼくらはうそつきの双子。





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