粟楠会本部の一室には三人の幹部が揃っていた。
四木は机で書類をあらためている。
赤林は応接用のソファーでケータイをカコカコ早打ちしている。
青崎は苛立っていた。
「てめえ赤林、いつまでもカコカコカコカコカコカコカコカコ、女子高生がてめえはっ」
「そこまで若く見られたのは初めてだねい。どうです四木さん、俺紺のハイソックス似合いそうですかい」
四木は目もくれない。
「ふざけんじゃねえ。人の話ききやがれ」
「う~ん、スネ毛あたってみるかなあ」
「聞けつってんだろっ」
「青崎さんシー!四木の旦那が仕事中だから」
赤林は(マズイ!)という顔をし、後ろで黙々と書類を読む四木を示した。青崎も慌てて「すまねえ」と四木に頭を下げかけて
「おめえが言うなや」
と怒りに震えた。そのポケットでケータイも震える。
「いつかおめえを必ずカニ漁船のエサにしてやるからな」
赤林に凄んで青崎は部屋を出て行った。
「ねえ四木の旦那」
カコカコを再開した片手間に声をかけてきた。
四木も片手間に「なんですか」と返事だけした。
「なんでテトちゃんが夜中まで起きているかご存知で?」
不快であった。
一瞥をくらっても赤林はたのしそうな顔をしている。からかう顔だ。
不愉快であった。
こちらの視線に険を見るや道化て肩をすくめる。
「旦那と一緒に寝たいからだそうですよ。でもいつも言えないって」
「それはかまいませんが」
「そこはかまってあげないと」と赤林は肩を揺らして笑う。
「どこでそんな話を仕入れるんです」
まさか勝手に家に入り込んでいるのではあるまいか
「どこってそりゃあココ」
赤林はケータイをヒラヒラ動かした。
これを見、普段からきつい目が更にしかめられる。
「娘は携帯を持っていませんが」
「いえでん」
「イエデン?」
「家の、電話」
「テトは出前の短縮ダイヤル以外電話のかけ方を知りませんが」
「この前行ったとき8番に登録しちゃった☆」
「・・・」
数分後青崎が室内に戻ると、部屋はもぬけの殻になっていた。
不審な点といえば、四木の机にあったはずのガラス製の灰皿が砕けた状態でソファーの下に落ちていることだ。
青崎はあごに指をあてて10秒間考えた。
「・・・・・・・・・・カニ漁船!?」
声をかけるときいつも半身隠していたのは恥ずかしがっていたからなのか。
気づかなかった。
それよりも
(今度こんな時間まで起きていたら怒りますよ)
あれも泣かせた原因のひとつだったのか
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