「おー、静雄、タバコ売り切れてたんか?」

タバコを買いに行ったきり30分以上戻ってこなかった静雄がいま、トムとヴァローナの待つお座敷席へ戻ってきた。
静雄は俯きがちで、しかしどこか早足にやってきて、お座敷に座るとガバっとテーブルにつっぷした。
始終無言であった。
そのつむじをトムとヴァローナが不思議そうに覗き込む。

「おれ、・・・グっときました」

静雄が唐突に呟いた。意味不明だ。
ヴァローナとトムは顔を合わせた。

「先輩はアルコール中毒を示唆していますか?」
「あー、ちょっと、飲ませすぎたかなあ」

心配するトムとヴァローナをよそに、静雄はつっぷしたままで続ける。

「俺、子供ほしいっす。ヴァローナ産んでくれ」
「ひ!否定しまっ、は、はわ・・・ぁ・・・その・・・」
「ササササイモン!大至急救急車!救急車!」




































***



露西亜寿司で119番未遂が起こっていた頃、二人は家に戻ってきた。
体を洗って替えのパジャマを着せている間に、は立ったまま寝てしまった。
外が紫色になってきた。
二階の子供部屋へ運び、傷が下にならないように姿勢をつくって寝かせると、毛布の中から色画用紙がでてきた。
靴下の形をしている。

「・・・」

袋状の中身をひっくり返すと、どこかで見たドラマのような風景になった。

クレヨンで描かれた絵には三人と一個が並んでいる。

前衛的な画伯の作風であるが、左端が自分だと四木が気づいたのは白いクレヨンで服を塗った痕跡があるからだ。
真ん中を自身でなくママにしたのは、四木に気を使ってかもしれない。
そして右端に
ルンバらしき円盤は空を飛んでいる。

靴下のなかに絵を戻した。
よくある。こういうのは、よくある。
だが自分が当事者になると恐るべき破壊力だ。
思わず頬が笑った。
を横にずらして寝転がる。
眠たくなる。

かなってほしい

やわらかであたたかい
「いいこね」」
あなたの声がした。
なでられた。
気がした
すりよせた





ふたりとも
おなじゆめをみた













































***



12月25日お昼の12時 四木邸リビング

「で、ママの言ってた意味にほんのり気づいたちゃんは、四木の旦那を守るのはもうやめるのかい?」
「いいえ、パパを守るのは変わりありません」
「ありゃあ」
「パパはさびしがりの心配性だから、がしっかりしないと」
「・・・そうかい。女ってのは強くてほんと困っちまうね。ま、ほどほどに、心配かけない程度にね」
「はい、赤林のおじさま」
「そうそう、このおうちに入ってきた臭いおっさんたちはゴリラのおじちゃんがウホーってやってくれてるらしいから、今日は四木の旦那とゆっくり過ごすといいよ」
裏で糸引いた人間はまだ調査中だけど、というのは飲み込んだ。
子供に言うべき事柄ではないからだ。

そんな大人の気遣いと裏腹に、はこの一件の真犯人のめぼしをつけていた。
オリハライザヤ
はしかをうつした報復だろうか。
しかしやり返したりはしないと決めた。もっと大切な事がある。
なにごともなかったように、クリスマスを大切な人と幸せに過ごすことが唯一、この悪意への抵抗といえば、そう。
きっと効果はてきめん。
あと、

「・・・おじさま」

は赤林の横に座った。
ソファーの上にあった大きな左手に小さな両手がふわりと重なった。

「いたい?」
「ぜーんぜん!ホントは痛くないんだけどね、これ大げさにやっとくと”あれ?赤林さん今日はケガしてるんですか?仕事かわりにやりましょうか?”なーんて言ってくれるかなーって思ってさあ。誰も言ってくんなかったけどね!」

赤林はゲラゲラ笑った。

が悪いことをしないように、守ってくれてありがとう」

すべすべの指がガーゼの上をやさしく撫ぜた。
ゲラゲラ笑うのが恥ずかしくなるほどが落ち着いているものだから、赤林はどういう顔をすべきか迷った。
見上げたは迷っている大人の顔を見て、うつくしい色合いの瞳をゆったりほそめた。

「もし傷が残ったら、が結婚してあげます」
「・・・」

赤林には好いた女がある、というかこれは子供で、だのに、どこでどう間違ったのか、ぐらっ、と来

ガゴン!

ソファーの後ろの壁に謎の円盤が突き刺さった。
その円盤は赤林の色つき眼鏡を弾き飛ばす距離で一閃した。
投げたのは四木で、投げられたのはルンバである。
四木はパジャマ姿、髪には寝癖がついていた。起き抜けらしい。
なかなか見れない姿の四木だが、なんだか見たことのある目つきであった。



あ!
あの目はおいちゃんをマグロのエサにしようとしたときの目だ〜★



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