夢でも見ていたように、仗助は夜が夜のうちに目を覚ました。

そこらじゅうに倒れている人たちがゆっくりと目覚めだす。
天にはしじみの形をした月が浮かび、夜空が広がっている。
満月ではない。
誰の頭上にも然として在ったあの月こそがスタンドだったといま気づいて、何になるだろう。
唯一、気を失わずにいたらしい露伴は庭の芝生に立っていた。
その露伴が「億泰」と呼んだ。
わけもわからず寄って行った億泰に、露伴は振り向かないまま右手を横に伸ばし、持っていた小さな壺を下へ手放した。

「消せ」

ガオン、という重低の音を残して不死の薬がはいった壺はこの世から消えた。
芝生の上に落ちていた一葉の白い紙を仗助は拾い上げる。
愛する人への手紙であるはずのそれは、みんなが映ったポラロイド写真だった。






























岸辺露伴は風呂に入り、深く眠って朝10時過ぎに起床した。
不思議と腹が減らず、仕事机に向かい明日締切の原稿を仕上げた。夕方前にカラー原稿を積んだバイク便を見送る。外に出るのもいいが今日も残暑がキツくてちょっと出る気にはならないのでテレビをつけた。テレビを見、テレビを消す。新聞を開き、読み、新聞を閉じ、二階へあがる階段の踊り場から見上げた正方形からこぼれる明るさに心を静かにさわがされる。
梯子に手をかけた。
開いたままの大きな窓があり、その横にシモンズのシングルサイズのベッドがある。
窓を挟んでベッドの逆側にはポリプロピレンの衣装ケースがあり、上に新撰組キャップが置いてある。シルバニアファミリーはすぐ足元にあり、忘れるなと言った携帯端末は鏡台にある。ミッフィーのテーブルには宿題ノートがある。

持ち主だけがいない。

宿題ノートの表紙をめくった。
最初のページの文字のなんとへたくそなこと。
筆圧が弱くて、糸ミミズが這っているみたいだ。
宿題ノートはこう始まる。



Pink
Pink dark no syonen is fun.

Dark
I love pink dark no syonen.



もういい
ノートを乱暴に投げた先、
枕もとにボロボロになったピンクダークの少年初版第一巻があるのも、もういい
もうやめろ






物語は終わった。






かの奉る不死の薬に、また、壺具して、御使ひに賜はす。勅使には、つきの岩笠といふ人を召して、駿河の国にあなる山の頂に持てつくべき由仰せたまふ。嶺にてすべきやう教へさせたまふ。御文、不死の薬の壺並べて、火をつけて燃やすべき由仰せたまふ。その由承りて、つはものどもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を「ふじの山」と名付けるる。

その煙、いまだ雲の中へ立ち上るとぞ言ひ伝へたる。





























































































その煙、いまだ雲の中へ立ち上るとぞ言ひ伝へたる。




遠い星系に置いていたけれど間に合ってよかったと、未起隆様はおっしゃいました。
どうしてわたくしに触れられたのですかと尋ねると、未起隆様は不思議に微笑まれ、
英語ともイタリア語とも日本語とも違う言葉でなにごとか仰せになり、
理解には至りませんでした。
あと1日くらいで杜王町の畑の中に降りられるそうです。
露伴様に怒られる心の準備をしなくてはなりません。
薄赤く腫れきった瞼を見たならおもてを伏せて
枯れはてた喉を聞いたならこうべをたれて
わたくしから抱きすくめる支度とともに。

To be continued






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