持田は家を買った。
昔住んでいた家が土地ごと売りに出ていたそうで「これください」と服を買うように一括で買い上げたそうだ。
衝動買いするようなものじゃない、と慌てて諭し、メディカルルームでアイシングする持田にクーリングオフの方法を事細かに説明すると「シロさんうるせえ」と冷気を吹きつけられた。
ロッカールームに戻る途中「衝動買いじゃないし」と持田は唐突にさっきの話を呼び戻した。

「考えたし、お金だって年俸の三分の一くらい。狭いからね。コンビニは遠いけど近くにスーパーあるし、庭の梅の木が激シブでうちのじいちゃんが・・・」

と、ここまで語って突然俺のわき腹をなぐった。
耳が赤い。

「引越したら呼んでくれるか」
「引越しで呼ぶよ」
「おまえ、人を引越し屋みたいに」
の下着ボックスひっくり返さないように気をつけてね?」
「引越し日はいつだ?」

ところで
さんはというと、その猛烈な働きぶりは相変わらずらしい。
けれど先日退院する小学生に「先生がオレの足なおしてくれた」と言われて自分が生まれた意味がひとつ増えたと持田に照れくさそうに話してきかせたそうだ。
持田はこれを「最近のガキはマセてやがる」で括った愚痴として聞かせた。本当に機嫌が悪いときは黙る男が口にしたのだからつまり、まあ、そういうことだ。

「シロさんも気をつけなよ」
「ん?なにをだ?」
「あんまりちんたらしてると思わぬところから手が出てとられるかもよってこと」






***




深夜3時にまたあのコンビニで遭遇してしまった。
同じ方向に向かって隅田川沿いのランニングコースを並んで歩かざるをえなかった。
トーチョクかと達海が尋ねて、がそうですと答えた。尋ね返さなくてはならない義務感に駆られ「達海さんは・・・」と一応尋ねるが「敵チームにはひみつ」と一蹴された。
見渡す限り動くものは自分たちと隅田川の流れだけ。
にとってはひどく気まずかった。
コンビニからしつこくつきまとわれて足を触らせてなんて言われたら間違いなく変態女だと思われているだろうし、そのあと著しく取り乱して放心していた気がする。達海はが一方的に双子を重ねただけで完全に赤の他人なのだ。迷惑をかけすぎていていっそ隅田川に飛び込みたい。
一刻も早く病院に着いてほしいと願って沈黙の並列を耐え抜くとようやく病院の正門が見えてきた。らハグされた。

突然のことに体が凍る。
少女マンガのように心臓が脈打つ。
達海の肩越しに今まで歩いた夜の道が見えた。
近すぎて顔の向きを変えられない。

耳のそばを声がかすめる。

「言いたかったのは違って」

ハグはきつく変わった。

「がんばれ」

これは”抱きしめる”

「すごい治療法見つけてさ、・・・いつか」





























俺の足も治して



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